「くしゅんっ!」
「ちょっと春南(はるな)!今日何回目よ!」
学校で七回、家で二十四回。合計三十一回。そして今のを合わせて三十二回。流石にこれだけの回数連続で大きなくしゃみをしたら、瑛ちゃんに叫ばれるのも仕方がない。
「ご、ごめ……瑛ちゃ……っくしゅん!」
三十三回。むずむずする鼻をティッシュで押さえながら、私は涙目で瑛ちゃんに本日三回目のごめんを告げた。
今朝から突然始まったくしゃみ。熱は全く無くて気だるさもゼロ。なのにくしゃみだけはやたら出る。一体どういう事なんだろう。
ひとまずお母さんは、学校帰りに耳鼻科に寄るように言ってた(学校の授業は必ず受けなさいって考える人だから)。けど、ねぇ……。
「あぁもう……ほら、私のティッシュ、多分今日は使わないから一袋あげるわよ」
「あ、ありがと……くちっ!」
あぁ……鼻がボロボロになりそうだ……。どうしてこんなにくしゃみが出るの!?って嘆いたところで止まるわけでも無し。
授業中は何とか声が抑えられたけど、そちらに集中しすぎたせいで聞き漏らすし……。学校に行ったけどこれじゃ本末転倒だ。
「いい?学校が終わったら必ず耳鼻科に寄ること。保険の富竹先生は今長期外出中だし、臨時の紅崎先生は今シエスタ中だし」
富竹先生……保険医としてそれはどうなのかとすんごい問い詰めたいけど、当人不在じゃどうしようもないのが実際だしね……。それに紅崎先生のシエスタを邪魔した人がどうなったか、嫌な噂を聞いてしまっている以上は、選択肢から除外せざるを得なかった。
「はぁい……」
瑛ちゃんの心遣いに済まないという気持ちで一杯になりながら、私は鼻水が止まらない鼻を授業中ずっと押さえるのに必死になっていた……。

学校で口にするのも悲しくなるほど散々な時間を過ごした後、私は近所の耳鼻科に足を運んだ。アレルギー治療に定評がある事でも有名な耳鼻科で、休日には大挙してアレルギーに悩む人が押し寄せるらしい。
「っくしゅんっ!」
止まらないくしゃみに苦しみながら、ドアノブに手を掛け、中に入る。有名だから相当待つんだろうなとか考えて少しブルーになったけど……。
(………あれ?)
平日の午後だからだろうか。それともたまたまなのか、待合室には誰もいなかった。事実上の待ち人ゼロ。受付の人は……と少し辺りを見回すと、こう書かれた看板が一つ。
『御用の方は、こちらのインターフォンを押して下さい。すぐにスタッフが参ります』
……あれれ?前評判と違うぞ?と少し引き返したい衝動に駆られたけど、今の時期は花粉症とは縁遠い。早々アレルギーでやって来る人は居ないんだろうって考え直して、受付カウンターに置かれているインターフォンを押した。
何ら代わり映えしない音とほぼ同時に、扉の奥から出てきたのは、パッと見20代後半だと思う看護士の女性。
「診察券と保険証の提示をお願いします」
促されるままに、診断書を前に提出する。それを受けとると、看護士さんはそのまま診察室へと入るよう私に言った。準備の時間が必要ないのかな?そんな疑問もあったけど、
「――くしゅんっ!」
早く診察してもらいたかったから強引に疑問を押し潰して、診察室に入ることにした。

「いつ頃からだい?」
「今朝からで……くしゅん!」
「今までにアレルギーは?」
「ブタクサくらいです。食べ物は全く無いです」
「最近遠出したことは?」
「……無いですね。この町内だけです」
「そうか……ふむ……」
訊かれたことを逐一カルテに書き込んでいく富良野先生。件の名物医師だ。どんなアレルギーでもたちまちに治してしまうという……噂はわりと誇張されるものである。ただ噂にはプラシーボ効果なるものがあるから、噂も嘘にはなりづらいものがあるけど。
「ん……そうだな」
富良野先生はカルテに何か書きながら頷くと、机の中から処方箋を取り出して、お茶菓子を出すような気軽な口調で話し始めた。
「この程度のアレルギーなら、これを飲めば二日もあれば治まるよ。富良野診療所特製の薬湯だ」
果たして袋の中から出てきたのは、抹茶のように緑色の粉末が入った薬包紙(密閉されている)が何袋か。
「これをお湯に入れて一日三回飲めば、調合された多数の薬草が、春南さんの持つ体の抵抗力を高めるんだ。味は……ちょっと苦いかもしれないけどね」
そうにこやかに告げながら、先生は私に薬湯のもとを入れた袋を私に優しく手渡す。まるでそれが先生の人生の中で一番大切な物であるかのように。
「………くしゅん」
一連の流れに、私はただ唖然とくしゃみをするしかなかった。軽度のアレルギー?これで!?……でも名物先生の発言なんだろうからそれが真実なんだろう……多分。人の苦しみなんて他人の目からしたら大したことなかったりするから……。
あとは激流に身を委ねさせられたようにただ流されていく……。
気付いたときには、1000円という破格の値段で初診を終え、薬湯を手に耳鼻科の出口に呆然と佇んでいた……。




家に帰り、お母さんに事の顛末を説明して、薬湯のもとを見せた。富良野診療所のネームバリューが凄まじいせいか、あっさりと受け入れたけど……少しは怪しいとか思わないのかな?アレルギーはそんなすぐには治らない、とか。でもそうお母さんに言ったら、
「世の中には、プラシーボ効果というモノがあってだね……」
……信用していないなら素直にそう言ってよ……。

薬湯の味は……何と言うか、微妙。そこまで苦い、ってわけじゃなくて、寧ろやや甘いような、でも後味は殆ど無くてあっさり体に染み込んでいくような、二度と飲みたくないというわけでも、もう一度飲みたいとも思えない、そんな、微妙としか表現しようがない味だった。
途中、微かに何か固いものが喉に触れた気がした。けど……触れた瞬間にその感触がなくなった事から、大して気にならなかった。
「………っくしゅん」
まだ、くしゃみは出てる。まぁでも、薬を飲んだからってすぐには効くわけじゃないよね、と思い直して、私は机に向かって出された宿題を進めることにした。
くしゃみで何回も中断させられたけど、何とかすべて書いた(合っているかどうかは別として)。目覚まし時計を確認すると、良い具合に普段の就寝時間。
「……ふぁ……っしゅ」
くしゃみで眠れるかどうか心配ではあったけど、体を布団に横たえ、目を瞑る。そうすれば……意識する間もなく、全身から力がくったりと抜けてしまった。連続でくしゃみしたことの疲れが出たのか、脳が必死で私を眠らせようとしているみたいだった。
「……しゅん」
小さくくしゃみをした直後、私の意識が一気にブラックアウトした。まるで、眠りの合図をくしゃみがしたみたいに……。




うっすらと目を開けると、そこは不思議な場所だった。
地面は全て木の根のようなもので覆われていたけど、硬さはそこまで固くない。むしろ寝転がったら受け止めてくれそうな、ウォーターベッドのような柔らかさをしている。
周囲の風景はうっすらと木目が入った膜で覆われていて、光を和らげて私に浴びせかけてくれる。
膜は裂けた木の枝の間に張られていて、外の風に揺られて靡いている。膜越しに私に届いた風は、樹液のほんのりとした甘さを含んで体へと染み渡っていた。その香りが、私には堪らなく愛しく思えたのだった。
と――頭の後ろで何かが響いた。まるで心臓の音のような――力強い音。その音に合わせるように、私の体が前後に揺れる。揺りかごの上でうたた寝しているような、何も考えず、全身を他のものに預けている気持ち良さ……。
漏れてくる日の光も、α波を投げ掛けてきて……。
私は、開きかけた瞳を、またゆっくりと閉ざした。暫くして、風の音に混じるように、寝息がすぅ、すぅと木と膜で包まれた空間の中に響く。
その音に混じって、時折しゅるしゅるという音が響いたけど……私は気付かなかった。ただ……体の中がむずむずした。もどかしいような、でも張り裂けそうな、そんな感じ。
それは私の頭の後ろから、首の方へとゆっくり広がっていく……。




「………っしゅん」
くしゃみで始まった夢は、くしゃみがきっかけで終わりを迎えた。
よく考えたら、不思議な夢だったと思う。どこにいるのか分からない場所に閉じ込められていて、ただゆらゆらと日溜まりの中揺られていた夢だったから……。
「………」
時計を確認する。いつもだったら大体ギリギリ間に合う時間に起きるところなんだけど……?
「……6:40?」
学校にいくには余裕すぎ、でも家で何かをするにはあまりにも時間がない。二度寝するほどの時間の余裕もない、そんな中途半端な時間だった。にしても、くしゃみで起きたというのに、しっかり熟睡していたということだ。案外私も神経が図太いのかもしれない。どっかの作者は震度四程度の地震じゃ起きなかったっていうから、それよりかはマシなのかもしれないけど……。
「………」
このまま布団にくるまっていてもどうしようもないので、私は起きて学校に行く準備をすることにした。教科書と筆箱を鞄に放り込んで、制服に着替えて、早々にリビングに入る。朝のニュースを見ながら、前から気になっていた一部女性共通の悩みをどうにかするために牛乳を飲む。これが時間ギリギリでもいつもやっている習慣だ。悲しいかな、私のそれはいろはのいだったりするわけで。アベツェのアだったりもラシドのラだったりもするわけで。
そんなわけで、いつものように冷蔵庫を開いて牛乳を手に取ろうとした私だった……けど。
「………あれ?」
私が気になったのは、その隣にあるアルカリイオン水。瓶に入った白濁した液体よりも澄んでいて、見ているだけで心が現れそうな透明。地下より湧き出した命の源。その味は――?
……今、私何を考えていたんだろう。それよりも、今は牛乳を飲もう……そう伸ばした手は、あろうことか2Lのアルカリイオン水のペットボトルを掴んでいた。
漏れてくる光に照らされてキラキラと光るアルカリイオン水。

「………くしゅん」

……あ、そうだ……飲まなきゃ……。
何かに突き動かされるように、そのまま未開封のキャップを開いて、飲み口からそのまま水を私の体の中に流し始めた。大量の綺麗な水が、私の体の中を流れ、染み渡り、巡っていく。体の底から、自分というものが洗われていく感じがする。その感覚がたまらなく気持ち良くて、さらに水を飲んでしまう。
気が付けば、2Lの水を全て体に入れてしまっていた。今私の手には、空っぽのペットボトルが一つあるばかり。
「あ……」
何かがおかしかった。そこまで喉が渇いたわけでもない。別に水を飲みたかったわけでもない。でも――実際、私はアルカリイオン水2Lを手に取り、それを飲み干してしまった。にも拘らず、水っ腹と言うわけでもなく、寧ろどこか満たされたような、そんな心地好い満腹感にも似た安らぎが私の中を巡っていた。
「………くしゅん」
そうすると、またくしゃみが気分をぶち壊す。どうしてこんなタイミングで出るのか。昨日よりは頻度が少ないとはいえ、辛いことには変わりない。昨日もらった薬湯を飲もうと、袋を取り出し、水に溶かした。そのまま、青汁よりも緑緑した、健康に良さげな(……良さげな?)液体を、一気に飲み干した。
心なしか、昨日より苦味が少ない気がした。




「……絶対何かおかしいよ……」
朝御飯は喉を通らなかった。と言うより、お腹すら全く減っていなかったのだ。お母さんには「もう自分で食べたから」って事にして朝飯を抜いてもらった。空のペットボトルをバッグに仕舞い、ストックの水を冷蔵庫の中に入れて、弁当と薬湯の元を鞄に入れて、そのまま学校へと向かった。
「――わぁ……」
空は雲一つない晴天だった。光が真っ直ぐ、私の体を照らすように降り注いでいる。刺さるような感覚よりも、柔らかく暖めるといった表現の方が似合いそうな日光に、私は気持ち良くて思わず目を細めて大あくびする。このまま地面にころんと寝転がったら気持ちいいだろうなぁ……なんて、朝の眠気が抜けきっていないような事を頭の片隅で思い浮かべたりして。
徐々に涼しくなる風が、太陽で適度に熱った体から、程よく熱を奪って逃げていく。頬や、半袖から突き出した腕を労るように擦りながら何処かへと向かっていく風に、わたしはくすぐったさやもどかしさを感じながらも、何となく楽しいような、嬉しいような気持ちになった。
(……バソウ……ヤソウ……)
ふと、何か声が聞こえた気がした。誰かが呟いたのかと辺りを見回したけど、だれもそんな人はいなくて。
「……」
幻聴だとしたら、耳鼻科にも行かなきゃならないな、と大して何も考えず、爽やかな秋晴れの朝、私はゆっくりと学校へと足を進めていった。

「……っくしゅん」
「随分一気に治まったね、春南」
四時間目が無事に終了し、昼飯時になって小さく一回。これが今日の私の学校でのくしゃみの回数だ。格段に減っている。瑛ちゃんは治ってきたのに安心するやら回復力に呆れるやらその他諸々の感情を詰め合わせたような一言を私に告げると、箸を手にとって弁当を食べ始めた。
「そうなんだよね〜。やっぱりアレルギーだったらしくて。富良野診療所に行ってお薬をもらって飲んだら……、気付いたら治まってきてたみたいで……」
口を動かしながら、私は弁当箱を開いていく。朝御飯をそのまま昼御飯にした感じのお弁当だった。肉がやや多めなのは、多分私の――と言うより今の世代の好みに合わせたんだろう。そこまで私に好き嫌いはないからだ。
けど……弁当を目にした私の心に浮かんだのは、得体の知れない嫌悪感だった。
(あれ……?何でだろう……食べたくない……口に入れたくない……?)
切り刻まれ火を通された焦げ茶色の肉。水気を失ってやや萎れた野菜。逆に水気を吸いすぎてブクブクに膨れた米。その何れもが私の心に表現しようの無いざわついた感触を与えていく……。
無意識のうちに、私の手は弁当箱を閉じ、再び元あったように仕舞おうとしていた。
「あ、あれ?春南、どうして弁当を仕舞うのさ?」
当たり前のように私に訊ねる瑛ちゃんに、私は静かに言った。
「……あまり、お腹が空いてなくって……」
「そんな、食べなきゃ午後持たないよ?」
心底心配そうに私を労る瑛ちゃんに、私は大丈夫と何回か告げて、仕舞い終わった弁当をバッグに入れて、喉が渇いたと一言、水道の在処へと向かった……。

水道には、高校としては珍しくうがい用のコップがあったりする。しかも、わりと大きめのものだ。
私はそこにウォータークーラーの水を注ぎ、薬湯の元を入れた。軽くかき混ぜて、一気に飲み込む。コップに少し付着した余り物も水に溶かし直して流し込んだ。
舌に触れる薬湯のさらっとした感触、味蕾から体の中へと浸透していく甘露……先程まで感じていた嫌悪感の一切を吹き飛ばす程に、この薬湯は私にとって美味しく感じられた。最初に飲んだときに感じた苦味は、今は全く感じなかった。兎に角――甘くて美味しい、まるで砂漠で飲む冷えたミネラルウォーターのように、体の芯まで生き返る心地を味わっていた。
自然と私の体は喜びにふるふると震え、目尻には幽かに涙すら浮かんでいた。しゅるしゅると、背中の方で音がして、ぐにぐにと何かが体を掘り分けるように進んでいたけど、喜びの野原にいた私はその事に気付かなかった……。
幸せな気分に浸りながら、私の足は自然と日が差す場所へと向かっていく。
日当たりのいい水道前、向日葵のように太陽に向かって立っていた私が我に還ったのは、携帯が体を震わせて自己主張した時だった。相手は瑛ちゃん。
『どこ行ってんの!?あと少しで授業始まるよ!』
最後の文を見終わった直後に、私の視点は右上の時間へと移り――石化。
相当の時間立ち尽くしていたらしい。私は携帯を取り落としそうになりながらも、猛ダッシュで教室へと戻っていった。

「全く……本当にどうしたのよ、春南」
教室に帰ると、早速瑛ちゃんからのお小言。仕方ないけどね。
「ごめんごめん……」
いつも通りの口調で謝る私。瑛ちゃんは呆れ顔。出てから長時間経っているのに、連絡の一つもしないから当然だ、ともう一謝りした。
「まったくもう……まだ本調子じゃないんでしょ?また発作でも起こしたんじゃないかと思ったわよ……ねぇ、聞いてる?」
病み上がりの私を気にかけてくれていた瑛ちゃん。勝手に出ていって日の光を浴びていた私をずっと心配してくれた瑛ちゃん。私は――。

(……バソウ……カソウ……ヤソウ……)

――とくん。
(……?)
何だろう……心の底で、何かがわだかまってる……もどかしいような……切ないような……恥ずかしいような……。
「………」
瑛ちゃんの顔……今まであまり気にしてなかったけど……綺麗だな……。
「――ねぇ、ねぇ!春南!」
「……わっ!」
え?今、私、何を考えてた――!?
「春南……本当に大丈夫なの?」
「え、あ、だ、大丈夫、大丈夫だよ。あは、あはははは……」
訝しげな瑛ちゃんの言葉に、私は誤魔化すように笑う事しか出来なかった……。

残りの授業を終えた私は、心なしかいつもより重たい体をもて余しながら、早々に家に帰ることにした。
「ねぇ春南……本当に大丈夫なの?」
隣では瑛ちゃんが私の事を心底心配そうに尋ねてくる。嬉しいけど……何か、申し訳ない気がした。
「大丈夫……だよ」
声の調子から、大丈夫ではないと思われてしまうかもしれないけど、こう言うしかなかった。案の定、瑛ちゃんはさらに心配そうな顔をして、私に速く帰るよう薦めてくる。これだけ気にかけてくれる親友に、私は何も返してあげられていない……。
――とくん。
同意するように、心臓が音を立てた。そうだよね。何を返せばいいんだろう……。
「……えいちゃん?」
「何?春南」
……今はまだ何も返せない。だから――。

「……ごめんね……ありがとう」

「?当たり前じゃない。友達が友達の心配するなんて当然の行為でしょ?謝る必要も礼を言われる必要も無いわよ」
ぽん、と肩に手を乗せる瑛ちゃん。その手の暖かさ、柔らかさに思わず目を細めてしまう私だったけど、心の中で首をぶんぶんと大きく振って、顔色を元に戻した。
そのうち、いつか……一杯返してあげるから……今は感謝の言葉だけ……。
夕焼け空は、そろそろ濃紺の夜空にバトンタッチしようとしていた。もうすぐ涼しい風が私達の体の隙間を通り抜けていくだろう。
だから……まだ暖かいうちに、私達は別れ、それぞれの家路についた。

――これが、私と瑛ちゃんの、人間として交わした最後の会話だった。




「ただ……い……ま……」
家のドアを開けた瞬間――私の視界は反転した。
「――!――!――」
家にいる誰かが、何か私に叫んでる……その声すら遠い……。
背中に……何か固いもの……?これは……床だ……フローリングの廊下……ああ……冷たい……。
腕が……脚が……体が……動かない……まるで……私のもの……じゃない……みたいに……。
「――――」
何かぼそぼそと聞こえる音すら、遠ざかっていく……。
とくん……とくん……。
心臓の音だけが、頭に響いていく……。やがて……。
しゅるしゅるにゅる……。
何かが這い回る音が頭の中に大きく響いて……私の意識は途切れた。




「(……ん……)」
目を開いたとき、私は昨日の夢で見た場所にいた。
柔らかな木の根の地面に、風にたなびく緑色の薄い膜。天井は緑緑した葉っぱで覆われている場所。常に日が燦々と照り注ぎ、膜を通した優しい暖かみが肌から体をポカポカと満たすように広がっていく……。
時おり生きているように上下に動く根っこは、うねうねと私の体を揉み解して、体に残った無駄な力を解きほぐしてくれる……。
まるで自分が根っこの一部になってしまったかのように、私は体の全てをうねうね動く根の床に委ねていた……。
……どくん……どくん……
「(……ん……?)」
頭の中に……何かが入ってくる……?ゆっくりと、染み渡るように……。同時に、しゅるしゅると、体の中で音がする。お腹の辺りが、麻酔でも打たれたように鈍く、ほんわりとしてくる……。
見ると、根っこの動きが確かに変わっていた。うねうねとうねる動きは収まり、代わりに管が膨らんでは萎む動きに変化していた。そして膨らみはどんどん私の方へ進んでいて……。
「……んあっ……」
私の横を膨らみが通り過ぎて数秒経つと、今度は背中から、私の中に何かが注ぎ込まれる感覚がした。仄かに暖かかったそれは、何かを伝って私の体の隅々に行き渡っていく……。
「……んんぅ……ぁっ……」
注がれた場所に向けて、体の中で何かがぐにぐにと動いている……。得体の知れないものが、体の中を蹂躙しているというのに、心がそれをさも当然の事のように受け止めていた。それどころか――、
「んんっ……んはぅ……あふぅ……」
少しずつ、体の中がもどかしさを感じ始めていた。這い回る何かの場所に合わせるように、何か物足りないような、刺激を求める衝動が沸き上がっていく……。次第に肌が敏感になっていき、そよ風にすらぴりぴりとした刺激を感じるようになった頃――!?

ど  く  ん  っ

「はきゃ――」
体が跳び跳ねてしまうほどの、鈍く、だけど大きな衝撃。それに合わせて、私のお腹が突然大きく膨らんだ!それも何か、管のような輪郭を幾つもはっきりと見せつけて。
あまりにも強烈な衝撃に、脳の処理は限界値を遥か越え、声を出すための息が一瞬つまってしまった。
息も吸えない衝撃を私に与えた管は、そのまま私のお腹の中を、私自身に見せつけるかのように蠢き始めた!
「ぃはぁっ!ふあっ!ふゆぁっ!ふぁっ!ふぁぁぁぁぁぁっ!」
お腹の中で、何かじゅるじゅるする音が聞こえる……管が、中で擦れ合っているんだ……にゅぷにゅぷとぬるぬるする液を潤滑剤にして管同士が、管とお腹が触れ合う感触が、私の体に言い様の無い程の快感を刻み込んでいく……!
十万ボルトの電流を流し込まれたかのような、あるいはガソリンを垂らした導火線に着火したような破壊的な衝撃が連鎖的に発生。意識は手放す寸前のところでとどまってはいたけど、体の方は既に私の手綱から外れていた。
「あはぁっ!はぅあっ!ぁあっ!ああああっ!」
三日月状に仰け反り悶える私の背中は、無数の根っこのようなものが生え、回りの蔦や根に巻き付いて体を固定して、ある距離より私の体を膜に近付かせないようにしているようだった。その引っ張られる感触すら、体に張り巡らされたあらゆる快楽神経を直に握られるような快感を誘発して、私は身を縮こまらせて悶える羽目になった。
幾度も重なる神経を焼くような刺激に、私の瞳は涙を垂れ流したまま光を失って、だらしなく開いた口の端からはやけにねっとりとした涎がゆっくりと垂れていった。時おりお腹の中の管状の何かがもごもごと動くと、スイッチを入れた例の器具のように、体全体がガクガクと痙攣し、それに合わせて何度も私はイッた。下の唇からは粘っこい液体が押し出されていく。とろとろと、私と根っこの間に小さな滝を作っていく……。
何かがしゅるしゅると私の体の中に伸びていく。そのもどかしくむず痒い感覚すら仄かに気持ちいい。
「あはぁっ!はぅあっ!ぁあ――んごぉっ!」
叫び続けた喉を塞ぐように、何かが伸びてくる。食堂を押し広げて進んでいくそれは、気管支や肺、鼻へと枝分かれをさせながら口の中へ行き着く。そのまま舌に管状の体を巻き付かせ、軽く締め付けていった。
「――ッ!――ッ!――!」
私の絶叫を喉の奥に押し留めたまま、管は口の中でも自由に動き回る。次々と溢れ出る管が口内を満たし、お腹の管と同じようにグネグネと蠢き始めた!
管はぬるぬるした粘液で被われていて、動く度に歯の裏や唾液腺、口内粘膜や舌の表裏関係なくまるでパンに塗るマーガリンのように拡げられていく。味蕾はその粘液を――甘いと感じていた。まるで花に蓄えられた蜜のように――。
「――ッ!――ッ!」
ハムスターのように膨らんでは萎む頬。それが膨らみ続けている。そろそろ、要領の限界が近付いてきていた。にも拘らず、私が感じていたのは――快楽。痛みが全てそれに置き換えられているような、そんな気さえしてきた。それすら本当に幸せなことのように思えた。
「――ッ!――ッ――」
もごもごと、唇の裏にも管が入り込み、粘液を塗りたくっていく。そして全て塗り終えた瞬間――!

ずぽんっ、と鈍い音を立て、緑色の蔦が、私の口から顔を出した。

「(あ………♪)」
涙でぼやけた視界の先に映る緑色の管は、まるで私を誘うようにくねくねと動いていた。
ぼんやりと手を伸ばして、黄金色に濡れた表面をなぞる。ぬるぬるとすべすべが気持ちよく合わさったような手触りに、私は思わず目を細め、体を震わせた。まるで、背中でもなぞられているかのように、蔦が感覚を伝えてきたのだ。
蔦はそんな私の腕とじゃれ合うように、体を絡ませてくる。まるで顔のない蛇のように、巻き付いて指の隙間から腕全体にかけて隈無く蜜を塗り込んでいく。
「(あ……あは……♪)」
塗られた場所から、体がじんじんしてくる……。これが全身に広まったら……そう思ったところで、お腹の管が動いて、また私はイッてしまう。ごぽりと音を立てて、愛液が再び溢れ出す……心なしか、その色が段々黄色に近くなっている気がした。
私の口から出た蔦は、腕全体に蜜を塗りつけた後そのまま体の上を這っていった。首元に巻き付いてから、肩甲骨、鎖骨、肋骨を締め付けない程度に優しく巻き包んでいく。私のあまり大きくない胸も、管でぷっくり膨らんだお腹も、全てを蜜と蔦で覆っていく。優しく肌と擦れ合う度に、静電気にも似た感覚が広がっていく。まるで、体が纏う殻を少しずつ剥がしていくような……。
「(あはぁ……っ♪)」
私の陰唇は蕾のようにぷっくりと膨らんで、花開くときを待っているようだった。時折愛蜜が推し広げるけど、すぐに閉じてしまう。入り口の向こう側では、大量の管が相変わらずぐにゅぐにゅと動き回っているけど、こちらに出てくることはなかった。お腹の中が居心地がいいのかもしれない。何となく、暖かい気持ちになった。
お股より上の皮膚を全て覆い尽くした蔦は、何か躊躇するように……あるいは眺めるように、先端を私の淫らな蕾に向けて、蛇のように鎌首をもたげていた。
ぬちゃ……と音を立てて、蔦の先端が開く。花にはなり得ない、栄養豊かで厚い肉が満たされている中身からは、とろりと濃厚な黄金色の蜜が溢れ出していた。それが、私の下の唇に落とされ、微かに開いた隙間からゆっくりと、体の中に流れ込んでいった。
「(――ふぁぁっ!)」
反応は一瞬だった。お腹の中にいた管が、我先にと蜜に押し掛けてきたのだ!ぎゅるぎゅる、ぬぢゅぬぢゅと盛大にこねくり回る音が、お腹の皮膚越しに轟く。
「(ふぁうっ!ぁあうぁあっ!ぃああああっ!)」
飽和していた快感の、さらに上をいく刺激に、私は再び達してしまう。空に吹き出す潮を押さえつけるように、蔦の先端は開いた口を私の陰唇に近付けていき……そのまま覆い隠すようにぴったりとくっついてしまった。
秘部の中へと、濃厚な蜜を送り込んでいく蔦。その蜜はどうやら、私の中から出ているらしい。私を包む蔦の所々が一回り膨らんでは萎んでいく。その膨らみは私の口から出ているらしく、膨れた蔦が体の内側から触れる度、秘部の蜜に愛蜜がブレンドされていく。体の水分が、全てそちらに変えられてしまっているかのように……。
お腹の中で動く管は、膣口から微かに顔を出しているらしく、蜜がぐちょぐちょと撹拌される音と、膣壁を直に擦る刺激が、耳元でクラッシュシンバルと銅鑼を同時に鳴らされるように、私の脳を直撃していた。もう、私に思考能力はほぼ無くなっていて、与えられる刺激に反応して全身を震わせるだけの存在になっていた。
「(……あ……♪)」
口の端から、トロリと唾液が下に落ちていく。その色は、完全に黄金色をしていた。それに気付かずに私はただ、目の前の蔦をぼんやりと眺めていた。
そのまま――

――ぐちゅ。
お腹の中の管が蔦の中にその身を差し入れた瞬間――

「(――あ――)」

――私の中で何かが反転した。




――飛ばそう――
花粉は飛ぶ。土に行き着くまで飛び続ける。やがて土に行き着いた花粉は、雌しべとなる種を求めて待つ。

――咲かそう――
出会った種と花粉は結ばれ、土の中で育ち、体を伸ばし、土の外で花を咲かせる。時を経て、芳しき香りを放つ花を。

――増やそう――
香りは何を呼び寄せるものか。生き物を呼び寄せ、風を呼び寄せるもの。そうしてまた花粉を飛ばす。土に――種に巡り合うために。

ぶりゅ。ぶしゅっ。
後頭部で、皮膚を突き破って私の双葉がぴょこん、と現れた。痛みはなくて、むしろ解放されたように気持ちいい。
そのまま周りの皮膚を破るように太く、長く伸びていく蔦。脳に深く深く根を張る感覚が、堪らなく気持ちよかった。その気持ちに反応したのか、口から出した蔦が蜜を、子宮に根を張った蔦にむけてごぽりと吐き出す。吐き出された蜜は蔦を、根を通り抜けて染み渡っていく……。
後頭部から出た私の蔦は茎になって、先端がぷくっと膨らんで蕾になろうとしている。その度に、体の中に根を伸ばして栄養を吸い取っていく、自分が奪われていく背徳的な快感を覚え、小刻みに体を震わせる。まるで吸い取ってしまったものを補充するように、蜜は蔦によって吐き出され、蔦の中に吸収されていく……。

……くちゅっ。

体の前で、人一人入れるほど大きくなった私の蕾は、その先端を体の足元で大きく開き始めた。肉厚の花弁が、濃厚な蜜を纏いながらその姿を露にしていく……。
一分も経たないうちに、そこには薔薇を彷彿とさせる一輪の花が、体を待ち受けているかのように咲いていた。
咳き込んでしまいそうなほどに濃い、そして甘い芳香が全身に浴びせられた。花弁が閉じ込めていた、あらゆる者を寄せ付け魅せる花の香り。誘われるように、体は花弁の中へ落ちていく。私は他の木へ巻き付けた蔦をほどいて、体をそのまま傾けさせた。どぶん、と重たい音を立てて、体は蜜の溜め池へとその身を沈めていく。目を瞑り、鼻の穴から残った空気をゆっくりと出していく。すでに肺は、蔦でびっしり満たされていた。
花の中、私は蔦や根を伸ばしたり、体を包む蜜や分泌する薬液を駆使したりして神経や肉体を繋ぎ変えていった。
血管だったものは水を循環させる管に変える。
表皮の色でごまかしながら、光合成可能なように葉緑体を――それも従来より効果が高いものを皮下細胞の中に組み込む。髪の毛も同じように変化させる。
瞳は下手に誤魔化さず濃い緑色に染め、擬態を解くときだけ鮮やかな緑になるようにする。
手足は蔦で擬態させて、思い通りに解除できるようにする。
胸も少し大きくして、蜜が蓄えられるようにする。
子宮には種袋と蜜腺を形成。さらに種袋からは管を伸ばして、土に直に植え付けられるようにする。
全身からは、他の生き物を魅了する媚香を放てるように汗腺を媚腺に変える。吐息も同じように……。
手や腕からは花粉が出るように――ふふっ、これからは手袋が必須だね。
顔を少し綺麗にする。具体的にはそばかすやニキビを少しずつ消して、水分がしっかり行き渡るようにする。肌触りも相当気持ち良くして、誰もが触りたくなるくらい。原型は変えてないしちょっとずつの変化なら、案外皆は気付かないし……ね。

体を変化させていく度に、私の中で喜びの声が聞こえてくる。変化は気持ち良いから……ね。証拠に、まだ完全には変化していない子宮がとくん、と甘くない蜜を吐き出している。吐き出された蜜はすぐさま周りを満たす
でもそれももうすぐ……そんな考えを抱きながら、私は花のベッドの中で心地良い眠りについた……。




「……ん……んう……」
目をこしこしと擦りながら目が覚めた場所を確認する。
一人用のベッドには桃色のシーツ、ふとん、枕の三点セット。机の上には今日の授業用の勉強道具が散らばっていて、タンスには服やアクセサリーがそれなりに整頓されている、所々積ん読本が目立つ、見紛うこと無き私の部屋だった。所々布切れが落ちていたけど、大して気にはならなかった。
あれは夢だったのかな、などと少し残念に思い始めた、その時だった。
お尻の辺りで、何かがとく、とくと脈打っている。何だろうと思いながら手を後ろに回すと、尾てい骨辺りから何かが生えているようだった。ゆっくりと、振り返ってみるとそこには――夢で見た蔦が、部屋の外へと延びていた。
膨張と収縮を繰り返して、私の中に液体を送り込んでいく蔦。昨日、いや、一昨日までの私なら叫びながら蔦を全力で抜いていたかもしれない。でも、今の私は、蔦の存在を当たり前として受け入れていた。
でもそれは当たり前。人間が手足を持つのが当たり前のように。
「……あははっ♪」
生まれ変われた嬉しさに、思わず体を震わせる。背中からぬっとりとした蔦が何本も現れ、私の肌に粘液の膜を張っていく。ううん、肌自体が分泌しているの。乾燥は植物の大敵だから。
「……んっ……♪」
子宮だった場所に走る、優しくて暖かい感覚。それに身を委ねるように、私は仰向けに寝転びながら股を大きく開いた。仄かに緑色が透けて見える指を、閉じた'蕾'に這わせていく。それだけで体全体がピリピリとして気持ち良いのだ。
「いっ……ん……ふぁっ……♪」
くちゅ……と糸を引きながら、交わった蛞蝓が離れていくような音を立てて'蕾'はゆっくりと、そのキツく結ばれた花弁をほどいていく。桃色を纏った強力な媚香が溢れだし、部屋に廊下に充満していく。居心地の良さに思わず目を細め、'花'となった秘部に入れた指の動きをさらに速めた。
にちゃにちゃと、指先に絡み付くものがあった。指を抜いてみると、それは相当粘っこく、指から指へと垂れながらシーツの上へと落ちていく。
黄金色の蜜――口に含むと蕩けるほどに甘いそれは、紛れもなく私の体で生成されているものだ。一口、二口、指に絡む蜜を舐めとる私。手を口から離したとき、唾液に似た媚薬と蜜の混合物が橋を架けながら、溢れ出す蜜と一緒にシーツを黄金色に染めていく……。
「……あはぁ♪」
すっかり桃色に染まった部屋の中、私は私の望むままに、ゆっくりと快楽を貪っていた……。

――増やそう――

……そうだ、増やさなくちゃ……。だって私は'花'だもの。種を作って、増やさなきゃ……。考えるより先に、体は動いていた。幸い、媚香がこの家には満ちている。暴れられることはない。それどころか、きっと私に体を委ねてくれる……。
粘液によってくっついていた布切れ――パジャマやパンティだったもの――が、ぺちょりと湿った音を立てて部屋の入り口に落ちていった……。




「お、すっかり治ったじゃん」
「えへへぇ♪」
健康そうな私を見て安心したのか、笑顔を見せてくれた瑛ちゃんは、私の髪の毛をわしゃわしゃと乱してくる。花粉が飛ばないように注意しながら、二人で歩く登校の道。いつも通りの日常が、そこにはあった。
「ん?」
「どうしたの?」
突然不思議そうな顔をした瑛ちゃん。気付かれる筈がないし、もし気付かれても問題ないから特に驚くこと無くリアクションを返す。
瑛ちゃんはわしゃわしゃと髪の毛を弄った手を見つめ直して、私に聞いてきた。
「ねぇ……髪質変わってない?」
「あぁ、お母さんがシャンプーを変えたの。多分手触りが違うのはそのせいだと思うよ」
咄嗟に考えた嘘だけど、上出来でしょ。ちなみにお母さんは、今は家の中でゆっくり眠っている。家に帰る頃には………ふふっ♪
「って春南、昨日あんな調子悪かったのに風呂に入ったの?」
あ、そっか……昨日あんなに心配かけちゃったから……。
「家に帰って暫く休んだら体調が戻ったの。だから入っちゃった♪」
「入っちゃった♪じゃないわよ、全く……病み上がりのようなもんだから、自分の体は大切にしてよ……?」
「えへへぇ……ごめんね、心配させちゃって」
昨日と同じ展開に、瑛ちゃんはまた溜め息を吐いた。
「もう、昨日も言った通り私たちは友達なんだから、春南が謝る必要なんてないのよ。さっ、早く学校に行くよ。のんびり歩いてたら遅れるわ」
そう早足で行ってしまった。遅れちゃいけないと、私もやや駆け足気味に歩いた。




キーンコーンカーンコーン
いつものようにやや退屈な授業が終わりを迎え、昼食の時間になった。当然私は何も持っていない。
「お母さんが今日は遅くてね……」
少なくとも寝ているのは事実だし。以前にも似たことが何度かあったから、瑛ちゃんはあっさり信じてくれた。
「ふ〜ん。じゃ、私の食べる?」
親切に差し出してくれたけど、私はやんわりと断った。パンを買うから大丈夫、って。勿論嘘。本当は――固体のものは食べられないのだ。
ごめんね。でも有り難う。あとで一杯、お礼をあげるから……♪

アルカリイオン水よりは味が劣るけど、ウォータークーラーの水も中々美味しかった。ずっと飲んでいたかったけど、流石にそれをしたら変に思われちゃうから適度に飲んだところで、私は日当たりの良いところで軽く伸びをした。
「(んっ……あふっ……)」
隅々にまで水が染み渡っていく感覚に、私の体は喜びに小さく震えた。同時にむずむずし始めた陰唇が気孔の如くパクパクと開き、蓄えられた蜜がほんのりとパンツを濡らす。子宮の中ではさらに蜜が作られていき、体のあちこちから媚香が漂い始める。
「(――あっ、いけないいけない)」
今ここで媚香を放っちゃ駄目だ。まだやらなきゃならない事がある。今すぐにでもオ〇ニーして気持ち良くなりたいけど、我慢我慢。
むずむずする体を何とか抑えながら、私は教室へと戻っていった……。




キーンコーンカーンコーン
「ん〜っ!」
結局やや退屈以外の何物でもなかった授業が終わって、凝った体を解すように一伸びする。支えがあるからそこまで苦にはならなかったんだけどね。
「春南〜」
教室入り口には瑛ちゃんが、手提げ鞄を持っている。既に帰る準備は出来ているらしい。
「瑛ちゃんちょっと待ってて〜!」
私は慌てて教科書類をバッグに放り込んで、瑛ちゃんの元に駆け足で行った。その調子に媚香と蜜が少し漏れちゃったけど、もう気にしないことにした。
だって――。

「ねぇ……春南」
帰り道、少し息の荒くなって、歩きのゆっくりになった私の顔を、心配そうに瑛ちゃんが眺めてくる。
「ん……何……?」
「……まだ体……本調子じゃないんじゃないの?」
昨日の今日で全回復。おとぎ話の世界じゃない限り有り得ないことだから、突然いつものようになった私を心配してくれていたんだろう。そして今、やっぱり調子悪くなったんだって、気遣ってくれている。
こんな友達を持てて、私は幸せだった。

「……瑛ちゃん……」
だから……。

「何……!?んんっ!」

だから、いっぱいいっぱい返してあげるんだ。

「ん……んむ……ちゅ……」
回りに誰もいないことを確認した私は、顔を覗き込んできた瑛ちゃんの唇を奪い、抱きつきながら舌を口の中に差し入れた。同時に、抑えていた媚香を解き放つ。肌から、制服を透過して沸き立つ花の香り。
「んむっ!んむむんっ!んん〜っ!」
突然抱きつかれた瑛ちゃんは、当然私を突き離そうとする。でも駄目だよ。瑛ちゃんの力じゃ私は引き離せないよ。それに大丈夫。離れなくたって大丈夫だから。
「んぅっ……!んむっ……んんっ……ん……」
体を引き離そうとした瑛ちゃんの力が、だんだんと緩んでいく。目を開けば、そこには光がなくなりそうな瞳に、驚きの表情から緩んでいく顔。それを嬉しく思いながら、私は唾液――蜜を流し込んでいく。舌を舌に絡めて、味蕾に染み込ませるように塗りつけていく。舌どころか、口の中全てを私の蜜の膜が覆い尽くすように、舌をあちこちに動かしていく……。
「……ん……」
すっかりとろんとしてしまった瑛ちゃん。両手に瑛ちゃんの重みが伝わってくる。力が全て抜けて、今あるのは虚脱感と快感、そして甘味のみ。
舌を唇から抜いた私。蜜と唾液の混合物が橋を架けながら軌跡を描いて私達の服を汚していく。
「……ふふっ……」
私は、そんな瑛ちゃんの耳朶を軽く噛みながら、小声で誘いかけるように呟いた。
「……ねぇ……瑛ちゃん……私の家に来て……」
「……あ……ふぁ……ぃぁぅ……」
ピクピクと細やかに痙攣する瑛ちゃん。どうも刺激が強かったらしい。意識を今にも手放してしまいそうな顔をして、私をじっと見つめている。息ははぁはぁと荒く、うっすらとかいた汗が制服を斑に染めていた。
ぼやけた視線を私に向ける瑛ちゃん。ぽかんと開いた口の端には、さっき与えた蜜が輝きを放っていた。多分、私のさっきの言葉も聞こえてないだろう。
「ふふふっ……ほら……行こ……?」
私は瑛ちゃんの体を支えながら、私の家に向けて歩いていった。微かに媚香の残り香を道路に撒きながら……。




瑛ちゃんをベッドに降ろすと、私は服を全部脱いだ。予想通り、内側は粘液でベトベト。もう着れないだろうな。まぁ……もう着る必要もないのかもしれないけど、ね。
粘液を制服に擬態させても良かったけど、まだ手触りまでは擬態できないからね。どうしても、登下校の時にバレてしまいたくはなかったから……。下は絶対領域だけちょっと光ってたかもしれないけど、瑛ちゃんはそんなところを見ないから。
瑛ちゃん……私の大切な瑛ちゃん……。
「瑛ちゃん……」
私は、外での擬態を全て解除した。瞳は緑色に変わり、緑色っぽくなった肌を粘液がうっすらと覆う。背中から、尾てい骨の辺りから蔦が生え、伸びていく。手足は皮膚に擬態した粘膜の下で幾つもの蔦がうねっている。Fカップ近くまで膨らんだ胸の中で、子宮近くのお腹の中で、とぷとぷと蜜が生成されていく……。
見るからに人間から見たら『化物』だろう。きっと瑛ちゃんにもそう言われてしまうかもしれない。でも――。

「……瑛ちゃん……瑛ちゃん……」
私は人形のように大人しい瑛ちゃんの服を全て脱がした。時々体がビクビク震え、切なく喘ぐ声が部屋に響く。今すぐにでも本当に気持ち良くしてあげたかったけど、我慢我慢。
「……瑛ちゃん……♪」
パンツを下ろしたとき、少し恥ずかしそうにしたけど、すぐに気持ち良さに悶えていた瑛ちゃん。それもその筈だ。食い込み皺がはっきり目立つ前の部分は、暖かく粘っこい液体で濡れていたのだから。
私で感じてくれている……それだけで、今すぐにでも胸に抱き締めてしまいたかった。背中の蔦がわさわさと動き始める。いけないいけない。まだ駄目だよ。私は深呼吸して、何とか逸る気持ちを落ち着けた。
全て脱がし終わった私は、瑛ちゃんの裸姿をまじまじと眺める。やっぱり……瑛ちゃんは綺麗だった。私なんかとは違う。手入れの行き届いた手足は毛穴一つ目立つことなくて、ほんのり括れた腰が目を引き付ける。胸はあまり無いって瑛ちゃんも気にしてたけど、大丈夫だよ。すぐに大きくなるから。
そうして、最後に額にキスをして――

「……瑛ちゃぁん……」

――媚香の効果を一時的に薄め、正気に戻した。




「……ん……春……な――ッ!?」
瞳に光を取り戻した瑛ちゃんが、私を見て最初に浮かべた表情は、明らかな驚愕だった。当たり前だ。見知った友達の声を発するのは、普通なら『有り得ない』生物だったんだから。
「……ど……どうした……の、その……」
何とか冷静に過ごそうとする瑛ちゃん。有り難う。こんな時でも、怖がっていても私の事を考えてくれて。
だから私も――ちゃんと説明しなきゃね。
「富良野診療所、って知ってる?……そうだよね。近所で一番有名な、アレルギーをパパッ!と治しちゃうって言うお医者さん」
ベッドの隣に、少し間を開けて座る私。急に近付いたら、怖がられちゃうだろうし。ううん、今もきっと怖いんだと思う。春南が得体の知れない何かになってしまった、って怖がって、それでも傷つけちゃいけない、って必死になってるんだと思う。
……大丈夫だよ。私は瑛ちゃんを傷つけないし、襲わないから。ただ――気持ち良くなって欲しいだけだから。
ふわぁ……と、私の体から甘い香りが少しずつ放たれ始める。それは既に部屋に充ち満ちた桃色の媚香の中に混じりながら、瑛ちゃんの中へと入っていく……。
「どうしてそんな事が可能か、って言うとね、あそこ……特製の薬湯があるんだけど、知ってる?」
「……いいえ……」
首を横に振る瑛ちゃん。心なしか、頬が紅くなってきている。
「その薬湯にはね……本来色々な草や花が煎じられたりして入っている筈なんだけど……実は、一種類の花しか入ってないんだ」
え?と聞き返す瑛ちゃん。その手は無意識に、彼女自身の股間に伸びようとしていた。肌も微かに火照り、息も少し熱っぽくなっている。目も……少しぼやけてきているみたい。
「その花はね……本来は地面に落ちた種に花粉がくっつけば発芽する、そんな花だったんだけど、その種を磨り潰して飲ませれば、体内のアレルゲンが減少する効果があったの。特に植物は、花粉を襲わないように抵抗に対して、命令と認識能力を与える効果があるのよ」
瑛ちゃんはまだ耐えている。私の話を聞こうと、体の疼きを耐えている。少し体が震えているのは、もどかしい衝動を必死で抑えているからだろう。
ごめんね、瑛ちゃん。でも、もう少し話しておきたいの。
「富良野診療所はそれを独自に改良して栽培していた。薬効を人体に悪影響が無い程度に強めてね。でもね……」
私は言葉を一度切り、瑛ちゃんの体を私の方に向けて話した。
「……でもね、その結果その植物は、どんな場所でも生息できるようになってしまった。土だけじゃない。生き物の中でだって。さらに、生き延びるために、繁殖できるように、『土』になった生物と混じり合うように成長するのよ。そして……私の吸った花粉は、その植物のものだった。磨り潰しきれなかった種が私の中に入って……こうなっちゃったの」
私が一言一言話す度に、口から溢れる媚香が瑛ちゃんの中に染み渡っていく。体全体から放たれる香りのお陰で、瑛ちゃんの中から私への恐怖はもう消えているようだった。ゆっくりと、腕を伸ばして私のそれに絡めてくる。
「……瑛ちゃん、大丈夫?」
もたれ掛かってきた瑛ちゃんに尋ねると、瑛ちゃんは蚊の鳴くような声で答えた。
「……だい……じょぶ……だよ……」
明らかに大丈夫じゃない、無理をしている声だった。既に瑛ちゃんの瞳は光がぼやけ、だらしない笑顔を浮かべながらも涙が目尻から頬を伝って流れている。本当は辛いんだと思う。わけも分からず体が熱って、それを私の前だからどう処理しようにも出来なくて……。
――これ以上、瑛ちゃんに辛い思いをさせるわけにはいかない。苦しめるために連れてきたんじゃないから……。

私は風邪を引いたように熱った瑛ちゃんを、そのまま胸の谷間に招き入れた。
「!んむっ……!?」
突然のことで驚いた瑛ちゃんが少し暴れたけど、すぐに落ち着いたみたいだった。胸の谷間には濃縮された媚香が満ちていて、瑛ちゃんの心を落ち着かせてくれる。何より、大きくなった私の胸は格段に柔らかくなっているのだ。感触が気持ち良いのか、どんどんと顔を押し付けて、深く深く埋まろうとしている。
乳に反射させるように、私は瑛ちゃんに向けて優しく語りかけた。
「瑛ちゃん……我慢しなくていいよ……耐えなくていいんだよ……ほらぁ……力を抜いて……私に身を委ねて……気持ち良く……なろ?」
そのまま、さらに押し付けるように、私は瑛ちゃんをぎゅっと抱き締めた。
「――〜〜ッ!」
瑛ちゃんの体が、その瞬間、ぶるるっと震えた。同時に、重みが私にかかる。次の瞬間、ぷしゃっ!と盛大な音を立てて瑛ちゃんは潮を吹いた。吹き出された愛液は、瑛ちゃんの太股を伝って下へと落ちていったり、私の体にかかったり、シーツへと飛び散ったりした。
肌から染み渡る瑛ちゃんのラブジュースは……ちょっと塩辛くて……でも、暖かくて美味しかった。
絶頂を迎えた瑛ちゃんの体が、粘液で滑って落ちていく。力を抜いた私の腕を通り抜けて――'花'の辺りへと。
「……んっ……んはぁ……♪」
私がちょっと力を入れると、'蕾'になっていた私の秘部が、大きくその花弁を広げ始めた。くちゃぁ……と粘液と蜜の混合物が糸を引く'花'の中から、桃色の香りが沸き立つ。私が常に纏うそれの何倍も強力な媚香は、瑛ちゃんの腰回りから胴体にかけてを覆っていく……。
「は……はる……なぁ……」
泣き笑いの表情を浮かべた瑛ちゃんが、上目遣いで私を呼んだ。その顔はすっかり紅色に染まって、恐怖の欠片も感じられない。体はさっきの絶頂で使いきってしまったらしく、私の'花'の上で静かに上下を繰り返している。
私はそんな瑛ちゃんの髪の毛を優しく鋤いた。背中と同じように、産み出された花粉が、髪の毛に彩りを加えていく。気持ちいいらしくて、にへらと笑みを浮かべる瑛ちゃん。その顔を見るだけで、私は嬉しかった。でも、まだだよ。もっと……もっと幸せにしてあげるから。
瑛ちゃんが今まで気にかけてくれた分、私も返してあげるんだから。

「……はるなぁ……」
瑛ちゃんはお腹の辺りから、私に向かって話してくる。
「どうしたの?瑛ちゃん……?」
膝枕する子供にするように頭を撫でながら、私は優しく返した。瑛ちゃんはすっかりのぼせてしまったようにふわふわした声で呟いた。
「……はるなぁ……いいのぉ……いいかおりなのぉ……あぁぁ…………もっとぉ……もっとぉ……」
すっかり私の香りに夢中になった瑛ちゃんが、すんすんと私の臍の香りを嗅ぎ始めた。そのむず痒い感覚に私は微かに悶え、背中の蔦がピクピクと震え始める。
「あはん……瑛ちゃん……くすぐったいよぉ……んふっ……」
一心不乱で私の体の香りを味わう瑛ちゃん。はじめは嗅いでいただけだったが、次第に猫のように体に顔を擦り寄せるようになった。粘液が顔にかかり始め、髪の毛までもぬるぬると覆っていく。その様子が堪らなく愛しく感じた。
とぷとぷと、私の中で蜜が作り出されていく。柔らかかった胸が、徐々に張り出して弾力を持ち始める。蜜腺に貯えられた蜜が、お腹を仄かにぷっくりと膨らませる。
「……ふふふ……瑛ちゃぁん……」
私は少し乳を揉んで、ほんのりと蜜を乳首から絞り出した。出された蜜を人差し指に着けて、顔を擦り付け続ける瑛ちゃんの目の前に出す。
「……?」
指先を不思議そうに見つめて、くんくんと嗅ぐ瑛ちゃん。媚香で充ち満ちたこの部屋の中でも、蜜の甘い香りは神経を擽るような素敵なものとして認識されるのだ。
ねっとりと時間をかけて地面へと落ちていく蜜。瑛ちゃんは、落ちる前に舌を出して、蜜を舐め取った。
刹那――!

「――!!!!!!!!」

瑛ちゃんの目が大きく見開かれた。背筋はこれ以上無いほどに伸ばされ、体全体がぷるぷると痙攣する。取り戻したように見えた瞳の光が、次第にその色を変えていく。狂気ともとれる、一途なそれに。
下半身はもっと凄いことになっていた。愛液が滝のように溢れ出して、私の体に、蔦に大量に降り注いでいく。太股はねばねばとした液体で覆われて、部屋の床にも淫らな水溜まりが形成されていく。お尻からもおしっこが溢れ出して、地面をさらに濡らしていく……。
私の蔦が自然とそこに群がっていく。表面から貪欲に吸い取っていくのだ。そうして――。

「…………」

私を――私の乳を見つめる瑛ちゃん。その目はギラギラと輝いている。もう、私の蜜以外の事は全く考えられないんだろう。粘液と蜜で彩られた顔に、いつもの瑛ちゃんらしさは全く無かった。
「ふふっ……」
私は乳を寄せ上げ、ゆらゆらと揺らす。濃密なフェロモンと一緒に、蜜がぷっくりと先端に溢れる。それを目にした瑛ちゃんは……何の躊躇もなくそれにかぶり付いた。
「〜〜ッ!――〜―ッ!」
「あっ!あはっ!いいのっ!もっと!もっとぉっ!」
声になら無い喜びの叫びをあげながら、一心不乱に胸にしゃぶりつく瑛ちゃん。まるで獣のように力任せにしゃぶり、顔を胸に押し付け、乳首を噛んで、蜜を舐めとり喉に流し込む。その刺激に私はさらに蜜を産み出して、彼女の中へと流し込んでいく……。
搾乳されてない方の胸からは蜜が垂れ流され、私の体に黄金色の川を作っていく。時おり激しく噴射して、瑛ちゃんの髪や顔、胸に輝く雨となって降り注いでいく――!
「あはんっ!瑛ちゃん!瑛ちゃあん――ッ!」
搾乳の快感を味わう私の中で、本能とも思える衝動が膨らんでいく。それは私の意識を飲み込んで同化しながら、体を次々に変化させて、支配していく――!
私の両手が、大量の粉に覆われていく。花粉を一気に生成したのだ。そのまま私の右腕は瑛ちゃんの秘所へと向かっていく。左腕でしっかりと体を引き寄せながら。
そして既に愛液でびしょびしょになっていた秘所に――私の右手を挿入した。
「〜――ッ!」
微かにぶちぶちと言う音がした。処女膜を破ってしまったらしい。とろとろと流れる愛液に、一筋の血液が混じる。
とても痛かったらしく、瑛ちゃんが強く乳房に噛みつく。中で溜まっていた蜜が一気に流し込まれる解放感と、じんじんと広がる痛気持ちいい刺激に、私の体はさらに蜜を産み出していく。
「んあ……んあぁあぁあっ♪」
背中の蔦がうねうねと動き、思い思いの行動を始めた。
「――〜ッ!〜ッッ!〜―〜〜ッ!」
あるものは失禁してすっかり濡れてしまっているアナルにその体を潜り込ませ、奥へ奥へと進んでいく。またあるものは私の乳に巻き付くように進んだ後、瑛ちゃんの胸の、それも乳首の中に体を差し込もうとした。他の蔦も、今左腕がしているように私と瑛ちゃんを引き付けたり、太股に巻き付いて粘液を擦り付けたり……。
「〜〜〜〜ッ!!!!!」
その度に瑛ちゃんはびくびくと痙攣して、愛液をどばどばと吹き出していく。その間も、私の右手は膣壁の中を擦って、大量の花粉を塗りつけていった。
「んあっ♪んあぁあっ♪あぁああああああんっ♪」
蔦を通じて、私の中に色々な感覚が伝わってくる。
「(あぁっ……瑛ちゃんのアナルの中、とってもあったかいよぉ……胸も柔らかいし、乳首がキュウキュウ締め付けてきてぇ……肌もとても柔らかいしぃ……太股もむっちりして素敵……♪)」
あらゆる快感に酔いながら、私はありったけの花粉を瑛ちゃんの膣の中に残した。抜き取ったとき、手に付いた血は肌から吸収されていく。'初めて'の血は、甘くてほろ苦くて……とても不思議な味がした。
「――!!〜!!〜ッ!」
「んあぁっ♪あぁっ♪あはぁああっ♪あんっ♪(あはっ!耳の穴が、耳の穴ほじほじするのいいのっ!暖かくていいのぉっ!)」
二本の蔦が、瑛ちゃんの両耳の穴にずるりと入り込んで、くちゅくちゅと粘液や蜜を塗り付けていく。頭に近い場所の刺激に瑛ちゃんはがくがくと震え、花粉が混じった愛液を噴出する。アナルではぐぽぐぽと蔦が動いて、瑛ちゃんの排泄物を呑み込んでいく……。

――どぐんっ……!――

「!!!!」
お腹の中で高鳴る湿った音が、私にその時が来たことを知らせてくれた。言い様の無い喜びに満ちた私は、無意識のうちに静かにお腹を撫で始める。
「あぁ……♪はんっ♪」
――あぁ、ようやく瑛ちゃんに幸せを与えられる……♪
子宮の中で、蜜の中を掻き分けるように何かが伸びていく……とくんとくんと、原始の鼓動を響き渡らせながら。
「んっ……♪あっ♪あはっ♪」
子宮の入り口を押し開き、膣壁を蜜の潤滑を利用して滑り降ちていく。桃色の空気を纏いながら、体を通る茎を突き抜け――!

「んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああんっ♪」

ぶしゅっ、と盛大に蜜を吹き上げながら現れたのは、'花'の中をそのまま満たすような太さを誇る、一本の管だった。蔦と違って、先端がすぼまっていて、大きく開くことが出来る。
「はぁっ……はぁっ……うふふ♪」
心臓の音に合わせてぴくん、ぴくんと震える管に、私は愛しさを感じていた。中に、種が蓄えられているのが、内側からの圧力で感じられた。
ちゅく……と先端を瑛ちゃんの陰唇に当てる。瞬間、ぴくっと震えた瑛ちゃんが私の蜜をいっぱい飲み込み、同時に股間からはぷしゅっと潮を吹く。その拍子に、膣壁にこびりついた花粉の一部が管に張り付いた。
それを肌で感じた瞬間――私は瑛ちゃんの中に管を突き挿れた。

「――〜ッあぁあっあぁああぁああっっ!」

あまりの衝撃に乳首から――乳房から口を離し、瑛ちゃんは天に向かって狼のごとく叫んだ。口の端からは飲み込みきれなかった私の蜜が黄金の軌跡を描きながら地面へと落ちていく。その声に体をふるふると震わせながら、私はさらに差し込んでいく。
「あぁっ!いやぁ!いゃぁあ!こわ、こわれっ!こわれぇぇっ!えああぁぇあっあっあああっ!」
膣壁全体を摩擦あるいは圧迫するように突き進む管の感触に、瑛ちゃんはだだっ子のように激しく首を左右に振りながら体を捩っている。それが既に体に差し込まれた蔦による刺激を助長してしまい、さらに激しく動くことになる。結果として、止まらない刺激と快感の螺旋に取り込まれてしまう瑛ちゃん。
その刺激にうまく混ざるようなタイミングで、私は管を挿入していく。奥へ奥へ――そして子宮口を押し開いて、子宮内部への侵入を果たした。
「あぁあはぁはぁああああごほっ!ごほんむんぅぅぅ……」
背中の蔦が瑛ちゃんの頭を私の胸に押し付ける。叫び続けて傷ついた喉を、私の蜜が癒すように覆っていく。ずっと垂れ流され続けていたもう片方の胸の蜜、それがゆっくりと瑛ちゃんの喉に出来た傷を覆っていく……。
子宮に入り込んでからも、私の管はずっとびくん、びくんと震え続けている。いつでも中に放てる状態なのだ。管の表面には、これでもかと言うほどにこびりついた私の花粉。
――とくんとくんとくん――
「……あ♪」
私の子宮の中にある種袋が、種を一つ管に送り出したのだ。細かなヴァイブレーションを瑛ちゃんに伝えながら、種は管の中をどんどん進んでいく……。
「――ん〜――ッ――!」
瑛ちゃんはもう、ただ体を震わせるだけの人形のようになってしまった。幸せそうに蕩けた笑顔を浮かべて、目尻に涙を浮かべて蜜をちゅうちゅう吸いながら、弛みきったお尻から吸収しきれなかった蜜や腸液を私の蔦に吸い取られ、ぷるぷると体を震わせる存在。
私はそんな瑛ちゃんを、ただ愛しく思っていた。だって、今の瑛ちゃん――どこまでも幸せな状態だから……。
だから……この幸せがずっと続くように……♪

――どくんどくんどくん――

「――瑛ちゃんっ♪いくよっ♪いくよぉぉぉぉっ♪」
「――んむんぅぅんんんああああああっ!」

――ぐぽぅんっ――
「「ああああああああああああああああっ………♪」」

種が子宮に送り込まれた瞬間、私達の視界は、どちらも白く染まった……。




==翌日==

「おはよ〜……あれ?」
「……ぉはょ……ふぁ……」
今日も弁当を持たずに家を飛び出した私が一番最初に目にしたのは、いつになく寝不足そうな瑛ちゃんの姿。今まで全くそんなことは無かったのに……。
「瑛ちゃんどうしたの?すっごく眠そうだけど」
瑛ちゃんは、話しながら眠ってしまうんじゃないかって思えるくらいゆっくりした、らしくない口調で私に返してくる。
「んんふぁ……春南ぁ……それがね……昨日の夜からずっとこんな感じなの……ぁぁ……食欲もなかったし……体も何かだるいし……眠ってもまだ眠いし……」
「風邪じゃない?」
「そう思って計ってみたけど……平熱だったの……」
再び大あくびする瑛ちゃん。その瞳は、本当に微かに緑が入ってきているのが、私には分かった。
「そっかぁ……」
私は内心、幸せな気持ちで一杯だった。瑛ちゃんが、だんだんと幸せになっていくだろう日々が、私が幸せを与えていく日々が近付いてきていると感じられたからだ。
あの日、種を瑛ちゃんへと渡した私は、瑛ちゃんの記憶からこの出来事を消した。流石にやり過ぎたかもしれないしね。子供のような瑛ちゃんも可愛いけど、これから日常に暮らしていく上でも困るもの。瑛ちゃんのお母さんを相手にするには、私はまだ力が足りないしね。
だから私は、少なくとも私がそうであったように急速には体を変えないつもりだ。少しずつ……少しずつ……私が十分な力を蓄えられるようにしながら瑛ちゃんを『しあわせ』にしていく。今までのありがとうの分だけ、ありったけの感謝の気持ちを込めて『しあわせ』にしていくんだ。
そして……飛ばそう。『しあわせ』の花粉を。増やそう。『しあわせ』を。
「……ふふふっ♪」
「……?どうしたの?春南……」
「ううんっ、何でもないよ」
笑顔でごまかしながら眺めた空は、雲一つ無い晴天だった。まるで、これから訪れる『しあわせ』な日々を祝福してくれるかのように、それは燦々と輝いていた。




放課後。瑛ちゃんは相変わらず眠たそうにしている。でもそれは仕方がなかった。だって……中で種がゆっくりと……ゆっくりと育っているから。ちいさなちいさな『しあわせのたね』。それが瑛ちゃんの体に混ざって、大きくなっていくから。
本当だったらずっと『しあわせ』な時間を瑛ちゃんには過ごしてもらいたいけど、それは難しいもんね。だから……♪
「……瑛ちゃん……♪」
「ん……?な……に……あれ……この……かお……り……」
私は今日も、微かに擬態を解いて、媚香を瑛ちゃんに嗅いでもらう。首の辺りに移動した瑛ちゃんの種が、媚香を気持ちいい香りとして認識させる。普通だったら体がむずむずする香りだけど、種のお陰で睡眠香として認識されるのだ。
「ふふふっ……」
甘い甘ぁい香りを吸い込んで眠くなってしまった瑛ちゃんを抱き抱えて、私は今日も家に帰った。桃色に染まった空気の中、花の中で眠っているお母さんを横目に、私は擬態を完全に解く。そのまま私の部屋に入ると、秘所をぱっくりと開いた。
濃縮されていた桃色の香りが空気中に拡散した次の瞬間、体の中に蓄えられていた蜜がとろとろと溢れ出し、秘所の中にとぷとぷと満ちていった。蜜の香りを目覚めの香りと認識した瑛ちゃんは、体を軽く震わせ、ゆっくりと瞳を開いていく。
ボンヤリとした瞳は、私を見つめても大して何も変わらなかった。ただ……何かを期待するような、爛れた笑みを私に向けるだけ。
瑛ちゃんの体は覚えているのだ。昨日の快楽を、しあわせのじかんを。そして――甘い甘い世界を。
「うふふ……♪」
私は瑛ちゃんに向けて大きく股を開いた。たまっていた蜜が私の蔦や足を伝って流れ落ちていく。
瑛ちゃんは四つん這いになって私に近付くと――そのまま蜜の泉に顔を突っ込んで舐め始めた。
ぺろん……こくっ……ぺろん……こくっ
舐めては飲み込んで、舐めては飲み込んでと、辿々しく飲み干していく瑛ちゃんの頭を、私はゆっくりと撫で始める。
瑛ちゃんは嬉しそうに目を細めると、そのまま一心不乱に蜜を飲み続けた。
私はそんな瑛ちゃんの頭を撫で続けた。
今日与える蜜が尽きるまで、いつまでも……いつまでも。

fin.




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