十字軍遠征……。
幾度となく行われた、キリスト教によるエルサレム奪還を目的とした対イスラム遠征。当時最大となっていた教会の――こと教皇の力を削いだ出来事。
敵であるイスラムの攻撃による多数の犠牲者もそうだが、この遠征に乗じて西欧封建制度から抜け出そうと試みた者が多数兵に志願したこと、それが敗北の一因であったのかもしれない。
国力の流出、結果生まれたイスラムとキリストが内包する文化の交流と発展。もたらした結果が善きにしろ悪きにしろ、その影響は数知れない。

――だが同時にその影で、決して人の知り得ぬ影響があったこともまた事実である。




「……うふふ……気が付いたかしらぁ……?」
朦朧とする意識に直接語りかけるような声に、青年は岩のように重たくなった眼を何とか押し上げた。
地面が真下に見えることから、どうやら彼はうつ伏せに倒れていたらしい。肋骨や腰が妙に痛むのは、長い間体重を受け続けたからであろうか。
同時に、体の節々が何故か痛む。筋肉痛か、それに類似する何かか……何れにせよ、体は上手く動きそうにもなかった。
と……青年は地面に何か違和感を覚えた。意識を失う直前まで見ていたものと、何かが明らかに、違う。
色彩?それも違う。
材質?明らかに違う。
温度も感触も、違う、違う。
さらに視線を上げると、辺りの景色も、明らかに違う。
何もかもが、違っていた。



彼の直前までの記憶はこうだ。
十字軍の小部隊隊長としてイスラムの兵士との戦いを続けてきた彼らは、上官の部隊長にとある街の探索を命じた。同時に、この街における手柄は全て小部隊の物だ、と。
別段珍しいことでもない。部隊によって攻め入る街を変えることは他の部隊でも――上官の従える部隊では――よくやっていることだ。
勇んで出征した小部隊だったが、件の街に辿り着くと――不気味な違和感を覚えた。街の住人が、一人もいない。念のため各家屋の戸を開け、中を調べたが、そこにも誰もいなかった。
しかも、砂漠の民ならば身に付けている筈の豪華なアクセサリ、さらにコーランまでもが、無造作に部屋に放置されている。
兵士達は喜びを感じる前に、流石に事態の異常性に気付いたらしい。隊長であった彼もそれは同様であった。
どうするべきか……彼は考えた末、減少している食料と目についた貴金属を手に取って直ぐ様街を出るよう指示をし、そのまま自らも食料の確保を優先して行った。
そして粗方集まったところで、出発を告げた瞬間――。

――どこへ行くのかしらぁ……ん♪――

「――!!」
頭の上から響く、どこか艶っぽい女の声。その声の正体を見極める間もなく、男達の体を強烈な衝撃が襲った。
避ける瞬間すらない。一瞬であまりに強烈な一撃を食らった兵士達は、そのまま気を遠くへ飛ばしたのだった……。



……そして、意識は現代へと戻る。
間違いなく、民間の家で大理石のような床など有り得る筈もなく、それどころか高級なシルクのカーテンも、彩り豊かなカーペットも、木製の巨大な本棚も、気を失う前には存在していなかった。
いや――それだけではない。部屋を満たす、樹液を揮発させたような香り。部屋にアロマの類いは見当たらなかったし、そもそもここまで強烈なら、記憶の片隅にでも残っている筈だ。しかし、その気配はない……?
「――っ!」
ここまで考え、隊長はようやく、周囲に部下の姿が見えないことに思い当たった。見回して、見回して……部下の姿が確認できない代わりに、現在自分が置かれている状況を、それはもうはっきりと理解する事が出来た。
どうやら自分は、巨大なベッドの前に転がっていたようだ。目の前にあるのは、半身を起こした彼よりも大きなシーツ。それは何処か洗い立ての軟らかな感触を保っているかのよう。
幅が三から四倍もあるベッド。恐らくキングクラスよりも大きそうだ。ここで寝るのはどの様な人物であろうか、その疑問は――視線を上にずらすことで一瞬で解決した。

「おはよう、勇敢なクルセイダさん♪」

――少なくとも隊長の三倍はありそうな体躯を誇る、背徳を具現化したような、ブラとパンティだけを身に付けた女性が、何処か熱の篭った視線で彼を見下ろしていた。
それは人間で言うならば傾国の美女と形容されるべき外見を誇っていた。あどけなさと成熟さとを併せ持つ不思議な造りの瞳に、切れ長の眉、その下には程好い大きさの泣き黒子。白人と黄色人の中間に見える色の肌はキメ細やかで、その部分だけでも画家が挙って筆を進めるだろう。腕や足はまるで石膏像のよう。もしもこの腕や足を再現出来るものなら、全国の、いや全世界の女性が財を投げ出すに違いない。
首元から股間にかけて描かれるしなやかなラインは、お腹の辺りでまるで孕んでいるかのようにプックリと膨れている他は理想的な曲線を描き、腰周りも、恐らくこれがなければ理想的な形を誇るのだろう。西瓜か、またはそれに類するような巨大な胸は垂れること無く張りを保ち珠のような汗露を弾き、その先端にある乳首は、興奮しているのだろうか、プックリと膨れている。毛一つ見えない股間は、今か今かと来る対象を待ち構えるかのように口を大きく開き、薔薇と蝋を混ぜ合わせたかのような、むわっとした香りを放ちながら愛液をだらだらと垂らしている。指の先端が幾つか濡れていたのは、恐らくは自慰をしていたのだろう。
「……な……」
だが、例え自らの十倍の体躯を誇っていようが、このうら若き隊長を心底震えさせる事実としては物足りない。にも拘らず、彼は恐れのあまり震えていた。見つめる視線の先にあるのは、明らかに人間ではあり得ない体躯の彼女の姿。いや、体躯以前の問題ではある。

彼女の紫陽花色の艶やかな長髪、それを掻き分けるように頭上から生えた山羊のような巨大な角に、肩甲骨辺りから生えた、片方だけで彼女の全身を覆い隠すことが出来るのではないかと言わんばかりの巨大な蝙蝠状の羽根、そして――尾てい骨から突き出た、全長5m近くある、先端が矢尻状に尖った尻尾。このような特徴を持つ人間など居ない。つまり、眼前にいるこの女は――!

「悪……魔……!!」

「ふふっ。貴方達人間はそう言うのよね。まぁ人間じゃない、しかも人間より強い存在は大概悪魔ってことになってるみたいだし、間違ってないけど?」
隊長は震える体を何とか精神で抑えながら、目の前の巨大な悪魔に剣を向ける。教会の戦士として、この悪魔を生かしてはおけないという、信仰から来る動機もそうだが、何より放置していたら自らの身が危ないという生存本能的な恐怖が、彼を何とか支えていた。
ここで逃げるという選択肢が出なかったことは、ある種奇跡だったであろう。何故なら、もし逃げたとしたら……即座に消し飛ばされていたであろうから。
「あら……?ふふふ……貴方は他のコとは違うのね……ふふっ♪」
そう膨れた腹を、何かを思い出すように優しく撫でる悪魔。その表情は慈母性よりも遥かに、捕食者の充足性が勝る、何処か攻撃的な笑みを浮かべていた。
隊長は悪魔の声に耳を貸さないつもりでいた。聞き入ってしまえば封じた恐怖が心を奪ってしまうから……だが、それは叶わなかった。
他のコ。ここで言う他のコとは一体誰の事か。さらに、比較対象が自分である事。そして、悪魔の手が置かれた、不自然に膨れた腹――。
彼の脳は最悪な原因事象を思い浮かべた。それを振り払うべく剣を硬く握りしめるが、その切っ先は震えている。悪魔の笑みを見て戦慄するのでは――と、悪魔の顔から目を反らし、心の臓があるであろう箇所、乃ちその巨大な胸に向けて剣を向けるよう気を集中させる。
――その抵抗すら嘲笑うように、悪魔はハッピーエンドを告げる語り手のようにあっさりと、しかし隊長にとってはハッピーでは有り得ない言葉を告げるのだった。

「……ご想像の通り、あなたの可愛い可愛い部下達は私の中に居るわよぉ……ふふっ、とっても美味しかったわ♪」

「!!!!!!!!」
心臓を直に握り潰すような衝撃が、隊長の精神に沸き起こった。脳内の最悪な原因事象、それを彼女は、一瞬で肯定したのだ。
全身から血の気が引き始める。同時に、底知れぬ恐怖が彼の力を奪い、剣がいよいよ震え始める。
「う……」
「嘘だと思う?自ら告げる居留守じゃあるまいし、自らを繕う嘘でもないでしょ?ふふっ。あぁそうそう。錆びてて美味しくなかったわよぉ貴方達のクロス。手入れはしっかりした方がいいわ……んっ!」
言葉の途中から、巨大な悪魔は自らの手をその口の中に突っ込み、何かを探すようにごそごそと腕を動かしていった。
見るだけで吐き気を催す光景……だが、男はそれを眺めることを止められなかった。体が最早自分の思うようにならないのだ。
「んごっ……んんぐっ……」
喉の辺りがぼごん、ぼぐんと膨らんでいる。そこまで腕を差し入れて、なおも平然としている悪魔。思わず吐きそうになるのを堪える隊長をよそに、悪魔はその腕をさらに奥へと進める。
骨格――いや、身体構造を無視したかのような動きに、愈々もって隊長の吐き気は最高潮に達してしまいそうな勢いである。本来膨らみえない箇所が突発的に膨らんでいるのを見ると、まるで巨大な蟲が悪魔の体に巣食い、内側からのたうっているような錯覚すら覚えてしまいそうだ。しかもその蟲は悪魔の体内における性感帯を知っているらしく、ベコンボコンと体を突き上げる度に、悪魔の瞳は何処と無く潤み、のたうつ尻尾の先端や惜しげもなく顕にされた秘所からは甘美な香りを放つ液体が漏れだし、この空間に気体となって拡がっていく……。
「んご……ごぐ……んんっ」
ずるり、と音を立てて引きずり出される彼女の腕は、何やら得体の知れない液体にまみれていた。同時に異常に濃ゆい香りが鼻を突く。恐怖でも五感は正常か。
あまりの臭気の濃さに恐怖が一瞬和らぎ、隊長の濁っていた視界が明瞭になる。彼が悪魔の開けた腕に見たもの……それは……!

「……ゲトニッツ=ノーラン……あぁ、あの中で尤も美味しかった子ね♪やっぱり、クロスに聖気が残るほどに純粋に神様を信仰している子は、どこもかしこも美味しいわぁ……♪」

……紛れもなく、彼の部下であるゲトニッツ=ノーランの名前が刻まれたクロスであった。恐らく悪魔の胃液は、表面の錆びごとクロスを溶かし尽くすようだが、彼の物は溶け残ったらしい。悪魔の言葉を鵜呑みにするのならば、聖気が消化を抑制しているという。
とするならば――彼は、再び剣を強く確実に握り締めた。地面を踏み締め、恐怖を押し込み……悪魔を睨み付ける。聖気の塊である彼は――いや、ひょっとしたら他の兵士達も、まだ生きているのかもしれない!悪魔の腹の中で苦しみ悶えながら、救いの手を求めているのかもしれない。
「あら……?ふふっ……♪ようやくやる気になったのかしらぁ?」
口振りから、悪魔は何もするつもりはないらしい。ただ膨らんだ腹を前に突き出しながら、扇情的かつ挑発的な視線を向けるだけ……。
「ほらほらぁ♪助けてごらんなさい。貴方の大切な部下なんでしょう?時間が経つとどんどん溶けていくわよぉ……ふふっ♪」
悪魔の言う通りだろうが、言われるままに動くわけにはいかない。あくまで集中して、確実に捉えて、切り裂かなければならない。だが、切り裂いた後で無事に帰すつもりなど悪魔にはないだろう……そう判断した隊長は、腹を――。

「――っやぁっ!」

――通り過ぎ、そのまま悪魔の胸目掛けて、構えたまま突進する。油断しきった今なら、一撃で仕留めるチャンスでもあると、そう彼は判断したのだ。罠である可能性は無いと、口と体勢から判断した彼は、そのまま一気に懐に潜り込み、その瑞々しい柔肌に突き刺すよう剣を――!?

「んはぁぁんっ♪」

――突き刺そうと懸命に力を入れた。だが……刺さらない。刃が深く埋まらない。おまけに悪魔があげる性的興奮を催す叫び……。
ならばせめて膨張し薄くなった腹を斬り、地獄の苦しみに喘ぐ部下達を救おうと、そのまま彼は剣を降り下ろし、悪魔の膨らんだ腹の根元を斬る。だが神の祝福を受けている筈の剣は、悪魔の皮膚に掠り傷一つつけられなかった。
「あらあらぁ♪もっとやってもいいのよぉ♪物凄く気持ち良かったんだからぁ……ふふふ、中の子達も悦んでいるわぁ……♪」
反撃を警戒して離れた騎士に、相変わらず何処か蕩けたような艶かしい笑みを浮かべながら、悪魔は腹を擦り告げる。それに呼応するかのように、もこ、もこと悪魔の腹が蠢いた気がした。
まだ部下は生きている、その事実が彼をさらに焦らせた。悪魔の表皮に浮かぶ汗を件から拭い取り、幾度も幾度も装甲の薄いと思われる場所を斬り付け、突き、薙いでいく。だが、悪魔の皮膚はその攻撃を尽く防ぎ、受け流し、垢の一つすら剣に付着させることはなかった。
「んんっ、あんっ……そう、もっと激しくっ♪いいわぁ……いいわぁっ♪」
形ながらも斬られ、突かれ、払われている筈の悪魔は、隊長の一撃毎に身を捩り、快楽に身を震わせている。頬は火照り、息は荒くなり、腹の動きも大きくなっていく。
同時に、彼の視界には入っていなかったが、悪魔の乳房もさながら別の生き物のごとく揺れ、乳首がはち切れんばかりに勃起していた。そしてその標準は……騎士に向けられている。
「――っ!」
下腹部への袈裟斬り、それを狙った騎士が振り下ろした剣が悪魔の陰唇の内側に触れた瞬間――それは一気に膨張し、剣ごと彼の腕を飲み込もうとした!咄嗟の事に驚きつつ剣を引き抜こうとする彼だったが、悪魔の膣はその剣すら奥へ奥へと呑み込もうと歯の無い口の如く、ぐむぐむと蠢いていく!
「んんっ……んあふっ……いんっ……♪」
悪魔は彼の味に夢中になっているのか、艶っぽい吐息を繰り返しつつ、さらに快楽を味わうように胸を弄っていく。乳房をまるで牛の乳絞りの如く根元から柔らかに圧迫し、乳首を彼に向けつつこりこりとつまみ上げている。いよいよ凝り、拳大弱にまで膨れ上がったそれは、徐々にびくん、びくんと震え、放出の時を待ちわびていた。標準は既に合っている。あとはその時を待つだけ……。
「ぐっ……くぁぁ……っ」
懸命に剣を引き抜こうとする隊長。だが、剣はしっかりとくわえ込まれて抜ける気配もなく、その上、両腕に絡み付く無数の肉襞がさながら舌のように舐め擽り、彼の力を奪い去ろうとしている。
自身の舌を噛んだ痛みで何とか自我を保ちつつ、力を込めて剣を引く隊長だったが、力の差は歴然としていた。次第に、奥へ、奥へと体が引っ張られていく。同時に、腕の、手の力が抜け――!

「んあぁああああぁあっ♪」
――ぶしゅうううううううっ!

「――っぐぶっっ!」
突如、隊長の頭上から、滝の如く強烈な水流が叩き付けられた!!同時に悪魔は叫んでいたが、それが彼の耳に入ることは無かった。全ては濁流の中に呑み込まれていったのだ。濁流……その激流は確かに濁っていた。白と、薄い黄色、そしてほんの微かな桃色に。
顔面から体にかけて、一気に叩き付けられる形となった彼は、悪魔の体から吹き飛ばされる破目になった。剣を掴めてでいなかったのが幸いしたのか、何の抵抗もなく魔の沼から抜け出ることが出来た。それが災いとなるのかは、状況すら掴めていない今の彼にはまだ分からない。
「っぐっ……ぷぁっ!づ……えほっ!えほっ!」
突如流れ込んできた、水よりも重い液体に、隊長は咄嗟に口を塞いだが間に合わず、勢いを保ったまま体内にその侵入を許してしまう。気管支に直接叩き付けられたそれに、思わず噎せ込んでしまうと、それが内包していたどこまでも深く優しい甘味に彼の口内が蹂躙されていく。
久しく口にしていない、上質なミルクをさらに甘くしたようなその味に、隊長は心の何処かで安らぎを覚えているような錯覚に陥った。敵の前であるのに……奪われた力を戻そうという体の動きが、その感情に阻害されている……。
「ふぁ……ふぅ……んん……」
乳の放出の余韻に浸っているのか、悪魔はゆっくりと乳を揉みしだきつつ、出しきれなかった乳をとろとろと絞り出している。豊満な乳房から、既に剣を体に納めた股間へと、母乳は白き道を描いていく……。
「……ぇほっ……こほっ……」
たった一撃、それも乳の噴射と言う馬鹿げた手段だけで、彼は押し返されてしまった。それだけでなく、反撃するための力すら殆ど残りはしなかったのだ。
咳き込み噎せながら、弱々しい視線を投げ掛ける隊長。既に武器は悪魔の体の中に呑まれてしまった。現在の状況的に逃げ出すことも出来ないだろう彼に、悪魔は何処か熱の篭った視線を投げ掛けている。……何を期待しているのか。
「……ふふふ……中々狙いは良かったわよ……私のお〇〇こ……そこは他の場所と比べてとっても傷付きやすいんだからぁ……♪」
熱に浮かされたような声で、悪魔は自身の秘部に指を当て、スッと拡げていく。その場所から立ち上る雌の濃厚な芳香が、隊長の心をぐらつかせる。心は体と連動する。弱った体で支えられる精神の上限量は、時と共に逓減していく……。
それでも必死で精神を保とうとする隊長を嘲笑うかのように、悪魔の発する淫気は彼の心を蝕み、体に疼きをも与えていく……。
「……あらあら……そんなに見詰めちゃって……やぁねぇ♪天下の聖騎士ともあろうお方が、こんな婢のホトなんか熱心に見つめる物じゃないわぁ……ふふっ♪」
口ではそう呟きつつも、悪魔は、己の手で自らの巨大な秘部を拡げることを止めない。魔に囚われてしまったかのように視線を逸らすこと一つ出来ない隊長の目は、その内側でうねうねと淫らに誘い掛ける秘部の姿をはっきりとその目にしていた。幾多もの肉襞が撹拌され、押し寄せ、沈み込んでいる。その全ては今もなお垂れ流しにされている愛液によってぬらぬらと照り、ぐじゅ、じゅむと粘りけのある水音を立てている。
「……っっっ!」
何とか、入らない力を込めて舌を噛み、正気を取り戻し目を逸らした隊長は、まだぼやけている頭を無理矢理使い、現状を打ち破る手段をどうするか考え、その為に必要となるであろう武器を取り出そうと体をまさぐる。本来ならば、腰辺りに自決用にもなる短剣が刺さっていた筈である。これを抜き、態々先程悪魔が述べた弱点に、命を賭して一撃でも一矢でも報いてやる――!

――だが、ある筈の感覚がない。それどころか、肌に直に触れているような感覚すらある。何故だと視線を自らに向けると――!?

「――なぁっ!」

――いつの間にか、彼の身に付けていた服が全て溶け、地面を染める母乳の中に溶けていた。まだ溶け残る布切れが、その繊維を母乳に侵食されていく……!
それは乳にずぶ濡れになった男が気付かないほど緩慢に、遅々として……だが何の兆候も気付かせずに進んでいた。
退魔の紋が刻まれた鎧が、その下のシャツが、ズボンが、皮のベルトに挟んだ短剣の鞘が……そのどれもが乳の侵食を受けて崩れていく……今、彼が身に付けているものは、まだ溶け残らぬ布切れのみである。その布切れすら、つまみ上げた側から乳に姿を変えていった……!
「うふふ……ざぁんねん♪」
驚愕と絶望に染まる彼の表情をニヤニヤと眺める悪魔。その背後で、今までベッドの上でのたうっていただけの尻尾が、徐々に鎌首をもたげていった。
「あ……ああ……」
彼は何とか、今動く体で何とかこの危機から逃れようと試みた。圧倒的な力の格差。最早仲間を救うことなど出来はしない。それを痛感した彼は、何とかこの場から逃げ出そうと、力の入らない腕と足にむち打ち、悪魔に背を向けて逃れようとした。
「ふふ……もう遅いわよ……っ、んはぁっ!」
鋭い音を立てて、再び母乳が発射される。勢いによって倍加される質量を持った液体は、そのまま男の脇腹に命中し、男を吹き飛ばした。
まるで鉛をぶつけたかのような衝撃に、男は痛みに悶える。それだけでなく、既に肌から体に染み込んでいった魔の乳が、彼の神経を徐々に浸食していた。運動を司る神経を緩め、痛覚の電気信号を全く別の信号に変化させる。
徐々に痛みが、何処か甘美な疼きへと変化していく。祝杯と共に満たす男の'獣性'……それが徐々に体から抜けだそうと藻掻き、理性の檻をねじ曲げようとしている……!
「んふふふふっ……♪本当に、素敵よ……貴方♪」
呟く彼女の尻尾は、いよいよその姿を彼の眼前に示し、徐々に近付いていく。痛みに悶えながらも、彼はその様を視界に納める他は出来なかった。そして――!

「――んはぁぁぁぁぁぁぁんっ♪」

ぐばぁ……と、男の目の前で盛大に拡張される彼女の尻尾。その内側にはびっしりと生えた肉襞がまるでローパーの如くうねうねと動き回り、樹液を煮詰めたような香りを持つ粘液が彼の側目掛けてゆっくりと落下していく。
「く……ぐぁ……っ」
しかし、彼は動けない。動ける筈もない。先程の膣の蠕動によって力が奪われ、悪魔のミルクによって体力が奪われ、筋肉が完全に弛緩してしまったのだ。
悪魔の尻尾が垂らす粘液、それは隊長の体を地面に繋ぎ止めるのと同時に、体を覆い尽くし、神経を繋ぎ変え、自身の思うままに変化させていく効力を保持していた。
「う……ぐっ……っああっ……!」
徐々に、彼の頭を呑み込むように近付いていく彼女の尻尾。垂れ流される粘液に、彼の体は絡み取られ、身動きが出来なくなっていく。だが、それに対して何ら抵抗の行為を取ることの出来ない隊長は、与えられた刺激に対して、ただ悶えることしか出来ない!
「……ふふっ……ほぉら……♪」
身動き一つ取れない彼に対し、悪魔の尻尾はさらに内側から魔の粘液を垂らしていく。目の前に映る、あまりにも巨大な尻尾の穴。さながら唾液のように垂れ落ちる粘液……いや、これは口だ、そう彼は認識していた。無力な自分を貪るための、有機的な物体。牙のないそれが、自分を喰らおうとその身を近付けていく……。それに対して、自分は何も出来ない、いや、反撃する手段の一切を持たない……。
「……ああ……あぁぁ……」
彼の心が絶望へと沈むのと、ほぼ同時に――。

――ばぶんっ

音に知るとこのような感じであろうか。布団を被せるような、どこか優しい音を立て、彼の上半身は尻尾によってくわえ込まれていった。隊長の輪郭が、はっきりと分かる外観、それを眺めつつ、彼女は尻尾から伝わる感触に悶えていた。
「んんっ♪んぁふ……♪んんんっ♪んあ……擦れて……んぁぁん♪」
彼の体が、大きく前後に揺れている。肘まで飲み込まれた腕で何とか中から押し広げ、尻尾の拘束から脱出しようとしているのだ。しかし、力を入れているはずの腕は、全て尻尾内の柔軟性豊かな肉壁に埋もれ、広がる気配もない。芋虫のように身を捩る隊長。その様子も、はっきりと尻尾の表面に浮き出ていく。
ぐむり、ぐむりと体全体を浸食するように、彼女の尻尾は男の体をさらに深く内側に収めていく。まるでナメクジが這い進むように、腕を覆い隠していく尻尾。腕と尻尾の隙間からは、彼女の分泌する淫液が溢れ、彼の体を汚し蹂躙していく。
苦しそうにもがく、尻尾の中の彼。恐らく分泌される淫液に呼吸を塞がれ、一瞬咳き込んだからだろう。縮こまるように体を動かした瞬間、彼の腕は、手まで一気に飲み込まれてしまった。こうなってしまっては、殆ど抵抗の手段がないも同然であった。
「んあぁあああっ♪んんっ♪んぁぁ……ふぅ♪」
咳き込む衝動と体に走るむず痒い快感に身を震わせながらも、生命の危機感と本能的な嫌悪感から、隊長は腕を伸ばし、足をばたつかせて尻尾からの脱出を図ろうとしていた。だが、伸ばした腕は全て肉壁に飲み込まれ、無数の舌状のものに舐め擽られ、奥や襞から次々と湧き出すねっとりした淫液が、彼の体に塗りつけられ、表皮を薄め、痛覚を緩め、快楽神経を増強しようと皮膚の中に浸蝕していく……。
悪魔は自らの尻尾の内から感じる何とも言えない衝撃に身を震わせ、知らず腕を自らの股間に伸ばしていた。ぼこり、ぼこんとまるで小動物を放り込んだずた袋のように様々に形を変えていく尻尾の先端。そこから伝わる――隊長の持っていた良質な精気。
彼が抜け出そうともがけばもがくほど、彼女の尻尾の内側に無数に存在する、まるで磯巾着の触手のように絡み付く肉襞によって、皮膚の外から精気を吸収されていくのだ。
吸収された分の精気は、彼の知らぬ内に、精気に擬態された淫気を流し込まれ、彼の体を少しずつ魔に染め上げていく……。
彼の持つ十字架は、その膨大な淫気に耐えきれずに鎖を割り、無数の肉の舌と繊毛に運ばれて、最早足先だけが触れている外気に満ちた空間へと落とされていった。ちゃりん、と軽い音を立てたそれは、悪魔の粘液が当たる度に熱を放ち、瞬く間に溶かしていく。
だが、落ちたことにも気付かない彼は、ただ両手両足を動かし、このぬちゃぬちゃ、ぬとぬと、ぬるぬると気色の悪い効果音で満たされた空間から抜け出さんと、殆ど効果の無くなってしまった抵抗を続けている。最早効果など関係なく、本能の問題と化していた。
「んぁあっ♪もっとぉっ♪もっとふかくぅっ♪あっ♪あふぁっ♪いいのっ♪そのフィストいいのぉぉっ♪」
本能に任せて、脳の命じるままに手を秘所に沿わし、指を幽かに開いた股間の鮑に突き入れていく悪魔。もこ、もこというお腹の動きも、それと連動するかのように速度を上げていく……。
恐らく彼女の精神的な高揚が、彼らの消化速度を上げているのかもしれない。痛みにのたうち回っているのかは判断に苦しむところだが……。
「んぁああっ♪気持ちいいでしょぉっ♪もっとよがって♪もっと動いてぇ♪もっときもちよくしてあげるからぁぁぁっ♪」
ぐもり、ぐむりと本来であればあり得ないような動きをする腹に、彼女は嬌声をあげ体をくねらせた。まるで腹の中で蛇がのたうっているかのように、ぼこりと膨らんでは萎み、また別の場所が一気に膨らんではまた萎んでいく。
「んああぁあはぁああああんっ……♪」
尻尾の先端は、まるで咀嚼するようにぐにゅり、ぐにゅりと膨張と収縮を繰り返し、彼の体をもみ崩している。既に生まれたままの姿へと剥かれた彼の体に、生きた肉布団が生暖かい感触と共に密着と剥離を繰り返していた。
粘液の影響か、彼の体は只触れられるだけでも過敏に反応し、思うような体の動きが出来なくなっていた。密着する際の圧力、それすら本来は気持ち悪さのみを伝えるはずなのに、今ではそれよりも快感の方が――強い。
「んぁあっ♪んんっっ♪そうっ♪ふふっ♪そうよぉっ♪もだえてぇっ♪もっとぉ……わたしのなかでもだえてぇぇぇっ♪」
ぐるり、と尻尾が上を向く。途端、隊長は自らの体の重さで尻尾の中へと沈み込んでいった。視界が完全に奪われ、潤滑性と粘性を併せ持つ液体を浴びせられ、媚香を嗅がされ続けた彼はだったが、足先に触れた肉の感触から、ついに全身を飲み込まれてしまったことを知ってしまった。
生存本能の暴走。兎に角この密着空間から出ようと体を目盲滅法に動かす隊長。刺激を与えれば反応するだろうと言わんばかりのその行為は、しかし逆に彼の寿命を確実に縮めていた。
ずるり、と体が重力に逆らえず、肉襞に擦り付けられながら奥へ奥へと落下していく度に、彼の体を耐え難い快楽が襲っていく。
「――ひぁあああっ!」
人と人との抱擁では、少なくとも実現することすら出来ないような全身抱擁を、常に彼は受けている状態であった。尻たぶを揉み込みながら菊門に襞を沿わせ、粘液を塗り込んでいく肉壁。神経を剥き出しにされたような皮膚全体に優しくキスを交わすように、柔らかな弾力が無数に押し付けられ、まるで吸盤が吸い上げるように、張り付いては皮膚を引っ張りつつ離れていく。
少しでも腕を動かせば、そこは生きた拘束器具同然に絡み付いてくる肉襞の集合体だ。爪の中、手相、指の間の皺から肘の皺まで、ありとあらゆるところを舐め擽り、まるで百匹の蛞蝓を腕全体に這わせ、蠢かせ、絡ませているような、異様な感覚を彼に与えていく。
そしてそうした責めが行われながらも、尻尾全体としてはぐむんぐむんと膨張と収縮、そして蠕動運動が行われ、彼の体を少しずつ奥へ奥へと飲み込んでいく……。
「んふぁぁぁっ……♪んぁああぁぁっ……♪んふふ……♪♪彼の精……とぉってもおいしいわぁ……ふふ……♪」
尻尾に頬擦りしつつ、悪魔は巨大な腹部を撫でて微笑んでいた。玉のような汗が張りのある皮膚の上に浮かんでは流れ、石畳の上に落ちては気化し、薔薇のような芳しい香りを放っている。
尻尾全体で、彼を『味わって』いるのだろう。それも念入りに解し、揉み込むことで、彼の精を味わい尽くそうとしているのだ。
彼女の腹が、徐々にその大きさを小さくしていく。もこもこと蠢く様も、それに合わせて穏やかになっていった。舌をぺろりとさせつつ腹を撫で、目を細める悪魔。腹にいた兵士たちの味を反芻しているのだろうか。
ぐにゅん……ぐむゅん……。尻尾は徐々に蠕動を早めていく。人一人を丸呑みした大きさのまま、彼女の尻尾の付け根に向けて、その膨らみを近づけていった。
多方向からの、特に股間に対する執拗な愛撫、催淫効果の塊である粘液に内側から外側から染み込ませ染め上げられ、快楽の受容限界値を既に遙か超えた彼の逸物は、己の精を大量に含んだスペルマを無意識で漏らしていた。止めることも出来ず放たれるそれを、まるで磯巾着の触手のように揺れる肉襞の集合体は、触れたそばから吸収していった。それにも何らリアクションをとれる筈もない隊長。ただ中に中に、蠕動運動に従い呑まれていくだけであった。
次第に、意識まで奪われていくような、そんな妙な重苦しい感覚を受けつつあった男。それは尻尾によって与えられる快楽が増える度に、尻尾内に放つスペルマが量を増す度に、彼の体は力を無くし、いつしか自重で潰れてしまうのではないかと思うほどに重さを感じるようになっていた。
呼吸こそ出来るが、その呼吸という行為自体がとても重苦しいものであると感じるようになった彼の体は、既に生存本能が事切れてしまったかのように、動きが止まってしまっていた。
動きを止めた彼に対し、不思議と尻尾の蠢きは優しさを覚えるような感触を彼に与えていた。太陽の光をふんだんに吸い込んだ毛布で優しくくるみ、全身を拭いているかのように彼の体にまとわりつき、優しく愛撫と抱擁を繰り返している。
空気を吸おうと開いた口には、いつの間にか奥から伸びた触手が鼻も含めて入り込み、どろりとした甘い液体を空気と同時に提供している。管がどくりどくりと蠢き、甘いペースト状の物体を流し込む度に、彼の体はびくびくと跳ねる。だが、栄養を与えられても、彼の両腕両足は、動く気配がなかった。
「……うふふ……♪そのまま……そのまま奥にいらっしゃい……♪美味しいでしょお……♪とぉっても……美味しいでしょ……♪」
すっかり元の大きさに戻ったお腹をそっと擦りながら、彼女は尻尾の膨らみを眺め、もう片方の手ですっ、と撫でた。……心なしか、その膨らみは最初と比べると、一回り小さくなっているような気さえした。
「……ふふふ……さぁ……私の中へおいでなさい……♪貴方のことを……私がはらんであげるから♪」
下腹部を、ゆっくりと撫でる悪魔。これから起こることを想像するだけで、既に股間からは大量の愛液が溢れ出し、中くらいの水溜まりをベッドの側に作り出していた。
次第に、既に動かない彼の体が、尻尾の付け根へとゆっくり、移動していく。その緩やかな刺激が、彼女に暖かな波動となって伝わり、胸からは母乳が漏れ出していた。
既に彼の体は、抵抗するための力すら奪われてしまっていた。まずは五感の一切を快楽神経に置き代えられ、その上でゆっくり、筋肉などが融解させられていったのだ。人の体を辛うじて保っていたが、既に本来の面影が見る影もなくなっている。
ぐむゅり、ぎゅむん……
徐々に根元に近づいていく尻尾の膨らみ。尾てい骨から伸びたそれは、根元の部分だけ初めから幽かに広がっており、捕らえた獲物が体の中に入るのを手助けしている。
もしも彼にまともな視覚が現状残っていたならば、彼を待ちきれないかのようにくぱくぱと動き、朱色と青色の筋が入った薄桃色の肉に囲まれた空間をそれとなく見せる、肉の穴を目にしていただろう。だが目にしたとして、彼が最早まともな思考を持っていたとは思えないのだった。
――ぐりゅむ……
「――んんぅっ……♪」
いよいよ、尻尾が彼の体を体内にまで押し出し始めた。尻尾が脈打つ度に、彼の体が彼女の体の中に消えてゆく。尻の辺りに出来た幽かな膨らみが、徐々にその大きさを増していく。
「……んぁあぁ……きて……そう、そのままきて……♪」
巨大な悪魔は、尾てい骨辺りに走る快感に悶えつつも、お腹の、先程まで膨らんでいた場所よりも心なし下の部分を、愛しそうにゆっくり撫でていた。
……ぐにゅる……ぐにゅん……
さらに押し出されると、尻の辺りの膨らみは減っていく。代わりに、撫でている箇所が、もこり、もこりと徐々に大きくなっていく。幽かに開いた尻尾の先端から、ほんの少しだけ、粘液が空気と攪拌される音が響いていた。同時に、何か布状の物がずるり、ずるりと擦れる音が聞こえると――。

――じゅるる……ぐぽっ
「――んっ……んあふぁぁっ♪」

隊長だった者の全身は、巨大な悪魔の体内へと呑み込まれていった。そのまま、彼の体は深く、深く沈んでいく……。



……くちゅ、ぴちゃ……ちゅく……ちゅむ……。
「――っ、――っ……っ!」
彼が再び意識を取り戻したのは、股間に加えられた得体の知れない感覚が原因だった。意識の覚醒と同時に、自らの股間に何が起こっているのか視界が開け――!

「んむんんっ……んぢゅ……んんむんっ……♪」

股間にそそり立つ愚息をしゃぶるのは、ある種危険さを感じさせる程整った美しさを持つ女性……だが、その顔に自分は何となく見覚えがあるような気がした。いつもその顔を見ていたような――だが、その思考が検索作業を終える前に、彼は驚愕と屈服の叫びをあげていた。
逸物に貪りつく彼女、その手が陰嚢を優しく揉み崩し、その舌が突如口内で形を変え、鈴口から尿道までを一気に貫いてきたのだ!
「ぎぁぅっ、ぎひぅ!ぷぁぁぁぁぁっ!」
彼の全身がびくりびくりと震え、その細い発射口から己の生命をびゅぐりびゅぐりと絞り出していく。それを目を細め、艶めかしい表情を浮かべて飲み干していく女の頭には、山羊のような二本の角、そして艶めかしい曲線を描く背中のラインの先には、尾てい骨の辺りから飛び出ている尻尾があった。
さらに視界が開けるにつれ、男は己の居る空間の異様さをさらに認識する事となった。淫靡な雰囲気を持つ桃色の光は、仄かな酸味の混ざる、マシュマロパフに薔薇の香料をまぶしたような甘さを持つ気体を照らし出している。生温い風が吹き抜ける空間、そのタイミングと合わせて、景色が動いているようにすら見える。
いや、隊長だった男が横たわっている床がその動きに合わせ、膨張と収縮を繰り返していく!辺りの全てが膨らみ、収縮すると同時に、青紫と桃色が混ざったような気体が空間に吐き出されていく……。
そもそも、その床や、辺りを覆う――視界全体を満たす光景は、先程まで呑まれていた肉襞の塊であった。ぼゆんぼゆんと音がしそうな程鈍い弾力性に、体の奥底まで沈んでしまうのではないかと思えるほどの柔軟性を持つ、桃色の肉……。
悪魔に呑み込まれたことは確実である。問題は、此処が悪魔のどの部位であるのか、そして――目の前で、精の美味さに歓喜の表情を浮かべながら体をくねらせる悪魔……彼女は、一体何なのだろう、ということ。
「……んふふ……♪」
蕩けきった笑みを彼に向けながら、体にしなを作りつつ彼の顔に顔を迫らせていく悪魔。押し戻そうにも、彼の腕は彼女の太股によって押さえられ、ろくに動かすことも出来ない。全身に上手く力が入らないのだ。
彼が無抵抗となったこの状況で、悪魔は優々と顔を近付けていく。不思議なことに、彼女をはねのけようなどと言う気持ちは、彼の中に起こらなかった。為すがままにされても良い……そう頭が認識しているようだった。逃げられないが、逃げなければならない……体と心、深層心理のジレンマを抱く彼に、彼の認識に何かが引っかかる悪魔は……首筋に舌を這わせつつ、耳元に息を吹きかけ――呟いていた。

「……気持ちよかった?貴方……いいえ、'私'♪」

「――!?」
意味が……分からない。自分が彼女であるはずがない。それは当然の事であるはずだった。だが……彼の心臓は不安か、或いは歓喜か、高らかに音を慣らし始め、背中からはじんわりと汗が滲み始めている。
何より……この得体の知れない、怖気とも悦びともつかないような感情は何なんだろうか……!自らの得体の知れない不安感に戸惑う彼に追い打ちをかけるように、耳朶を甘噛みしつつ悪魔は……嬉しさに笑いを堪えようがないといった声調でゆっくりと囁きかけた。
「……うふふ……御母様はねぇ……貴方のことを気に入ったのよ♪不利になったら一目散に逃げ出すような人間の癖してぇ……もう助からないような場所にいる仲間達のためにぃ……普通なら考えられないような的確な判断で立ち向かった……素敵じゃない♪」
さながら唄うように、隊長だった者に語りかける悪魔。その声は何処か歪んだ悦びを帯びていた。悪魔にとっては普通なのかもしれないが、人間にとっては――明らかに歪んでいる。
ますます嫌な予感を強める隊長に……彼女は唇をいやらしく舐めつつ、恍惚とした表情で艶声で答えるのだった。

「――だ・か・ら♪御母様は貴方をはらんであげようって子宮まで呑み込んだのよ♪そして……産まれるのは私よ♪」

「――!!」
つまり――あの巨大な悪魔は、自分を悪魔の娘として生まれ変わらせようとしているのか!沸々と感じていた悪寒……それは自らの存在がねじ曲げられ、消される事への本能的な恐怖――!
隊長はすぐさま逃げ出そうとした。だが、彼女の力の方が上なのか、いくら体を動かそうとしたところで、彼女をはねのけることは出来なかった。それどころか、下手をすれば体そのものが動かなくなっていた。体に力を相当量入れているはずなのに、動く量は微々たる物だったのだ。
「うふふ……♪無駄よ無駄無駄ぁ……っ♪だって貴方……もう殆ど溶かされているのよぉ……♪とかされてぇ……私の中でとけこんでぇ……♪」
未だ立ち続けている彼の逸物に向けて、彼女の股間に見えるふっくらした膨らみは、その門を再びゆっくりと開いていく。幽かに己の放った精の香りが混ざってはいたが、それすら一挙にかき消してしまうかのような、濃厚な雌の香りが彼女から放たれていく。同時にぬとり、と音がしそうな程濃度の高いラブジュースが、彼の毒松茸を蜜で彩るように垂らされていた。
既に彼の叫びは言葉になっていない。ただ闇雲に体を動かして彼女から遠ざかろうとしているのみだ。だが彼女はそれを許さない。股間の標準を彼の逸物に合わせつつ、前戯の必要もないほどじゅくじゅくに濡れたそれに――彼の逸物を招き入れた!

ぐ……じゅぶぅぅぅぅぅっ!
びゅるぅっ!びゅるるるるるびゅぐびゅるぅぅぅびゅぅぅぅぅっ!

「んあぁあああああっ♪でてるぅっ♪でてるよぉぉぉっ♪あなたがわたしのなかにぃぃっ♪んっ♪んぁっ♪んぁぁあああああああっ♪」
招き入れられた逸物は、まるでスイッチが入ったように彼女の体の奥深くに向けて、大量のスペルマを吐き出していた!まるで体を内側から削り出しているかのような、痛覚の混ざる快楽に男はただのたうち回りながら叫ぶことしかできない!
肥大化したマラを受け入れた彼女の膣は、まるで粘液が肉を形成しているのではないかと思えるほどに柔らかくねっとりとしており、それが渦巻くように彼の逸物にむしゃぶりつき、全体に隈無く刺激を与えていく。艶やかな曲線を描く腰が、彼の体に執拗に打ち付けられ、根元は愚か、下に垂れ下がる袋まで呑み込んでしまうように思えた。
「もっとぉぉぉっ♪もっとだしてぇぇぇぇぇっ♪」
まるで朝顔の蔦のように肌色の肉の棒全体に巻き付き、雁を擦り、裏筋に沿って這わせ、亀頭を舐め、鈴口をつつく……多様な責めを味わいながら、彼の局所的に肥大化した欲望は、そのまま脈打ち内部に――それこそ体の中に詰まった精液を、全て彼女に捧げてしまおうとしていた。
止めることも出来ず、ただ脳内で巻き起こる花火に翻弄され、意味もない叫び声を挙げながらびくびくと体を震わせる男……何故精液が止まらないのか、理解する頭は、最早彼の意識の中にない。あるのは、ただ生存本能に主導権を握られた精神だけ……当然である。彼の精神は、既にに精液へと変わった肉体ごと彼女の中にあるのだから。
「んぁあっ、んぁ、あぁあ、ああああああああっ♪」
叩きつけられるように流れ込む大量の精液。それがエナジーに変換され、体内を一挙に駆け巡る――その圧倒的な快感に、彼女は一気にアクメを迎えた。たまっているはずの精液は一滴も逆流することなく、ただ彼女の尋常でなくねっとりとした愛液だけが彼の体に塗り広げられていく……。
――びゅるるるるぅぅぅ……ぴゅるっ……とくっ……とくっ……
彼女の絶頂と連動するかのように、彼の逸物も精を吐き出すのを止めた。残るのは……異様な虚脱感と恐怖心、そして……幽かな期待であった。
愛液に染み込ませた彼女の心が、彼の心理に影響を与えたらしい。心理の変化に気付く事なく、彼はただ彼女を見つめていた。既に全身は力が抜けきって動かない。彼女はそんな彼を見て、いよいよ笑みを深めた。そして彼の……何処か折れそうな足を、そのまま自身の股間にあてがった。既に期待に打ち震え、愛蜜をこんこんと流し続ける女の花は、今や掌すら飲み込めるくらいに広がり――!

――ぐじゅぶぅぅぅぅぅぅっ!
「――!!!!!!」

「――んああああああああぁぁぁぁぁんっ♪」
ついに、彼の体が彼女の中に取り込まれようとする時が来てしまった!先程の強引な性交によって体力すらも奪われた男は、抵抗すら出来ずに太股まで一気に呑み込まれてしまう!
彼の生存本能が狂ったような悲鳴をあげながら、体を目盲滅法に動かして暴れる!だがいくら暴れども、彼にはもう殆ど力がない。精々肉壁に足をめり込ませ、皮膚を拡張し隆起させるだけだ。
「ふぁぅああっ……♪ふぁぁ……もっと……入って……入ってくるわぁぁっ……♪」
ぐにゅり、と熟れた果実のような柔らかさとビニールのボールのような弾力性を併せ持つ内襞が蠢く度に、隊長だった男は彼女の胎内へと招かれていく。断続的な蠕動運動が、徐々に、彼の姿を小さくしていく……。
「んふふ……こんなに暴れちゃって……あんっ♪」
最早言語の体を為していない叫び声を挙げながら暴れる隊長だったが、その動きこそが彼のなけなしの体力を削り、同時に自ら胎内へと体を進めていく行為であるとは気付かない。
――いや、そもそも既に逃げ場など彼には存在しないのだが。
そんな彼の様子を、愛しげに眺めながら、彼女はその手で、最早両腕まで体の中に入り込んだ男の頭を撫でる。
「あぁん♪あはぁんっ♪し……子宮……蹴っちゃ……感じちゃうよぉっ♪」
いつの間にか、彼の両足は子宮に突っ込んでしまっていた。最早彼女の股間から覗くのは、彼の頭だけとなってしまった。その表情は……恐怖もあったが、快楽にふやけているようにも見えた。
無理もないだろう。彼の体全体にはスポンジのように沈む肉絨毯が密着し、百本の舌が飴を舐めるが如く蠢いているのだから。
最早彼が彼女に触れていないのは、外に出ている顔だけの状態だ。その顔すら――!

「――んはぁぁぁぁぁぁあああんっっっっ♪」

ぐぶっ……っぽ……ん、と鈍い音を立てて、彼女の中に呑み込まれていった……。中に入ってからも、もごりもごりと腹は動き続けていたが、その動きが収まるのも時間の問題だろう。
もしもこの空間に別の人物がいたとしたら、そこでは何かが刺さる音と共に、どくりどくりと彼女の腹の表面が幽かに脈打つ様が見えただろう。それがすぐさま収まる様子も……。
「んふふ……お帰り♪」
静寂。後に残るのは、腹の異常に膨らんだ――彼を模したような女淫魔が一人。幸せそうな笑みを浮かべながら腹を撫でるその様は、まるで子を待ち望む母親のそれであった……。



十字軍の侵攻は、当時の教会権力の象徴であり、また、当時の協会権力の衰退の象徴でもあった。
第一回に於いては勇猛にも聖地を奪還した彼らだが、すぐさまに聖地を追われ、二回目は独仏の仲違いで終えた。
三回目に十字軍は絶頂期を向かえ、当時の西欧の最高戦力が東進したが、英と仏の仲違い、調停役の独の国王の死亡により仏は帰国。唯一残った英は単身東の英雄と戦ったが、最終的に失敗。以降、十字軍の教会的権威は下落することになる。

また、その過程に於いて、宗教騎士団、ヨハネ騎士団、少年十字軍、テンプル騎士団等と様々な騎士団が組織された。彼らは己に課された宿命のままに聖地守護、傷病者の救護等に当たったが、中には宿命を果たせずにその生を終える者もあった。
志半ばで帰郷した者はまだいい。船の難破、奴隷として売買、国家による岸の弾圧など、神が下したにしてはあまりにも酷過ぎる運命に準じた者達もいたのだ。

だが……その苦難は明らかになるだけ、未だマシだと言えるだろう。



「――んんんっ……んはぁうぅ……んふぁ……♪」
――闇の中、ベッドに腰掛けながら、だらしなく両足を広げる一人の巨大な女淫魔がいた。魅惑的で肉感豊かなプロポーションを持っていた彼女だが、その腹は通常に比べて遥かに膨れ上がっていた。
薄い光の中で頬を紅潮させたまま荒い息を吐く淫魔は、盛んに股間に擦り付けていた、愛液にまみれた右手で、膨れた腹を撫でる。腹はその愛撫に反応したかのように、ぴくん、ぴくんと細かく震えていた。
「……ふふふ……っ、もうすぐ、もうすぐだねぇ……セイドちゃん……♪」
既に中で親が得た数々の栄養を受け、すくすくと育った彼女の子供に名前をつける淫魔。その表情に人間の親との差は何ら存在しなかった。
ただ、外に産声を聞かせる時間を、悦ばしげに眺めるだけ……。
「……ふふふ……ほぉら、ママはここですよぉ……♪」
開きつつある秘唇、それに再び指を這わせつつ、左右に開くように指を動かした淫魔。その声にあわせて、腹の膨らみは下に下に降りていく。
「んっっ……んぁぁぅ……んふぁぁ……♪」
痛みはさほど無いのか、或いはそれらは全て快楽なのかさして鋭い嬌声をあげることも無く、淫魔は己の命を分け与えた赤子を外の世界へと送り出していく。脈打つ心臓の音は時と共に大きくなり、やがて二つになった。
既に彼女の両胸は白濁した蜜を垂れ流し、ベッドに甘い湖を作っている。
徐々に、彼女の秘唇は指で拡げるまでもなくその口を大きく開け、体を抜け出そうとする子供に向けて明確な出口を作り出している。そして、中にいた子供は――その指示に従った!
プシュッ、と音を立てて羊水らしきものが漏れ出す秘唇。それに来る瞬間が来たと感じた彼女は――思い切り息んだ!

「――んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ……♪」

――ずるぅぅ……っ
まるで子宮が裏返しになるような音を立てながら、一人の――成人男性ほどの大きさの、背中に羽根を持ち、尾てい骨からは尻尾が生えた、二本の角を持つ赤ん坊がこの世界に生れ落ちた。
彼女と形は似つつも、仄かに『隊長』と呼ばれていた男の面影を持つ赤ん坊は、初めて感じる外の空気に驚きつつも、すぐ側に感じる暖かな気配に安らぎを覚えているのか、大声で泣き出すことは無かった。
そんな赤ん坊を、彼女はやさしく抱き上げつつ、臍を繋ぐ管をそっと切り落とすと、自身の豊満な胸から漏れ出す母乳を赤ん坊に与え始めた。
赤ん坊は、ぷっくりと膨らむ乳首を咥えると、与えられるがままにそれを飲み始めた。次第に赤ん坊の髪は伸び、体つきもゆっくりと成長していく……。

「……ぷは……♪」
――赤ん坊が乳首から口を離した時、そこに居たのは既に赤ん坊ではなく、外見年齢は六歳ぐらいの少女となっていた。
既に羽根は人を何人も包み込めるほどに成長し、尻尾も母親のそれ……とまではいかないにしろ、長くしなやかなものになっていた。そして角も、禍々しさの中にどこか優美なものが感じられるものになっていた。
親の体の中で、嘗ての部下たちの栄養を受けて育った”彼女”は……母親に向けて、何かを強請るような目つきで耳元で呟いていた……。


――この後、欧州には黒死病が流行した。次々に人々が死ぬ中で、しかし死体が一部無くなっていた事に気付いた人は居ただろうか。
死体が勝手に動いて、どこかへ消えていった……そのような噂が当時出回っていたらしいが、詳細は定かではない。


fin.




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