『ある気紛れな歌唄い』

ある気紛れな歌唄い 全ての人に謎かけだした
「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないの?」

たちまち彼は笑い者 たちまち彼は気違い扱い
全ての人が謎に対して 笑いと冷たい視線を返した

謎かけだした数日あとに 一人の幼い子供が訊いた
「正しいことって何のこと? いけないことって何のこと?」

すると愚かな子供が一人 知ったかぶりした口調で言った
「正しいことは正しいことで いけないことはいけないことさ」

納得いかずに同じこと 同じ言葉で聞き返す
するとたちまち怒り出す 謎に対して怒り出す

聞く事こそが罪なのか この質問が罪なのか
「何故」と聞いても風が吹く 「愚者」という名の強い風

やがて月日は過ぎていき 幼き子供も大人になった
幼き頃の疑問を残し 幼き頃の思いを胸に

「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないか」
言った途端にその人は 縛り付けられ牢屋行き

そして処刑の時が来た 彼は疲れの色を隠して
「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないか」

「彼は悪魔にそそのかされた 魔の手先だ!」と誰かは言った
その声が彼に届いた時は 首が地面に落ちた後

ある気紛れな歌唄い 彼だった首に語りかけた
「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないの?」

答えた者は未だなし答える意志も未だなし
謎に対して誰もかも 目を向ける者未だなし

向けることすら許されぬ そんな謎などあるはずはない
そんな思いを歌唄い 風に重ねて唄い出す

「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないの」
彼の叫びは悲しくも 未だ答えは闇の中


『或る工作の時間に』

カッターナイフで
切ってしまった指

切口から滲んだ血
その先に見えた
破裂と絶叫の騒乱

僕が口にするパンを
彼らは食べることすらできない

僕が感じる痛みを
彼らは感じられるのに

僕等が仮想殺人を百円でやっている時
彼らは実践殺人を命賭けでやっている

コンテイニューなど
ありはしないのだ

この差は何か
考えた時に起こるのは

"僕等は幸せ"という優越と、
"可哀想"という優越から来る感情と、
そして………疚しさ

悲しい気持をかき消すように
僕は痛む指でペンを持った


『故問いの日々』

問い続けよう

しょうもない事でも
常識みたいな事でも

誰もが知っている当たり前こそ
誰もが知らない当たり前だから

作られた理由
尋ねることで崩される

全ては疑われることで
磨かれ、研かれ

感情的な反論には
理知責めで返してこそ

問い続けよう

理不尽な暴力に
負けないように

情報の暴力に
惑わされないように

問い続けよう


『Nameless stranger』

俄か雨の後濡れたコンクリート
暗雲の間に見える青空の下
小さな傘、吹き飛ばす風
凪いだ昼と夜の隙間

旅人は目的地を定め
地図を開き、歩み始める
ココニイル、ココニアル
そう、確かにここに生きている

行き交う匿名の波
逆らい、流され、それでも
彼は、彼で在り続ける
彼は彼だから
Nameless stranger

植えられた葉をを千切り
掌(たなごころ)に乗せ
………嵐は、また来るかも
流れの速い雲
幽かに見えた太陽
陰の町
名も無き足音

全ては陽炎に溶け
そして僕は知る
それでも僕は'在る'んだ

僕も
名付けられた
Nameless Stranger


『虚'飾'』

燃えないダイヤを身に付けていても
安い者しか目につけやしない
誰かはいつか歌っていたさ
「カッコつけるのはカッコ悪いから」

子供騙しの眩しい光
くらむのはいつも次点以下
「石ころ一つでお釣りが出る」
軽佻浮薄なmass communicatiOn

左右同様、上下同様
『外して浮くのはカッコ悪い』
前後同様、遠近同様
『君は一体どう在りたいの?』

一銭以下の価値付与
求めたものとの大きな隔たり
きらびやかに見える蝶
一匹の蛾に過ぎないのに

一厘未満の価値増加
卑しさ感じる鈍色に光り
上っ面だけの虚栄心では
自分ですらも満たせやしない


『故、見良津氏に捧げる弔い詩。』

雪が来る前に
つむじ風に拐われていった

時に華麗なる闘牛士のような
風を描き出した貴方は

今頃は楽聖と吟われる者達と
静かなる時を過ごしているのだろうか

言葉は全て空に還した
ただ、御魂が
安らかに空に在る事を

静かに、静かに祈るのみ

貴方の落とした音の種は
やがて生ける者の心に
華を咲かせるだろう


『曖昧・透明・ボーダーライン』

加減を知らず
受け止め方も違う
悔いるときはいつも
「気付くのが遅すぎた」

享楽主義者の宴が
この世でどれだけ開かれている?痛みを知らぬ者に
痛むことを禁じた世界

哀れみに光る優越は
刃を光らせ全てを刻む
曖昧さに身を預け
ボーダーラインを勝手に設定

曖昧さの言い訳
透明である理由付け
ボーダーラインは決して
明確には出来ない
してしまったら
また逃げ道が出来てしまうから


『藍色式追悼詞序章』

打ち据えて
心に満ちた
糧となりえぬ嘆きを

刻みこみ
脆き衝動を
削った炭素のナイフで

描く
虚しさで染まった
赫と白の拳で

その痛みが
どれだけ
己の身を焼き
己の心を凍らせども

憂き身と心は
晴れる事無し

故に打ち据え
幾度も幾度も

故に打ち据え
幾度も幾度も


『何度考えたら分かるんだよ』

死に甘えるな
お前は死をほのめかすことで周りから構って欲しいだけだ
幼児と一緒の願望でしかない
逃げるな
甘える年頃でもないくせに
逃げるな
ろくに解決しようともしないで
いつまで繰り返すつもりか?
誰も手は差し延べないぞ?
誰もお前など見はしないぞ?
くたばりたいなら勝手にくたばれ
だが本当に望んでるのは何だ?
お前はただ逃げているだけだ
甘えようと逃げているだけだ

少し考えれば分かるだろ
この屑が


『紙飛行機』

彼の名を書いた紙飛行機は
夕焼け空へと飛んでった
向かい風に乗り飛んでった

私の名前の紙飛行機は
飛ばしてすぐに墜ちてった
ろくに飛ばずに墜ちてった

あぁ、まだ貴方のところへは
行けそうにもないみたい

草の上にある紙飛行機を
私は大事にしまいこんだ
いつかはきっと飛べるから
いつかはきっと飛ぶのだから


『飛べない小鳥』

飛べない小鳥は
いつでも遠くを
眺めている

飛べている仲間を
眺めている

飛べない小鳥
翼を広げ
風を受ければ

飛べる事は
もう知っているのに

翼をはためかせれば
飛べる事は
もう知っているのに

飛べない小鳥は
臆病だから
まだ翼が広げられない

大丈夫
もう翼は広がるよ

風を受けて
はためかせれば
飛べるよ

きっと―――

もう誰も
側にはいてくれないから
自分で探さなきゃ

待っていても
側にいるのは風だけ

なら、その風を受けて
飛び立てばいい

だから――

飛べない小鳥は
大人になった
小鳥のままじゃいられないから

飛べない小鳥じゃいられないから


『24hの頼りなさ』

時間など
数だけなら
いくらでも増やせる

ただしその分日常は
慌ただしくはなる

区切られた時間に
すがりついたら
見えなくなるのは

区切られていない
時間の存在

チクタク音を消して
目盛りの無い板の上で
回るだけの針

終りもない
始まりもない

ただ廻るだけ


『戦い』

戦い
戦い
また戦い

何かを求めて戦い
戦い
また戦い

求めるものを壊して戦い
戦い
また戦い

そして戦いは続く






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