とある街を襲った事件から、早くも数日……いや、数十日が経った。
適応能力の高い住民は、……記憶操作のせいもあるだろうがその翌日にも事件を全て受け入れ、心に傷を負ったものもまた……切っ掛けを必要とはしたが、それを受け入れた。
まさに『激流に身を任せ同化する』だろう。
兎も角、街を襲撃した魔術師一味が偶然引き起こしてしまった、'沙耶の欠片'による街の侵食は跡形もなく収まったのだ。

これは、そんな街にある、とある高等学校の一風景――。




「まゆ〜、これなんてよむの〜?」
「みゅ?確かそれは'きじょうい'って読むって先生が言ってたよ」
声が響く。一つはさながら白いキャンパスのように汚れ一つ見られない素直な声が。もう一つは優しさをふんだんに詰め込んだ綿毛のパフのような柔らかな声が。それらはまるで耳元を擽る微風のように、コンクリートとブロックタイルで覆われた空間に響き渡る。会話の内容さえ気にしなければ、耳にした人は思わず目を細めて自らの初々しい頃を想起してしまうだろう。尤も、それが日常と化したこの教室では目を細めるものはあまり存在しないだろうが。
「ん〜。じゃあ、これは?」
「それは……'せいじょうい'だったかな?」
……会話を気にしてはいけない。全てこの学校の国語教師が原因であることは確定的に明らかである。過剰な質問をして自己アッピルなど狙う無粋な輩は裏世界でひっそりと幕を閉じることになる。
それは兎も角として、声の持ち主の外観について、少し見てみるとしよう。
一人は、恐らく先天性のものであろう栗色のショートヘアーをした、真ん丸瞳がくりくりと可愛い、下手をしたら小学生に見える女の子である。名前は椎名繭。実際、彼女の年齢では本来なら高校に入れる筈もないが……その辺りの事情は本編を参照してほしい。
そしてもう一人が……人とカウントして良いのやら迷うが、まぁ匹とするのも失礼に当たるので、便宜上人としてカウントすると……カケラ。'外なる神'の一柱であり、先の事件の実行犯の一人である沙耶が、その体を分けて産み出した分体の中で、唯一自意識を与えられた存在である。外見は……幾多の赤い触手が、中心部の緑の瞳を中心に宛ら植物の葉のように生え揃っているという、普通の世界ならば何ともSAN値を有らん限り下げてくださいと言わんばかりのそれであった。一応他の外見に変化は可能ではあるが、その為には他者の情報を吸収する必要がある。よって、現在とれる姿はこのSAN値駄々下がりのものと、もう一つ――彼女(性の概念は無さそうだが、ここではカケラと沙耶の精神性から女とさせていただく)が愛する人間、みさきに似せた、天使のような姿。
まぁ尤も、この世界に於いては外見や種族の違いなど微々たるものであるので、触手姿でも他人が発狂することは無いのだが。
そんな彼女達が勉強を進めるのは、そろそろ来るであろう期末試験のためである。夏休み前の最大のハードル。もしくはクラスメートの炎邪にとっての公開処刑。成績不良者は黄金の鉄の塊である騎士ブロントさんの手によって、裏世界でひっそりと幕を閉じる事になる、まさに恐怖の期末試験。
現在の勉強内容は国語なのだが、担当の教師が……色々と問題な教師なのだ。具体的に言うなら、色魔にして生徒に性行を強要することが日常茶飯事、被害未遂の生徒は数知れず、正直何故教師をやれているのか分からない彼女の名は――エロス。
幾ら何でも、名は体を表しすぎである。
そんなわけで、彼女達は先生が授業中に話していたテスト範囲の単語や文章で、読めない部分を辞書を用いたり先生の言葉を思い出したりしながら学習していた。
因みにカケラに関して言うなら、見てしまえば記憶に刷り込まれるので、こうしてわざわざ繭と会話しているのは、単純に繭と話すのが好きだからか。――話す内容が問題とはいえ。
兎も角、来るテストに向けて、二人は勉強していたのであった。

「まゆ〜」
「みゅ?」
テスト勉強も一段落ついた頃、昼食としてテロヤキバッカ(とら語)を食し終え、口を拭いていた繭に、カケラは唐突に姿を変えて話しかけてきた。先に述べた、みゆきと似通った天使のような姿だ。
このような姿をとるときは、大体戦闘時だが、少なくとも今は戦闘をするようなことはない。
しようものならNanarman先生が無傷でお仕置きするからだ。あるいはタバリー(タバサの使役する亡霊代表)が取り憑いて強引に止めさせるか。何れにしろろくでもない結末が待ってはいるのだ。
その辺りの事を、当然彼女――カケラも知っている筈。ならば何故この格好をするのか?
答えはあっさり判明した。
「さっきエロス先生がね〜」
「やめてカケラちゃん」
この後の展開が読めた繭は早々に制した。件の教師の言動や授業がどのようなものであるか、充分すぎるほどに理解しているからこそ出来る芸当である。
「まだ何も言ってないよ〜」
何も言っていない。確かにまだ何も言ってはいない。けれど何を言われたのか予測はつく。ただ……思い違いかもしれないと、繭はカケラが何を言われたのか尋ねる事にした。
「ん〜とね♪『オンナノコを素直な心にする方法』だって♪」
心の底から純粋な笑みを浮かべて嬉々として語るカケラに、繭はどう切り出すべきか迷っていた。と言うよりどう突っ込めば良いものか思案に暮れていた。
何をどう素直にするのだろうか。だけど迂闊に言葉に出そうものなら何をされるか全く分からない。迷う繭。そんな彼女の思索を知ってか知らずか、カケラはそのまま繭に顔を近付けると――。

「!!」

――繭は、恥ずかしさから顔が赤化し、頭からは爆発したように湯気が吹き出ていた。
誰しも、唐突にキスされたら驚くものだが、まさか目の前のカケラから何の呼び動作もなくされるとは思っていなかったであろう繭の驚きようはどれ程のものだったであろうか。
「まゆ〜、放課後、視聴覚室で待ってるよ♪そしたら……素直になる方法、教えてあげるね♪」
若干呆然としている繭の耳元に、カケラはそっと囁いて、そのまま自分の席に戻っていったのだった……。

――――メイド・イン・ヘヴン!!――――

放課後。
「……みゅ」
来てしまった……内心、繭は後悔しそうであった。
あの場で何とか断れば、何もされずに済んだかもしれない。いや、済んだのだろう。
だが、カケラが視聴覚室という絶好の場所を選択した時点で、しかもそこで待つことを約束させられてしまった時点で、繭の退路は既に断たれていたのだった。
『なぁ、カケラヤバイんとちゃう?』
彼女の頭に乗ったフェレットのみゅーが、心配そうな表情を浮かべる繭に対して引き返すよう促す。繭としても、そうした方が良いのは理解している。だが、その行為は同時にカケラへの裏切りを意味する事でもあった。
カケラの友達として、彼女を裏切るわけにはいかない。幸いな事に彼女は素直だ。何とか言葉で分かって貰える。
友達とは、相手が誤った道に進みそうなとき、それを引き留める物。そして、それが出来るのは、今は自分だけ……繭はそう考えていた。
「おねえちゃん……」
みさきに声を掛けると言う選択肢は……無い。ストッパーであるヌールがアルバイトで早く帰る事になった以上……彼女にストッパーはないのだ。
「……みゅー」
『何や?』
「……もし私の叫び声が聞こえたら……」
『了解。青子先生かハシさん呼ぶわ』
さすがに防音加工を施してあるとは言っても、ドアの前にいる存在に声が聞こえないなどと言うことはない。況してや、周波数が通常より遥かに高い女子の叫び声が、部屋の外に届かない筈がない。
「……みゅ」
『……ああ』
瞳を交差させて……繭は視聴覚室の戸を、ゆっくりと開いたのだった……。



「まゆ〜♪」
果たしてカケラは、来て貰えたことの嬉しさから満面の笑みを浮かべて、この部屋にいた。既に何をする気だろうか、服は着ておらず産まれたままの姿を晒している。
外見はみさきに似たそれ。ただし純白の、鳥のような羽根が背中から生えており、時々羽ばたいては部屋の空気を回している。
ちなみに、本編では生えていたあの物体は……股間にはない。ただ剥き出しにされた純潔の証が露になっていた。
「……か、カケラ……ちゃん……?」
このままいきなり部屋から出た方が、いや、そもそも入らない方が良かったかもしれない。早くも繭は後悔し始めていた。
そんな繭の心情を知ってか知らずか、カケラは喜色満面の笑みを浮かべながら、繭の方に一歩一歩近付いていく。
「ふしゅるぅっ♪ねぇまゆ〜、来てくれてありがと〜♪」
カケラの顔に邪気はない。いや、元々カケラに邪気はないのかもしれない。だがそれこそが逆に、繭を不安にしていた。邪気がない、心の底からの善意ほど恐ろしいものはない。それを彼女は本能的に悟っていた。
知らず、片足を一歩下げようとしていた繭。このままでは何をされるか大体予想できようものだ。流石に許容できるわけがない――そう本能が判断しての行動だった。

「!みゅっ!?」

だが、その行為は無情にも阻まれる。一瞬でカケラから発生した触手が、彼女の手に巻き付いて引き寄せてきたのだ。
「ふふふ……まゆぅ……」
既にどこか紅潮しているカケラの顔。息はそこまで荒くはないが、恐らくは発情している。正気かどうかもどこか怪しいが、彼女は正気じゃない状態すら正気の一つとして内包していそうだ。
無邪気さ。それが彼女の本質なのだから。
「ひっ……」
繭は叫ぼうと思った。だが、声が喉から出ない。その間にもじりじりと、体と体の距離が狭まっていく。入り口付近に居た筈なのに、今では視聴覚室の真ん中……。
「ふふふ……ふしゅるぅっ♪」
ついに、手を伸ばせば抱き締められる距離まで近付いた時、ようやく繭は叫ぶことができた。だが……あまりにも遅い。

「――ぴぎんむんんんんんんっっっ!!!!」

叫び声をあげる繭の口が、カケラのそれによって塞がれる。同時に、背中から発生した触手が、繭とカケラの距離をゼロにまで縮め、固定した。
触手による、固い抱擁(ハグ)。関節の上から巻き付かれたそれは、繭による押し返しすら不可能にしていた。
「んんむっ……んちゅ……んく……んんっ……ぢゅる……ふしゅる……」
叫び声ごと唾液を飲み込みつつ、カケラは舌を数本の触手に変化させて繭の口に差し込んでいく。一つ一つ大きさがや形が違うのは、エロス先生が教えたのだろうか。
先端が肉襞のようになった平べったい触手が、繭の裏唇と歯の表面から裏までを、まるで磨き上げるように丹念に這い回っている。
どこか疣状の突起物に覆われた棒状の触手が、頬の辺りに擦り合わされ、唾液では有り得ないような甘い液体を分泌している。
先端が花開いたような形状の触手が、繭の唾液腺や自身の粘液腺から、ごくりごくりと脈打って唾液を吸い取っていく。
そして――一番スタンダードな細い触手は何本も繭の舌に絡み付き、まるで逸物を扱うかのように優しく揉み上げ愛撫し、痛覚がギリギリ働かない程度の刺激を与えている。
「んんんんんんっ!んむんんんんんんっ!」
声にならない叫び声をあげながら、繭は悶えていた。未だ光を保つ瞳の端からは、早くも涙が流れ始めている。
苦しさはない。カケラによってしっかりと気道は確保されている。
痛みもない。その辺りの加減の一切を、カケラはエロス先生から学んでいたらしい。――彼女の涙、それは彼女の心理的な葛藤から来ている。
「(みゅううっ!くるしい筈なのにぃっ!いたい筈なのにぃっ!……なんで気持ちいいのぉっ!)」
快楽は麻薬だ。一度味わうと心のどこかしらでさらに味わおうとする心が出てくる。その一方で、この動きを止めて欲しいという心もあり――二つの心は繭の中でせめぎ合いを続けていた。
「(きもちいぃ……ダメぇ……もっとぉ……止めてぇっ……くちゅくちゅってぇ……カケラちゃあん……止めてぇ……っ)」
保とうとする理性が、徐々に確実に削られていく様を、彼女は感じていた。何とかして止めなきゃ……弱々しくもそう考えていた繭の意思は、しかしカケラの純粋な好意の元に崩れていく。

「――っっ!!んむんんんっ!」
繭の制服の袖口から、襟元から、長ズボンの裾から何本ものカケラの触手が侵入を開始した!幾重にも絡み付きながら、服と皮膚の隙間という狭い空間を突き進み、繭の皮膚を蹂躙していく!
「んむんんんっ!んんんむんんっ!」
叫び声は依然として外に漏れることはない。それほどまでにカケラと繭の唇は互いに密着していたのだ。
もし第三者がここにいて、繭の姿を視界に収めていたならば、その瞳には以下のような姿が像を結んでいただろう。
――彼女の袖や裾、服の中で、人体では有り得ないような膨らみを浮かべ、しかもそれが呼吸に合わせるかのように膨張と収縮を繰り返しながら繭の体の中心に向けてぐにぐにと蠢いている。
「んむんぅ……っ!んむぅ……っ!」
触手の潤滑性を増す、人体には鎮痛と感度上昇の効果をもつ粘液が、服の内側から体に直に塗りつけられていく。
その生暖かさと冷たさの中間とも言える微妙な温度に、空気を内包したまま毛穴すら覆い尽くして肌に貼り付く緩い粘着性、そして触れた時の潤滑性に、繭の精神は嫌悪感を催した。だが――、
「!!!!!!」
突如発生した、電撃が走るような感覚に、繭は大きく身悶えた。粘液が塗りつけられた場所から、短い繊毛が付いた触手が先端部を微かに当てるように前後し、繭にもどかしい刺激を与えていくのだ。
まるで幾億本の綿毛で全身を擽られているかのような刺激に、繭は全身をびくびくと震わせる事しか出来なかった。
逃れようにも、逃れようと藻掻く度に四肢はカケラの触手に触れ、さらに粘液が塗りつけられてしまうため、さらに酷い事態へ陥ってしまうのだ。
だが人体の反応上、刺激に対して動かずにいられない。当然繭の体も反射的に動いてしまう。
結果――繭の体の感度は限界近くまで引き上げられていった!
「〜〜――〜――〜っ!」
年のわりにはそこそこ大きな繭の胸に、襟元から入り込んだ触手が繊細で淫らな愛撫を始めた。外周から、まるでモンブランのマロンクリームのようにぐるぐると、頂点に向けて巻き付いていく。
感触を確かめるようにむにむにと、先端を押し付け、中間部を凹ませ、寄せ上げるように揉みしだかれていく両乳。以前みさきに揉まれた時より優しく、それでいてツボはしっかりと押さえられていて……。
愛のある乳揉みに、繭は嫌悪感が快感に移行しつつあるのを感じていた。気持ち良くなっちゃダメなのに――その思考は、口や全身に纏う触手によって融解させられていく……。
まるで頬擦りするように乳肉に体を押し付けていく触手。だが、その胴体を押し付けたまま、先端が繭の乳首の先端に触れた瞬間――!
「!!ん――ん――〜〜っ!!」
長時間の快楽神経の愛撫により凝り立った乳首、当然神経が集中し敏感になっているそれに触手が触れた瞬間、まるで電撃で貫かれたかのような刺激が繭の中に発生した!
激しく体を反らせ、結果としてカケラに強烈な接吻を見舞う事になる。それを柔らかく受け止めながら、カケラは口内の触手を動かしつつ、服の内側の触手を動かし、胸を責め立てた。
「〜〜〜っ!〜〜〜っ!〜〜〜〜っ!」
先端を花開かせ、チュウチュウと胸を吸い上げる触手。母乳が出る筈もない胸の刺激に、微かな母性とピリリとした痛みを感じた繭は、声にならない声で喘いだ。
他の触手も胸に巻き付き、まるで乳を絞るかのようにきゅっ、きゅっと胸を揉み上げている。痛みを感じさせない程度の刺激は、粘液の効果によって全てもどかしい快楽へと変じていく。
「〜――〜〜――っ……〜――――――〜っ……」
瞳の中に輝く光が、徐々にその色を濁らせていく。ぐにゅ、ぐにんと大きく服の中で動く触手。それはまるで彼女という存在を侵食していくかのよう。
野生の生物であればこのまま絞め落としてしまうであろうくらいに、繭の全身に張り巡らせた触手は広がっていた。
ずりゅ、ずるりゅ、と布や皮膚と擦れる音が響く。布越しの音は、繭の声と同じようにくぐもっていた。
「――……――……」
広がった触手は、まるでマッサージするかのように繭の体を軽く締め付け、揉み上げている。
人体のツボとなる部分や健の向きを弁えているのか、バラバラに動きながらも繭に痛みを感じさせることはない。逆に時間差で来る優しい刺激が、繭の体を解し無駄な力を抜いている。
皮膚の上を様々な感触が這い回り、複雑なリズムで愛撫が続けられている。背中から腕、脚と予測が出来ない刺激が全身から巡ってくる。
粘液によって感度が上昇したままの彼女は、全身から断続的に与えられる快楽を脳が処理できず、今にもフリーズを起こしそうであった。既に股間が何やら音を立てたことも、繭は気づかない。
そしてその間も、カケラの多種多様な舌触手による舌戯はずっと続けられていた。最早繭の口の中は全てカケラによって占拠されたも同然の状態であった。
「……――」
ぐにゅ、ぐにょん……しゅるるぅ……しゅるん、くにゅん、ぎゅ、きゅっ、にゅぢゅる……。
「……―」
――やがて、内側からカケラの粘液が繭の服に染み出してきた頃……。

「……ぷはっ……」

ようやく、カケラは繭とのキスを止めたのだった。それは同時に、繭の抵抗の意思がすっかり霧散した事を意味する。
「……ぁっ……ぁ……ぁぁっ……」
頬を赤らめ、甘い吐息を繰り返し吐き、瞳の光を濁らせ蕩けさせ、だらしなく開いた口からはカケラの粘液と繭自身の唾液の混合物が流れ落ち、視聴覚室の床に向けて垂れ落ちていく。
力なく垂れ下がった腕は幾本もの触手が絡み、指の隙間から袖の中へと入り込み、繭の服を本来あり得ない方向に膨らませながら、優しい愛撫を続けている。
既に膝の力が抜けている繭は、全身をカケラの体に預けている状態だった。裾の辺りから脚全体に向けては螺旋状に絡み、愛に満ちた抱擁を繰り返している。
今や、繭の全てはカケラに握られている状態となったのだ。
「……ふふふ……まゆぅ……きもちいい?」
耳朶を優しく噛みながら、カケラは猫撫で声で優しく聞く。一噛み毎にびくん、びくんと体を震わせる繭。既に意識は、半ば蕩けかけていた。
「(……みゅ……ぁ……カケラ……ちゃ……)」
隣で耳朶を甘噛みするカケラを視界の端に捉えながら、繭の頭は今の状況を何とか捉えようとした。しかし、
「!!んあはぅっ……っ……ぁあっ……」
耳朶から来る刺激が、全身が撫でられる感覚が、優しく締め付けられる感覚が、快楽を脳に叩き込み、思考を阻害していく。快楽の中で、繭の心が、静かに崩れ落ちていく……。
「……ふしゅるぅっ♪」
繭の首筋を艶かしく舐めつつ、カケラは繭のほぼ全身を覆う触手をゆっくりと蠢かせた。先程より緩やかに彼女を愛撫するその動きに、繭は自然と体を委ねていた。
最早繭の瞳は今は何も映していない。いや、映してはいるが、それが繭の意識に反映はされない。ただ光が映し出す像として存在しているだけだった。
「……ぁ……んぁ……」
鎖骨へと至る体のラインを、触手がするりと滑り落ちる。
「……ん……ぁふぁ……っつ!んふぁぁっ……」
小さなお臍を、櫛状の触手がすりすりと体を寄せる。
「……んひゅうっ!んぁ……んん……」
背中沿いに触手が這いつつ、快楽のツボを確実に揉み上げていく。
「……んっ……んんぁ……ん……」
焦らすような強さで、胸にまとわりつく触手がきゅっ、きゅっと表面をなぞりながら締め付ける。
服と触手による適度な圧迫感に、カケラの纏う粘液の効果で敏感になった肌。それらが折り重なり、まだ相手を知らぬ繭の体に性的な刺激を刻み付けていく。
力は依然として入らないが、肉体的反応として自然と内股へと変化する。同時に、股についていた触手が――繭の下着に触れた。

「――ふしゅるぅっ♪きもちよかったんだね……まゆぅ……」

笑顔で語りかけるカケラの声の意味が解ったのかどうかは知らない。だがこのとき繭は……ゆっくりと、首を縦に振った。
「……まゆぅ……すなおになってくれたねぇ……♪」
どこか性的に爛れたようにも見える、しかしどこまでも純粋な笑顔と声に、繭の脳は幸せを感じていた。
繭が浮かべる笑顔。それはその年に似つかわしくない、どこか性的なものを含んだ喜びの顔であった。それを間近で見たカケラは、その笑みを崩さないように繭と再び唇を交わしながら……。

しゅるる……くちゅん

「――!?っ!?!?」
繭が突然股間に生じた刺激に声をあげそうになる。それを唇で封じながら、カケラは触手――内側に粘液にまみれた沢山の繊毛が生えた平べったいもの――を、秘所から尻穴を覆うように密着させた。
散々受けた快楽の刺激で仄かに花開いた瑞々しい肉の花弁の中では、既に透明な蜜で十分すぎるほどに湿っており、可愛らしい肉の豆粒が、段々とぷっくり膨らんできていた。
その肉豆に触れるか触れないかの位置まで、カケラの肉襞は入り込んでいた。処女膜は破れない。いや、破らない。エロス先生がカケラに教えたのだ。

――イタイのが嫌なら……破っちゃダメよぉ……ん♪
――ふわふわぁって……アイスを舐めるみたいに、優しく……あぁんっ♪

……カケラは先生の教えを忠実に実行していた。まるで赤子を撫でるようにゆっくりと、アイスを舐めるようにねっとりと、密着させた触手を前後に動かしていく。
「!!!っ!!!っ!!!!!!」
他者に触れられたことのない秘密の園。そこをカケラの触手が、繊毛が断続的に触れてくるのだ。下手したら自ら触れるよりも刺激が強いのかもしれない。彼女にその経験があるのかは不明だが。
ずにゅり……ずにゅる……静かに前後する度、凝り立ったクリトリスに弾力ある襞肉がコツコツと命中し、微かに捲れ上がった陰唇やひくひく蠢く菊門にぬるりと粘液を塗り込んでいく。
まるで巨大な蛞蝓が股の間を這い進んでいるかのような状況。しかも快楽神経の集中したクリトリスを多重に弄るというオマケ付きで。
「んひゅっ♪んあっ♪ひゅいっ♪ひゅうあぁぁぁあぁっ♪」
繭の顔に不思議と嫌悪感は見られなかった。あるのはただ、高みに登り詰めゆく感情に裏打ちされた歓喜の笑み――!
「……んはぁっ♪まゆぅっ♪きもちいいっ♪きもちいいよねっ♪」
カケラの歓喜に満ちた叫びに、繭は――

「――きもち……いいっ♪ひぁっ♪」

――この言葉こそ、カケラが待ち望んだものであった。
繭に、悦んでもらえたこと、それが彼女の動きを速め、それによって繭も更なる高みへと移行していく……!
「んぁあぁっ♪まゆぅっ♪まゆぅっ♪」
「ひぁぅっ♪ひぁっ♪ひぁぁぁっ♪」
互いに叫び合い、精神を――心を高みへと押し上げていく。あとは限界点を迎えた側から解き放たれるだけ……。その引き金を引いたのは、最後までカケラだった。
全ての触手が、同時に繭を攻め立てる。背中を腕を脚を締め付け、臍を擽り、乳首の先端を吸い上げ、股間の触手を一気に押し付け――!

「「――んあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♪♪」」

――快感耐性の限界値を越えた繭の体は、強烈な絶頂に達していた。同時にカケラも繭と同調するかのように達する。
繭の服の中で、先端が開けた触手がびゅるっ、と音を立てて粘液を発射し、繭の体に塗りつけられていく。
繭の緩んだ股間からは血液以外の様々な液体が溢れ出したが、それらは全てカケラの股間の触手によって吸収されていった。
絶頂の余韻を残したまま、二人は視聴覚室の床に抱き合いながら倒れる。そして交わりの名残を惜しむかのように……。
「ん……ちゅ……んむ……」
「ん……みゅ……くちゅ……」
……唇を合わせ、舌を再び絡ませ合っていたのだった……。



「……ちょっと、これは強烈すぐるでしょう」
放課後の視聴覚室から所変わって、ここは川名家の一室、みさきの自室。ベッドから起き上がり、目覚め一発呟いた言葉がこれだった。
「……原因の一つが茜と香里だとして……」
そう呟くみさきの視線上にあるもの……それは、紅摩から渡された数枚の、点字で書かれたカケラと繭の仲睦まじい勉強の様子(紅摩視点)であった。

fin.




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