地響きを引き起こすような断末魔と共に消えてゆく、宿敵の体。それを眺めつつ、私は今し方心臓を貫いた剣の血を拭い、鞘に収めた。
幾度切り結び、打撃を、魔法を撃ち合っただろうか。傷を魔法で塞ぎ過度の流血は避けてはいるが、震える脚に、感覚の薄い手。体が上げる悲鳴を無視し続けたのだから、この帰結は仕方ないだろう。そもそも、己の心配をすれば、その瞬間に負けて居ただろう。滅ぼした相手は、そう語るに相応しい、凶悪な存在だった。

――魔王。長きに渡り私達人間を制圧し、蹂躙してきた魔族を率いる、最上位の魔物。
虐げられてきた私達のような人間は、幾世も世代交代を重ねつつ、『勇者』を育成し、魔王を討ち魔族を放逐せしめんと力を蓄えてきた。
私もそうだ。あちこちの村や街から、支配していた魔物を討ち滅ぼして経験を積み、仲間達の犠牲もあってようやく……ようやく魔王を斬り伏せたのだ。

これで、ようやく終わる……仲間達の犠牲が徒花にならずに済んだ……。ここからようやく、人間の、人間らしい時代が始まるんだ……。

魔王の死によって、元々の形に戻った窓から、太陽の光が射し込む。その光は徐々に大きくなっていき……魔王の城を覆う暗雲が全て切れ、消えた。領地が魔の力から解放されたのだ。
それに喜びを感じながら……私は、再び剣を構えた。睨みつけた柱の側、別室に繋がっていたその場所から現れたのは――。

「あらぁ……あの人やっぱりくたばっちゃったのねぇ……♪」

「……魔王の妾か」
魔王の副官として、幾つもの村や街を制圧してきた、強大な力を持つ淫魔――それが今、私の前に、お気楽に伸びをしながら立っていた。
「ふふっ、だから言ったじゃないのぉ……圧倒的な力だけの統治じゃ、限界が来るのも早いわよぉ……って。なのにあの人ったら……ねぇ、そう思わないかしら?勇者サン♪」
仮にも魔王であった連れ合いの死を前に、さもそれも当然だという淫魔。魔神が冷血だという話も本当か。……どちらにしろ関係はないか。
「……」
「あら、いきなり冷たいのねぇ♪刃を向けるなんて……人間って冷血よねぇ♪」
「……夫の死を前に、飄々と現れて過失を詰る貴様ら魔族が言えた風情か?」
失礼ねぇ、と真意の見えない流し目を向ける淫魔。チリチリと肌を焼く魔力は本物……全快の私なら何とかなったか。いや、パーティの協力があってこそか。
「貴女達人間だって、違う信条の持ち主がその信条を抱きながら無様に死んだら、『ざまぁwww』の一つくらいは思わないのかしらぁ?」
「貴様等とは違う。死者には祈りを、魔族は別として、それが人間なら尚更だ」
哀れんだような、伏し目がちな視線を私に向ける淫魔。だがその瞳に同情の気配は欠片も見られない。
「全くぅ……素直じゃないんだからぁ……♪」
これ以上奴の言葉を聞いても、私に対して益はないだろう。加護を持つ剣を正眼に構えつつ、淫魔と相対する。気を抜けばやられることは分かっている。今まで手を下した相手、それがどれだけ強大な力を持ちながらも、どこまで卑劣で悪辣だったことか……。
「……」
一言も奴の言葉を耳にする気がない私は、奴の挙動の隙を探る。頽廃の象徴と形容されるべきその姿は、男を惑わし、女が焦がれるに足るプロポーションこそ保持してはいるが、何処か締まりがない。だが、立ち居振る舞いこそだらしがないように見えるが、その気配に明らかな隙はない。迂闊に攻め込めば、逆にこちらがやられる。
指先、唇、足下、羽、尻尾……淫魔は魔法を用いるとき、その何れかを用いる。その何れか、あるいはそれらのうち幾つか……最悪、その全てが動き出す前に仕掛ける必要はある。魔法の使用には、魔族と云えども一瞬の集中は必ず必要だ……その一瞬を――私は見逃さない!
「うふふ……その殺意を孕んだ目……ゾクゾクしちゃう……♪」
言うが早いか、奴は上向きにした掌に、けばけばしいピンクのハートマークを浮かべた。淫魔が用いる魅了『チャーム』……だが、奴のそれはほかの有象の淫魔よりも遥かに強力であった。恐らく並の戦士ならこの時点で洗脳されていたに違いない。だが――私はまだ耐えられる。
奴が片方の人差し指で銃を象り、ハートをその先端につけたとき、それが発動の合図――!

「ふふ……ばっきゅーん♪」

何とも気の抜ける声と共に放たれたハートは、私に向けて高速で迫る。次第に大きくなるハートは、もしかしたら残存している魔王の魔力を吸収しているのかも知れない。
このチャームという呪文の厄介なところは、ハートに当たってしまえば抵抗以外で防ぐことはできず、しかもハートを斬ったり叩いてしまうと、中から大量のハートが飛び散ってしまい、対処が余計に困難になってしまうのだ。
対処法は一つ――当たらなければどうという事はない。命中しなかったチャームは、その後一定時間で消えるのだから。
「――『プロード』!」
私はハートの隅に転げつつ、奴の手前に爆破魔法を用いた。
「キャッ♪」
よろけた影が見えた場所に銀のナイフを投げつつ、私は聖剣を構え直した。ここからどう攻めるか……一瞬の逡巡の後――魔力の探知を行いつつ、煙の方へと駆けた。
強い魔力は――二つ。一つは煙の中、もう一つは私の後ろ。放たれたチャーム自体に相当の魔力が篭められている事態に戦慄するが、相手は魔王の妾だ。色仕掛けのみで取り入ったわけではないだろう。だが……!

「――はっ!」

奴の体を一閃しようと私は駆け寄り――そのまま飛び退いた。
私の駆け寄る直線上に、二つ目の巨大なハートが放たれていたのだ。巨大な魔力を用いるチャームが使えるからこその芸当……ダミートラップ……!
「うふふ……逃げちゃやぁ〜よ♪」
体にしなを作りながら、再びハートを手から産み出し、私に放っていく淫魔。神経を逆撫でするような奴の声に苛立ちつつも、私は避け続ける。城に溜まっていた埃は幾度となく舞い上がり、私達の周りをスモークのように舞い続けている。
時折投げナイフを狙おうとする私だが、奴はその瞬間に射線上にハートを設置する。放たれたハートを、私は次の動きが出来る位置へと目指して避ける。それを何度も繰り返していた。
体力勝負になれば、私は不利だ。それは私が一番分かっている。創痍の私と、万全な奴、どちらに余裕があるかなど考えるまでもないだろう。
「……ならば!」
私は賭に出た。奴が発射する瞬間に見せる一瞬の隙――そこを突く!
「ほらほらぁ……♪勇者さんいらっしゃぁい……ふふっ♪」
余裕綽々そうに微笑みつつ、奴はハートを生成し――指につけ、構えた!
「はぁい♪ばっきゅー――」

「――せぇぇぇぇぇぇいっ!」

「――っと♪」
不意に駆け出しての、足を狙った一撃。それは奴の飛行により阻まれたが、それは私の狙い通り。私はそのまま……もう片手で上方に投げナイフを放り投げた!
飛び上がった直後の奴は、当然避けきることも出来ず――腹に突き刺さる!
「――ぐ……っ……」
そのままよろめきつつ落下する奴の隙を、私が見逃すはずもない。片手で剣を振り上げ、その勢いに合わせて飛び上がる!
「――でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
大上段に振り上げた剣を、落下の勢いに合わせて奴の体に振り下ろす!奴は体を捻るが――遅い!

ザしュうウうッ!

「――キャアアアアアアアアアアアアッ!」
神の祝福を受けた聖剣は、魔族の体なら斬れない場所はない。片腕の肘から先と、片羽を根元から、それぞれ私によって斬られた淫魔は、断末魔に似た叫び声を挙げた。それすらもまるでヴァイオリンのようなこえだ。どこまで人類を魅惑し堕落させる気なのだろうか、この悪魔は。
だが……それもどうでもいい事だ。私がやるべき事は、ただ一つ。――この世界からの魔族の放逐だ!
仲間達と――人々のために!

「――ぃやあああああああああっ!」

私は痛みに悶える淫魔の女王に、私は剣を突き出し――!?
奴の表情は、片羽と片腕を落とされているのに――してやったりの表情――まさか!

「ばーん♪」

「――なぁぁぁぁっ!?」
奴の口が爆破音を呟いた直後、奴の体が一瞬にしてピンクに染まると、そのまま四散し――肉片ではなく捌ききれないほどの大量のハートがまき散らされた!
「く……あぅ……ぁああああっ!」
私は必死で剣を払い、斬り、舞い、飛び散らすハートを切り裂いていく。同時に体を低くし、上方を飛ぶハートをやり過ごす。完全に避けるのは無理だ。ならば当たる量を少なくして、被害を最小限に留めるしかない!
仲間達がまだ生きていた頃、僧侶が一度食らったことがある。正気に戻した後で訊ねたところ、魅了のハートに体が触れると、一気に染まるわけではなく、若干のタイムラグがある。その間に心理的抵抗が出来るか否かで、チャームが効くかが変わって来るという。
ハートの欠片がどれほどの威力かは分からない。だからこそ……最大限の防御を狙う!
「……はっ!やっ!ぃやっ!」
兎に角剣を振るい、ハートを消滅させていく私。四散した小さいハートは、聖剣に当たるとすぐに霧散する。後は如何に当たらずに捌き続けるだけ――!

――でも、本当にそれで良いのかしらぁ?

「――……」
来た。じわりじわりと、まるで牛乳に珈琲を垂らすように、じわりじわりと心に広がっていく、悪魔の囁き声。

――私は争いなんて望んでいないわぁ……♪ただ、アナタも私も、魔族も人間もみんなみんなキモチヨク暮らせる世界を描きたいダ・ケ♪それはアナタの目指す『平和な世界』になるわぁ……♪

「(何を世迷い事を……)」
押し売り強盗のような輩だ。勝手にこの世界へと侵略戦争を仕掛け、和平を語るなど。私が願うのは人間が人間らしくある世界だ。その世界に、魔族など要らない。私の理想と、この女の理想は間違いなく――違う。
私は吹き荒れるハートの山を薙いでいく。悪趣味なピンクが清廉な透明へと変じていく。魔力の結晶が聖気によって浄化されていくのだ。

――いいえ、違わないわぁ♪男の子は男の子らしく……女の子は女の子らしくぅ……みんなが仲良く暮らしていく世界……それがアナタの理想でしょお……?ううん、それがアナタの理想なのよぉ♪

心の誘いに、ひたすら心を閉ざし、抵抗を繰り返す。感情的になったら、まず間違いなく……取り込まれる。
「(……くっ)」
チャームの副次的な効果が、徐々に体に現れていく。始めはじわりと、体が熱に炙られたようにじくじくと疼きを訴える。特に……股間に。
覆っている物がもどかしい、外してしまいたい、私の本能がそう囁きかけるのが解る。だが、外してしまったらその時点で終わりである。欲望は際限なく私に求め続け、私はそれに従い続けてしまうだろう。それは……奴の思うままの私の姿だ。欲望のままに振る舞う、奴の言う'人間'の姿だ。

――ふふっ……、何を我慢しているのかしらぁ……?ほらぁ、もっと自分の気持ちに素直になりなさいよぉ……♪さぁ……ゆっくりとぉ……鎧もぉ……下着もぉ……何もかも……そう、何もかも脱ぎ捨ててぇ……♪

「(――御免だ)」
まだ正常な感情を保つ心中でそう叫ぶと、私は触覚と聴覚を遮断し、ひたすら剣でハートを斬り捨てることに集中した。段々と、私に放たれるハートの総量は減少しつつある。ここを耐えきれば……私の勝ちだ。
私の心に囁き続ける悪魔の声、それに私はひたすら背け続け……ついに、ハートが止んだ。

――もぅ、素直じゃないんだからぁ……♪

「……ふぅ……ふぅ……」
捨て台詞を最後に悪魔の声が消えたことを感じ、私は一瞬緊張を解き、息を調えた。最後まで、人を小馬鹿にしたような仕掛けだったと思わせる。だが……強烈である。
どれだけのハートを斬り防いできたか……。文字にするとアホらしいが、こちらは真剣である。仲間達との誓い、人々の願い、それらを背負う以上、負けることは始めから許されない……いや、私が許さない。

……四散した肉体が、ハートに変じた。もしかしたら、奴は最後に見せかけて不意を打つかもしれない。まだ、油断は出来ない。
私は神経を研ぎ澄ませ――空間の魔力を探った。何処にも反応が無ければ――!?

――ぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぁんっ♪

「――!!」
突如、私の周囲から、大量に何かが弾ける音が鳴り響いた!まるで先程――奴の体が弾けたように――!
まさか――そう振り向いた私の瞳に最後に映ったのは……先程とは比べものにならない程に大量の、視界を埋め尽くすようなハートの大群であった。

――防ぐ間もなく、私の意識は一気に、けばけばしいピンク色のハートの中に飲み込まれていった……。


「……ふふふっ♪気分はどうかしら……勇者さん♪」
「……最悪……です……っっっ」
次に目覚めたとき、私の体は装備の一切を外され、先程肉体を四散させたはずの淫魔に馬乗りにされていた。何か呪文を使われたのか、肉体は私の言うことを聞く気配がない。
先程から、腕に力を入れようとしても、全く入る気配がない。まるで……肩から先が自分の体じゃないみたい……。
おまけに、奴に逆らおうと口を開いても、何故か丁寧な言葉になってしまっている……精神の屈服が既に始まっていると言うこと……。
「あらあらぁ……そんな事言っちゃって良いのかしらぁ……♪」
俎上の鯉、今の私の状況を明確に説明するにはこれで十分だろう。奴の羽は既に私の視界を覆い尽くす程に巨大化し、取り戻した青空を、降り注ぐ光を遮っていく。魔族は光を嫌うはずだが、この女にその気配はない。恐らく魔力で遮断しているのか、それとも気にならないのか……。
「ふふふ……♪勇者さん、アナタには一度会って'お話'をしてみたかったのよぉ……♪」
明らかにニュアンスの違う'お話'という言葉。それを異常に甘ったるい言葉で告げつつ、奴は私の胸の方ににじり寄っていく。先程から得体の知れないぬるぬるした感触が奴の股間の辺りから感じられる……汚らわしさすら覚える。盛りの付いた雌犬か……?
「……貴女と話す事なんて……」
悪態の一つもちゃんと吐けない我が身に、奴はしてやったりといった意地の悪い笑顔を向ける。抵抗が完全に封じられている今、私が出来ることは、ただ気を強く持って奴にかけられた呪いに抗うだけ……。
「そんな意地悪な事言っちゃだぁめよぉ……ね♪」
「――く……っ、ぅう……っ」
つつつ……と、露わになった胸元を、その魔性の指先でなぞっていく女王淫魔。時として肌を切り裂くほどの鋭さを誇るそれは、私の皮膚を傷つけることなく、しかし痛みとも痒みともつかない、不思議と感覚的には不快ではない刺激を私に与えていく。不快なのは刺激を与える元凶が私の、いや私たち人類の宿敵である魔族であることだ。
しかも、その魔族によって何らかの呪いが掛けられたか、その刺激は――気持ちいい。まるで古い皮が剥がされ、新たな皮が顕れていくような開放的な刺激すら感じられる。
「くすくす……あらあら、やっぱり素直じゃないのねぇ……♪」
だが、その気持ちよさは紛い物だ。私を堕とそうとするためだけの技巧……。それに心を委ねるわけにはいかないのだ……!
「……く……ぅぅっ……」
つつ……しゅり……しゅり……。別段くすぐったい場所など無い筈の私だけど、奴の指先で撫でられ、爪を立てられ、擦られた場所は、その後でじくじくと、もどかしさを訴えていく……。
なだらかなカーブを描く私の胸元を、奴はただひたすらいじっている。その間にも、奴の股間からのぬるぬるした感触は、徐々に腰回りから背中に広がっていく……。
……?私の鼻孔が、辺りに漂う不思議な香りを嗅ぎ取った。その発生源は……私の腰回り……と、目の前――っ!
「ふむっっっ!」
香りに一瞬気を取られた、その一瞬の隙を突いて、奴は私の顔を挟み込むように、異常に発達した双球を押し付けてきた!
「ふふふっ♪なぁにぃ……そんなに私の香りが気になっちゃったのかしらぁ……♪嬉しいわぁ♪気に入ってくれちゃって……うふふ♪」
「ふぐっ!ふむぅぅっ!ふむんんんっ!」
まるで餅でもべっとり貼り付いているかのように、奴の肌は私の鼻孔と口を、空気の通り道をしっかり塞いでしまう!呼吸をしようと、何とか顔を動かすが、奴の両胸はまるでスポンジのように私の顔を埋め込み、力に合わせて形を変え、私に空気を与えないように沈み込ませていく――!
「あらあらぁ♪遠慮しなくても良いのよぉ……♪もっと、ほらもっと吸い込んで……♪」
私を抱え込んだ淫魔が、乳越しに何か話しかけてくる。だが同時に、耳穴に乳肉を埋め込んでいくように、うにうにと私の顔に押しつけ、ぐにぐにともみ込んでいく。
押し退けようにも、体が私の言うことを聞く気配はなく、聞いたとしても恐らく、力で奴の腕からは抜け出せないだろう。寝技で淫魔に敵う存在は……私のパーティにも居なかった。
「んんんっっっ!んっ!んんんんんんんんんんっ!」
く……あ、、ぁ、ああ……息、息が、息が出来ない……っ!苦しいっ!ち、窒息する……!だが、抜け出せる力も、抜け出せる状況にもない……!
「ふふふ……フフフ……もっと……もっと吸い込んで……♪」
さらに押し付けられる胸。空気すら通さない密着感……。染み渡る、不思議な香り……。
……意識が……遠……退い……て……。

ふわぁ……♪

――フィラメント一本で繋がった意識を戻したのは、突如押し付けから解放された顔に、流れ込んでくる大量の空気――!
「――っっっっはぁっっっ、っっはぁっっ、っっはぁっっ……」
私は気が狂ったように呼吸を繰り返した。空気に餓えた身体に、まるでポンプのように必死に空気を送り込んでいく!
……空気の香りが何故か異様に甘い、いや、仄かに酸っぱい香りも混ざっている……どこか心地よくさせる香り……一体、どこから――!?
ぶもふっ!むぢゅっ!
「!!っっ!!んむんんんっんんっんんんんっ!」
身体に空気がまだ行き渡らない状態の私に、再びあの暴力的な乳が押し付けられる!たぷたぷ、ぷるぷる、むにむにした、弾力ある感触を保ちつつ、うにゅうにゅと肌に張り付き私を苦悶の深遠へと引きずり込もうとしていく!
これで空気が通っていたら、恐らく男を骨の髄まで魅了するような甘い感触が私に伝えられただろう。けれど、人を酔わせる魔性の乳は、今私をじわりじわりと死に至らしめる魔の棺桶と化してしまっている!
ある程度回った空気がもたらす力で私は乳から抜け出そうと顔を動かすが、その行為はただ私の体力を無惨に消費していくだけに過ぎない!
奴の胸の感触と同時に、先程から私の周りを漂う、異様に甘い香りがその濃度を増して、私の中にあらゆる場所から染み込んでいく……。私の身体が、さらに弛緩していくよう……。
「んぁぁっ、ぁっ、やんっ♪あらぁ……ふふっ♪そんなに私を高ぶらせてくれようと一生懸命になってくれてるのねぇ……嬉しいわぁ♪」
淫魔の勝手な言い種に反論したかったが、私の声の一切は奴の魔乳に吸収され、まともな響きを持たない!そうこうしているうちに、私の中からどんどん……空気が……消……え……。

ふわぁ……っ♪

「――っっっっはぁっっっ、っっはぁっっ、っっはぁっっ……」
再び緩んだ胸の隙間から空気が取り入れられ、私は必死で息を吸う。その心の片隅、生存本能とはまた違う場所で私は、喜んで息を吸っているようだった。息……いや、香り……?

ばふむむっ!

「!!んむむむむっむっむむんんんんんっ!!」
三度、私に乳を押し付ける淫魔の女王。むちむちと女性を露骨に強調したような柔肌が私の口と鼻を塞ぎ、果物を煮詰めたような濃い甘い香りが、私の身体に染み渡っていく……!
苦しさの所為で意識が向かわなかったが、いつの間にか両脚が得体の知れない液体に濡れているようだった。気色悪い……という生理的嫌悪感は、不思議なことに私の中に浮かんで来なかった。心の中に浮かぶのは、空気が足りないことによる苦しみと……苦しみの中に浮かぶ陶酔。
その幽かな陶酔の領域を、漂う香りが段々と押し広げていく。流されては駄目だ、という私の心が、息が出来ない苦しさに邪魔され、その間に気持ちよさが心に広がっていくかのよう……。
「……ふふっ……だぁんだん気持ち良くなってきたでしょお……♪」
むに、むにゅ、と押し付けられる胸。まるでパフのように柔らかく、ゼリーのように弾力があるそれが、私の顔ごと心を揉みほぐしていく。飽和砂糖水のせせらぎのような奴の声が、私の心の防壁を少しずつ削り取っていく……。
息苦しさから解放され、空気が回らないうちにまた押し付けられ……頭が、回らない……段々と、ふやけていく……。
「ふふっ♪可愛いお顔ぉ……キス、したくなっちゃう♪」
……顔など見えるはずもないのに、私の目の前で淫魔はこんな事を呟いている……。抜け出す気持ちが、息苦しさと柔らかさの狭間で確実に削がれていく……。
切れるわけでもなく、繋がるわけでもない曖昧な私の心に、甘い空気は染み渡っていく……。
力が……力が抜けていく……私がふにゃふにゃになって……。

「……ふふ♪あらあら……疲れちゃったのかしら……」
……時間の感覚も忘れるほど、私は奴の乳に攻められていた。窒息しそうなときに暴れられるだけの体力が、今は既に無い。
知らぬ間に両脚から腰回りにかけて塗りたくられた液体の感触も、今は最早気にならない……寧ろ、塗られていない場所がもどかしく感じる……。ちりちりと、身体が焼けていくような、そんな感じ……。
「……はぁ……はぁ……はぁ……」
反撃しなくちゃいけないのに……押し退けてしとめなくちゃいけないのに……頭も、身体も、ふわふわしてしまっている……。
奴の股間の辺りから、甘い香りが強く発されて……同時に奴の体が触れた場所から、じわりじわりと熱が発生していく……。
「……?ふふ……私のお蜜がそんなに気になるかしら……ぁ?」
奴は、私を艶めかしい目線で見つめながらにじりにじりと詰め寄っていく。その度に、私の身体に、何か甘ったるい液体が、淫魔の中から垂れ落ちて、覆って……?
……甘い……液体……?……まさか――っ!?

「――んもぶんんんもんんっ!」

私の思考が形を持ち、淫魔の愛液の危険性を導き出すよりも一瞬早く、奴は私の口に秘所を重ねてきた!さながらディープキスをするかのように、奴は深く腰を落とし、私の口を――いや、口だけではない!口と鼻を同時に塞いでくる!
「ほらほらぁ……たぁん、と味わいなさい……♪貴女が可愛くてしょうがないから、ずっと、じゅん、って溢れてくる私の……愛の甘露を……ね♪」
私の顔で自慰をするように腰をゆさゆさと動かしながら、奴は既に過剰に潤んだ秘部から溢れ出す淫蜜を私の中に流し込んでいく!
防ごうと口を閉じたとしても、両腕が動かせないから、鼻から入ってくるそれを防げない!その上に、空気を吸えない息苦しさから、自然と口が開いてしまう!
とろり、ねっとりとした、人の愛液では考えられないような、粘りけと舌触りを併せ持つ愛液。それは鼻を塞がれて味など分かるはずのない私の舌に、確かな質量を持って落ち、そして絡み付いていく。
「んんっ!んっ!んんんん〜〜〜〜っ!」
絡み付いていく側から、その異様な液体は舌の中に染み込み、口内に一気に広がっていく!鼻の中を拭いながら落ちてくる物も、鼻孔から体の中に吸収され、血液に乗って身体を巡っていく……!
甘い!異様に甘い!頭が甘みを処理しようとして神経が焼き切れそうになるほど甘い!舌が――いや、頭がバカになってしまいそうだ!
そして重い!力のない私の身体が、さらに地面に沈みそうな程に重くなっていく!このまま私の身体の力を根こそぎ奪い取っていくかのよう……!
このまま飲んでいたら危ない!空気が残っているうちに、何とか、何とか抜け出さないと……え!?

「――んぁあああっ♪あはぁんっ♪んはぁああああっ♪いいっ♪いいわぁぁ……♪そうっ♪そうよっ♪もっと、もっと欲しいんでしょお……んぁああっ♪あぁんっ♪舐めてぇっ♪全部舐めとっちゃってぇぇっ♪」

「んぁぁっ……んあんぁ……んんっ……」
何で!何で私はこの女の秘所を舐めてるのっ!?何で悪魔の淫蜜を飲み込もうとして……!
いつの間にか鼻からは外され、口だけに押し付けられる形になった奴の陰唇に満ちた蜜を、私の舌は必死で舐めとっていた。舌先がぬめった液体に触れる度に、私の頭に頭痛が起きそうな程に強烈な甘味が叩き込まれ、心臓が激しく脈打ってそれを全身に送っていく!
どういう原理か、奴の蜜は気道に入ることなく胃の中に流れ込み、腸にまでどろりどろりと浸入していく……。その上で、奴の蜜が進出したところから、徐々にむずむずするような、ぞわぞわするような奇妙な感覚が沸き上がり始めている……!
――だが、私の体が蜜を摂取することを止める気配はない!この穢れた淫魔の愛蜜を、まるで神の酒を飲むが如く浅ましく求めている!
「んぁっ……んぁああああっ♪いぃっ……いいわぁぁっ♪素敵ぃ……素敵なのぉっ……♪ふふ……あんっ♪素敵すぎて……んぁっ♪んぁああああっ♪」
奴の膣肉が、ひくひくと震え始める!マズい!何かするつもりだ!だが私の体も、舌を止める気配がない!ずっと、この魔の蜜を求めて、口を近付けて筋に沿い、淫核の周辺も含めて舐めとっていく!
「んぁあっ♪んぁっ♪んぁ……んぁあああああああああああああああああああっ♪」
――そして、堤防は決壊した!

――ぷしゅぁぁぁぁあああああああっ!

「――!!!んむむぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
開かれた私の口の中に、大量の愛蜜と、さらさらした生暖かい液体が一気に流し込まれていく!それらは気道に一飛沫たりとも入らずに、私のなかに全て吸収されて――!

――熱い……あ、ああ、ああああああああっ!
「んんんんむんぶぶぶんんんっ!」
さらさらした液体が起爆剤になったように、突然私の皮膚の裏に、火を付けられたような熱が発生した!焼き尽くされるなんて生易しい表現じゃない!あらゆる痛覚が一瞬にして焼き切れてしまい、痛みすら感じる間がないような圧倒的な熱――それが、私の中から一気に発生したのだ!
あ、頭が、熱で、痛みに似た熱で焼き切れ、あ、あああああっ!
「〜〜〜〜っ♪……ふぅ……ふぅ……♪うふふ……貴女の舌がつい気持ち良かったから……おイタしちゃったわぁ……あんっ♪良かったわぁ、そんなに喜んでもらえるなんて♪」
奴が何を言っているかなんて聞き取る余裕など、私には無かった!体を走る熱、私の中で行き場が定まらないエネルギーの塊が次々と生み出されて、体のあちこちの皮膚を薄めているよう……!
段々と、上に乗られている淫魔のムチムチした肉感、彼女の全身から放たれる体をむずむずさせる甘ったるい香り、股間の息遣いまで、過敏なまでに感じられるようになっていく……っ!?

「んんんっ!んっ!んんっんんんっ!」

「あらあら……こんなにトロトロになっちゃって♪」
それはあまりにも不意打ちの刺激だった。奴は相変わらず、私の顔の方に顔を向けたままの状態で、私の顔に股間を乗せている。しかも、股間は顔に押しつけられたまま、離れる気配はない。
そんな状態で奴は――私の股間をいじり始めたのだ!何かぬるぬるする物を纏った物体を押し付け、いや、貼り付けることで――!
「んんっ!んっ!んんっっ!」
熱が、私の中の熱が股間に集まり始めている!体に散らばっていたエネルギーが、さらに私のお股を敏感にするように、集っていく――!
「うふふ……美味しい美味しいお汁が溢れてきたわね……♪」
奴は私の敏感な股間――秘所を舐めとるようにいじり始めた!幽かに硬化した部分で陰唇をつつ……となぞり、まるで一枚貝のように膨らんだ事が分かる縁から、すっかり熱を帯びて膨らんだ膣肉を、ふにふにと刺激している!
只でさえ敏感な部位に、感覚を鋭くされた状態で行われる破廉恥な行為に、私はただ電撃を受けたように体をびくつかせるしかなかった!それがさらに奴の異様に柔らかい秘部を刺激し、濃密な蜜を溢れさせてしまう!そして私の体はそれを喜んで飲み干してしまう……それが新たな熱を生み出していく……!
顔と股間、二カ所から責め立てる奴は、しかし股間は奥まで責め立てる気配はなかった。だが――今の私には、それだけでも十分強烈な責めになっている。
次々と私の股間から、発情しきった雌のように、大量の愛液が滲み出て、子宮までの道を満たそうとしている……。それに羞恥を感じる余裕なんて、私にはない。ただ……溶けそうな程に熱く、雷撃を食らったように痺れる刺激を与えられ続けている。
「んむんんっ!んんっ!んんむんむんぶぶんんんっ!」
自分がこの淫魔に『開花』させられていく……それがたまらなく悔しい私の瞳からは、徐々に大粒の涙が溢れ始める。それを淫魔は……指先で掬い取って……涙粒をまじまじと見つめ……?

「……そろそろ、いいかしらぁ……♪」

――何か、可愛らしい、しかしどこか不気味な微笑を浮かべ、呟いた――。

「――いただきます♪」

――次の瞬間、私の視界に、一気に火花が舞った!

――ずぢゅうううううううううううううううううううううっ!
「――!!!!!んむむんんんんんんんんんんんんんんんんんっんっんんんっんんん!」
何かが貼り付いている私の股間から、愛液が強烈な勢いで啜られている!同時に、膨れている淫核を貼り付いた何かがくわえ、牙を刻みつけるように刺激をくわえていく!
私の体が、自然と弓なりに跳ねる!なけなしの体力も、その動きで使い切らされていく!精気が、根刮ぎ奪われていく……!
叫び声だけを放つ私の口には、相変わらずトロトロとした愛蜜が流され、甘美な味と有りっ丈の熱を私の体に伝えていく……。熱にも翻弄され、私の頭はさらにその動きを止めていく……!
それだけじゃない。脳のあちこちで、ぷちぷちと、何かが外れるような感じがしている。意識が、何かを、切り離そうとして――!
「んんっ!?」
な、なに、こ、この感じ……!だ、だめっ!これ以上、これ以上はぁ――!
「んふふ……♪貴女のクリちゃんって、とってもコロコロして美味しいのねぇ……♪」
や、奴は、私、私の淫核をく、くわえては飴玉を貪るようになめころ、や、あ、あぁっ!
「あ、言い忘れたわ♪」
や、やめ、やめて、あ、あつ、あつい、あついよ、あついよぉぉっ!
「私の甘ぁい甘露はぁ……♪飲み過ぎちゃうと、一度トんだらそのまま天に飛ばしちゃうのよねぇ……♪まぁ、勇者様だから廃人にはならないわ♪」
あつ、あついっ、あついあついっはれつは、れ、は、はれつするぅぅぅっ!
「それにねぇ……胸一杯に吸い込んだ、私の甘ぁいパァフューム……♪あれは貴女の全身を敏感にするだけじゃなくて、吸ってから時間が経った後、イったときの気持ちよさを、何倍にもする物なのよねぇ……♪」
ひ、あ、ああ、あああ、あああああ、いく、いく、い、いく、いくぅぅっ!

「ふふふ……♪じゃあ、地よりも低い天(そら)へ――行ってらっしゃい♪」

「――んんんんんんっ、んんんっ、んん、ん、んんんんんん〜〜〜〜〜〜〜っ!」

ぷしゅあああああっ!ぶしゅ、ぷしゅっ!ぷしゅああああああっ!
まるで噴水のように、絶頂を迎えた私の膣から愛液が潮を吹き上げる!長時間愛蜜を飲まされ、香りを嗅がされ発情状態となった私の体が、過剰に愛液を生み出し、生み出した側から貼り付いた物体へと吹き上げていく!しかも――!
「んんんんんっ!んっ!んっんんん〜んっんんっんんんんっ!」
ぶしゅううううっ!ぷしゅっ!ぷしゃああああっ!ぷしゃああっ!
止まらない!何度も、何度も絶頂を繰り返しても、絶頂が収まらない!いや、絶頂が絶頂を引き起こして、あ、ま、また、またい、またぁぁぁぁっ!
「んぁんんんんんんんんんっ!んんんっ!んんんぁぉんんんんんっ!」
ぷしゃああああああっ!ぷしっ!ぷしゅっ!ぷしゅあああああああっ!
止まらないよぉっ!逝くの、逝くの止まらないいいいいいいっ!いああっ!あっ!ああああああああいっ!ああああああああっ!
「ふふふ……♪貴女のラブジュース、とっても美味しいわぁ……♪ずっと味わっていたくなっちゃう……ね♪」
「んんっ!んんんんんんんんんんんんんんっ!」
彼女が再び淫核をいじった刺激が、また私を絶頂へ導く!痛いはずなのに、激痛が走るはずなのにぃぃっ!いいっ!いいのぉぉぉっ!
い、いや、ま、またいくっ、またいくぅぅぅぅぅっ!あたまがぁっ!あたまがこわれちゃううううぅぅぅっ!
「――んんんんんんんんんんんんんんんんっ!」
――ぷしゃああああああああああああああああああっ!
う、うあああああああああっ!
あ、ああああああっ!
あ……ぁ……ぁ……。

……ぁ……ぁぁ……♪


「――ふぅ、御馳走様……♪」
……奴の、心から満たされたような声に、私は意識を取り戻した。……いつの間にか、異常なほどの絶頂は止まっていた。だが……体のあちらこちらは、隙あらば私を天高く昇らせようと疼く。
だが……それ以上に問題なのが、私の頭であった。……全く、思考が働かない……。先程の連続絶頂で、考える場所が焼き切れてしまったかのようだった……。
「くふふ……♪本当に、可愛いわねぇ……♪」
奴が、何かを呟きながら微笑んでいる。何となく……何となくだけど、優しそうな笑顔に思えた。
そんな事を思ってはいけない、そんな考えが浮かんだ。けど、それがどうしてかが分からない。何か、大事なことが思い出せない……。
「……ふふっ♪素直な瞳になってくれて、嬉しいわぁ……♪」
奴が、私に心底嬉しそうに呟く。とろり、と奴の秘所から私の口へと蜜が垂らされる。甘くて、深くて、とても美味しくて……?

くちゅ……

「――?」
な、何か湿った物が私のお臍をくちゅくちゅとほじってる……。まるで蛇の頭が、私のお腹をつついているみたいに……尻尾?奴の、尻尾?
「ふふふ……♪」
尻尾で、私の臍に何をするつもりなのか、視界を彼女に塞がれている状態が、私の恐怖を煽る……が、心の大半は未だに絶頂の余韻に浸り、惚けたままである。それに、尻尾でほじられる感覚が……何故か、気持ちいい。
奴は……ある程度までほじった後、私の臍周りに、尻尾から何か温かな液体を吐きつけ、それで何かを描き始めた。私の頭の片隅で、嫌な予感が首をもたげていく。でも、それは片隅でしかなかった。その思いすら、ぼやけた思考の中で希釈され、甘い蜜の中に、溶かされて、消えていった。
やがて、尻尾の動きが止まり、奴は幽かに立ち上がった。よくは見えないけれど、お腹の辺りに何かが描き終わったんだろう。尻尾がなぞったその場所が……じんじんと、段々温かくなっていく。その感覚が……何とも気持ちいい。
蜜にまみれた私の顔を見ながら……奴は腰を落としつつ、再び大きく股を開き、膣肉を押し広げた。
「うふふ……♪さぁ、どんどん、お蜜を飲んでいいのよぉ……♪」
その言葉通り、奴の股間からは、滝のように次々と甘美な蜜が溢れ、その香りを媚香と共に、奴の羽が起こした風が私の鼻孔に直接運んできた。
頭の片隅では、飲んではいけない、飲んだら駄目だ、と誰かが叫び続けているけれど……私の体は、自然と奴の秘所に向けて、舌を伸ばしていた。
「……んん……」
秘肉と、私の舌が触れ合う瞬間――!

――ずぼぽにゅぉっ!

「――!!」
――私の頭が、一気に奴の膣の中に吸い込まれた!そのまま、ずにゅる、ずゅると音を立てて、私の体が飲み込まれていく!
「んぁああああっ♪んぁっ♪あんぁぁぁああっ♪ん……んふふ♪いい、いいわぁっ♪もっと、もっと奥に……んんぁぁぁっ♪」
奴は、私の体に尻尾を巻き付けて、少しずつ私の体を奴の体の中に押し込んでいく。同時に膣肉の襞が、私の全身を柔らかく優しく包みながら、ぐにゅぐにゅと蠕動を繰り返し、私を奥へ奥へと招き入れていく。
「んんぁ……ぅぁあ……ふぁあ……んんっ!」
先程の交わりで敏感になった体を、包み込む襞が撫で擽っていく。むずかゆさともどかしさが気持ちよさへと変化して――私は再びイってしまう。
それが引き金となって、また何度も絶頂を繰り返し、びくびくと震える私の体。その動きが、さらに奴の奥深くへと、体を潜り込ませていく。
そして……何度目かの絶頂と同時に――。

「――んぁああああっ!あぁああっ!んぁあああっ!」

――じゅぽん、と音を立てて、私は不思議な場所に辿り着いた。

「あむっっ……っ。……?」

――その空間に滑り込んだ私の顔に、先程まで与えられた愛蜜をさらに濃くしたような、重みのある液体が浴びせられる。それらは、まるでゲルで出来た産着のように、私の全身をずぶずぶと受け止め、受け入れ、奥へ、奥へと招き入れていく……。瞬く間に、私の全身は不思議な液体に包み込まれてしまった……。
どくぅぅん……どくぅぅん……。
深く、重く、水っぽい音が木霊する。その度に、私の全身にまとわりつく液体が、幾千の手となって私のあらゆる場所を愛撫していく……。その感触が、たまらなく気持ちいい……。
けど……段々と苦しくなっていく……。体の中から、空気が無くなっていくんだ……。
それに……頭が……ざわざわする……。

――しゅるる……っ

……あれ、何だろう、この管……。軟らかくて、暖かくて……それが私の体をしゅるしゅると這い進んで……あれ?私のお腹が、何か光ってる……。お臍が真ん中にある、不思議な模様……。
あたまのざわざわが……大きくなっていく……けど……何でだろう……。
私の体を這った管は、そこを目指しているみたい……。しゅるしゅると……伸びていって……わっ!

――ち……くちゅっ!

管の先端が、するっ、と有るべき場所に収まるように、私のお臍に入っていった!同時に、私の頭の片隅で騒いでいた声が……あれ?聞こえなくなった……?
……しかも……苦しくなくなった……?ぜんぶ……この管のお陰……なの……?
それに……

どくぅぅん……どくぅぅん……

周りから音がする度に、私の中に、何かあったかいものが、ふわふわって……。
お腹の周りの模様が、段々と管にも広がっていく……。一緒に、私の体のあちらこちらにも……まるで根っこのように広がって……。

「……ふぁ……ん……」

……あ……れ……?
……ね……む……た……く……。

……おきて……ちゃ……、いけ……ない……の……?

……ふぁ……ぁ……ん……♪


「ふふふっ……♪ゆっくりと、お眠りなさい……♪」
……淫魔の女王は、今し方自らの胎に招き入れた女勇者に、臍の緒を繋ぎ終えた事を受け、幸せそうな笑みを浮かべた。
その腹は、人間一人入れた分だけ巨大に膨らみ、まるで巨石でも呑み込んだかのような形状をしている。だが呑み込んだ物が巨石ではないことを証明するかのように、内側からは人型のシルエットが透けて見えた。そのシルエットには……不思議な紋様が光を放っている。
尻尾から垂らした淫液で描いた紋様……。それは、胎内に於いて、自らと繋がった者を自らの後継者として転生させる紋様であった。勿論、生前の技術、戦闘知識及び能力に、自らの能力や魔力を上乗せ付加させながら……思想の一切を、書き換えていくのだ。
淫魔の女王は、書き換えが始まったことで眠りに落ちた女勇者に……、どこか母性に満ちた声で語りかけていった。

「ママのお腹の中でね……アナタは赤ちゃんになっていくの……♪ふふっ……♪
……素直な子に、産まれてきてね♪」


「――」

わたしのめのまえに、いくつものシャボン玉がうかんでいる。
そのシャボン玉の中で、だれかがけんをふるっていた。
そのシャボン玉でけんをふるっただれかがみたのは……同じようなすがたをした誰かで――。

ぱちん。

――シャボン玉がわれて、次のシャボン玉がでてくる。
次のシャボン玉は、ちょっと小さくなっただれかが、きれいなばしょで、けんをもらって、なにかをさけんでいるところだった……。
同じような姿をしたほかのだれかが、てをたたいて――ぱちん。

シャボン玉がのぼって、ぱちん。
ぱちん、ってはじけては、またのぼって……ぱちん。
わたしににただれかがうつったシャボン玉が、ぱちん、ぱちん、ぱちん。
めのまえで、いっぱい、いっぱい、われていく……。
そのたびに、わたしのあたまが、だんだんとすっきりしていくような……ふわふわしていくような……。

……あれ……?
わたしって……あれ……?

……わたしって……なんだっけ……?


「うふふ……♪アナタはねぇ……♪」
腹の辺りに刻まれていた紋様は、既に完全に頭にまで侵食していた。侵食した紋様は、当初の予定通りに、勇者の脳に刻まれた過去の記憶を、全て消し去っていく。
旅を続けた仲間との記憶も――。
祝福を与えた王や教会の記憶も――。
彼女の幼少を共に過ごした幼なじみの記憶も――。
そして、彼女を生んだ両親の記憶も――。
全て、全て消え去らせてしまった。尤も、戦闘知識などは紋様の中に取り込んだようだが。
そして、まっさらな状態になった記憶の中に、淫魔の女王は新たなる記憶や精神を刻みつけていった。
そう――。

「……アナタは、'魔王'なの♪」


「――ま……おう……?」
わたしのなかから、とつぜん、こんなかんがえがうかんできた。まおう……まおうって、なにをするんだろう……?
『……魔王はねぇ……♪私達魔族や、人間をねぇ、思うように言うことを聞かせることが出来る存在なのよぉ……♪』
いうことを……きかせられる……?
『そうよぉ♪アナタは争いは嫌いよねぇ?痛いことは好きじゃないわよねぇ?』
いたいこと……?……きらい……きらい……。
『そうよねぇ……嫌いよねぇ……♪』
いたいの……きらい……。
『……でもねぇ……今はみんな、みぃんな争っているのよぉ……みんな、争いが嫌いなのに……ね♪』
あらそい……いたいこと……きらい……みんな……あらそい……きらい……?……きらいなのに……どうして?
『それはねぇ……♪
……みんな、気持ちいいことを知らないからなの♪』
きもちいい……こと……?
『気持ちいいことをするとねぇ……みぃんな、幸せになれるのよぉ……♪』
きもちいい……しあわせ……?
『だぁってぇ……みんな、気持ちいいことが好きなんだもの♪アナタも……気持ちいいこと、好き……よねぇ……♪』
きもちいい……しあわせ……すき……。
『好きだけじゃないでしょう♪もう、好きで、好きで、大好きでしょお……♪』
きもちいい……すき……すき……だいすき……♪
『大好きで……大好きで……みぃんな、気持ちよくしてあげたいでしょう……♪』
きもちいい……だいすき……みんな……だいすき……♪
『魔王はねぇ……みんなを、気持ち良くしてあげることが出来るのよぉ……♪』
まおうは……しあわせに……♪
『どう?とっても素敵でしょう♪みんなが、ずっと気持ち良くいられるって……本当に……素敵でしょう♪』
みんな……ずっと……きもちいい……♪……すてき♪まおう♪まおう♪わたしはまおうっ♪
『ふふふ……そうよ♪アナタは魔王なの……♪そして私は……魔王のママなのよ♪
二人で一緒に……この世界を、気持ち良くしていきましょう♪』
ママ♪わたし、わたしぃっ♪みんなをきもちよくするぅっ♪ママといっしょに、みんなを――♪

『「――みんなと、気持ち良くなろうっ♪」』


それは、淫魔の女王による、彼女の理想の魔王にするための教育であった。
彼女の空っぽの頭に、淫魔の女王の思想、思考、魔力、技術、手腕といったものを、本能レベルで刻み込んでいく。それと同調するように、女王の刻む呪印がぐねぐねと蠢き、臍の緒から彼女の体内に、大量の魔の栄養が、ぐぷり、と送り込まれていった。

「……う……あ……あ……♪」

淫魔の体の中で体を丸める勇者、その全身の皮膚が、さらに艶を持ち始めた。同時に、皮膚の一部が、もこり、と隆起を始める。隆起した場所は五つ。彼女の両耳の上側と、背中に二つと、尾てい骨。それぞれが、何処か桃色と紫を合わせたような色合いに変色しながら、浮き上がっていく。
皮膚が膨張して、内側から破られそうな感覚に、彼女は瞳を潤ませ喘いでいた。幽かに開いた瞳が、淫魔と同じ色に染まりつつあり、耳も徐々に、魔族特有の尖り耳に変じていく。
「あ……あぁ……あぁああっ♪」
隆起した膨らみが、徐々に大きくなり、その輪郭を大きく変えていく。特に尾てい骨のそれは、まるで蛇がのたうっているかのように、うねうねと形を変化させ――!

「――んあぁああああああっ♪」

ぶしゅっ!ぶびゅっ!ぶしゅううっ!……ずず……。
隆起した皮膚が、内側から生えた物体によって破られ、突き破った物体に合わせるように収縮していった。尖り耳の上からは、二本の捻れた角が、背中からは、蝙蝠のような皮膜に覆われた一対の羽が、そして尾てい骨からは、先端がプックリと膨らんだ、一本の尻尾が、新たな器官として、それぞれ生えてきたのだ。
解放がもたらす快楽に、彼女は淫魔の胎内で海老反りになって悶えた。全身に巻き起こる快感は、そのまま臍の緒を伝って母親へと伝っていく……。

「うふふ……♪おめでとう♪さぁ、しばらくお眠りなさい……♪アナタの心が、体に馴染むまで……♪」

再び眠り始める彼女を孕む腹をさすりながら、淫魔の女王は……新たな魔王の誕生に、心を躍らせていた……。

――勇者が淫魔女王の胎内に捕らわれて、二月が経った頃の事であった……。


魔王討伐を成し遂げた勇者とその仲間を、彼女の生まれた街の人間達は讃えていた。
魔王城の暗雲の消滅により、魔王の死を知った彼等だが、その後の魔王城捜索により、謁見の間にパーティ'全員'の遺体を発見。痛み分けに終わった事を知った町長は、彼女らの石像を建設させ、盛大な葬儀を行った。
国王は、葬儀の場でこう告げたという。

「――彼女ら勇者達が切り開いた新たな時代を、私達は進まなければならない!
それが、彼女らに対して我らが出来る――最大の善行だ!新たな時代が、良き時代となるよう、我らは力を出し合うのだ!」


「――うふふ……♪そうよ……♪これから、新たな時代を作るのよ……♪」
水晶玉に映した葬儀の光景を、淫魔の女王は生暖かい笑みで見つめていた。片手を、さらに大きく膨らんだお腹に乗せ、優しくさすりながら。
既に彼女は一石を投じていた。お腹の中にいる新たな魔王が、新たに地上に君臨し、魔界も含めて全て征服するための、その礎となるものを――!

ど  ぐ  ん  っ!

「!ん、んぁぁあああああっ♪」
突如、彼女の孕み腹が大きく跳ねあがり、陰唇からごぽり、と愛液が漏れた!さらに二回、三回と、彼女は大きく体を跳ねさせる!
「ふぁあぁっ♪んんっ♪そうねぇっ♪もうっ、もう産まれるのねぇっ♪ひ、ひ、ふぁぁっ♪」
発情したような甲高い声で叫びながら、女王はしっかりと息み始める。陰唇は大きく口を開き、愛液がどぼどぼと流れ落ちて――!

ぶしゅうううううっ!

「――ふぁあああああああっ♪」
いよいよ破水が始まった!まるでせき止めていたダムが崩壊した時のように、大量のぬるぬるした羊水が、彼女の中から勢い良く溢れ出していく!まるで、中にいる存在を強く押し出すかのように――!
「ふぁ、はふ、ぁあ、はぁー、ぁああっ、ぁ、ふぁ、ああっ、ああああっ♪」
ずるり、ずるりと、彼女は淫魔の子宮から、膣道を通り抜けて外界へと出されていく。始めに出たのは――角のある頭からであった。入れられる前よりも幽かに幼く、しかしそれでいながら何処か妖艶な雰囲気を纏った顔つきをしている彼女は、押し出される流れに逆らわずに、ずい、ずぬりゅと外へ体を出していく……!
滑らかな曲線を描く肩や豊満な乳、臍の緒の付いたままの臍や華奢な腕を包み隠すように、背中から生えた巨大な翼が体に巻き付いている。恐らく完全に広げたら、彼女の体が包み込めてしまうほどの大きさを誇るだろう。
そして、艶めかしい尻と、そこに絡み付いたすらっとした尻尾が女王の陰唇を越えた瞬間――!

「――んあああああああああああああああああっ!」
――ずるるるぅぅぅっ!

――見事な脚線美を描く、何処か肉感が感じられる脚が、一気に女王の中から産み落とされた。
「〜〜〜〜っ♪っはぁ……っぁ……っぁ……♪」
少女と成人女性の過渡期を思わせるような外見をした彼女――元勇者であり、魔王となる娘――を産み落とした女王は、産みの快感に身を震わせながら、まだ幽かに微睡みの中にいる、羊水にまみれた娘を抱き起こすと……そのまま、ぎゅっと抱き締めながら、そよ風のような声で呟いた。

「ふふふ……♪おはよう♪」


新たなる魔王が、誰にも知られぬ場所で密かに誕生してから数日後、勇者の故郷である街からの連絡が途絶えた。すぐさま調査部隊を派遣した王が、その街の上空に見た物は――けばけばしいほど濃い、ピンク色した空であった。
やがて、調査部隊が帰還してから数日後、突如として王宮に大量の淫魔が流れ込んできた。国王は領民や貴族に避難を呼び掛けつつ、自らは領の中で奮闘していた。
――だが、彼はある物を見た瞬間、絶望的な気持ちとなった。

彼の目の前で、嬉々として腰を振り、尻尾を挿し、翼で包み込みながら、領民を、貴族を、そして彼の家族を淫魔へと変えていく――勇者によく似た顔をした……魔王を。

――この日、王国は淫魔の手に堕ちたのだった。彼女らはそのまま、人間の領地を犯し、同族を殖やし……そのまま魔界への侵略を開始した。

今、この世界では、人だった者も魔族だった者も関係なく――皆、'気持ちいいこと'を貪り続けている。
それは、人が願う平穏と、魔族が願う統一が、同時に満たされた、一つの理想郷――なのかもしれない。

fin.










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