男が瞳を開けると、そこは白い世界が広がっていた。
別に雪景色と言うわけではない。雪景色なら、この半袖とパンツ一丁の格好では、男は一晩で確実に凍死していることだろう。それ以前に、そもそも男は仰向けだ。部屋の壁紙が白ならばそれまでだが、本来の部屋の天井は木製で、ペンキも塗られていない。
なら、この白は一体何だと言うのか。
そう言えば、と男は思う、先程から耳の辺りで妙な音が、正確なリズムを刻んでいる。男はそれが、心臓の音のようにも聞こえた。規則正しく、一定のリズムをずっと響かせている。これがダンスの4つ打ちの乾いた響きならば、男は消し忘れたCDプレーヤーを止めてしまえばいい。が、男が今耳にしているビートは、生命を感じさせるような、ねばついて湿ったある種不快な感触をもって、彼の耳に触れ続けていた。
(一体、何なんだ………)
視界が戻るまで男は待った。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
驚きのあまり男は、声を失った。

糸。
それも蚕のようなサラサラした糸と、ネバついた糸、それが絡まり合いもつれ合いながら天井を支配していた。
布団の端にもその一端は貼り付き、男が布団を引こうとするのを、適度な弾力をもって妨げていた。
「い、一体何だ――」
引き攣った表情のまま辺りを見回した男は、右を見た瞬間、今度こそいよいよ固まった。


巨大な繭。
天井まで軽く届く大きさを誇る繭が、男の部屋の1/4を占拠していた。

どくんっ………どくんっ………

やや呆然とする男の前で、繭は心臓のように、大きく脈動を繰り返す。辺りに樹の根よろしく張った糸が、まるで繭に栄養を送る血管であるかのように、脈動に引きずられ伸縮を繰り返している。
その中には、当然のように誰かが――!
そこまで考えて男は気付いた。この部屋には、もう一人寝ていた奴がいた事を。そして、そいつの寝ていた位置は、まさに繭の真下に埋もれている事にも――!
「※※!」
男は弟の名前を呼び、部屋に陣取る繭に飛びかかろうとした。中にいるのは弟で間違い無い。ならば、早く繭から出さなければ、大変なことになるに違いないという、本能的な判断からの行動だった。
だが、


「おイタは感心しないわぁ、ボク」
どこからか、妙齢の女性の声が響くと同時に、男は飛びかかろうとする体勢のまま、体を動かすことが出来なくなってしまった。
何が起こっているのか、男には全く理解できず、ただ必死で、体を動かそうともがいたが、その事が逆に、男から体の自由をどんどん奪い取っていった。
「うふふ…………頭悪いのね、ボク」
またどこからか声が聞こえた。だが、もがきまくった末に男が動かせる場所は、既に首しかなくなっていた。両腕両足は、既に何かにぎちぎちに締め付けられてしまっていたのだ。
「だ……………誰だ!」
首を左右に振った男だが、声の主らしき姿は見えなかった。糸が音を反射しており、正確な位置を掴むことができない。
「うふふふ…………」
声の主は怪しげな、その実奥ゆかしそうな笑い声をあげると―――

しゅたっ!

突然男の目の前に落ちてきた。
「はろ〜♪ボクちゃん」
無邪気に男に告げる彼女。絹のように滑らかな肌、一重瞼、整った顔立ち、ややつり上がった眉、艶のある黒髪は肩を越して腰辺りまで伸び、細くしなやかな腕、一般基準よりもかなり大きめな胸、くびれた腰と、見つめだけで男の心を奪い取ってしまいそうな上半身を持っていた。
しかし腰から下、彼女の下半身は、先端が鈎爪状になった、黄色と黒のストライプである八本の足と、同じ色を持つ短い毛に覆われた巨大な柿の身状の腹部といった、紛れもない蜘蛛の形をしていた。
あまりに常識を外れた風景に、男の脳は完全に悲鳴を上げていた。
「ふふっ………折角くるんであげたんだからさぁ………邪魔しないでぇ?」
甘ったるい声でこう口にしながら、蜘蛛女は自身の足で男の数少ない衣服を切り裂いた。今や男は、何も身に付けていない状態で縛られている。
「あらぁ………何とも情けないオチンチンねぇ………」
「ぃ、ぅぅぅ………」
いきなり裸にされ、その様子を見つめられる恥ずかしさと、己の今だ勃ってはいない息子をけなされる屈辱、さらに縛られている様を見られると言う環境から、男は何も口を開くことが出来なかった。
男が恥ずかしがり、身をくねらせる様子をじっくりと眺めながら、蜘蛛女は細い指先を近くの糸一本にかけ、そして、
びぃん
と弾いた。

「!!!ぁぁあっ!」

突然、男の体に電流が走ったかのような刺激が押し寄せる。相手が何をしたのか、男には見えていない。
蜘蛛女は、男を見つめたまま、目の前の糸をひたすら弾き続けた。
びぃん!びぃん!
「あぁっ!あぁあっ!」
蜘蛛女が一回糸を弾く度に、男の体に電流を流されたような快感が走った。先のもがく行動により、男の性感帯に糸が貼り付き、糸の振動によってそれが一気に刺激されたのだ。
「ふふふ………いやらしいの。こんなに大きくしちゃってぇ………」
蜘蛛女の視線の先には、快感のあまり膨らみ始めた男の海綿体が、さらに自己主張を行っている姿があった。
「やぁっ、やめれふれぇ………」
快感のあまり、舌が徐々に回らなくなって来ている男。
「もっとして欲しい?えっちなのねぇ、ふふ…………」
男は涙目と共に首を横に振るが、蜘蛛女は笑顔で黙殺した。
「じゃあ…………こんなのはどうかしらぁ………?」
そして両手を張り巡らされた糸に近付けると―――!

びぃん!てかてんてかてんてかてん…………

「あぃああぃあっ!ぃぃいあああぃあっ!」
蜘蛛女は糸を抓み上げ弾き、押し弾き、引いて弾き、拍子やリズムをつけながら弾く。その度に、男は様々な嬌声をあげた。高く鳴く声、引きつるような声、絞り出したような声――それは、男を楽器に見立てての、蜘蛛女の遊びの様にも見えた。
その遊びの最中も、男の分身は膨れ上がり、繭と同じようにびくん、びくんと脈打ち始めている。
「あらあら………よく鳴くわねぇ………女の子みたい。ふふ………情けないの、ボク」

既に涙目の男を馬鹿にしたような口調で語りかけながら、蜘蛛女は男のペニスを見つめ――
「ちょっと、動くのを止めてもらいましょうか」
と一声、手をその場所にかざした。次の瞬間。

しゅるしゅるしゅるっ!
ぎちっ!

「うぐああぁっ!」
女の掌から大量の糸が発射され、男の逸物にきつく巻き付いた!射精する可能性があったそれの脈動すら封じる程の力で縛られ、男は激しい痛みを感じ、とってくれと叫ぼうとした。だが――
(――声が出ない!?)
いくら喉を震わせても、それが音として空気中に拡散されない。ただヒューヒューという、空気が漏れる音だけが響くのみだ。
「叫ばれても面倒なのよねぇ…………他の生物はどうせ来ないけど、発育には良くないのよ……」
人指し指を自身の頬につけながら、蜘蛛女は考えるポーズのまま呟いた。
「だ、か、ら、弱々しい苦痛の声とあえぎ、快感を感じてる声しか出せない様にしちゃった♪」
「―――!」
あえぎ、感じる声しか出せない、つまり、この部屋の外に音は絶対漏れないと言うこと―――!
絶望の色に染まりゆく男の顔を見つめながら、蜘蛛女は舌舐めずりをした。
「さぁて………そろそろ抱いてあげましょうかしら………」
蜘蛛女が糸の何本かを引っ張ると、男の体は壁の糸まで引きずられ、そのまま壁に張り付けられた。ダヴィンチが描いた、人体図のような滑降で……。
「―――!―――!」
徐々に迫ってくる蜘蛛女に対し、男は涙目で逃げ出そうとする。しかし、「来るな!」と言おうにも、彼の咽はそれを許してはいなかった。許されていたとして、蜘蛛女がそれを聞き入れるかはまた別の問題だが。
「ふふふ………さぁ、お姉さんに全て預けちゃって………?」
やがて彼の首元まで蜘蛛女が迫ると、そのまま彼の背中にまで腕を回した。背中に張り付いた蜘蛛の糸は、不思議なことに彼女の手に触れると液状化して、背中にねっとりと付着した。
「ああぁはぁ………」
そのぬめぬめした感触に、男は思わず快感を覚えてしまう。先程まで、完全にねばねばしていたというのに………。
「ふふふ………気持良いのでしょう?もっと絡まれたいのでしょう?変態さん」
口で男を嘲りながら、蜘蛛女は背後に回した手で背中をまさぐる。
ぬちゃあ………、にちゃあ………
男の背中で鄙猥な音が響く度、液状化された糸は広がっていき、やがて男の背中は全て白く染まってしまった。
「あぁ………、あはぁ………」
その一方で、男の意識にも少しずつ白いもやがかかり始めた。蜘蛛女による淫らな背中の愛撫、そのぬるぬるとした感触に、思わず心を委ねてしまいそうになっているのだ。完全に委ねるとき、それは男が射精してしまうときである。しかし――
「………はぅぐぁっ!」
ある程度のところまで登りつめると、ペニスに巻き付いた糸が一気に収縮し、射精を妨害する。尿道まで溜った精液が逆流する痛みに、男は弱々しい苦痛の声を漏らした。
その間にも背中は快感を男に伝え、精巣は精液を産み出そうとフル稼動してしまっている。
その様子を満足そうに眺めた蜘蛛女は、悪戯な笑みを浮かべて尋ねた。
「出したいの?ボク」
男は何も言わなかった。いや、言えなかった。本来人間が持つ限界量を遥か越えた精液が尿道近くに溜り、少し圧力を加えるだけで陰茎が破裂してしまいそうな状態である。男は、痛みのあまり弱々しい声すら全く出せないでいた。
本能的に下半身を蜘蛛女に擦りつけて糸を剥がそうとする男の様子に、
「これ以上やって壊れちゃったら、私としても困るのよねぇ………」
そう言うが早いか、蜘蛛女は男の元に近付き、自身の巨大な尻を持ち上げ、先端にある糸つぼを男の目の前まで持ってきた。
「だ、か、ら」
くぱぁ………
男の目の前で糸つぼが、粘ついた音を立てて開いた。中には糸の原液がぬらぬらと光り、濡れた無数の襞がやわやわと男に誘いかける。
痛みに意識を奪われていた男は、蜘蛛女の行動に対して顔すら動かせず、その顔すら蜘蛛女の手によって真正面を向かされ固定された。
「抜いてあげるわ、ボク」
その声が、男の耳に入ったかどうかは分からない。


どぷぅぅぅっ!
ぬちょぉ!ぐちゅっ!にゅじゅっ!にゅるっ!
「あぁっ!ああああああああああああぁああっ!」


びゅるるるどばっじゃああああああああああ!


糸つぼに糸が触れた瞬間、それらは液状化して男のペニスにまんべんなく塗り付けられた!それらは糸つぼ挿入の際の潤滑油となり、痛みを消すことで男の快感をさらに増幅させる――!
無数の襞になぶられ、揉まれ、暖かな原液が皮の内側まで塗りたくられ―――!
まさに瞬殺。水道管が破裂したような勢いで、男の逸物はスペルマを蜘蛛女に叩き込んだ。
「あはぁぁ………んふ、美味しいわよ、ボク」
体の中に男の精力が染み渡っていくのを感じ、女は甘い吐息を漏らした。その吐息は一種の催淫成分を含み、まともに吸い込んだ男の逸物は、一般では考えられない程に膨らんだ。
「ふふふ………もっと頂戴?あなたの精を……」
蜘蛛女は、巨大な蜘蛛の尻を前後に動かし始めた。

ずちゅっ!ぬちゅっ!ずりゅっ!ずちゅぅっ!

「あああああああああっ!」
襞の一つ一つが、ペニスを撫で、つまんでやわやわと押し潰し、引っ張り上げ、その度に蜘蛛糸はぬるぬると絡まり、ぎちぎちと引っ張り―――あまりにも強烈な蜘蛛女の吸引に、限界を越えるスピードで産み出され、吐き出される精液。そして吐き出される度に男の体には強烈な電撃が走る。既に男の目は焦点が合っていない。口をだらしなく開き、荒くなった呼吸と、女のようなあえぎ声を絶え間無く蜘蛛女に聞かせている。
それを聞いて蜘蛛女は、さらに腰の動きを早めた。心なしか、頬を幽かに上気させながら――。
やがて、衝動に満ちた性交にも終りが来る。
「あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
体内の精液を全て出し尽してしまい、男は力無くうなだれた。その体は、心なしか一部縮んでしまったように思える。あれだけ強烈な快感を与えられ続けたのだ。気を失わないのが奇跡である。
その一方で、男の分身は体に与えられ続ける快感に反応し、脈動を繰り返していた。まるで心臓のように一定のリズムを繰り返すペニスを、蜘蛛女は愛しそうに糸つぼでこねくり回した。
「………ふぅ。ん〜、そろそろかしら………ね?」
その言葉の意味を男が理解できたかは分からない。ただ、音がしたから顔を向けたのだろう。幽かに霞んだ視界の中、男の目に映ったもの、それは―――。


繭。
弟の布団に根を張る、巨大な繭。
純白の揺り篭が今、その身を強烈に震わせていた。

どくんっ!どくんっ!

「あ………あ…………」
男は絶望的な声を漏らした。あの中にいるのは弟。それは間違いない。では、この脈動は何だ?何が産まれようとしている?
表情が蒼白となった男とは対照的に、蜘蛛女はうっとりとした表情で繭を見つめていた。知らず、下腹部をその手で撫でながら………。
「ふふふ…………さぁ、出ておいで、出ておいで……」
まるで我が子に語りかける母親のような声で、繭に話しかける女。
その声に反応したように―――。


ビリィッッ!


繭が一気に内側から引き裂かれた。中から何やらピンク色の液体が流れ出し、部屋に小さな水溜まりを作り出す。
そして、繭から現れたのは―――。


「………お兄ちゃん」


それは、確かに弟ではあった。
だが、同時に――完全に弟ではなかった。
ショートだった茶髪は腰まで伸びた黒髪へと変わり、男特有の顔の角ばった調子がなくなり、ほんのりと丸みを帯び、やや小麦に近かった肌の色は、頬が朱色に染まるのが分かるほどに白く、絹糸で織られたかのようにきめ細やかだった。
AAどころの話ではない胸は、今や通販でしか買えない特注のブラが必要となるほどに巨大であり、しかも垂れていない。興奮しているのか、乳首はピンと立っていた。
そして一番の変化は―――下半身。

弟は、蜘蛛女に変化していた。
緑と紺の縞模様に彩られた鈎状の脚が八本、同じように彩られた、巨大化した蜘蛛の胴体から生えていた。一番前の脚と脚の間にある胴体の中心には、幽かに筋が入っており、そこから何やら透明な液体が、糸を引きながら流れ出している。

「おにいちゃん…………おにいちゃん………」
うわ言を呟くように、あるいは熱に浮かされたように男を呼ぶ弟――いや、最早妹か。繭の中の液体で濡れた髪がみずみずしさを訴えかけながら左右に揺れる。
蜘蛛女として産まれたばかりの妹は、脚がうまく動かせておらず、ぎこちない進み方しか出来ないでいた。その様子を微笑みながら見ていた女は、妹の元に近付くと、その豊満なバストで妹を優しく抱き締めた。
妹は嬉しそうに目を瞑ると、その果実に身を任せた。やわやわ、ぷにぷに、うにうにと形を変えながら、人外の巨峰は妹の頭を受け入れ、むさぼるように飲み込んでいく。
「はい。よくここまでこれまちた。ごほうびでちゅよ〜」
妹の顔を離すと、女は乳首を妹の口にくわえさせ――その乳を少し揉んだ。
ビュッ、と音がして、母乳が口の中に入れられる。妹は喉を鳴らしてそれを飲んでいく。二人――あるいは二匹の姿は、まさに親子、それも母親と赤ん坊のそれであった。
「んく、んく、んく…………ぷは」
暫く母乳を飲み続けた妹は、乳首から口を離すと、先程よりも更にうるんだ瞳を女に向けた。
「………まま♪」
そして甘えるように、また乳の間に顔を埋めた。スンスン、と女の香りをかいでいる。女の媚香で、自分を満たそうとしているかのように――。
女はそんな妹を、ただ優しく撫でるだけだ。濡れた髪の毛をとかし、首筋をなぞって、そしてぽんぽん、と後頭部を優しく叩いた。
やがて胸から顔を離した妹は、女の顔を見つめた。女も妹の顔を見つめ――二人して、淫らに微笑んだ。そして――。
「んく………ちゅ………くちゅ………ちゅる………ちゅぱ………」
唇を重ね、互いの唇に舌を割り込ませる。二匹の赤いナメクジは思い思いに互いの口内を蹂躪し、淫らな水音を立てながら絡み合い、その身を絡ませ合っていた。
「んう………くちゃ……くちゅ…………んんっ!」
妹がくぐもった声をあげた。女が、妹の体にあるスリットを撫で始めたのだ。同時に舌を激しく吸いあげる。
「んお……おおんっ………おんっ!」
負けじと腕を伸ばし、女の巨大なスリットに手を当て、そして――
「!んんうんぅっ!」
今度は女が声をあげる番だ。妹の手が、スリットの内部にまで侵入したのだから。
しなやかな指先、その一本一本が女の体内を這い回り、なぞる。幽かにでも触れられる度、女の中には電撃が走っていた。
無論女も反撃する。スリットをなぞっていた指の一本を、男を誰も招いたことのない、淡いピンク色した内壁に向けて優しく突き出した。
「んぉんんっ!」
処女膜を破かないように、慎重に妹の体内を動き回る女の手。互いが互いに、肌色の蜘蛛を互いの体内に植え付けて遊んでいる風景。
一撫でする毎に、「んんっ!んんっ!」といった声。びくんっ、びくんっと小刻に震える体。
そして、互いに同時に舌を甘噛みした瞬間。

「んんんんんんんんんんんんんんんっっっ!」

びしゃああああぁぁぁっ!
しゅるるるるぅぅぅぅぅっ!

蜘蛛女二匹は同時に絶頂を向かえた。
二人の秘部からは大量の愛液が滝のように流れ出し、糸の上に媚香を放つ水溜まりを形成する。
そして二人の糸つぼからは、大量の糸が放出され、この部屋の目につくところを、全て糸で覆ってしまった。
「………ぁ、………ぁ、………ふふふ」
絶頂を向かえた二人は、顔を離すと見つめ合い、そして優しく微笑みを交した。親子の愛情を、確認した合図――二人の笑顔には、そんな意図が込められていたのだろう。

妹に、しかも蜘蛛女に変化した弟が、変化させた張本人である蜘蛛女と、睦み事を一心不乱に行う様を一部始終見せられた男の心中は――最早停止していた。
状況に着いていけないパニック、人ならざる者へと弟が変化したショック、そして睦み事の激しさのあまりに感じた――官能的衝動。
その全てが、ただでさえ蜘蛛女に犯され衰弱していた男の精神に、決定的な一撃を加えた。
視界は完全にぼやけるあまり白色しか見えず、口は半開きのまま涎を口の端から垂らしていた。
ぽたっ。
糸に涎が当たるのを、蜘蛛女二匹は敏感に感じとった。
「ふふっ、ボクちゃんも感じたいのね?」
返事を与える間も無く、女は男に近付くと、縛り付けていた糸を全て液状化させ体に浴びせた。そして体を抱いて部屋の真ん中辺りまで移動すると、
「ねぇ、真ん中に張り付けない?」
同意を求めるように妹に話しかけた。
「―――うんっ!」
気色満面、純粋な笑顔を浮かべ返事をした妹は、掌を男に向け――。

しゅるるるっ!バシィっ!

放たれた糸は男の両腕に絡み付くと、そのまま天井に張り付いた。更に妹は糸を放ち、男の両足を中に浮かせたままで固定した。
全身白濁となった男は、部屋の真ん中に張り付けにされたような格好――いや、張り付け以外の何物でもないだろう。
「さぁ……、いらっしゃい。体の隅々まで犯し尽してあげるわ。で・も・その前に――」


女は男の口に自身の乳首を含ませると、先ほど妹にしたように母乳を噴射した。無抵抗に燕下していく男。その味は――甘く、しかしどこか舌先を痺れさせる味わい。
「ふふっ………赤ちゃんみたいでちゅね。何て無様な姿なのかちらぁ……」
言葉で嘲りながらも、女は男に母乳を飲ませるのを止めることはなかった。男も、気付けば自分からその巨大な果実をむさぼり食おうと、乳首に噛みついて、体を揺らして乳に顔を押し付けている。
そのまま一分ほど経った頃だろうか。
「……ぁっ…ぁっ…あっ、あっ、はあっ、ああっ、はああっ!」
突然、海老反りになって乳首から顔を離した男。腕や足を動かそうともがきながら、顔を左右に振り、体を左右にねじり出した。
「ああああああああああっ!」
それよりも注目すべきは下半身。男の分身が、完全に息を吹き返し、先端を新たに白濁に染め始めたのだ。
それを突き出すように、狂ったように体を動かす男を見て、女はますます淫らな笑みを浮かべた。
「ふふふ………惨めねぇ、私の乳に催淫成分があることぐらい、気付きそうなものを………頭悪いのね、ボクちゃん」
その横では、妹がうずうずと男の恥態を眺めていた。既に息ははぁはぁと荒くなり、股間のスリットからは愛液が垂れ始めている。
「ねぇ、ままぁ………」
妹は女の手を引き、もじもじとしながら呼び掛けた。女はそれに――悪戯な笑みで応えた。
「良いわよ。好きなだけ犯しちゃいなさい」
果たしてその返事は最後まで聞こえていたのか。
言葉が終らないうちに、先ほどのぎこちなさからは信じられない程の速度で男に詰め寄ると、妹は男の逸物を一気に自らの秘部へ招き入れた!
ぷち、じゅぶぅぅっ!
「ぃああああああああんっ!」
破瓜の痛みに若干顔をしかめたものの、自分の体の中に突き立てられた棒の感触、、何より自分の兄を犯すという背徳的快感から、妹は歓声をあげた。
「あああっ!ああああああぁあああっ!」
男も同時に歓声をあげていた。ただし、別の意味で。処女が今失われたばかりだというのに、妹の膣は熟女顔負けの――あるいはそれ以上の柔らかさと粘着性をもって、男のペニスを包み、揉みこみ、押し潰す。
入れた瞬間に、男の本能は悟ってしまった。――もう、完全に逃げられはしないことを。



びゅるるるぅ〜〜〜〜っ!



通常の人間以上の大きさへと変化させられた男のペニスが、熱くたぎったスペルマを妹へと叩き込む!
「あはああああああんっ!」
膣内に男の放出物が満たされていく充足感から、妹は再び歓声をあげた。そして、
「もっとぉっ!もっとほしいのぉっ!」
だだをこねる子供のように叫びながら、大きく腰をグラインドさせた。蜘蛛の下腹部を用いてのグラインドは、人間のそれよりも遥かに激しく動き――!
「ああああああああっ!ああっ!」
びしゃあっ!どぶゅりゅ〜っ!
一分も経たないうちに二回も絞り取られた男。しかし、魔乳の成分か、男の分身は今だ脈打ち、自己主張を激しくしている。
「ふふふ………いやらしいわ、ボクちゃん………ふふ……じゃ・あ・私も」
これまでずっと二人の性交を見守っていた女は、こう呟くと男の背後に回り込んだ。そして、
「ほ〜ら、こうすれば気持いいわよ」
液状化した自身の液を、豊満な両乳としなやかな両手両腕を使って男の全身に塗り込み始めた。
ぬるぬるとした液の感触に、やわやわ、むちむちとした人外な両乳の弾力性、そして塗り込みながら男の乳首をつまみ捻りあげたり、快感のツボを突いたり、性交中の棹を少し扱いたりと、レパートリー豊富な指の技巧――そのどれもが、男に対して柔らかな快楽を送り込んでくる。
「あぁあぁ…………っ!」
先程とはうって変わって、弱々しく甘い吐息を出しながら、男は精を妹に貢いだ。
前からは、妹による激しい搾精性交。
後ろからは、女による優しい愛撫。
動と静、硬と軟、二種類の快楽が体を駆け巡るなか、男はただあえぎ、よがり、精を注ぐことしか出来なかった………。


やがて、男の精が尽きかけたころ。
「ふふふ………本当に、この兄弟は可愛いわね。ふふふ………」
相変わらず無邪気に腰を振り続けている妹の髪を愛おしそうに撫でながら、女は自らの秘部に片手を突っ込んだ。そして―――。

ずりゅりゅりゅっ!

中から管の様なものを引きずり出した!
「ふふふ………さぁ………こちらの世界にいらっしゃいな」
呟きながら、女は自身の糸で、この管を軽く固定していく。そして、

ずにゅりゅううっ!

勢いをつけ、一気に男の尻に挿入した。元々そこまで固くはない管は、男の腸の形に合わせて折れ曲がり、奥の方までつっかえる事なく入っていく。完全に奥まで入れ終ったとき、管の先端は大腸と小腸の境目にまで達していた。
「アアアアアッーー!」
入れられた瞬間、男は何度目か知れない絶頂に達した。管に巻かれた糸は陰茎の表面の血管のように膨れ上がり、さらに糸の持つ粘着性が肛門の内壁を引っ張り、秘密の性感帯を擦りあげたのだ。
残り少ない精が、全て妹に捧げられたのだ。
男の絶頂後、もう精が出ない事を本能的に察知した妹は、男の額に軽くキスをして、接合を解いた。
妹の体液で簡易接合されていたペニスとヴァギナは、妹が手を触れるだけでいとも簡単に分かれてしまったのだ。
「まま♪」
そのまま妹は女の方へ、しゃかしゃか脚を動かして近付いた。女はそんな妹の糸の原液で濡れた髪を撫で、腰を前後に振りながらこう呟いた。
「ねぇ………私の糸つぼの中………掻き乱してくれない?」
妹は、喜びを隠し切れない様子で頷くと、モジモジしながら女の胸元を上目使いで見つめた。
「………ままぁ……」
「もう、甘えんぼさんねぇ。………いいわぁ」
視線の意味は分かっていた。女は少し体を横にずらすと、胸の片方を妹の口に近付けた。滑やかな表面には自身の糸がいくつも乗っかっており、淫らな気配をかもし出している。
妹は躊躇うことなく胸に飛び付いて、乳首に噛みついて母乳を飲み始め――。
「あぁはぁんっ♪」
女が突然嬌声をあげた。妹の手は、女の糸つぼの中へと伸びていた。
上では母乳を吸いながら乳首を犯し、母親と女の快楽を与える。
下では蜘蛛女の技巧を駆使して糸つぼを犯し、魔の快楽を与える。
その過程で、女は激しく腰を突き動かし、男に刺激を送り込み続ける。既に精を射ち尽した男は、はち切れそうなペニスに痛みを感じながらも、体内で蜘蛛の糸に引っ張られる内壁から伝わる、刺激的な快感にただあえぎ声を漏らすのみだった。

――やがて、
「あっ!あっっ!ああっ!あはあっ!」
女の管の根元が、ポッコリと膨らんだ。
その膨らみは、男の括約筋を押し広げると、徐々に体の中へと入っていき――。


「ああああはぁぁあぁぁああんっ♪♪♪」
「うああああああああああああああああああああっ!」


大いなる快楽と、弱々しい苦痛が入り混じる中――。




卵は、産み落とされた。




「…………ぁぁ、………ぁぁ、………ぁぁ、………………ぁぁ」
産み落とされて一時間、男は腹の中の異物感に悶え続けた。何かが腹を圧迫している、殻の向こうにいる何かが、殻越しに圧迫している感覚に支配されていた。

そしてそれは、現実の痛みとなって襲いかかる。

パキィ………ン………
男の体の中で、何かが割れる音がした。卵だ。ついに孵化してしまった。男の本能が焦り出した、次の瞬間。

ビュクンッ!
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
突然、腹の中で何かが脈動した!何かは内臓を犯しながら背中の方へと移動し―――!


ズクン!
「イィアッ!?」
脈動と共に突然、背中に巨大な管が浮かび上がる!それは脈動毎に背骨を伝い、首筋へと向かっていった!
脈動が起こる度に、男の本能は生命の――存在の危険を体に伝え、何とか逃れさせようと電気信号を走らす。しかし、もう遅い。
背中を伝う何かは、進むと同時に体の中に値を張り巡らせ、触れた部分の遺伝構成を変化させていく。男の脳からの命令は、その部分で途切れてしまうのだ。
「あぁアアアあぁアあぁ!」
脊椎に到達した瞬間、男の首から下の感覚は消失する。そして――


「アアアアアアあ――」
――後頭部に触れた瞬間、『男』はこの世から消滅した。


「――12・13・14・15・16・17・18・19・20――」
口を開いたまま硬直する、男だったものを見つめながら、女は指を折っていた。まるで何かを待っているかのように――。
「――、ふふふっ」
糸越しに何かの気配を感じた女は、母親の表情を初めて男に向けた。
次の瞬間。

ぴく。
男の全身が、幽かに震えた。

ぴく、ぴく。
その震えは。

ぴく、ぴぴく、ぴく。
徐々に大きく。


ぴく、ぴぴく、ぴく、びくんっ!
激しくなり――!





びくぅんっ!
しゅあああああああああああぁぁ――!


一際大きく震えた次の瞬間、男の全身は糸を放った。
口から放たれた糸は天井に当たり、体を固定した後で自らに向けて降り注ぐ。
肛門から出た糸は地面と自身を繋ぎ、足を猛烈な勢いで包み込んでいく。
両掌から放たれた糸は男の周りを回転するように取り囲んでいき――。


放ち初めて二分。男の吊されていた場所には、巨大な繭がしっかりと根を張っていた。





「ふふふ………ようこそ、ボクちゃん」
下腹部を撫でながら女が呟くと、その繭は不気味な脈動を始めるのであった…………。





どくんっ、どくんっ、どくんっ…………。






fin.




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