『河川敷、風待ちの夕方』(僕の飛行機)

市電の通る河川敷の下で
飛んできた紙飛行機を手にとった
セピアにあせた紙の飛行機

書かれていた日付は
今よりも遥か前

書かれていた言葉は
感謝と思い出と
…………水滴の痕が一つ

………手紙を折り畳んで
紙飛行機にして飛ばした
風に乗って、誰かに届くように

日付と、
感謝と、
思い出と、
…………水滴の痕が二つ

………今日は
空を見ながら帰ろう

涙が、全てを隠すから


『氷湖、望月の夜に』(雫)

結ばれぬのが世の定めなら
常世の里で契りを交さん

誰が為の愛と知らずに他人は
己の価値をで異端を滅す

鉄架を外して死ぬるものかは
死ぬるは全て人の手による

幾度問われし故語り
我が回答が不正解

壁に語るが虚しさよ
傀儡(でく)に騙るが空しさよ

壊れし世界は誰のものかは
なおしがみつくが愚かさよ

その断末魔が怒涛となりて
我等を裂くを望むのならば

望月の照る湖の下
結ばるる事を願いて睡(ねむ)らん


『車窓、夢、幸せの時間』(トルバドゥールの回想)

豪華な宮殿
催される舞踏会
幾夜踊れど
踊り疲れぬマスカレード

ワルツはリズムを変えて
足をとられそう
スタッカート・テヌート
緩急はいつも突然に

窓から抜け出て
薔薇の花壇に降り立つ
かぐわしく咲き誇る赤
しとやかに咲き乱れる白

幾本か束ねて
あの人に渡そうか
華の命は短くて
すぐに枯れてしまうかもしれないけれど

たたたんたんたたたんたん
月夜に響く6/8
燭台の明かりが
照らす白銀の城


『ユメミタサカナ』(Angel fish)

纏った闇の中
光はとうに失せて
聞こえるのは水音のみ

「……どこにいるの……?」

惑い包む泡を
透し見えたのは
塵すら見えぬ世界

「……誰か答えてよ……」

涙で照らす水底
清涼な輝き
声はどこまで届くのだろう?

「泣いて………いるの?」

揺らめく声に
少女は答える
目を見開いたままで

「……泣いて………いるよ」


『あなたはどこにいったの?』(雫)

あなたはどこにいったの?
あなたはどうしていったの?
おいていかないで
ひとりにしないで
またひとりきり?
またおいていくの?
いやだよ
いやだよ
ひとりはもういやだよ
だからつれていって
つれていってほしい
つれていってほしかった
あなたはどこにいるの?
いつものひとり
いつもじゃないふたり
いつもはもういやなの
だから…………


『風が通る鳥居』

鞠つきの音
朱が差す手
素直な笑顔

石畳を走る
子供のはしゃぐ声
揺らぐことなき………風

葉が擦れる音
さらさら
さわさわ
鳥の声と
合わせるように

鳥居の周りで
みんなで騒げていた
あの日々

………やがて
紅葉に乗っかっていた手は
紅葉を乗っけられるようになり

鳥居を背に
紅葉を手に
光の先を見つめる

………もうこの場所には
誰も来ないのかな………

静かに吹く風が
紅葉をそっと
吹き上げた


『繋ぎ、繋ぐ』(THE PLACE TO BE)


私を照らすものも
照らさないものも
交差することがなく
ただ何処と知れる事もなく

棒の数が
誰かと繋がっている印
途切れても気付かぬ脆さに

過去など今と関係がない
それは分かっている
けれども切れず
まだ私を縛り続けている

過去は決して取り戻せない
それも分かっている
けれども切れず
また私は求め続けている

幾度となく繰り返した愛と
幾度となく繰り返した別れ
それでも懲りずにまた
求め、別れ、傷付き

擦り切れかけた心が
私の中で痛みを叫び
行き場のない感情が
私の体を蝕んでも

それでもまた
それでもまだ
私は探し続ける
私を'繋ぐ'場所を
私の'在る'場所を


『呆惑ラヂオ』(猿の経)

漏れ出ずる電波
〈ワレワレハコノチニアリテ〉

響く絵空事に
はらはらと涙を流し
拝む者あり
〈アリガタャァ、アリガタャァァ〉

意図など知らず
〈ワレラヲセメルカノモノニテッスイヲ!〉

己の過去など知らず
己すら知らず
〈テッスイヲ!テッスイヲ!〉

徒に刃を握り
鉄片を埋め込み
〈コノウラミイカデカハラスベキカトトウ!〉

人々は
〈ミナゴロシダ!〉

鏡に向かい
〈ネコソギホロボシテシマエ!〉

吠える
〈メッサツダ!ギャクサツダ!ヒトリトシテイカシテカエスナ!〉

滅びて、しまえ


『親知らず、子知らずの道』(雫)

道は幾つも広がっている
それが見えなかった僕等は
見ようとしなかった彼等に
見切りをつけたんだ

『愚か者たる我が息子は
道を踏み外し』
行く末に光なき道を
暗灯の光で歩かせ

『我に従わぬのなら
致し方ない』
他の道を切り崩して
残りの道を選ばせ

『野垂れ死ね!』
失望の怨嗟に
充ち満ちた声
冷ややかなる風

互いが互いに
背けたもの二人の道は
擦れ違わず
相反するのみ

どちらも気付かなかった
他の道を
どちらも選べなかった
他の道を

悔いて悔いぬ二人は
顔も会わせず
目の前の道を
目の前に敷いた道を

ただ、歩くのみ


『枝葉末法』(ポップミュージック論)

時を越すラブソングは
今はもう出て来やしない
How easyly loves come!
How easily loves go!

安っぽい常套句を
間に受けて喜んでは
所詮、絵空語りと
冷めて頭抱える

匿名希望の電波飛び交い
薄い葉は破れスパムを散らす
誰かを嘲(わら)えど腕のバーコード
俺も'名無し'の一人でしかない

「破れた葉を繋げ!」
声高に叫べど聞く者はなし
散った葉は風に流され
跡形もなく消ゆ

時は音を変えれども
心変わりは是何事ぞ
極彩の葉よ舞い踊れ
刹那、消え行く運命(さだめ)なら


『黄金の羽根』(L.A.N.)

水の張る岩場に刺さった
一枚の羽根――

闇の中輝いた
黄金色が宿り
緑色の世界が映える

広野に立つ吟遊詩人
遠くを見据えながら
ボロ切れの下で
竪琴を奏でる

弾けた泡の
欠片に映る
セピアになる前の風景
浮かんでは消え
よぎっては消え

全てを
我に還す地響き
世界は誰かを突き放し
世界は誰かを引き込む

鳥が舞う
影と青空を牽き連れて
太陽と月の断片
黄金の羽根が全てを覆う

崩壊が始まった塔
落ちてくる硝子一つ一つ
中に、黄金の羽根

擦り切れるほどに
回り廻る時の針
羽根達は告げる

時は決して止まらない
緩みはするけれど
流れは流れのまま

湖面に咲く蓮
花びらの上に
成り立つ世界

その一つ一つに
黄金の羽根


『連理』(雫)

湖に咲く
白い花二つ

根は互いに
繋がって

仄かに光る
蛍の番(つがい)

揺らぐ水面を
静かに見つめ

闇へと消えて
現れ消えて

深々と
雪が降る

湖に溶けて
湖を凍らせ

やがて全てを
隠すように

二つの花に
被さるように


『豊色』(花見で一杯)

散るのが華の定めなら
散り際こそは潔く

手に持つ物は何もなく
手に入れし物は数知れず

豊かな色は艶と成る
惹くも離るも色次第

色があせます、その前に
去るは銀座のネオン街

涙隠して笑顔を見せて
そして告げます「ありがとう」
そして告げます「サヨウナラ」






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