『白黒ノ夢幻世界』(Little Prayer)

古ぼけた映写機の中

まだ色が無かった時代

それでも有ったもの

空の星々からの光

屋根の上で夜空を観てた 星々が巡る

外れた星が一つか二つ

言葉が出せなかった

鳥達が翔る

薄明かりを頼りにして

白い息

悴む指先

温めるために

両手を合わせて

外れた星の瞬き

見上げる瞳

自分でも聞き取れないほどの

微かな幽かな言葉


『Sky Vacation』(CAPTAIN'S VOYAGE)

海が見える
ヘルメット越しに
アスファルトで焦げそうな
タイヤを気にしながら走る

雲一つ無い空をそのまま
こちらに持ってきたような

波立つ
空が波立つ

飛沫のプリズム
和らぐ熱射線
その遥か上に

突き抜けてしまいそうな
そのまま吸い込まれそうな
あまりに蒼くて
あまりに澄みきっていて

このまま飛んで行けそうな

波音が
時の経過を告げる
車上で眺める
赤橙青紺紫のグラデーション

満天の星
合間を縫うように
尾を引いて彗星

願い事三つ
隣を見て微笑みながら


『流星の有りか』(A SHOOTING STAR)

エンジンの音が震わせる
機体、期待、興奮
手に滲む汗を
何度も何度も振り払う

解放

地に引き戻す手を
意思でねじ臥せ
フルスロットル

静寂

轟音!

静寂

闇の中に孤独
音もなく孤絶
ようやく届いた光で
存在再認証完了

宙に浮かぶ無数の
光なき物体
そこに交わるのが嫌で
光を発する者達

例え一時に過ぎなくとも
有ることを人に伝えた存在
遠くに過ぎ去ったのを見送り
エンジンを再起動

静寂

轟音!

静寂

任務を終えて地に戻る
ああ
あの蒼い空の向こうに
輝きを望むものはいるのだ、と


『時を動かす翼』(Flow)

風。

「飛び立つ準備はできたのかい?」
翼を解き放つ手前。

「あとちょっと………」
足にはえた羽根は、
風が吹く度に広がっていく。

「そうか…………」
胸から取り出した、
過去で止まった羅針盤。
戻らぬ旅への手向け。

「………いいの?」
傾げる首で覗き込む瞳の中。
映るものは、
別離に対する寂しさと、
光輝くような、期待。

「僕が奪った時を、君は取り戻せるから………」
過去への罪、
未来への諦観、
現在の孤独。
それらを全て打ち壊した、
静かで、けれどもひた向きな純真さ。

「………うん」
そして夢を追う少女は、
手繰るように風を掴んで、
緑色の風を見据え、
羽根のはえた足で駆け出し、
両腕を翼と同様に広げ、
後ろ、過去へと手を振り、そして、

空へ。


『(空白)』(カゴノトリ)

【後ろの正面だぁれ?】

鞠持つ手に朱が差して
そっと後ろを振り向いた
狐のお面の集団が

【赫い花は熱情の仇花】

くるりくぅるり風車
くるくる回って元通り
山からの風が止まぬうち

【白い花は清純の毒花】

止水の鏡面
触れたら全てが
崩れてしまいそうで

【蒼い月は時を、】

塗り潰される視覚
薄れていく聴覚
削り取られる記憶

【空を想うは――】

恋、故意に、乞いて


『鞠つき』(カゴノトリ)

ぽぉうんぽぅんぽん

音が響く
桜華舞う木の下で
白い断片が辺りを満たす

歪ぉぉんぽぉ歪んぽぉん

顔を隠歪た虚無僧二人
尺八をぴいひ歪るり
この世な歪ぬもの有るぞ歪し

ぽぉ歪歪ぉん歪んぽ歪

目隠歪歪廻る呪歪歪螺旋
ほ歪歪たも歪一度
'後歪の正面だ歪歪歪れ?'

歪歪歪歪歪ぽん歪歪


『赫黒』(MAD BLAST)

死神の雄叫びが聞こえるか
幾度となくねじ曲げられ
切り刻まれバラされた
妄執と怨磋が

狂気に従いし神の子は
畜生以下の存在へと堕ち
意味なき罵声の塊を
吐き続け生を止める

苦悩せし間は束
忍び寄る闇は
容易に心を侵し犯し
虜囚の如く
首に鎖を填めさせる

我に還りし者も
苦悩の渦に巻き込まれる
赫黒き連鎖


『功夫』(CRIES IN THE WILDERNESS)

悠久の大地
それは時に人を招き入れ
それは時に人を遠ざける

砂塵舞う荒野
過酷なる乾いた地平は
生ける存在に試練を与える

力のみで行けると思うな
心の揃わぬ豪は
必ずや己を滅ぼす

心のみで行けると思うな
知を携えぬ心は
三歩すら容易に歩けぬ

知のみで行けると思うな
力無き体の知など
用いることあたわず

力の上に心を置き
心の上に知を重ね
知の中に力を留める

力を心で律し
心を知で育み
知を力で補う

三位一体をもって
これを'武'と為す

'武'を育てるもの
それこそが『功夫』也


『bet』(Dry Martini)

ブレイクの瞬間から
勝負は決まっていた
1の目の前には9
その奥には楽園への終着駅

Qの5カード
手札では叶う筈もない
「It's your turn」
微笑み彼女は呟く

黒のAとJが俺に向けて
にやけた笑みを浮かべる
王様と后は謀反に
為す術もなく破れ

積み上げられたチップは
一度として欠けはしない
誰に珠を振らせても
全てお見通し

「Good bye」
名刺にキスマークを残し
長いブロンドを揺らして
赫の跳ね馬で走り去る

あぁ
彼女には
とてもかないそうにない
何もかも奪っていくから


『変わりゆく世界の中で』(HEAVEN INSIDE)

またどうしようもなく
擦れ違う人達
ベクトルの違いが
その隙間を押し広げて

『ただ受け入れる』
憎しみの前で無力な建前
それは遺伝子に刻まれ
気付けば螺旋

確信犯だらけの世界へと
誰もが'正しい'世界へと
一時も止まることもなく
変わりゆく世界

地面が別の色に染まり
静寂と轟音が支配し
鉄の味のパンを食べ
心が裂かれて叫ぶ

だからこそ信じる
だからこそ信じるのだ

いつかは全て
受け入れられる
互いのズレすら
認められるようになるのだと


『時鳥』(花の歌)

黒い服
立つ煙を遠くまで目で追った

今居る場所だけメモをして
誰も知らぬ間に立ち去った

………あの日から
カレンダーを二つ棄てたけど

貰ったナズナの栞は
今でも、いつも使っている

ホトトギスは
今年も知らせてくれる

あの場所に居るあなたに
白い花を渡しに行く時を


『Sho-ku-nin』(Wonderful Workers)

光輝く摩天楼
その一角に響く声

歓声響く遊園地
それとは別の勇ましき声

男らは汗を流し
己の体で職務をこなす

装備は必要最小限
肉の鎧が己の装備

材料を見極め
時間を限り

己に妥協を許さず
機能美へと昇華する

無骨な
ただひたすら無骨な'漢'

彼等を
人は『職人』と呼ぶ


『ココニアル』(Be Proud)

自分が産まれた時
誰が不機嫌となっただろう

自分がいるだけで
誰が迷惑に感じたのだろう

自分が居ちゃいけないって
決めつけたのはいつからだろう

自分はいらないんだって
思ったのはいつからだろう

誰かと違っちゃ
いけないものなのかな

違うことが
悪いことなのかな

居場所を無くしたのは
体も心もそうだった

誰にも認められない
自分を自分で認めていなかった

生き急いだ末に
自分から迷い込んだ闇は

後ろを見ればすぐに
光はあったんだ

迷い込んだ闇に
飲まれて気付いたことは

まずは自分を認めること
それが大事なんだと

自分がここにいること
自分がここにあること

それが、当たり前で
大切なんだと


『背中』(You'll be a man)

近くの公園で
父の背中に乗せてもらった
広くて、暖かかった

あまり何も言わないけど
多くは語らないけれど
いつも僕を、見ていてくれた

いけないことをした時は
しっかりと叱ってくれた
怖かったけど、嬉しかった

……昔のことを思い出したら
涙が出てきた
どれも、かけがえのない思い出

あの頃より
少し小さく見える背中
それを越えるために、僕は

思い出を心に
感謝の気持を込めて
父にさよならを告げる

好きだからこそ
立派だと思うから
さよならを告げるんだ


『蒼い花の歌』(WISH)

貴方が大事にしていた
蒼い花
風に揺られてくるくる回る

貴方は出ていった
望まぬ場所へ
誰もが望まぬ場所へ

貴方が出ていった日から
花は一つずつ散っていく
一枚、ほらまた一枚

次々と散っていく
止めてよ
誰か止めてよ

貴方は帰ってきた
でもそれは貴方じゃなくて
貴方だったもの

傷つけられ
壊され
擦り切れた貴方の跡

全ての花が
瞬く間に散っていく
床に、壁に、膝の上に

誰か止めてよ
ねぇ
誰か止めてよ

元に戻ることを願い
嘆き
押し殺して叫ぶ日々に

見えた
涸れかけた花びらの中に
生えている、小さな芽

見えた
失いゆく命の中に
今生まれゆく命が

涸れ落ちた花は
戻らなくても
新たな命は繋がっていく

擦り切れた心は
戻らなくても
私は貴方の側にいる

貴方が大事にしていた
蒼い花、の種
風に吹かれてくるくる回る

新しい命を繋ぐため
私は
私達は生きなければ

平和の中で
微笑み浮かぶ世界で
蒼い花が咲く世界で






【目次】【TOP】