「……し、も〜……」
……ん……。
微睡みの時間を醒ますように、聞き覚えのある声が僕の頭に響く。
「も〜……〜し……」
……んぁ……ぁん……。
けど、その程度の声で僕は起きない。眠りの神はまるで蜂蜜を被せるように僕の意識を分厚い膜を持って沈めていく……。
「……ょうが……す……」
……んん……はふぅ……。
お、声が小さくなった。と言うことは、諦めたのかな……?でも……気配はまだ近


「……覚悟を!」ブスッ!
「――ooooooooH!!」


「――いやぁゴメンゴメン。ついこの季節は微睡んじゃってねぇ」
何せ春の訪れに、ほの暖かい風が隙間から流れてくるのだ。誘われて夢の彼方へと誘われても仕方ない。自分の罪ではないのだ。
「全く……しっかりしてくださいよ?お母様を起こせるのはお父様だけなんですから。私達が起こしたら一日拘束されて視姦されるんですから……」
そんな僕の思いすら、二対の翼で横を飛ぶ愛娘には通じないらしい。呆れたようにはぁ、とため息を吐きつつ首を横に振る我が娘。妻と僕の間に出来たとは思えないほどしっかりしているのだ。妻の中で何らかの化学反応が起こったとしか思えない。
「ははは……いつつ」
毎朝の事ながら、脇腹を容赦なく手に持った刺されるのは、結構身に堪える。まぁ蜂っぽい腹部の先端にある針で刺されるよりはマシなんだけどね。
とはいえ、こんな事を繰り返しているから、娘に情けない父親と思われていても、まぁしょうがない。けどやることはやっているんだけどなぁ。あと距離を感じるから敬語は止めて欲しい。
そう言っても、
「長女として、他の娘達の前で示しがつきませんから」
と変えてくれないんだよねぇ。全く誰に似たやら。前までの僕かな?それともそういうもんなんだろうか。
「……ところでアン、ウーノとイチ、オーネは今はどうしているのかな?」
「ウーノは森のアルラウネと蜜の交渉中、イチは朝ご飯に試行錯誤中。オーネはそんな二人の部屋を整頓中&自前の糸で裁縫中です」
完璧な布陣だ。警備が居ないところが難点かもしれないけれど、少なくとも我が家に入ろうなんて風変わりな不届き者は居ない。家の位置を考えると……うん、此処まで来る泥棒の気が知れない。
「ん、了解。じゃあ僕は愛しの妻を起こしに行ってくるから、イチのクッキングを食べられる範囲に軌道修正しておいて」
「了解しました。お父様も早くお母様を起こして統率させて下さい。自由すぎて私じゃ纏まりませんから」
実際この子以外の娘は自由だからねぇ。それこそ僕か妻の言葉じゃないと止まらないし。
ともあれ、娘の言うように、僕は早々に妻の元に行った方が良さそうだ。と言うわけで……僕のために付けられた手摺りを昇り、妻の寝室へ。

「……くー……」


果たして妻は、キングサイズの専用ハンモックですやすやと寝息を立てていた。本来であれば既に起床して皆を指揮するはずのその彼女は、未だ柔らかな純白のハンモックの中で静かに寝息を立てていた。
人間よりも遙かに中も外も丈夫な体は、春一番が吹く頃から服を着ずに眠っても平気だと公言するとおり、仰向けに眠る彼女は、布切れ一つ身につけていない。とはいえ、種族特有の外骨格は健在で、脇腹や背中、肩や手の甲、膝から下の脚や足など、むっちりとした女体のラインを強調しつつ、急所を守るように発生している。
特にその中でも肉付きが良いのは、鎖骨が見えなくなるほど巨大な、胸から突き出た張り艶のある双球である。娘達が何回も吸い付いてなお、この胸は瑞々しい色艶を保ち続け、谷間からは蜂蜜を濃くしたような濃厚なパフュームが、香水のように立ち上る。
そこから少し視点を上にやると、そこには何処か気の強そうな、眉目秀麗な女性の顔。栗毛の髪は肩のラインよりも長く、ハンモックの上に無造作に広がっている。
前髪の隙間から漏れる赤い光は、彼女の額に浮き出た六つの目が放つもの。けど実際、この目はやや視力が退化気味らしい。
肩胛骨の辺りから伸びる腕は……六つ。それぞれ頭の後ろで組んだり、頬の下に重ねて敷かれたり、お腹の辺りを押さえていたりと様々だ。
彼女の寝息に合わせるように、彼女の尾てい骨辺りからプックリと浮き出た柿の実状の腹部が膨張と収縮を繰り返している。下手をしたら彼女の体より巨大なそれが蠢く様は、見ていて中々壮観ではあるけれど、今はぼうっとしている場合ではない。
流石にこれ以上、娘のアンに責められては堪らないと、僕はハンモックの横に回り込んで、彼女の体をゆさゆさと揺すった。
「……プルミーユ、プルミーユ。起きて。もう朝だ。娘達が朝ご飯を用意しているよ」
ゆさゆさと体を揺する度に、彼女の巨大な胸がばるんばるんと盛大に揺れる。若干前屈みになりそうになるのを耐えつつ、僕は以前の反省も込めてゆさゆさと揺すり続ける。
「プルミーユ……いいのかな〜?」
「ん……んん……んんぅん……」
お、ちょっとずつ目が醒めてきたみたいだ。このままもう一押しすれば……。

「……ふはぁ……♪……ん〜……?……お早う、ダーリン♪」


「お早う、プルミーユ……んっ」
何もなく起こせた僕は、そのまま何かをねだるようにとろんとした瞳を輝かせるプルミーユの唇に、僕自身のそれを重ね合わせた。
微かに苦みのある、独特の蜜の香りが僕の舌先から体の中に広がっていく。プルミーユは朝からおねだりさんなのだ。早々に舌を突き入れて、僕の口の中に蜜を入れて攪拌していく。
微かにざらつく舌は、僕の口内を自在になで上げつつ、何処か古い皮膚を剥がしていくような快感を与えていく。舌が擦れる度、僕の舌はさらに敏感になっていくのだ。
ふと……ぴりぴりと体が痺れ始める。どうやら、彼女の蜜に混じる毒が僕の体にしみ始めたらしい。体に力を入れようとすると、それも入らない。それでいて、彼女の柔肌の感覚は克明に僕の中に伝えられていく。微かに生えた繊毛の感触すら、チクチクと僕の肌に刺さるような刺激へと変化させていく。
このままじゃ不味いと彼女の背に回った手でトントンと叩いたが、それは彼女のおねだりを強めただけだった。
「んんぅ……ぅんん♪」
一片の隙間すら埋めるように、六本の腕で僕の体を肉の沼に埋める彼女。どうやら半分寝ぼけてしまっているらしい……。まずい……このままでは僕まで眠る……というか窒息する……!
――僕は、現状持ちうる力で彼女の背を叩きつつ、蜜に濡れる舌を、二回、三回と軽く噛んだ。

「!!――ぷぁ♪ちょっと、痛いじゃないのぉダーリ……ン……」


「――は……はは……おは……よ……う……」
口を離された時点で、相当酸素が足りなくなっていた僕は……解放されたというのに、息絶え絶えにこてん、と彼女の体に倒れ込んだのだった……。
「……キャアアアアア!ちょっとちょっとどうしよう!ま、まずはアン!アンちゃん早く来て〜!」
いつものように慌てた声を上げる彼女の声が……遠く……。




彼女が生まれたのは、もう数年前。当時の私は、とある非公認の生物研究所の研究員の一人だった。
当時その研究所では、異種の生物を掛け合わせてより強力な生物にしようという、倫理から遙かに逸脱した研究が行われていた。同時に、動物を半人間化させる薬品の研究も……。
まるでドラえもんの南海大冒険みたいだと、思った人もいるかもしれない。実際似たようなものなのだ。倫理上の問題で禁じられているそれを、法律で禁じられているからと(恣意的に)曲解して、誰も所有していない孤島で自らの気の赴くままに研究しているのだから。
所長の口癖は『何かを得るのに犠牲は必要』。やっぱり曲解しているマッドサイエンティストだ。しかも自分で認めているから質が悪い。その上に所長の研究自体が人類の役に立っていたりする上、世界規模で圧力をかける団体を作り上げているからなおのこと質が悪い。
そんな研究の権化が推し進めるバイオフュージョン計画実行チームの一員として、僕は市井の研究機関から強引に引き抜かれた。一説では白昼堂々乗り込んできて一年先に完成する研究をその場で完成させた挙げ句、チームを解散させ他の研究所へと移籍させたらしい。というのも、その日僕は久方ぶりの休暇を楽しもうと太平洋の海へと出かけていたのだ。
独身故の気侭な一人海――クロロホルムを背後から嗅がされて連れ去られるまでは。
そんな経緯もあって、強引に連れ去られて、しかも帰る職場もなく所在地不明の研究所で研究に勤しむ羽目になった僕だった。この島は所長の天下だから逃げたらまず命はない。故に渋々従って研究していた……筈だったんだけど。
話がずれた。兎に角、彼女はその研究所で産み出されたサンプル生命体の一つ――ハチグモだった。蜂の素早さと身軽さ及び甲殻の持つ丈夫さに、蜘蛛の出糸器官と毒を兼ね備えた生物だ。
そして、その生物の飼育係と監察役を兼ねていたのが、僕だった。
空を飛びながら、土を蜜と糸で固めて巣を作り、捕獲用ネットをまるでマヨビームのような速度で発射する一方で、獲物にあむあむと噛みつく姿は、どこか愛嬌を感じさせられたのも確かだった。彼女もそれを感じていたのかは分からないけど……捕獲糸を僕の方に向けることは日に日に多くなった……気がした。


僕にとっての、いや、研究所にとっての転機は、ちょっとしたハプニングからだった。
先に述べたように研究者としての実力は優れている所長だけど、実は年に一回、特大級のヘマをやらかしてしまうという、当人も認める欠点がある。所長曰く、
「でもこれがなければ私はこの位置には居ないわよ?」
だそうだけど。コンタミから新薬と同じ扱いか。


で――起こったことは、『未完成人化薬の実験サンプル生命体に対する散布』。
つまりこのドジ所長はあろう事かサンプルの幾つかに、未完成薬品をぶちまけてしまったのだ。
「きゃー♪やっちゃったわー♪」
何かぐるぐると回転しているような状態で叫んでいるらしい所長の声と同時に、部屋の戸を破って飛び込んできたのは、見慣れない形をした生物達。
その一つ――巨大な二対の羽と、蜂と蜘蛛の合いの子のような形をした昆虫の腹部を持った、腕が六つある人の顔を持つ女性は、僕の方に向かいながら、腹部の先端を僕の方に向け――!
――視界を埋め尽くすような白の塊が僕の方に浴びせかけられ、僕の体は吹き飛んだ。このままじゃ奥の壁にぶつかる――と思った次の瞬間、膜越しに全身を抱かれる感覚と共に、体の向かう方向が上向きに変わる。吹き飛ばされた勢いが、どこか柔らかな熱を持った物体によって吸収され、そのまま上へ引き上げられているような、そんな感じすらした。
その感覚は間違っていなかったと、今になって考えてみれば思う。研究室の上の窓、そこから外に彼女は飛び出て、どこかに飛んでいったのだ。僕を覆う白い糸の隙間から、島特有の生温い風が流れ込んできては擽っていたから。
何が何だか解らない僕に、僕を連れ去りつつある彼女は容赦の欠片もなく強烈なGを浴びせに掛かる。右に、左に、上に下に。
そんな急激な変化に、研究一筋の私が耐えられるはずもなく……気付いたら、ブラックアウトしていたのだった……。




「――で、気が付いたら早々に跨られて、胸を押しつけられて蜜を飲まされながらたっぷり搾られたんだよねぇ……」
よく生きていたよなぁ、そう改めて思うよ。何せ、五回から先は覚えていないから……で。


「――(mgmg)」
「こらぁっ!ウーノ!肉ばっかり食べないの!」
「まぁたでたよアンねぇのお小言……皺増えるよ?」
「皺よりも先に額に浮く青筋が増えるわよ!目が痛いんだから怒らせないで!」
「あらあらアンちゃん、こういう時はこう言えばいいのよぉ♪……ウーノ、肉ばかり食べると肌が荒れるわよ?最近蜜パックの枚数増えてない?」
「……う゛」
「短期は損気だよ?アン姉さん」
「オーネ、貴方はもう少し口に入れなさい。倒れるわよ?」
「問題ないよ?皆お菓子隠してるし」
「――(mgmg)」

――こんな感じで、家族も四人あっと言う間に増えちゃって……。それでいてまだ増やしたいなんてプルミーユは言ってるからねぇ……。


「ほらほら三人とも、争ってるとイチが全部食べちゃうよ?」
「「!?」」
「おお、速い速い」
慌てて島で採れる葉っぱ類をかき集めて自分製の皿の上に盛る二人を後目に、オーネは早々に皿を戻しに行く。食の細さに定評があるオーネ。男の子なのに。プルミーユは心配してないけど……まぁ、お菓子っていうのが蜜キャンディだろうからかねぇ。
――兎角、こんな感じで朝食は慌ただしいままに過ぎていくのだった。




朝食が済んでからは、プルミーユは愛娘達に指示を出し、僕は手元にある紙に、この生活について記している。要は日記、或いは日誌だ。
誰に要請されたわけでもなく、自分で勝手に始めている事だ。実際、この家に於いて今の僕がやれることは少ない。精々家事手伝いくらいだけど、掃除は巣の面積と高さを考えると僕の部屋以外は難しく、洗濯は……年頃の精神を持つ娘を考えるとなぁ……流石に抵抗があるらしくて。
料理?一応やることはあるけど、大体イチが台所に立っちゃうからね。で、やることと言えば読書と彼女達の習性の観察……くらいか。大半はプルミーユとオーネの観察になっちゃうのは、仕方ない事ではあるけどね。
とはいえ、毎日呼び寄せて観察するなんて事が出来るわけではないので、今日は普段の生活の中で感じたことを書くに留めてはいる。
伝えたいこと、いっぱいあるの。
以前何処かで聴いた言葉が思い出される中、気にしてはしょうがない、そもそも誰に伝えるんだとばかり自嘲気味に笑いながら筆を動かしている僕。実際全てとは言わずとも、ハチグモの習性は研究時代と現在を合わせてあらかた書き尽くしてしまっている。殆ど追加するところはないくらいだ。


「うふふ……ダーリン……♪」
ふにぃ……と、異様な柔軟性を誇る物体が、僕の背中に押しつけられる。以前は文字が歪んだけれど、最近はもう慣れた。それどころか、押し付けられることの意味が解ったことから、それを心待ちするようになったのも事実だ。
「……プルミーユ……♪もう、'公務'の時間かい?」
知らぬ間に相当の時間書いていたらしい。押し付けられた胸から、とろとろとねばねばした液体が流れ、僕の背中にシャツを密着させていく。そのシャツすら、蜜に反応してか蕩け、ねっとりとした糸に変化していく。
僕は筆を置きながら、力を抜いて彼女のなすがままになることを受け入れた。
「ふふ……そうよ♪ダーリンお待ちかねの、ね♪」
そのまま六本の腕が、僕の体を抱き寄せ、仰向けに倒れる。背もたれのない椅子の上から、彼女の柔らかな肌の上へ、僕の体は落ちていく……。
僕の視界の先で、彼女の昆虫部分の腹部が、少しずつ折り曲げられていく。窄まった先端が、僕の胸元から股間に狙いを付けていく……!

――ふしゅるるるるるぅ……


「ふふ……いつものように、優しくくるんであげるわ♪」
初めて僕を捕らえたときとは違う、まるで霞が降りてくるような柔らかな糸が、僕の体の上に降りてくる。降りてきたそれは、僕の身に纏う衣服の繊維と結びついて……そのまま糸に変えていく。
背中を除いて、僕の首から下を覆う糸、それを織るように、彼女は僕の胸元から背中へと手を動かして糸を広げていく。時折ふしゅっ、ふしゅっと糸を放っては僕にさらに巻き付けている。胸からの蜜も、糸に時折塗り込まれているようだ……。
あっと言う間に、僕はほぼ全身を彼女の糸と蜜に包み込まれてしまった。端から見れば今の僕は、巨大な繭に一物と顔だけ出して拘束されている状態だ。身動き一つ取れない拘束状態の中、僕は――。
「……うぁ……んん……♪」
――ほぼ全身を覆う蜜糸の感触に、切ない呻き声を漏らしていた。
一物以外を全て包み込んだ彼女の糸は、僕の体のあちこちにある性感帯に器用に絡み付いて、くいくい、ふるふる、ぐいぐい、びりびりと予測できないタイミングで刺激を与えていく。
乳首に括り付けられたそれが、根元から僕のそれをきゅうきゅうと引っ張りあげ、体がそちらに寄せられると今度は腋の下や脇腹に刺激が与えられる。
その上、ぬるぬるとした蜜が糸の感触を滑らかにして、柔らかな無数の手で優しく撫でられているような感触を僕に与えてくる……!
その上、彼女の体から出たばかりの蜜は暖かく、糸も保温性があることから、まるで柔らかな布団にくるまれているような心地を覚えていた。柔らかく、暖かく、何処か淫らで――それでいて優しい。まるで母親に抱かれているような、そんな錯覚を僕は抱いていた……。
「うふふ……♪相変わらず元気だねぇ、ダーリン♪」
「あぁ……プルミーユ……♪気持ちいいからねぇ……」
全身をもみ擽られる刺激に、僕の一物は正直だったらしい。むくりむくりと、次第に繭糸を引きつつ巨大化していくそれにやや赤面しつつ、僕は繭糸に蜜を染み込ませ続ける彼女に、ちょっと緩んだ微笑みを向ける。
プルミーユはそんな僕に微笑み返しながら……繭をそのまま百八十度返した。そのまま僕の顔に、彼女の膨らんだ胸が押しつけられる!
「んんっっ!……ん……♪」
驚いたのも一瞬のこと。次の瞬間には顔の跡がそのまま付きそうなほど軟らかく、日溜まりのように暖かな感触と、むわっと薫る濃厚な蜜の香りに、口内を制圧し食道にまで一気に流れ込む蜜の味に、僕の心はたちまち安堵と安らぎに満たされていく……。
ただ甘いだけではなく、飲めば飲むほどに自分が広がっていき、まだ飲みたいと、ずっと飲んでいたいと思わせるような独特の甘みに、僕はさらに顔を胸に押し付け、乳房に吸い付き、乳首を舐め転がす。
「あんっ……ん……♪だめぇ……♪」
言葉とは裏腹に、プルミーユの腕は僕を深く抱き寄せ、巨大な乳に密着させていく。乳の谷間に微かに浮かぶ汗が弾け、華を思わせる芳香が僕の顔を包み込んで広がっていく。
僕を引き寄せた腕は四本。それぞれ二本は肩から顔の裏に回され、彼女の豊満な乳へのヴェーゼを続けさせていく。もう二本は繭の後ろ、腰の辺りに回され、僕の体と彼女の体をさらに密着させていく……。
そして、もう二本の腕は……。


くちゅり、と僕の腰の辺りで水音が響く。とくとくと流し込まれる蜜の甘みに聴力まで溶けてしまいそうになっている中、その音はすぐ僕の耳に届いた。同時に訪れた、股間に当たる手の感触と共に。
「――んんんっ!?」
一瞬せき込みそうになりながらも、貪欲に蜜を取り入れる喉。噎せそうになった原因は、彼女の片手が僕の反り返った一物を優しく握り、もう片方の手がぬるぬるした何かを塗りつけていたからだ。
「んふふー♪ダーリンの彼処をキレイキレイしてあげるねぇ……♪」
ぬっとりとした、どこか粘り気のある感触……。腰の辺りから響くくちゅりという音から、多分プルミーユの愛蜜が塗りつけられているのかもしれない。いや、間違いなく塗りつけられている。
人よりやや太めの指は、しかし器用に力を加減して、指に溜まった蜜をありとあらゆる場所に痛み無く塗り込んでいく。
それこそ、繭糸が引っ張る根元の部分から、血管の浮き出た皮の裏、裏筋からカリの部分、そして敏感な鬼頭から鈴口に至るまで、痛くない程度の絶妙な圧力で擦り込んでいくように……。
「……んんぁ……んをっ……」
体内で巻き起こる白濁のうねり、それを去なすように時に根元を強く握り、時に刺激を緩めながら、プルミーユは僕の一物の蜜コーティングを進めていく。
ようやく乳から口を離された僕は生殺しにされたまま、蜜糸の繭の中で只身悶えていた。
ようやく蜜まみれになった、僕の一物は、ぬとぬととした蜜がじわりじわりと肌の中に染み込み、血管から神経に直に刺激を与えていく……。
さらに皮膚が薄くなり、神経が剥き出しになったような感覚。触れるか触れないかのところで手を止めているプルミーユの、その産毛がさわさわと僕の亀頭や裏筋を擽って……。
「んふふ……♪」
ぺろり、と舌なめずりするプルミーユ。繭糸の中にとろりと染み込む蜜の暖かみから、もう既に彼女の胎内(なか)はたぷたぷなのだろう……期待の蜜で。
じゃあ、と口を開いた彼女は、そのまま四本の腕で僕の体を持ち上げて、残った二本の腕で照準を合わせて――!

「――いただきます♪」

――一気に僕のそれを、彼女の膣に招き入れた!


「「――んあぁああああっああぁっ♪」」
互いに蜜で覆われていることから、堅く反り立った僕の剛直はそのままプルミーユの膣の奥、子宮の手前までを一気に貫く!
僕の背中で、ふしゅうっ、と音がするのは、彼女が興奮して糸を発射した音だ。数秒遅れて、僕の繭にさらに糸がかかる。周りの風景が白に置き換わっていく。
プルミーユの膣の中は、産毛よりも多いように感じられる無数の襞が密着し、恋人が腕を首に回すようにそっと、或いはぎゅっと僕のカリに巻き付き、さわさわと撫で擽っている。
無数の舌、と言い変えることも出来るかもしれない。愛蜜に濡れ柔らかくふやけた舌が、僕の敏感な部分を全て、予想も付かないタイミングで舐め擽っている。
どぷん、と僕と彼女の境界を満たす重い液体は、彼女の脈のリズムを確かな質量を持って伝え、扱き上げるような動きを繰り返していく……。
そして、時折僕に体を押し付けては、蜜を溢れ出させる彼女の陰肉が、指ではどう足掻いても出来ないような、一物に対する全身ハグを与えてくる。
僕の一物を、どこまでも味わい尽くすような、熱情的な動きに、僕は抱きすくめられた繭の中で体を震わせていた。ごぽごぽと、僕の陰嚢の中で白いウネリが急ピッチで練り上げられているのが解る。
「んぁぁ……だーりぃん……♪いぃ……いぃわぁ……♪」
繭越しに六本の腕で背中を愛撫しつつ、僕を抱え込んだまま俯せになったプルミーユは、僕に心底蕩けた、それでいながら貪欲に求める捕食者の笑みを向ける。既に彼女の陰唇から、僕の陰茎の先端が見え始めている頃だった。この先に何をするか――僕は覚悟を決め、彼女に向けて微笑んだ。それを受けて――。

「――うふふ……♪もっと……もっとチョウダイ♪」


――彼女は、僕に向けて腰を一気に振り下ろした!
「――!!!!」
声を出す余裕すらない。文字で表すことが難しい、まるでゼリーの塊の中に棒を突っ込んだかのような音が響いたかと思うと、半端に被っていた皮がずり降ろされ露わになった敏感な地帯に、確かな質量を持って柔肉が絡み付いてきた!
熟れきった果物が外からの衝撃に応じてその体を変化させ招き入れるように、彼女の膣壁も僕の陰茎の形状に合わせてその疎密を変化させていく!僕を味わい尽くすための性器と言っても過言ではないかもしれない。
亀頭の中で唯一絡み付かれていない先頭部分、その鈴口に何かぷにぷにした物が接触している。それは鈴口の位置に合わせた穴のような物があり、さながら体の奥で接吻を交わしているような感触すら覚えた。
「んぁあああっ♪ダーリィン♪ダーリンのお〇〇ぽが私の子宮にキスしてるぅぅぅっ♪♪」
鈴口が触れている物は、どうやら彼女の子宮だったらしい。徐々に降りてきた物が、僕のそれと接したようだ。
周りを包む肉襞や膣壁とは違って、確かな弾力を持って感触を伝えてくるそれは、じわりじわりと高められた性感にはっきりとした刺激を与え、敏感な僕のモノを啄むようにキスの雨を降らせている。
彼女の足下には、ふしゅっ、ふしゅっと音を立てて発射された糸が、糸溜まりを巨大なものにしていく。
「んぁ、ぁ、ああっ!ぷ、プルミーユん、んんっ!」
ともすれば達しそうになる僕を制するように、プルミーユは僕の唇を塞ぐと共に舌を突き入れ、蜜を流し込んでくる。とろりとした、微かな苦みを持つ蜜。舌先から蕩け、体に巡るにつれ、僕の陰茎の疼きが薄まっていく……けれど、同時に陰嚢に白いうねりがさらに増していく……!
衝動が収まったがまだ萎えない一物に対し、彼女は猛烈な勢いで腰を打ち当てては離していく!尻で『の』の字を描くように迫ったかと思えば、そのまま子宮口まで一気に貫かせる!
ずっちゅ、づっちゅと、液体が攪拌される音と一緒に、あらゆる皮膚がこそぎ落とされ、剥き出しになった神経をそっと撫でるような刺激が、抑えられていた欲求を再び顕現させていく!
なおも流し込まれる蜜のお陰で、僕は達することはない、けど、けど――着実に奔流はすぐそこまで来ているのが解る。機会を伺いながら、その体積を増加させているのだ。
「んんっ♪♪んっ♪んっ♪ん――んぱぁっ♪あぁあああっ♪ダーリィィィン♪欲しいのぉっ!ダーリンの白いの、あたしの中にいっぱい欲しいのおおおっ♪♪」
感情のボルテージが高まったまま叫ぶ彼女の膣は、とくんとくんと速まった脈のリズムまで克明に伝えてくる!発射を急かすようにうねり、裏筋をなで上げ、カリを擽り、亀頭に巻き付いていく無数の肉襞に、僕の陰茎はさらに太さと硬さを増していく!
「あぁあ!は、はぁぁっ!ぁあああああああっっ!」
蜜の効果が切れて、次第に肉棒自体が脈を打ち始める!発射準備が出来たその砲身――そこに、子宮口が大きく口を開き、亀頭から先をきゅう、とくわえ込んだ!

――びゅるるるるるるるるるるぅぅぅぅ〜〜〜っっ!びゅぐ、びっ、びゅうううううっっ! 「「――んぁあああああああああああああああああっ♪♪♪」」


僕の持つ砲身は、溜まった白の奔流を全てプルミーユに捧げるように、幾度も脈打っては子宮の中になだれ込ませていく。今まで絶頂を止められていた分の白濁液が、全て彼女の中に叩き込まれていく。
それと同時に――

――ふしゅるるるるるるるるるるぅぅぅ〜〜〜〜っ!


――彼女達がエクスタシーを迎えた証拠とも言える、大量の白い糸が、彼女の足下に一気に吹き付けられ、もたれ合う僕らの体を一気に包み込む。
僕と繋がったままのプルミーユ越しに見える風景が、全て白に染まっていく。自分を見てくれないのが嫌なのか、プルミーユは僕の顔に彼女のそれを近付けると、再び接吻を交わした。まるで自分だけ見ていて欲しいと、僕に伝えているようであった。
「――はふぅ……はふぅ……はふぅ……♪ふふ……ダーリンの精子……♪」
自分のお腹を撫でつつ、惚けた顔の僕ににこやかに微笑みかけるプルミーユ。その表情が、何かを期待するそれに変わる。
「……ねぇ……前にダーリンに言ったこと、覚えてる?」
頭があまり回らない状態ではあったけど、彼女が何を言わんとしているかは解っていた。
「私のこと……ダーリンはずっと、丁寧に世話してくれてたよね……♪
喋ることは出来なかったけど、それっぽい素振りをしていたら、頬や頭を撫でてくれたりもしたよね……♪」
当時、一人一サンプルが割り当てられ、僕は偶々ハチグモの飼育担当となっていた。
性質としては色々と凶悪ではあるのだけれど、その一方で細かい仕草や、食事をするときの動作など、可愛らしい部分も多くて、ついつい一緒にいることが多くなっていたのだ。そして可愛さのあまりつい体を撫でたりして、その度に彼女が手の甲に止まったりしていた。
その時間が――今に繋がっている。
「あの時から、私はダーリンのことが好きで好きで堪らなかったの。だから所長さんが不思議な薬を掛けてくれたのは、本当に嬉しかった。だって……ダーリンと一緒に、ずぅっと一緒の時を過ごせるって」
そこでふっ……と、顔を曇らせるプルミーユ。
「けど、ね……足りないの。どんなに交わっても、どれだけ気持ち良くなっても、まだ、まだ足りないの……。私の体が、ダーリンをもっと欲しがるの……。
でも、ダーリンは人間だから、私が本当に求めたら……きっと吸い尽くしちゃう。一時の満足と引き替えに……」
「……」
今まで何度も交わって、その度に果てては上限を増やしていった僕だけど、それはあくまで彼女が加減していたからだ。
『ハチグモってねぇ、身体能力は高いんだけど、如何せん素体が蜘蛛だから大食らいなのよねぇ〜。大型の虫でも一つや二つじゃたりないから、そこがデメリットかな』
所長が僕に漏らした言葉は、あくまでもサンプルはサンプルとして見なす冷たいものだったけれど、こうして彼女と暮らしていると、確かにその貪欲さが分かる。
ひょっとしたらそれは、蜘蛛が残した本能、なのかもしれない。捕らえ、貪る心。それが人型になることで、『相手を縛り、求め続ける心』へと転化されたのかもしれない。
連れ去られてから、何処までも純粋に彼女の愛情を受け、僕自身も彼女を愛し続けていたからこそ、彼女が飢えているのが、よく分かった。そしてそれが、自分が『人間である』事が原因であることも。
だからこそ……節目がちだったプルミーユの言葉を聞いたとき、来るべき日が来た、と思えたのかもしれない。


「――だから、ね……♪ダーリン……私と、'一緒'に、なって……♪
ちょっと食いしん坊になっちゃうけど……、それでも……ね。もっと……今よりもずっと……幸せにしてあげられるから……♪」


……彼女の心からの願いが、性行の後で脱力しきっている僕の頭を巡る。もしこれに頷かなければ、僕は人間のまま――彼女にいつか吸い尽くされる。けれど頷けば――間違いなく、僕は僕じゃなくなる。人の身を辞めるとはそう言うことなのだ。
同族になることが可能か否か、それはそもそもプルミーユの存在がYESを証明しているようなものだ。遺伝子配列をいじった姿、キメラから人が可能ならば、逆も然り。所長も喜んで僕を実験台に使うだろうから、手段としては問題は何もない。後は、僕の意思次第だ。
悩む僕の脳裏に浮かぶ、娘達の、そしてプルミーユの心からの笑顔。式こそ挙げていないが、僕らは結婚しているも同然だった。供に暮らすことが当たり前だと思える程に。そしてその日々に幸せだと思える程に。

「…………」


しばし悩んだ末、僕は――。




――そして、およそ一ヶ月が過ぎた。


「……ねぇ……」
「……ん……?」
彼女の呼びかけに、僕は返事にならない返事で答えた。数日前から、舌が上手く動かないのだ。
何処かカサカサに乾いていく、全身の皮膚に、日に日に、体のあちこちが鈍くなっていった僕の体。二日前にはついに、寝たきりになってしまった。段々と、体と僕自身が切り離されて、僕が体の中に沈んでいくような感じがしている。
けれど……それは僕が望んだことだ。所長に、プルミーユと一緒に願ったことだ。
近く、僕は人間を辞め、ハチグモの雄の成体となるのだ。所長に作らせた、薬品によって。
アフターケアはしとかなきゃね、との所長の妙なサービスの良さが、今はただ有り難かった。
「……ダーリンがね、私達と一緒になったらさぁ……。

結婚式、挙げよっか♪」


……結婚式。
確かに、連れ去られ交わって瞬く間に子供が出来た僕らだ。当然結婚式なんてしてはいない。だが、観客が娘達だけの結婚式か……。
「所長さんの話では、この島にダーリンのお友達がいて、みんな挙げていないらしいの。折角だから……合同結婚式なんて、どうかな?」
……所長。他の連れ去られた研究員も似たような物だと、私にも言って下さいよ。予想はしてましたけど。

……それも良いかもしれないな……。

「……ん……」


「ダーリンも賛成してくれるの!?ありがとう!……じゃあ……ふふ……♪」
同意の呻きにはしゃぐプルミーユは、そのまま乳首を僕の唇の中に差し込んで、根元からゆっくりともみ上げていく。
ぷぴゅ、と最初に音がしてからとくとくと流れ込む蜜。その甘みが体に広がるのを感じながら、僕はゆっくりと……意識を閉じた。

ハチグモの雄となり、仲睦まじくヴァージンロードを歩む夢、その幸せな未来に、口元を綻ばせながら……。

fin.




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