『レトロ回顧録Part.1』(戻らない恋)

外の世界の色が
まだ少なかった時代

電波に乗って
彼等はやって来た

似たような髪に
似たような服

女々しい歌詞を
甘いヴォイスにのせて

エレキギターを
かき鳴らす

ファンの叫びも
彼等の音楽

倒れる音も
盛大に

音を奏でて
音を作り出す

そんな彼等の音達は
今でも生きている

歌われ継いで
生きている


『リトル・シュリーマン』(El Dorado)

朝焼けの見える丘
嵐の気配はない
鞄にしまい込んだ荷物を
肩に背負い

少年は旅立つ
羅針盤を眺め
止まった風を
切り裂いて

子供の頃聞いた
あまりに有名な御伽話
誰もが信じないものを
信じていた

根拠のない笑いも
呆れるような諫めも
彼を止められはしない
誰もが知らないから

見果てぬ夢を追い掛ける
彼はリトル・シュリーマン
目指す先は
御伽ではない黄金郷


『1/1』(Kiss me good bye!)

コンクリートの闇に
呑まれてしまいそう
街灯を頼りに歩く
私は黒色の蛾

無機質な風
交差する交わらない光
振動したままの鼓膜
崩れていく体


窓を開け放っても
そこに見えるのは
切り取られた水色の空

トランクケースに
詰めるのは
夢の世界に必要な
現実世界の必需品

アラームの音
さぁ、出発
私を縛る鎖が
ほどけるその間に


『箱庭』(空言の海)

誰にも触れて欲しくなくて
誰にも会いたくなくて
私一人だけ居たくて
逃げ込んだ箱の中

声を波音で掻き消すために
水を掬って溜め込んだ
揺らしたら砂が声を出すから
他には何も聞こえないから

皆の姿を見たくないから
砂を隙間に埋め込んだ
これで誰も気付かない
これで誰も気付かないのに

――それでも、水は溢れ出した――

気付けば全て流されていた
気付けば全て壊されていた
全てが全て無くなっていた
全て自分が消していたのだ

箱庭と引き替えに
私は泣くのを止めにした
次の時に笑うために
気付いたときに笑うために


『The live on the street』(COOL JOE)

摩天楼から離れ
下町を大通りへ下る人々

持つものは何もない
ただ――一枚の紙切れれ以外は

統一性のない群衆は
数を増し歩く

一様に
紙切れを手にして

足を止め目を向けた先
中途半端な即席ステージ

だが
それで十分だ


《歓声》


奴には


白い歯を見せて陽気に笑い
軽やかな手付きで思うままに

掻き鳴らせばいいのだから






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