『薄ら水色の空』

薄ら水色の空の中
飛行機飛んだ雲の跡

何処に飛んだか誰が知る
ただ雲の跡追うだけだ

誰が飛んだか誰が知る
ただ雲の跡追うだけだ

『原爆投下日に寄せて』

空には沢山の透明な人が
僕等を指差したり、首を横に振ったり

あまりに眩しすぎて
空を見なくなった僕等は
それに気付かぬふりをした

あの刹那
光は彼等を
天に引きずり込んだ

天に行けぬものは
地獄をさ迷い
三途の川に折り重なった

そしてそれらを知らぬ僕は
知ったふりした僕等は
誰も縛ることができず

今も縛られている
彼等に

あぁ、
憎たらしいほどに
青い空

『8/6に似つかわしくない爆撃』

飛行機が遥か遠くの空へ
人を乗せて飛んで行く

人を乗せない飛行機が
遠くの国目指して舞う

そして立ち込める煙が
人を乗せて空に溶ける

何のために響く轟音か
何のために光る爆発か
何のために崩れる橋か
何のために死ぬ人々か

これが神の与えたもう天啓なら
なんと神は無慈悲で残虐なのか

神に比べて
あまりに矮小な存在は

神に比べて
あまりに矮小な存在のために
嘆く


『チューブラーベル』

薄い手袋越しでも
伝わる木の温もり

祈りの時が来た

音は鳥になって
広場を、街を、国を舞う

打ち付ける思いは安らかに
響け、透明な白鳩よ


『虚・電飾』

陽炎ネオンストリート
また通りすぎるテールランプ
行く末予想で時間を潰して

夢見る鉄のアーバンライフ
またここに来るフロントライト
轟音だらけの空間にいて
実は誰もがストレンジャー

轟音でかき消された
'自分'名義のIDコール
剥がれた熱いコンクリート

全て消え去った闇の中
月明かり照らす橋の上
水音響く蛍河原で
闇色放つ電飾片手
幽かに残る温もり感じ
再(ま)た取り戻す自分の在りか


『雨空と携帯電話』

雨降らす黒雲
やや肌寒い風
皮膚を爪でなぞりながら
消えてしまいそうな
自分の存在を
何とか保つ
ワイヤレスの絆
距離≒心の隙間
再度繰り返す呼び掛けは
電子音によって途切れ
温もりを感じるのは
熱せられた電池から
絶えてからいくつ
夜を過ごしたの?
日を増す毎に増えていく
「元気?今何してる?」
'不確かさ'が壊す
自分も、心も、愛も
それでも私は
貴方を愛して
この薄ら寒い曇天の中
むやみに震える指で
貴方の証を
貴方の居る証を
求め続ける


『人形奇譚』

鳴り響く鐘、三回
ガラス戸を叩く
ティーポットからの香り
早めの晩餐
飲み終えたら私は
人形になるの
そしたら愛される
そしたら愛されるから

鐘の音、六回
さあ踊らなくちゃ
今日はワルツ?タンゴ?
お相手はどんな人形(ひと)?
ルラルララ、ルラルララ
スタッカートは止めて
途切れたら終っちゃう
途切れたら終っちゃうから

アルファベットだらけの
意味のない音の羅列
ただその場で繰り返しながら
私はただ踊るの
飽きられる日を知らないで
飽きられる日を待ちながら

鐘が最後の時を刻む
また今日も人に戻る
そして私は
ずっと眠る
鐘が三つ鳴るときまで
そしたらまた
愛してもらえる
愛してもらえるから


『9/11に寄せて』

落ちる
墜ちる
おちる
オチル

絶対性が
権力の象徴が
繁栄のシンボルが

全て
塵になり
灰になり
瓦礫になり

全てを巻き込んで

後に残ったものは
虚飾
欺瞞
そして

その犠牲者達

全ては一時の夢となり
空気に溶けて消えた


『終着駅まで』

鳴る筈のない携帯抱いて
明けゆく街に欠伸をかます
視線と意識のベクトル
皆とは交わることはない

洋墨だらけの線を眺めて
何かしら事が浮かべばいいが
行き交うものは妄想ばかり
実を結ばない一人の思考

押し潰されそう
吐き出される前に
誰でもない誰かでもない
誰かだらけの場所にいて

終着駅まで
色のない景色を眺める
吊り広告には
怒りしか湧かないから

終着駅より一つ
前の駅で限界
削られていく存在に
もう耐えられないから

秒針が
進む


『虚砂の海』

水音
さらさら
砂音

山が動く
ゆったりと
崩れながら
滑り落ちて
川になり
そして
虚砂の海に
辿り着く

手元から
さらさら
さっきまで
手の上にあった
筈なのに
さっきまで
自分のものだった
筈なのに

さらさら
凍える月は
今日も沈まない

人影に見える砂
嘗て人だった砂
次の時には
さらさら
形を失い
海へと溶ける

潮騒
さらさら
砂騒

溢れ落ちた雫は
砂粒の一つ
もう見えない
もう分からない

ここに風はない
ここに時はない
あるのは
緩やかな破滅だけ

満月が
顔を伏せた

水音
さらさら
砂音

あまりに広い
虚砂の海
あまりに小さい
自分自身

さらさら
ここには何もない
さらさら


『塔』

驕れる者よ
見よ
あの塔を

天に届かんかと
延び
伸び
雲を掴まんとする
星を掴まんとする
あの塔を

しかし
もう延びない
もう伸びない
もう決して
天には届くことはない

建てる者が分かれ
建てる者が散り
建てる者が去った

そして今
まさに崩れんとしている

驕れる者共よ
見よ
あの塔を
あの塔の残骸を


『運命の輪』

回れよ回れ
廻れよ廻れ

赤か?
それとも黒か?
DoAの勝負
Betの代償はLife

回れよ回れ
廻れよ廻れ

裁きの神が
笑顔で
珠を転がす
第三の選択に出たもの
Nogameだけは勘弁

回れよ回れ
廻れよ廻れ

イカサマ無しの綱渡り
That's my life!
That's our lives!


『秋初め』

羽のもがれた蝉の死骸を
凉風に乗せて木陰に置いた

朝の月
見上げては
兎の影を探して

背に滲む汗が
日に日に引いていく
代わりに窓に付く結露

風が
絡み付きながら
腕を刺し
胸を刺し

早暮の闇
オリオンの勇士を
探し見上げる
星無き夜空

鈴虫の声
車の音に
掻き消されながらも
響く

鼻が少し痛くなって
月待ちの夜空に
僕は大きなくしゃみをした


『台風の駅前、金網の下にて』

凄まじい量の
ビニール傘達
風に負け
折られた敗残者は
見捨てられ
野に打ち捨てられ
晒される死体

胸を渦巻くは
一時の命なれど
役目を果たせし平穏か
生き長らえず
その生を終える無念か


『潮騒は何も伝えない』

潮騒は何も伝えない

遠くで響く叫びも

近くで響く嘆きも

隣で響く轟音も

地の裏で響く罵声も

伝えない

ただいつものように
平穏な
音を伝えるだけ


『黒猫と月』

屋根上の黒猫
見つめる望月
鳴いてみる
声は月を跳ね還り

それを聞く黒猫
微笑んで鳴く


『紗紗』

神無月から、はや幾時
雨催いの月、雲霞
紗紗流れる川音
消し去るノイズは
文明の足音

町の月、ほら欠けてきてる
淡い煌めき、揺れ惑い
紗紗放れる戯言
消し去るノイズは
誰かの足音

枯れ葉、手に乗せ
息を吹きかけ飛ばした
紗紗風の音が
行く先遠く
彼を誘う

叩き付けるような闇
祈る手に頼りはなく
紗紗擦り合わす音
響かせて今日は
もう止めにしようか


『日暮らし森で』

日暮らし森で
隠れんぼ

誰かはきっと
いなくなる

いつかはきっと
いなくなる

日暮らし森の
隠れんぼ

誰もがきっと
いなくなる

いつかはきっと
いなくなる

子ども達だけの
隠れ家は

いつかはきっと
無くなって

隠れ家にいた
子どもたち

いつかはきっと
いなくなる


『最後の年賀状』

外を見るに粉雪
時計は七時を過ぎ
手紙の返事がそろそろ
恋しくなるシチュエーション

友に小指を立てられ
赤面した日々はもう遠い
最後の年賀状
その先に見えるものは

あてもなくふらつく
ネオンストリート
白い吐息に
蛍光灯の光がぼやける

せわしなく鍵を
打つ音が聞こえる
何が不安なのか
今の僕にはよく分かる

飾りが解かれたモミの木の下
煉瓦の塀に座り
澄んだ夜空を眺めながら
『My Name』を唄う

微笑みながら今
僕が呼ぶその名前
今は側にはいないけど
まだ側にはいないけど

鐘が鳴り出した
全ての音が鳴り終る前に
僕は夜空に手を合わせて
そっと目を閉じた



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