私が目的の集落に到着したのは、日も高く上がった昼間の事だった。しばらく鬱蒼として湿度の高い森林の中を歩き続けていたからだろうか、日の光を浴びるのが非常に気持ちいい。
このまま昼寝してしまおうか……そんな考えも過ったけど、まず私にはやることがある。急いで目的の家に行かなければいけない。
きっと、かなり待たせているだろうから。
「まさか、街道が封鎖されているとは思わなかったからね〜」
旅人にとっての交通の要所となる街道が、先の大雨によって山が地崩れを起こして通行不能に。仕方なく私はなるべく通行することの望ましくない森の中を通っていったのだ。これなら相手を待たせる誤差の範囲内で村に着ける、そう考えたからだ。
結論から言って、その考えは正しかった。街道は今も塞がったままであり、森の中の魔物は比較的おとなしいものばかりだったのだ。
ただ――不思議なことがあった。森の中で一晩を明かした後、何故か空腹が満たされており、口の中には森の香り、そして……。
「……何だろう、この粉……こほっ、こほっ」
服や体に降りかかっていたのは、砂粒よりも小さいキノコ色をした塵だった。汗ばんだ私の体に吸い付いて固まったそれを、私は近くの水場で軽く洗い流す。
口の中にも軽く溜まっていたので、口を濯いで洗い流す。砂を口に入れたようなざらざらした感覚は無かったが、それでも若干の違和感は残った。
「……」
今思い出しても、不思議なことが起こるもんだと、妙な感心を抱いてしまう。まるでキノコが勝手に歩いて私の口にでも入ったのだろうか?それとも誰かがキノコを私の口に入れたのだろうか?
「………ま、いっか」
考えていてもしょうがない。私はそのまま、脚を目的の家に向けて進めていった……。
――――――――――――――
「お姉さん、お久しぶり」
「わ〜い」
「ミキお姉ちゃ〜ん」
お目当ての家――つまり私の実家へと帰ると、早速弟のマルタとその子供達の歓迎を受けた。子供達は子供の無邪気さそのままで私の脛に体当たりしてくる。
「無事で何よりだよ。街道が地崩れで封鎖されたって聞いたから、どれだけ遅れたりするんだろう、どれだけ危険な道を通ってるんだろう、って心配だったんだよ……」
「ははは……まぁそこは色々と抜け道とかを通ったんだけどね……」
適当に誤魔化しつつ返事をした私に、マルタは「姉さんらしいや」とこぼす。姉さんらしい……どんな風に見られてたんだろう……?
ん?あれ?
「ねぇマルタ。チコリさんは?」
チコリさん、と言うのは、つまるところマルタの奥さんである。以前来たときは、線の細い綺麗な女性がマルタの横に立っていたんだけど……今日は見かけない。どうしたんだろう?
「………」
マルタは相変わらずの顔だ。だけどその影が――どこか濃い。表情の裏に、何かを抱えている。そんな感じがした。
マルタは静かに黙ったまま、先程より低い声でぼそりと言った。
「……立ち話も難だし、まずは上がって、子供達の相手でもしてやってよ……」
「………」
私は何も言えなかった。まさか、チコリさんが私が今さっきまで通って来た森で、行方不明になってしまったなんて……。
「……」
マルタは静かに、自分に言い聞かせるように語っていた。
「………数日前から、何と無く様子はおかしかったんだ。どこか落ち着きがないし、僕を見るとそわそわし出していた。変だな、とは思ったけど、それまでだった。でも――」
『森の中に、晩御飯を採ってきます。心配しないでください。すぐに帰りますから――』
「――彼女はそう言って森に向かい……そのまま帰ってこなかった」
「………」
「もちろん僕も探したよ。でも……見つからなかった。足跡、衣服や、生活の痕跡すら全く見当たらなかった。……あの辺りは雑草でも丈夫だからね」
静かに俯いて、どこか自嘲気味に話すマルタ。多分、どこかで力が及ばなかった事を嘆いているのだろう。
「……その事を、あの子達には……?」
マルタの息子と娘は、今は隣の部屋で眠っている。昼間、私と遊んで疲れきったのだろう。私達の会話に、起きてくる気配もない。
「当然、言ってないさ。遠い国に出掛けていて、暫く帰らない。でもいつかは帰ってくるって誤魔化して――今までやって来た」
だが、とマルタは続ける。子供達だって馬鹿ではない。いつか……いつか悟ってしまうかもしれないだろう。チコリさんが、帰ってくることはない事を。その時に、マルタはどのように子供に伝えられるだろう?
「……正直、僕だって信じたくはないんだ。チコリが……あのチコリがもう帰ってこないなんて……」
弟が探すのを諦めたのは、他の街人の説得だったらしい。それがなければ彼は、今でも森の中を探していただろう。
「………」
そんな弟に対し私が出来ることは、ただ沈黙を守ることだけだった。そうして時間だけが過ぎていく……。
宛がわれた寝室に向かうとき、私はマルタにこの事を子供達に黙っておく事を誓った。マルタは「助かるよ」と一声、そのまま異様に重たい足取りで部屋に戻っていった。
その背中を見送って、私が寝室に入り、布団に倒れ込んだ、瞬間――
ず ぐ ん っ !
「!!!!????」
ハンマーでも直接ぶつけられたような衝撃が、私の中から発生した。心臓がそのまま皮膚を突き破って出てしまいそうな強烈なそれに、私は思わず胸を押さえてしまう。
「うっ……あぐっ……!」
胸を張り裂かんとするばかりに脈動を繰り返す胸。痛みすら感じる鋭い鼓動に、私は叫ぶことすら封じられ、ただ悶え苦しむ事しか出来なかった。
「あが……はぁ……はぁ……ぅぐ……」
次第に脈が速くなっていく。脈の痛みはやや収まったけれど、それでもまだじわりじわりと続いている――!?
「――ぁう……!?」
ず ぐ ん っ !
「………はぁ……っ!?あぁ……っ!」
――アツイ!アツイアツイアツイアツイッ!
心臓が再び大きく収縮した瞬間、私は体の中で小さな爆発が起きたのが分かった。まるで超新星。あるいはビッグバンが発生し、人体という小さな宇宙の中で幾億もの命の熱が生まれていくのだ!
「あぁ……っ!?はぁ……っ!?あはぁ……っ!?」
ガソリンに着火したように、私を猛烈な勢いで燃やしていく炎。体から汗が吹き出し、寝間着を、布団をびちょびちょに濡らしていく。その感覚が気持ち悪くなって、自然と服をはだけ始める。
布地に包まれていた肌は軽く桃色をしていて、玉のような汗が浮かんでは肌を滑り落ちていく。口から吐き出される息は、さして涼しくもない筈のこの部屋で白色に染まっていた。
――ずくっ……とくっ……ずくっ……とくっ……
「あっ……ぁあっ……」
今まで野盗や風俗の男達のそれすら受け入れたことの無かった股間が、心臓に合わせて脈打ち始める。脈打つ度に、スリットの内側にびっしりと詰まっているだろう肉がきゅんと物足りなさを体に伝える。内なる炎に焼かれて空っぽになった私の心は、そのもどかしさを拡張して体全体に発信した!
「あっ!あぁあっ!」
体が、柔らかな痺れを走らせる。自分で触れた場所すらもどかしく感じてしまう。布団の幽かに毛羽だった、そのチクチクする感触にすら、私は小刻みに体を震わせ、息を荒げる事しか出来なかった。
もじもじしながら擦り寄せた股から、くちゅくちゅと何かが撹拌される音が響く。下の唇が呼吸する時、淫らな涎を垂らしてしまったらしい。下着は徐々に重みを増し、吸いきれなかった愛液が太股を伝って布団の中へとその身を潜らせていく……。
「あ……あは……」
空っぽな心が、全て情欲の炎に包み込まれてしまった私。全てを焼き尽くした後、私の中で燃え続けるそれは、優しく、暖かく、でもどこまでも貪欲で……。
「……おとこぉ……」
おとこ……男が欲しい。男のお〇ン〇ンを私のお〇ン〇に挿れたい。壊れるくらい抜き差しされたい。そのままびゅくびゅくと放たれる精を体に取り入れたい。美味しい精をお腹一杯食べ……。
思考が明らかにおかしくなっているのに私は気付かなかった。寧ろそれが自然だと考えるようになっていた脳は、私の記憶にある男の中で、一番私の理想に近い男を私の眼前に映し出した。
「……まるたぁ……」
まるた……そう、マルタが欲しい。男が欲しいけど、何よりマルタが欲しい。一つになりたい。じんじんする私のアソコでマルタのそれを優しく包んであげたい。そしてマルタの子種を、私の中で受け入れてあげたい……。
うるんだ視界のまま立ち上がると、私は熱に浮かされたように戸を開けて、マルタの部屋に向けてふらふらと進んでいった……。
――――――――――――――
マルタの部屋は私の部屋の向かい。子供達の部屋の隣だ。いざとなったら壁を壊して部屋に入ることが出来るようになっているらしく、部屋同士の壁は薄い。その代わりしっかりした支柱と外壁がこの家を支えているらしい。
「あはぁぁぁぁ………」
私は、マルタの部屋の前に立つと、そのまま倒れ込むようにドアを押し開けた。
「!?ど、どうしたんだ姉さん!」
マルタはいきなり全裸で入ってきて、顔を熱らせて自分を見つめる私に、驚いているみたいだった。どうもまだ寝ていなかったみたい。
「ふふふ……まるたぁ……」
塀の上を歩く猫のように、私はゆっくりと一歩一歩進んでいく。自分が想像すらしたことがないような淫らな笑みを浮かべ、ちろりと舌を出す。大して無い胸を寄せて谷間を作り、弟に見せつける。そのまま体にしなを作り、上目遣いで弟を見る。
既に私の股間は蜜を豊富に湛え、開きかけた筋からはとろとろと流れ落ち、足元に甘い軌跡を型どっていた。
「ね……姉さん……」
突然の姉の来襲と豹変に動揺しているマルタ。少しずつ、後ろに下がっていく。でもね……?
「あは……まるたぁ……わたしによくじょーしてくれたんだぁ……うれしぃ……♪」
「!?こ、これは……!?」
腰が抜けたようにベッドの上で後退するマルタ。その股間が潤んだ私の目から見ても明らかに盛り上がっている。まるで大木に根を下ろす茸のように……。
「あはは〜♪まるたぁ……ちこりさんとしていらい、ごぶさただったんでしょお……?」
とん、とマルタの背中から軽い音がした。部屋の壁にぶつかったのだ。丁度部屋の対角線上を私は進んでいたので、弟を隅っこに追い詰める形になった。
既に私の体からはほんのりと湯気が立ち始め、息ははぁはぁと荒く、まるで獲物を前にした獣のような状態になっていた。
「ね、姉さん!お願いだ!正気に戻ってくれ!僕達は姉弟だろ!こんな……交わる行為は色々とマズイよ!ねぇ!僕はチコリを裏切りたくはないんだ!お願いだから今やろうとしていることを思い止――」
マルタは私に必死で何かを叫んでいるけど、今の私には正直、どうでも良かった。それよりも今は――。
「あはぁ……っ、まるたぁ……」
マルタと一つになりたい。マルタの唇と私のそれを合わせて啄みたいマルタの乳首と私の乳首を合わせながら胸を押し付けていたいマルタの背中に腕を回してギュッと抱き締めていたいマルタの脚に私の脚を絡み付かせていたい私の中にマルタの逸物を招き入れてつがっていたいマルタの精液をせせ精液をわわ私の中に体の中に取り込んでいきたいマルタの傷を私が癒してあげたいマルタを私の愛で包んであげたい――思いは時が経つほどに激しく燃え上がり、体の中で蜜はその分泌量を増加させ、木の床へと降り注がれていく……。
「――まってくんむっ!」
もう耐えきれなかった私は、弟の背中に腕を回しつつ唇を押し付けた。そのまま唇を圧し割って舌を口の中に入れる。
「んく……ちゅぶ……んむ……」
ぬっとりとローションを塗り付けながら、私の桃色のナメクジは弟の肉洞窟の入り口を進んでいく。幽かに生暖かい空気に喜ぶ蛞蝓が、縦横無尽にその身を蠢かせていく……私の唾液が、心なしかいつもより粘っこい気がした。唇から歯茎、歯から舌の周りまで一続きの粘体生物が鎮座しているかのよう。ゆっくりとその身を震わせて、弟の舌に締め付けにも似た刺激を与えていく……。
「んむぅ……むんん……んちゅ……にゅぶ……ぷはぁっ♪」
自分と同じ形をした人形と戯れるのを止めた私の蛞蝓が、その瑞々しい唇から私の元へ帰ってくると、私はそのまま、マルタから唇を外した。別れを惜しむように、唇の間に糸の橋を掛ける唾液は、いつもよりもぬっとりと時間をかけて、マルタの喉元へと落ちていく……。
「……ぁっ……ぁっ……ぁっ……ぁっ……」
私のキスで、マルタは既に息も絶え絶えになっていた。頬は私と同じように赤く火照って、全身の力はすっかり抜けて、唇も笑顔のように見える緩み方をしていた。
抵抗する力がすっかり消えてしまったマルタの服を、私はゆっくりと脱がしていく。手足は何故かベトベトで、でもだからこそ服に吸い付いて、確実に脱がすことができるようになっていた。
ややぬっとりとした謎の液体で濡れ濡れになった弟の服を私は脱ぎ捨て、そのままズボンとパンツに手を付け始めた。
「や……やめれふぇ……」
呂律のまるで回っていない弟の言うことを無視して、私は無遠慮に弟の下着に手をかけていった。たまに弟がもがいていたけど、赤ん坊がぐずるような弱々しさしかなかった。
「ふふふ……まるたぁ……いいきのこねぇ……ちこりさんがたべたくなるのもわかるわぁ……」
目の前で見事に反り立っている弟の逸物を、私はしげしげと眺める。血管が浮き出た野太い茎、傘の部分は茎に影を作り、柔らかな曲線を描くカリ、そして亀の先端は小さな唇が期待に震えるようにパクパクと蠢いている。
「ちっ……チコリの事をっ……そんな風にっ……言うんむっ!」
チコリさんを侮辱したと思ったのか、マルタが私に向けて怒鳴ってきた。仕方ないので唇を合わせて黙らせる。そのまま先程と同じことを繰り返し、弟の心を何とか落ち着かせた。……疲れさせて黙らせた、とも言うけど。
「ふふふ……ほんとにすてきなきのこねぇ……」
左手で竿の太さを感じつつ、右手で自らの受け入れる穴を解す。既にパクパクと口開き、ねっとりとした愛蜜をベッドの上に糸を引かせて垂らしているそれは、私がほんの僅かに入れた指先ですら、貪欲に吸い付き、出る筈のない精を求めていた。
「んあっ……あはっ……ふふふ……」
『下の口』という表現そのままに指をしゃぶる秘所は、口を開くとまるで唾液のように愛液の糸を引かせ、貪欲さを眼前に示している。
「――はぁ――はぁ――はぁ――」
マルタの息は既に上がっていた。もはや私の相手をする余裕すら無さそうだった。
つまり――受け入れるなら、今。
「ふふふ……いただきまぁす……」
私はそのまま、マルタの逸物を自分の中に招き入れた!
「――!?」
一瞬、自分の居場所が分からなくなった。目の前の景色がライトニングの呪文を使われたかのように明滅して、体も貫いた場所から、徐々に痺れてきて……そのモヤモヤとした感覚が体全体まで広がっていく……。
視界の中でマルタは、いつもより動きがゆっくりして見えた。――いや、それは私の腕も?
「――あ――」
……どこか遠くの場所で、聞き覚えのある声が響いた気がする。非常に気持ち良さそうで、聞いている自分も逝ってしまいそ……う?
私の喉が震え、口も大きく開いていた。つまりこの声は……私。
その事実に気付いた瞬間――!
「――あああああああああああああああはぁぁぁぁぁぁぁぁんっ♪♪♪」
私の中を、一筋の電撃が駆け抜けた!発生元は、私の股間、子宮の手前、膣の辺り。つまり、マルタの逸物と私の膣肉が隣接して擦れ合う場所。そこから体全体に放たれる雷電は、私の意識を一気に焼き尽くし、私の本能にあることを焼き付けていった。それはすなわち――!
「あああああっ♪せいしぃっ♪せいしほしいのぉっ♪んあああっ♪そそいでぇっ♪びゅくびゅくだしちゃってぇっ♪あはああああっ♪」
声を出す元気すら逸物にすべて吸い上げられているマルタ。目は大きく見開かれて、瞳は恐怖と驚愕に彩られていて……でも口許は弛み、口の端からは涎が垂れ、顔全体は火照っていた。そんな彼の逸物に、私は頭に浮かぶ限りの方法で刺激を与えていった。
大きく腰を振り子宮口まで一気に逸物を招き入れたかと思うと、腰を捻りながら膣を動かして、雑巾を絞るようにマルタのそれを圧迫する。そのまま緩急をつけて上下動をしつつ耳元で喃語を呟いていく。
時おり耳たぶを噛み、耳の穴を舌でほじる。ゆっくり離すと、耳と舌の間に粉が混じった糸が引かれ、ベッドの上で私と弟を繋いでいる。
「――!――〜――!」
声にならない声で叫び悶える弟。声になる筈の音すら精液として貯えられ、びゅくびゅくと私に受け渡している。私の体は聖なる白を受け入れる度に悦びにうち震え、締め付けをさらに強めていく……!
びゅく………びゅるるっ!……びゅるるんっ!
「んっ♪んああっ♪んああはあっ♪」
精が私の中に吸い込まれていく度に、私の中で何とも言えない感覚が育っていく……それは体の奥底から、少しずつ体のあちこちに根を張り巡らせていって、体の中を満たしていく――!?
「はぁっ♪あひぁっ♪あははあっ♪あははぁぁぁっ♪」体が私を焼き尽くすような猛烈な熱を下腹部に集めた刹那――!?
「んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ♪」
私の体は絶頂に達した。同時に結合部から大量の愛蜜が泡立ちながらも流れていき、マルタの逸物の周りを覆っていく………。ねばねばとした蜜が、マルタと地面を繋ぎ止めている……。
「……あ……ふぁ……ふぁぁ……♪」
絶頂の余韻で力なくくたりと倒れている私。ただその体の炎は今だ消えることなく、私の体に広がっていって――私を変えていく……!?
「んあぁあっ!」
か、体の中から何かが膨らんで――!
「んぁぁっ!あ、頭が………ふぁぁぁぁあん!」
――頭から突き出ようとしている!同時にピリピリと何かが破けているような音も響いている。いや、それは幻聴!?
頭が破裂してしまいそうになっている筈なのに、私が感じているのは快感であり、どうしようもない程のもどかしさだった。まるで窮屈な場所に私が閉じ込められていて、そこから出ようと必死でもがいているような――!
解放される瞬間は、あまりに呆気なかった。
ぽふん、と湿ったポップコーンが弾けるような音がしたと思うと、急に私の視界が暗くなった。何かに光が遮られたみたい。
「はふん……」
糸が切れたように、私は前のめりに倒れ込む。その足先を、何か糸状のものがくるくると巻きついていく……そのまま、糸は地面に絡み付いて、私の体をくくりつけていく……。
そしてパラパラと、頭から粉状のものが私に降りかかってきていた。解き放たれた衝撃から潤んでいた瞳で眺めると、それはどうやらキノコのような色をしているらしかった。
「………?」
熱に浮かされたように思考が定まらない私。一体私はどうなっているのか、頭が全く働かなかったのだ。
ぼおっとする……何かが……何かが足りない……寝起きのように、頭に血が上っていないのだ。そのまま、何をするわけでもなく呆けたままでいる私に、
『その声』は突然、語りかけてきた。
『マルタを……起こしてあげて……』
「……まるた……を……」
ふやけた私の頭は、その声を自分が下した命令のように感じ、そのまま体に伝えた。
体を折り曲げて、地面に倒れて気絶したままのマルタを抱き抱える。そのまま元の起立姿勢に戻った。上半身に身に付けていた衣服に手をかけ、そのまま剥ぎ取っていくと、そこには日々の労働で培われた、立派な胸筋や腹筋が見てとれた。背中に回した手の感触から、背筋も相当の筋肉がついているのが分かる。
『そのまま……私の中に……挿れてあげて……』
意識を失いながらも、マルタの逸物は雄々しく隆起し、蓄えたものを吐き出さんとピクピク震えている。
――受け入れてあげなきゃ
股間辺りに力を入れると、私の陰唇は大きく開き、そのまま彼の陰茎を受け入れた。
「んあはっ……♪」
ぬぷぷ……と淫らな音を立てて、子宮に届くほど奥にまでマルタの陰茎を飲み込んでいく私の膣。彼の分身が奥へ奥へと招かれるほどに、私の心は不思議と高鳴っていった。
『マルタを……私に……縛り付けて……』
言葉が聞こえるのが早いか、私の両手は一度くっ付けて離すと、掌や指の間にねばねばした糸が引かれるようになっていた。背中に回した手をマルタの脇の下から通して、私の背中にくっつける。そしたら私の背中と掌の間にも糸を引くようになっていたので、先程と逆ルートで同じことをして、マルタの背中でまた掌をくっつける。それを何回か繰り返すと、私とマルタの胴体は、私の体で作り出された粘糸によって縛り付けられた。つまり、私とマルタは立ち交わったまま離れることが出来なくなったのだ。
『ありがとう……お礼を……あげるね……♪』
私の行為に『その声』は満足したらしい。その心情が私の中に染み渡っていって、何だか満たされたような気分になって……。
――ぽんっ♪
「あふんっ♪」
先程と同じような、何かが弾けるような音がした。同時に感じる小さな衝撃。それは肘の辺りで発生していた。私がそちらの方に目を向けると、ちょうど肘の関節辺りから、私の体と同じ色をしたキノコか生えていた。いや……私の肌がキノコの色に……?
「……あふぁ……♪あふんっ♪あはあっ♪あひゅうっ♪」
解放感から夢見心地でいた私から、次々とキノコが産まれていく。手の甲、指の先、膝、太股、尾てい骨の辺り……。産まれる度に私の体に与えられる刺激に悶え、膣を思いきり締め付ける私に、マルタは次々に精を放っていく……。
「……あはっ♪」
顔以外の場所であちこちに生えたキノコが、パラパラと肌と同じ色の粉を落としていく。それらは開け放たれた窓から吹く風に乗って外に飛び出し、集落の方へと漂っていく……。私はそれを眺めて、無性に嬉しくなった。これで私の子供が増えるんだ……って。もう、私の意識はキノコと同じだった。
「――あっ♪あはぁんっ♪――」
「――お、お姉ちゃん……ボク……もうっ――」
隣の部屋でも、マルタの子供達が私と同じように交わって、精を受け渡していた。声から推測するに、仲良くやっているようだ。
『ふふふ……』
頭の中で響く『声』は、絶頂と解放のあまり放心状態にあった、私の意識に優しく語りかけてきた。
『ねぇ……少しだけ……体を貸して?』
「……んあふ?」
体を……貸す?そんな事――。
『出来るのよ。私達は――ね』
わたし……たち?
私達って、などと動かない頭を働かせようとしていた私は――突然、体の感覚を失った。そのまま、視界だけそのままに、指一本すら動かせなくなる。
『うふふ……』
「………?」
あ……あれ……その視界すら……落ちていく……?
闇に……。
くらく……。
あ……。
――――――――――――――
「………あれ?」
再び瞼を開いたとき、私が居たのはマルタの部屋じゃなかった。
森。それもどこか見覚えのある、懐かしい気配のする森。私はこの風景に見覚えが――。
『――はぁっ!はぁっ!はぁっ………』
「………?」
誰かがこっちに近付いてくるみたい。けど私の足は地面に深く根を張っているのか、動くことができない。尤も、動く意味もないのだけれど……。
『……はぁっ……はぁっ……はぁっ……』
走ってきたのは……人間の女性――だけどその体の中は、私と同じようにキノコになろうとしていた。
『……はぁぁっ……ふぅ……』
その女性は木に手を着くと、そのまま倒れるようにへたり込む。走り続けて限界が来たのもあるけど――。
『……くっ……あぁっ……いやぁっ……あんっ……はふんっ……』
股の辺りを押さえて体をピクピクさせている彼女。間違いない。体に根を張っているキノコが発情させているんだ。
『……いあっ……あはっ……駄目……ぇ』
頬を上気させて、身体をくねらせながら、次第に腕をスカートの中へと伸ばしていく。穿いていた下着を自ら下ろすと、既に満開に華開いた秘部との間には、粘菌による糸が絹糸のように揺れていた。幾束にも重ねられた糸を伝って、愛液が下着を目指して進んでいく。そのうち幾つかはネットリと糸を伸ばして、地面に着地し、小さな液溜まりを幾つも形成している……。
『あぁっ……う……うぐ……けほっごほっ!』
咳き込む口から溢れ出したのは、キノコ色をした細かな粉末だった。つまり、彼女の体内にいるキノコが、彼女の体を胞子を出せるように変化させたのだ。
『げほっごほっごほっ……うっ……うぐぅっ……』
激しく咳き込みながら、彼女は泣いていた。予測された事態が、たった今発生してしまったのだ。もう彼女は人間ではない。つまり、もう人間の里には戻れない、と……。
『うぐっ……うぅ……ぅぁっ……』
涙をポロポロ流しながら、彼女は体のキノコの意思通りに服を脱いでいく。スカート、上着、そして靴……。靴を脱いだ彼女の足の裏には、根を彷彿とさせる突起が幾つも盛り上がっていた。
それらは意思を持っているかのようにぴくり、と震えると、もたれ掛かっていた木の根にその身を突き刺した。
『あぅぅ……ぁは……はぁ……』
さらに、彼女の両脚からも似たような突起が現れ、そのまま伸びて脚を一つに纏めるようにシュルシュルと巻き付いていった。三分かそこらで、彼女の両脚は膝下から先は一つに見えるようになった。中で何やらぐじゅぐじゅ音がしているのは、彼女の体が分泌する粘液が擦れ合っている音だろう。
時が経つにつれて、次第に肌の色がキノコのそれに近付いていく彼女。それに従い、彼女の声の調子もゆっくりと変化していった。
『はぁぁ……ぁはは……はぁぁ……』
足元からとくん、とくんと音がしている。木に張った彼女の根っこが、ゆっくりと栄養を吸い取っているのだ。同時に、彼女にとって不要な、木にとっての養分が、ゆっくりと木に流し込まれていく。その緩慢とした流れは、キノコとなった彼女に温もりを伴った快楽を与えるのだ。
『あはぁ……はぁん……はぁぁ……』
彼女が身をくねらせ、息を荒げるにつれて、辺りには彼女の胞子が大量にばら蒔かれる事態となった。幽かに黴のような独特な芳香を放つ胞子に囲まれて、彼女の体はさらに快楽信号を処理していく――!
『はぁっ……はぁっ……はぁぁぁぁぁんっ!』
突然、彼女の体は大きく仰け反った。体の奥底から、原初の生命の響きにも似た巨大な脈動が発生している。体が作り変えられ、内側から何かが膨れて、張り出そうとしている。
口からは大量の胞子が溢れだし、肌からは粘り気のある汗が身体を覆っていく――!
『ふぁっ!?ふぁ!?ふぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
彼女がひときわ大きく叫んだ瞬間、ぽふんと言う音と一緒に、頭の上から巨大なキノコの傘が、頭を髪の上から包み込むように出現した。
『ふぁぁぁ……』
窮屈さから解放されたように、ふにゃりと力を抜く彼女。前のめりに倒れるはずの体は、いつの間にか木との間にくっついていた菌糸によって直立のままだった。
とくん、とくん。足元では相変わらず、吸い上げる音がしている。その音に合わせて、彼女の体もとくん、とくんと音を鳴らしているみたい。
『はふぅ……はふぅ……』
彼女が呼吸をすると、胞子が撒き散らされると同時に体のあちこちで何かがむくむくと盛り上がり始めた。やがてそれは傘を広げ、ぽんっと言う軽やかな音と共に一本のキノコになった。ただし――普通のものより大きかったけれど……。
『……ふぅ……』
息が完全に調って、ゆっくりと上げた顔に、先ほどまでの悲しい表情は見てとれなかった。そこにあったのは、与えられた快楽が作り出す幸せそうな放心状態を体現したような顔。頬を伝っていた涙は、辛うじて見える、といった程度であった。
彼女はそのままゆっくりと目を閉じて、静かに眠り始めた。すぅ……すぅ……と初めのうちは呼吸をしていたけれど、やがてその呼吸の音すら聞こえなくなった。木漏れ日で、酸素を補給出来るようになったからだ。
とくん……とくん……。
静かな脈動が、森の時を静かに刻んでいる………。
――――――――――――――
「………」
彼女――チコリさんの姿を眺めながら、私は一つ、ため息を吐いた。今の私と一緒の、キノコになった彼女。マルタの所に帰れなくて当然だ。同時に、どうして出ていったのかも想像はつく。
多分、吸ってしまったのだ。このお化けキノコ――マタンゴの花粉を、どこかで。そして、マルタを、娘息子をお化けキノコにしたくないがために、自ら家を出ていったのだ……!?
「!?」
だとしたら……私は……もしかしたらとんでもない事をしてしまったのでは――!?彼女が守ろうとしたものを、知らなかったとはいえ、意図しなかったとはいえ変えてしまったのだから……。
「………」
私……私は……。
『……いいえ、これは私のせい』
「!?」
呆然自失となっていた私に、突然話しかけてきたのは、キノコとなって、今先程眠りについた筈のチコリさんだった。瞳の色はすっかり変わり、指と指の間からは菌糸が伸びている――。
彼女は私の方へ向き直ると、そのまま微笑みを浮かべた。
『ごめんね……。貴女の事を変えたのは……私よ』
それはとても悲しい微笑みだった。大切なものを失ってしまったような、ぽっかりと穴が開いた微笑みだった。
「……」
私はその微笑みを見て、何も言えなかった。本当だったら、ここで「どうして」と聞くものなんだろう。けど――。
『どうしようもなかった……と言えば嘘になるわ。抑える事が出来たかもしれない。でも……』
彼女は口を動かすことなく、私に声を伝えてきている。別にチコリさんがエスパーというわけじゃない。キノコになった私達だからこそ出来ることなのだ。
「……寂しかったんだよね?」
首を縦に振った彼女に、私は静かに微笑んだ。そのまま彼女に『伝え』続ける。
「私達マタンゴは、何時でも何処でも意識が繋がっている。特に、胞子を与えたもの同士は、互いに体を貸し借りすることが出来る。チコリさんはそれを使うことで、またマルタに会おうとしたんでしょ?」
私の体を使って、マルタとまた過ごす……人間的に考えれば確かに身勝手だけど、マタンゴ的には仕方ない。だってみんな気持ち良くなりたいから。その気持ちを我慢できる筈無いんだから。
『ええ……』
顔を伏せたまま、彼女はぽつぽつと伝えていく。
『あの森で貴女の姿を見て……マルタへの気持ちが蘇ってしまった。どれだけ抑え込んできて、ようやく抑えきれたと思ったところで――思いを抑えられるわけ無かったのにね』
解き放たれたように笑う彼女。私の思いまで『読み』とって、私に彼女を責める気がない事を感じ取ったのだろう。
「でも今は――今は会いに行けるでしょ?」
『ええ。貴女も、私に体を貸してくれるわよね?』
断る筈はなかった。彼女の願いは、もはや私の願いも同然だったからだ。
彼女が願えば、私も願う。
彼女が求めれば、私も求める。
そうして普段はのんびりと過ごしていく。それが私達、マタンゴとしての過ごし方――。
――――――――――――――
「あぁっ!マルタっ!マルタぁぁっ!」
「ぁっ!チコリぃっ!イクっ!イクよぉっ!」
「まるたぁっ!だしてぇっ!わたしのなかにびゅくびゅくってだしてぇっ!」
「ああ!ぁ!ちこりぃっ!ちこりぃっ!」
びゅるびゅるる〜ぅっ!どくびゅぶゅるばぁぁぁっ!
「「あぁああああああぁぁあああああああああああああああああっ!」」
ほわぁっ……。
ふぁさっ……ふぁさっ……。
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ここは静かな森の中。私はチコリさんの体を借りてのんびりゆっくりと過ごしている。
相変わらずチコリさんはマルタと交わっている。かれこれ一週間近く交わり続けて、よく体力が続くなぁ、と関心もしてしまうけど、それだけ離れていたんだからしょうがない。それに、相手が私だからこそ激しくなかったけれど、マルタ自身のエッチは、とても激しいのだ。チコリさんがキノコの胞子を吸って数日後に私と同じように求めた時、マルタは彼女の中に何度も精液を注ぎ込んでしまったらしい。それが彼女の変身のきっかけだった。
「……ふみゅう……」
時おり体に流れてくる水の心地よさに、思わず私は欠伸をしてしまう。まるで心臓の音のようにとくん、とくんと注ぎ込まれる命の水。それを体に行き渡らせながら、私は旅人がこちらに来ることを願いながら、何度目か分からない眠りにつくことにした。姪っ子が私の中に来ると、とても騒がしくなって寝れないからね……。
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数ヵ月後。街道の少し外れにある集落から連絡が途絶えた。原因究明のための調査団が数名向かったが、マタンゴの胞子を見つけたことから即時帰還した。
現在この集落は、マタンゴ達の愛の巣と化しているという。
fin.
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