――“夢を叶える龍”という伝説がある。
その血を体に受け入れれば、忽ちのうちに実力を伸ばし、常人では有り得ないほどに活躍するという。古代帝国において、龍の血を得ることは軍人及び上流階級の者のみであり、最大の名誉であった。
だが、少数精鋭を誇っていた帝国は、数において圧倒の差があった王国によって敗北し、龍の血を受けた者は絶滅した。今際のときに龍族の姿へと変化した彼らを目にした王国は、彼らをこのように変えた龍族を敵と認識し、討伐隊を差し向けた。 いや、四散したのは討伐隊だけでなく、嘗ての仲間であり、親子であり、同族でもあった龍達の死体もまた、同じ運命を辿っていた。
底知れぬ寂しさは、龍の魂に深く、深く刻み込まれ、本能の一つを変化させた。

――仲間を、同族を増やし、共に過ごす事を至上の喜びとする、というように。

「ねえさま……」
鈴華神社の退魔師である美影が、調査中の露香山で消息を絶ったのは、ほんの数日前。定期報告が途絶え、未だ戻ってこないことから姉の身に何かあったのではないかと心配と不安を覚えた猫乃は、伝を頼り、美影救出のために自らも露香山に赴く事にした。
美影探索及び救出の手伝いをしてくれることになったのは、以前から露香山の植物生態を調べたがっていたという、フォーチュン=シュロットという薬剤師と、美影と何度か現場を一緒に担当している退魔師、小車泰音。
美影が記した地図を参考に進みつつ、未開の地域へとさしかかろうとしたとき、植物を採取していたフォーチュンが移送魔法陣のトラップに引っかかり、それを助けようと飛び出した猫乃もまた、別の移送魔法陣に引っかかってしまった。パーティがばらばらとなってしまった状態で、猫乃は心細さを覚えながらも、愛しの姉様の魔力波長を探り、この空間が不整合に繋がっている空間を、弓を構えながら進んでいく。
土の壁の洞窟、機械仕掛けの空間、高原の一角のような場所、森林……脈絡もなく移り変わる景色に惑わされる事なく、猫乃は美影の魔力を探って、トラップに警戒しながら進んでいく。明らかに色の違う床などあからさまな物や、周りの皹に紛れそうな不自然な皹に幾度か避けた先に、その洞窟はあった。
「……あれ?」
辺りに漂う水の香りに、猫乃は思わず視線を廻らせる。少なくとも周辺に水場といえるようなものはなく、あるとすればこの洞窟の中だろう事は容易に想像が付いた。しかし、洞窟の中の水場といえば大抵が地底湖である。現地点からさらに奥深くにあるであろうと予測されるが、それにしても水の香りが濃い。常識の通じないこの洞窟である。もしかしたら、すぐ近くに水場があるのかもしれない……。
「……よし」
一瞬の逡巡の後、猫乃は中に足を踏み入れることを決意した。


「わ……ぁ……」
踏み入れた洞窟は、そのまま地底湖を地上に持ってきたような幻想的な風景であった。水晶が混じった岩場は、何らかの魔力が働いているのか青く淡く光り、白いコスモスのような地底花を淡く照らしている。その影が、まるで鏡のように水面に映っているのだ。
水面が映すのはそれだけではない。洞窟の天井にある輝石の放つ光。それはさながら自然が生み出したプラネタリウム。単調な光と光をつなぎ合わせて作り出す神話や物語を、湖は地上に映し出していた。
と……その光が歪む。水面に波が立ったのかと猫乃が認識したのと同時に、猫乃の耳が捉えた、幽かな音。
ちゃぷ、ぴちゃ、ぴちゃ
「……?」
水音?それとも魚か何かがいて跳ねたんだろうか。もしかしたら魔物がいるのかもしれない。警戒しつつ、弓に矢を乗せて、気配を探りながら猫乃は辺りを探っていく。抜き足差し足忍び足、猫の亜人故にその精度は高く、音も気配も感じさせないそれを駆使して、猫乃は音のする方に近付いていく。岩場から少しだけ顔を出して、それでも見えないことから身を乗り出して……ようやく確認できた生物は。

「……ドタ……ゴン?」


以前美影が調査資料として出していたレポートの一角に記されていた龍族。周辺の資料からドタゴンと名前を定義されたそれが、猫乃の目の前でぴちゃぴちゃと水を舐め飲んでいた。その様子は、何処か馬の子供のように思えた。無邪気に水を飲む姿は、何も危害を人身に加える気配は感じられない。実際、燈鏡に以前危害を加えたマリゴンとは違い、温厚な性質と調査資料にも書かれていたことから、猫乃は姿を見るだけで、油断してしまっていた。
不覚にも可愛いと感じてしまった猫乃の瞳と、水を飲んでふと辺りを見回したドタゴンの瞳が、合う。そのまん丸とした瞳の中に、穢れは欠片も見つけることは出来ない。魅入られてしまいそうなほど綺麗な瞳に、猫乃は一瞬我を忘れてしまっていた。
――それが、彼女にとって致命的な隙を生み出してしまう事になる。

「――ぎゃううっ♪」


まるで甘えるように、目の前のドタゴンは猫乃に向けて飛び掛る。不意を打たれたのと、ドタゴンが外見に似合わず素早く動いた事から、猫乃はその動きに反応する事が出来ず、そのまま抱き締められ、抱え込まれてしまった。柔らかな鱗と分厚い皮膚で覆われているドタゴンの体は、まるで弛んだゴムのようにぼよんとした感触を猫乃に伝えてくる。
「んっ!?んひゃぁぁっ!!」
ドタゴンは猫乃のことを気に入ったのか、猫乃の体を隅々まで舐め始めた。邪魔になる服を龍の力でいとも簡単に破きつつ、露出した肌に太い舌を這わせていく。生暖かく、何処か粘っこい人肌並みの暖かさを持つ粘液が、猫乃の体に塗りつけられていく……!
押し退けようにも、猫乃の膂力ではドタゴンの持つ質量を跳ね除ける事など出来ない。ドタゴンが全体重をかけていないのは、地面に押し付けられた体が痛みを覚えていない事からわかる。全体重をかけられていたら、まず間違いなく骨を砕かれていただろう。
「んひゃう、やぅ、や、やめ……あひゃあ!!」
だが、いくら骨を砕かれていないとはいえ、抜け出すことが出来ない現状では、猫乃はドタゴンに為すがままにされるしかない。まるで全身を洗おうとしているかのように、ドタゴンは舌を動かし、猫乃の体のあらゆる部位を舐め擽っていく。顔も含めて、猫乃の全身はドタゴンの唾液でべとべとになってしまっている。何処か生ぬるく、ぬっとりとした感触に、猫乃は嫌悪感から涙を流す事しか出来なかった。
ごろん、と仰向けに寝転がりつつ、ドタゴンは尻尾を猫乃の目の前にまで持ち上げた。自分の胴体ほどもある尻尾は、人体に叩きつけるだけで致命傷は免れないだろう。一体何をされるのだろうか、不安な面持ちで前を見つめる猫乃の前で、尻尾の先端がぷっくりと膨らんでいく。そして。
「ぎゃぉ……ぉお♪」
ドタゴンの尻尾の先端が、目の前でぐ……ぱぁ……と、糸を引きながら開いていく。避けるチーズの如く鱗と蛇腹の断面から裂けていくそこから現れたものは、尻尾をデフォルメしたような管であった。ただしその先端は窄まったような形状をしており、ドタゴンの意思次第ですぐに穴になるだろうことは、猫乃には容易に想像付いた。
うねうねと猫乃に向けて、ドタゴンは尻尾の先端をくねらせ、近付けていく。いつの間にか、尻尾の先端からはぽたり、ぽたりと得体の知れない液体が垂れ、地面に点々と染みを作っていく。それが猫乃と尻尾の距離であり、徐々にゼロに近づいていくことに、猫乃は恐怖を覚えた。これがゼロとなったとき、自分は刺し貫かれる事になる。刺し貫かれて、そこからあらゆる物を吸い出されるかもしれない……!?
「いやぁぁぁぁぁぁぁはぐっ!」
恐怖から暴れようとする猫乃を押さえ込むように、ドタゴンは両足を腰周りに絡めつつ、片方の手で猫乃の口を塞いだ。鱗によって硬化している部位が多いドタゴンには珍しく、手はふにふにと柔らかく、口をすっぽり塞いでしまえるほどであった。
叫び声も漏らせず、龍の膂力をフル活用したハグから抜け出すことも出来ないまま、じりじりと迫る尻尾を、猫乃は涙を流しながら見つめる事しか出来なかった。
恐らく、自分はこの尻尾によって命を落とすことになる。姉さまを助ける事も、家に戻ることも出来ないまま……。そう考えると、ただ涙だけがはらはらと猫乃の目からたれ落ちていく。
その涙を、ドタゴンは舌を伸ばし、ぺろぺろと舐め取っていった。まるで、子を優しくあやす母親のように、或いは娘猫の毛づくろいをする親猫のように柔らかく、暖かい舌が、猫乃の頬をぺろりと舐め擽っていく。気持ち悪い、とは猫乃は感じている。だがそれと同時に、何処か懐かしいような、暖かいような、柔らかく、優しいような、そんな心地を覚えていた……。
やがて、尻尾の先端は猫乃の臍へと着地し……ぴと……ぴと……と、まるで壊れ物を扱うかのようにその周辺を触れていく。一気に貫くものと考えていた猫乃は、戸惑いと拍子抜けが入り混じったような瞳でそれを見つめていた。尻尾がつついた部位は、何故か、何処か蕩けているような心地がした。溶かしている、というよりは解しているといった方が適切かもしれない。その猫乃の実感は、当たっていた。
「ぎゃう♪」
やがて、臍周辺をつつき終えたドタゴンの尻尾は……そのまま、自然な動作で猫乃の臍に触れると――すぷん。
「――!?……ぇ……」
自分の臍が、あっさりと尻尾を受け入れた事に、猫乃は目を見開いた。ぴとりと、口を開いた部分がお腹の皮膚に張り付いているので接触面はどうなっているのか分からないが、お腹の中で幽かに何かが動いている様子は感じられたので、先端は体内に入ったと理解できた。だが、皮膚を破いたとも考えられず、痛みもなくどうして入れる事が出来たのだろうか……猫乃は思考を働かせようとしたが、その思考に徐々にもやが掛かり始める。安らげと、脳が直に命令しているかのようだ。
とくん、とくん。尻尾から、ドタゴンの脈が伝わり始める。ぺろぺろと頬だけでなく首や肩、胸も舌で愛撫しているドタゴンの心臓の感覚が、背中とお腹、二箇所で強く、優しく、どこか暖かい生命の鼓動が猫乃の体をスピーカーにしたように奏でられ始める。いつの間にか、体内に入った尻尾の違和感は消えてしまっていた。じわじわと、ドタゴンの温もりも、猫乃に伝わってきている。猫乃は無意識に、幽かに目を細めてきていた。
「――ぎゃぁ……うっ♪」
ぐぷっ、と音を立てて、ドタゴンの尻尾の根元が大きく膨らむ。何かが尻尾の中を通っているのか、その膨らみは尻尾を内側から押し広げて、先端へと近付いていく。その間にも猫乃の臍を貫いた尻尾は、猫乃の体とまるで一体化するように癒着し、結びついていく。お腹から、得体の知れない安心感のようなものが、猫乃の中に広がっていく。恐らくは、生まれる前、ただ委ね揺られ捩れていた頃の本能的な記憶がもたらしたものだろう。
どっく、どっく。尻尾がドタゴンの心臓の音に合わせて蠕動し、膨らみを猫乃の方へと近付けていく。猫乃のお腹の辺りから、何か得体の知れない熱のようなものが近づいてきていることが感じられた。恐らく、中に含まれている物体が持つ熱が、管に開いた空間を伝ってこちらに近づいてきているのだ。

「――ぎゃぅうぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅうぅうぅぅ♪♪」
どぐっ!どるるるるるるるるるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!

尻尾の先端から、流れを押し留めていた固形の何かが猫乃の中に滑り込んできた刹那、大量の液体が猫乃の体の中に一気に雪崩れ込んできた!
「ふゃ、やふ、ぁ、ぁああああああああああああああああっ!!!」
体のキャパシティを超える量の液体が流し込まれた事により、猫乃のお腹は一気に膨れ上がる。このまま破裂するのではないかという危惧は、その思考を抱いた体によって裏切られた。液体が入れば入るほどに、それに順応するような形で猫乃の体が変化していったのだ!何処か、球を思わせるような形に。

「ふ、ぁぉ、ぉぅ、ぅ、んんんんんんんんんんんん♪」

どぐん、どぐん、どぐん。猫乃の臍から、液体状の何かが雪崩れ込む様に注がれていく。まるで水道の蛇口をひねったかのような勢いで注がれるそれは、瞬く間に猫乃の体を肥大化させ、体の形状を変化させていく。まるで水風船に水が入れられていくように、猫乃の体が球体へと近付いていくのだ。内側から来る圧迫感から、声も出せず目を見開く猫乃。その体の中で、最初に入れられた固形物が、体の中を自在に動き回りながら心臓へと迫り、接触し――侵食していく。
自らの体が得体の知れない物へと変化していく事に、猫乃は恐怖を覚えていた。だが、その恐怖も、決壊したダムから放出される水の如く流れ込んでいく液体がもたらす、何処か破壊的な快感により、心の奥底へと追いやられ、それすらも快楽によって中和され、霧散されていく。
「ぎゃう♪ぎゃおー♪」
尻尾から何かを注ぎ込みながら、ドタゴンは猫乃の体を少しずつ舐め擽っていく。膨れ上がった体は既に服を破き、白に染まりつつある自身の肌を露出させていく。まだ凹凸が見られるそれを研磨し、また糊塗するかのように、何度も舌を這わせていくドタゴン。
猫乃の中では、尻尾から入れられた固形物が、猫乃の心臓とついに触れ合った。びくり、と意識化で背を反らす猫乃に構わず、それは触れた箇所から溶け合い、一体化していく。
声にならない声をあげる猫乃の口から、白く甘ったるい香りのする液体が溢れ出す。どうやら体の中は既にそれで満たされてしまい、なおも膨張する体の速度に間に合わなかった分が漏れ出てしまったらしい。口から溢れたそれは、球体に近づきつつある猫乃の表面を濡らし、凹凸が目立つ表面を綺麗な球体へと近付けていく。注がれる感覚と、吐き出す感覚。注入と排泄、二つの相反する快楽を同時に得た猫乃の瞳は、既に光を失いかかっていた。いや、光だけではない。その色彩もまた、吐き出す液体の如く白に変化していった。
融合された心臓は、彼女に与える身体的な痛みを全て吸収し、夏の風そよぐ木陰を思わせるようなまどろみを誘う感情を呼び起こした。思考が既に止まった猫乃は、それに抗う事も出来ず、ただ体の為すがままに意識を落としていく……。
「(……ぁ……♪)」
全てが白に染まる前、ドタゴンによって丁寧に横たえられた猫乃の瞳が目にしたものは、彼女と同じように、白く真ん丸な球体へと変化した、見覚えのあるウェーブヘアーの……。

猫乃の意識は、ここで一度途切れた。

「……ぎゃう……♪」
ドタゴンは、今、とても幸せな時を過ごしていた。仲間を、家族を奪われてから幾年、ずっと孤独のうちに過ごしてきた彼女に、ようやく娘が出来、その娘が孫を作ってきたのだ。
まどろんだ様な表情を浮かべながら、ドタゴンは自身のお腹の上で眠る娘を撫でつつ、住処に転がる三つの球体を見る。そこには、白色の球体――卵が三つ、整然と転がっていた。
と……?その卵に、次第に模様が浮き出始める。しかも、それぞれ全く別の模様だ。猫の肉球を思わせるもの、音符を思わせるもの、フラスコを思わせるもの……。
「……がぉぅ……♪」
ドタゴンは理解した。これが孫達の才能であると。娘の卵が退魔の才能を示す錫杖の模様であったように、彼女らもまた独自の才能を持つ。それが娘によって引き上げられたということ……それに、ドタゴンは途方もない喜びを覚え、鳴き声を漏らした。
嘗ての自分はどうして、このことに喜びを感じなかったのだろうか。彼女は思い出せないし、恐らく思い出すつもりもないだろう。今はただ、現在の幸せと将来の幸せを思い、娘と共にまどろむだけ。
娘の卵が、孵るまで。

「(……んぁ……?)」
猫乃の意識が戻ったとき、彼女が目にしたのは不思議な空間だった。床もなく、天上もなく、ただクリーム色と桃色が混在するスモークに覆われた空間。そこに猫乃はいたのだ。どうして自分がこのような場所にいるのか、猫乃は思い出そうと意識を覚醒させ、辺りを見渡すと――!

『やっと目覚めたんやな、猫乃……♪』

「!姉さま!」
確認するが早いか、猫乃は美影に向けて駆け出して、飛びついていた。何故かお互いが裸である事は、意識の中に存在しなかった。
『えらい心配かけたなぁ。でも、もう大丈夫やで……猫乃♪』
ぎゅっ、と美影は、猫乃の体を抱きしめる。暖かな肌と肌が触れ合う感触に、猫乃は目を細め、安心感からか涙を一滴こぼしていった。お互いの肌と肌が、隙間をどこまでも埋めるように密着していく。それは単なる姉妹の愛情にしては、いささか過剰であるようにも見えた。
「ねえ……さま……あ、あれ……?」
違和感。何故だろうか、普段どおり、美影のことを呼んだだけなのに。それがどうしようもなく不似合いなように感じられる。もう一度声に出そうとして……やはり何処か心の中に抵抗を感じていた。どうしてなんだろうか……その思考が、美影の体から漂う、何処か甘く芳しい香りによって乱されていく。
どくん、どくん、どくん……。
「んぁっ……」
突然、猫乃のお腹の辺りから、湯たんぽを抱いたときのような暖かな感触が、じわりと広がっていく。まるでバターが溶けていくように、その温もりは全身へと、安らぎを伴って満たしていった。その過程で下を見た猫乃は、違和感の正体を理解し、受け入れる事となった。
猫乃の臍に、柔らかくふにふにした管がくっついている。それはとくとくと脈打ちながら蠕動し、猫乃の中に何かを届け、何かを送り出しているようだ。その管が行き着く場所は……『美影』の秘所。秘所から飛び出した管が、猫乃と繋がっている。
『猫乃……ウチの可愛い娘……』
「ねえ……かあ……さ……ま……」
『美影』の背中から、大きな翼が飛び出し、ゆっくりと二人を包んでいく。その翼の形状が、深淵翼とは似ても似つかぬ形状であることにも気づかず、猫乃はその中で、徐々にその体を縮めていく……。
『もう、離さへんし、放ったりせぇへん。ずっと……ずっと一緒や……♪』
「かぁ……さ……ま……♪」
猫乃の体が、『美影』の秘所に近付いていく。その頃には猫乃の体は、既に成人男性の指二本ほどの大きさになっていた。くぱぁ、と開く美影の秘所からは、何処か懐かしく、甘い香りの漂う白い液体がとろとろと流れ落ち、中へおいでと誘いかけている。
――ちゅ……ぢゅっ。
「ぁ……♪」
猫乃の両足が、『美影』の秘所に触れると、そのまま一気に、猫乃の体が胸辺りまで一気に飲み込まれていった。陰唇から子宮に至るまでの道をびっしりと覆う無数の肉襞が粘液を纏いながら、まるで産着を着せるように猫乃の体に優しい抱擁を行なっている。
自らの体内に猫乃を受け入れながら……『美影』は、指の腹を唇につけると、それを猫乃の顔に近づけた。猫乃は、ぼやけた瞳でそれを眺めながら……唇をその指の腹につけた。愛情の篭った間接キスが終わりを告げ、『美影』は、母性豊かな笑みを猫乃に向けた。

『ふふ……お休み、猫乃……♪』

――じゅぷん
白い液体を噴出しながら、『美影』の秘所は猫乃の頭を呑み込み、全身を体内に納めた。同時に、『美影』の背中から飛び出したドタゴンの翼が巨大化し、『美影』の全身を包み、白色になって硬化していく。変幻自在に形を変えていくそれは、瞬く間に『美影』を、凹凸のある白い球体に変化させてしまった。
その中で『美影』の体は膨張と変化を繰り返し……猫乃を匿い、育てるための羊水と、堅牢な殻に変化した。今空間の中にあるものは、最早『美影』ではなく、一つの卵であった。

「(ふぁぁ……ぁぁぁ……♪)」
一方、猫乃は全身隈なく密着している肉襞の愛のある抱擁に、全身をくねらせながら笑顔を漏らしていた。指先までしわを伸ばすように念入りに揉み解され、首筋からアナルのラインまでを丹念に舐められ、アナルやヴァギナは汚れを落とすかのように柔らかいながらも執拗に擦り上げられていった。
時折臍の緒がとくん、とくんと脈打ち、注ぎ込む度に猫乃の体の中に解き放たれたような暖かさと形容しがたい至福の甘さが広がっていく。
何より、愛しの『母』の中に入っているという喜びが、今猫乃の心を満たし、肉襞に頬を摺り寄せ、より感触を味わうように股間をもじもじさせたり襞の一つを銜え込んだりしている。
「(んぁぁぁぅ♪)」
ずるり、ずるりと中に入っていく度に、猫乃の全身が一気に擦り上げられていく。まるで全身を一気にもみくちゃにされるようなどこか荒々しく破壊的な感触に、猫乃は全身をびくびくと痙攣させる。徐々に密着していく肉襞は、心地いい窮屈感を猫乃に与え、全身の力を抜かせ、その流れと抱擁に身を委ねていく……。
そのまま――ぷ、ぢゅんっ

「(んぁ――♪)」


……暖かな肉襞の感触から開放された先で猫乃を待ち焦がれていたのは、まるで猫乃の全てを白に染めるのではないかと思えるほどに穢れ一つ見えない、どこまでも真っ白な液体であった。液体とはいっても、その性質は何処か粘体に程近い。
猫乃がその中に沈んでいく度に、ヴァギナの筋や尻のラインに沿って幾本もの手が愛撫を重ね、姉と比べて豊満な胸をあらぬ方向にもみくちゃにしていく。その感触がたまらないほど気持ち良かったのか、猫乃は目を細めて悶える。
深く、深く。猫乃は招かれていく。中心に。猫乃がいるべき地点に。それに迷いも、躊躇も抱かせず、抱く事もなく。そして中央に招かれた猫乃は……そのまま、自分があるべき姿勢となって、意識を落としていく。膝を抱え、臍を中心にして丸まり、眠りについて……。


「ぎゃぅぅ……♪」
美影であったドタゴンの目の前で、三つの卵が深呼吸をするように脈打ち、目覚めのときを待ち望んでいる。水音以外響かない空間に、三匹の脈の音はあまりにも大きい。そしてそれだけ、待つ側の歓喜も大きい。
親ドタゴンは丁度餌を取りに出かけていた。ドラゴンに近いとはいえ、ドタゴンは殆ど肉を食べず、専ら果物を口にすることが多い。帰ってくるときには、きっと大量の果物を抱えてきているに違いない。そう考えながら、ドタゴンは孵化のときを待ち続ける。
やがて、卵に皹が入り――そして弾け飛ぶように一気に孵化した!

「ぎゃうううううっ♪」
「がおおおおおおっ♪」
「きゃうううう……?」

三者三様の産声を上げながら、次々に殻を破っていく三匹の子ドタゴンに、ドタゴンは真っ直ぐ飛び、一気に抱き締めては顔をべろんべろん舐めまくる。暖かくべとべとな何かが突如塗りつけられたことに三匹はびっくりしたが、それを行なった対象の姿を見て、漂わせる香りを嗅いで……三匹はくるると、満足そうに鳴いた。同時に、ドタゴンの顔を、同じように舐め始める。これが彼女らなりの。親愛の表現の仕方なのだ。
産まれてきてありがとう。これからは、私が目一杯愛情を注ぐね♪
ありがとうお母さん。私達は目一杯甘えるから♪
そのような意思の込められた親子の舐め合いは、親ドタゴンが孵化を見越して大量の果物を採って帰ってくるまで続いていった……。


そこから数年後……。
嘗てフォーチュンという名前を持っていた少女は、ドタゴンの力で才能を開花させた才能をフルに活用し、人化薬と変化解除薬を身近にある薬草から完成させた。これにより、魔力に頼らず人間に混ざる事が可能になったことから、ドタゴン一行は住み慣れた洞窟の中から、娘や孫娘にとっては故郷となる人間界へと移動する事にした。
元フォーチュンのドタゴンは、そのままこちらの世界と元々いた世界の二箇所で薬屋を始めた。副作用のない、或いは少ない丸薬、滋養強壮に効く漢方など幅広い品揃えと確かな効き目で徐々に売り上げを伸ばしている。ただ、販売されているミルクは飲むべきではないらしい。
泰音であったドタゴンは、人化薬と変身解除役の力、及びドタゴンの力をフルに生かして歌手としてデビュー。動画投稿サイトで評判となりそのままお茶の間に届けられるようになった。また、彼女が手を掛けたファンは何らかの才能を開花させるとして、ファンクラブでは熾烈な番号争いが繰り広げられているという。
親子関係は少々変わってしまったけれど、美影一行も元々の住処である鈴華神社へと戻っていく。美影を変えた親ドタゴンが、猫乃の娘となった沙雪に変わって頭首となり、滞っていた退魔の仕事を娘や孫、曾孫と一緒に行なうようになるのは、その数日後の事であった。腕前としては上々で、憑界を壊滅させた事も両指では数えられない程だという。
以来、鈴華神社からは、時折龍が飛び立つ姿が目撃されるらしいが……真相の程は定かではない。

Fin.





書庫へ戻る