砂漠、それは装備無しには生存すらままならない苛烈な自然環境である。
昼。遮蔽物の無い空からは穂先の尖った光の槍が絶え間なく降り注ぎ、人々を灼熱と乾燥の渦に巻き込む。
夜。遮蔽物のない天が昼間投げた槍を回収し、灼熱の地を氷点の地へと一変させる。与え、奪う。この地では、全ての生物が熱によって支配されるのだ。
そして――滅多にないが故に恐ろしいのが……洪水である。何もつなぎ止めることがない力無き大地は、その恵みに耐えきれず押し流され忌むべき災禍に姿を変える。
世にある様々な理不尽を詰め込んだ地、人間の罪の象徴として膨張する地、それが砂漠である。
そしてその砂漠に――

「――ひゅー……ひゅー……」


――彼女は居た。
 年齢は高校生ほど。機能美を重視した、巫女装束を改造したような服を身に纏った、烏の濡れ羽色の長髪が美しい、元気溌剌な少女である――本来は。
だが、その髪は今や艶を無くし、凛とした顔には焦燥の色が強い。杖代わりにされた錫杖を握る手も、何処か弱々しい。
そもそも、彼女の服装は砂漠探索には不適である。にもかかわらず何故に彼女は砂漠にいるのか。

理由は一言。彼女は飛ばされたのだ。


――とある山に突如として出現した、得体の知れない遺跡。旧世代の遺物や未来から来たとしか思えない物質、或いは異世界からの渡来物、
そしてそれらの世界の出身かと思われる魔物達が跳梁跋扈する遺跡の調査に、彼女は赴いていた。
 幾つもの世界が複雑に絡み合い入り口を形成する場所で、美影は近未来の――謎の機械音がぎっちょんぎっちょん鳴り響く場所に足を踏み入れようとしていた。
無論調査の一貫として。ところが……足を踏み入れた瞬間、かちり、と謎のスイッチ音がしたかと思うと、周りの風景がモザイクのように別のそれに変わり始め


――気付けば、辺り一面砂地の、いや、砂地という表現すら生温い。砂と、空。
――砂漠に、転送されたのだ。

「(なんでダンジョン内やのに……砂漠が……)」


内心悪態を吐く美影だが、体力はその悪態すら吐けなくなりそうな段階にまですり減らされていく。先程までに比べ、格段に重くなる足。
一歩一歩の速度が格段に減少していく。錫杖はさらに深く埋まり、足が取られそうになりながらも、美影は出口に向けて、足を止めることはなかった。
上半身は力を失い、下半身と根性だけで前に進んでいる
――今の美影は、R.P.G.でいうHP赤点灯の状態であった。何とかして帰る、それが彼女を支える心理であることは間違いない。
だがそれは……他ならぬ彼女の体力によって裏切られることになる。

「――ずへぶっ!」


砂の微かな隆起、そこに彼女は足を取られてしまったのだ!顔面から見事に地面に叩きつけられる美影。しかし、彼女にはもう、起きあがる体力すら残っていなかった。
体をよじらせながら、何とか起きあがろうとする美影。しかし、その行為は微かに残った体力すら全て使い果たす行為に他ならない。
まるで蟻地獄に引き込まれる獲物の如く、もがけばもがくほど体を動かすエネルギーが奪い尽くされていく……。

「……う……ぁ……」


弱々しく漏れる呻き声を最後に……美影の意識は、闇に閉ざされたのだった……。
――彼女は、不運ではあるが、同時に幸運でもある。大魔王アリスの再来、と評されかねない不運の連続だが、それでいて彼女は……一度として命を失ったことはなかった。
例え、砂漠の真ん中で行き倒れ、干からびるのを待つ身だとしても――!

――ばふぅっっ!ずぼぉぉぉぉぉぉっ!

突如、彼女の体が砂に沈んだと思うと、次の瞬間、入れ替わるように巨大な生物が、砂漠の中から姿を現した!

「……?」


何処かぼうっとした様子で、口の中の'異物'を探る'女性'。ドレッドヘアーのような髪は肩口まで伸ばされ、砂漠の風にゆらゆらと揺れる。
何処かペルシャを思わせる顔立ち、健康的な褐色に染まっている肌は艶やかで、砂漠に咲く一輪の花、と誰かが形容してもおかしくはない。
両胸にサラシを巻き付け、丁度股間の辺りを前掛けで隠しただけの簡素な装備は、彼女のエキゾチックな肌を露わにし、飾り気のない美しさを見せつける。
両胸はサラシ越しでも分かるほど膨れ上がっており、中に物を挟んで移動することも出来そうである。上半身だけを見れば、人間的な視点で美しいとも思えることもあるかもしれない。
しかし……下半身は複数の節がある、ラバー質の、まるでミミズのようなそれである。柔軟性と弾力性に優れ、砂漠の乾燥に耐えられるような、特殊な粘液を纏っているそれは、
象すら呑み込めそうな程に巨大で、しかも砂漠の中に埋もれて見えないほどに長い。
 そして……大きい。いや、デカい。恐らく30km先から見ても普通に姿が確認できるのではないか。人間が彼女の人差し指ぐらいの大きさである。
そんな巨大な怪物――ヒュージワームと人間の融合体、便宜上以降はヒュージワーム娘と呼ぶ――は、今呑み込みかけた'異物'の存在を確認するために、舌を動かして巻き付け……口から出して掌の上に置いた。

「……」


砂粒と、彼女の唾液にまみれた'異物'――美影は、ぐったりとしたまま意識を失っていた。表情は何処か苦しそうであり……悲劇を覚悟したようなそれでもあった。
まじまじと見つめながら、生きているかを確認するために、さながら携帯電話でも持つかのように摘んで、耳元に寄せるヒュージワーム娘。
風に乗って伝わる美影の脈が、生存を彼女に伝える。

「……」

舌先に残った、美影の味を意識の中で反芻する彼女。体力が丁度尽きてしまった所だったのか、瑞々しい美味しさに満ち満ちていた。久々に味わった、新鮮な生物の'味'……。

「……」


ぺろり、と舌なめずりする彼女だったが、ふと待てよ、と頬に指を当て考え始める。これだけ'味'が美味しかったのだ。このまま食事にするのも、まぁいいかもしれない。
だが……それは勿体ないかもしれない。どうしてこんなことを考えるのだろう。今まで、美味しければそのまま食べていたのに……。彼女は戸惑いながら、自分の思考の奥底にある物は何か考え……。

「……あ」

思い当たった。それは、彼女の母親でもある先代のヒュージワームの、砂漠の主を譲り受けたときの言葉。その時は意味が分からなかった言葉だが……。

『――アンタは美味しかったんだよ。美味しくて美味しくて……美味しすぎたから私はアンタを娘にしたんだ。だから……アンタも美味しくて美味しくて……でも美味しすぎて惜しく思ったら、アンタも娘を持つときさ』

「……」


とくん、と、体の奥底で何かが呼びかけるように脈打つ。その脈動は、彼女の心の中にむず痒いような、甘酸っぱいような、それでいて暖かく優しい、今まで知らなかった感情を広げていく。
じゅん、と前掛けの向こうで、『口』がひとりでに開き、涎を垂らす。『いつかの時のために』母親に教えられて'ヒトリアソビ'をしていた時のように。
本能に忠実に、ほう、と溜め息を漏らしつつ、美影を胸に挟んで、彼女は前掛けを外し、ゆっくりと指を沈め始めた。

「……んんっ♪」


彼女の膣は人間のそれとは違い、まるでミミズのような繊毛が肉の代わりをしているかのように密集し、変幻自在にうねりながら差し入れられた指に絡み付いていく。ぬるぬる、ぬらぬらと愛液を塗り付けながら、根本から螺旋を描くように絡み、その身をすり付けていく。
繊毛一本一本から伝わる快感に身を震わせつつ、彼女はさらに深く、手を差し入れ、指を折り曲げる。無数の繊毛を生やした肉は、それ自身がかなりぷにぷにと柔らかく、押せば凹んでそのまま手を埋め込んで、ふにふにと甘噛みを加えていく。
指をしゃぶられている感覚と、敏感な部位を擦られる感覚に、彼女は体をゆらゆらと揺らすのだった。

「……んぁ……ん……♪」


いつもは繊毛は進入を妨げるように指を擦り上げていくのに、この時間だけは違った。まるで奥に奥に招くように動いているのだ。
快感に浸る彼女は、それが何を求めているのか、本能的に理解し始めていた。彼女の体臭が、甘酸っぱく変化し始める。時に胸の谷間から立ち上る香りは、嗅覚がある程度ある生物ならば思わず陶酔してしまうような濃厚な物になっていた。
胸に挟まれていた美影、その表情が……緩む。先程までの苦悶に揺れる表情が、緩和される。

「……っふぅ……っ♪」

それを知らず、ヒュージワーム娘はひたすら自慰に耽っていた。奥に、とにかく奥に手を進め、指を埋め込んでなぞり上げる。それだけで無数の繊毛は彼女の指に絡み付き、吸い付き、もみ上げて――!

「……んんん……っっ……♪」

潮を吹く彼女の膣。がくがくと全身で震えながら、彼女はすっかり柔らかくなり準備完了となった膣から手を抜くと、愛液に塗れた手を少し舐めた。

「……♪」


まるで蜜のような甘みを持つ愛液。例え地面が砂漠であっても、この愛蜜があれば植物が育つという。
彼女らが砂漠の主となるのは、豊穣を司ってもいるからだという。彼女はその手で……美影の服をひん剥くと、そのまま全身に塗り付けていく。塗り付けた側から、唾液に反応してか固まっていく。まるで琥珀に入った生物のように固められていく美影。
抵抗する様子も見せないまま……楕円形の愛液キャンディーに閉じこめられてしまった。


「……んん……♪」
くちゅり、と片指で陰唇を広げつつ、美影キャンディをその中に置くヒュージワーム娘。次の瞬間には、無数の繊毛がキャンディに絡み付いて、彼女の奥へ奥へと招き入れていく。

「……んっ……ぁっ……奥……にぃ……♪」


ずぶる、ずぶりと入る美影キャンディ。そのたびに彼女の膣は歓喜の声を挙げ、彼女の胸を高鳴らせる。とくん、とくん。彼女の奥底で喜びと期待の声を挙げる何か。もうすぐ、もうすぐだ……それは彼女の本能の声だった。
手淫で何度も逝った時よりも、遥かに充足し、そして悦ばしいと本能的に感じていた。ぐぷん……ぐぶん……。さながら深海へと潜る潜水艇の如く、美影の体は生命の海の深くへとその身を潜らせていく……!

――ぐ……ぶるん

「――んんんんんっ♪」


そして、美影の体が'何か'と接触し、取り込まれた瞬間、ヒュージワーム娘は歓喜のあまり、何もいじっていないにも関わらず、絶頂を迎えた!砂の上に甘い愛液が、さながら恵みの雨の如く降り注いでいく……。
遠い未来、この場所はオアシスになるかもしれないがそれはさておき。美影を迎え入れた彼女の秘所は、先程まで綻んでいたのが嘘のように、ぴっちりと閉じていた。まだ愛液に濡れた陰唇がキラリと筋状に光るが、それを特に拭いもせずに彼女は、再び前掛けを身に付けた。

「……ん……♪」

お腹の中に感じる、暖かな気配。それに微笑みつつ……彼女は再び、砂の奥深くに潜っていった。砂漠の主としての勤めを果たし、自らの巣穴へと戻るために……。



美影が取り込まれたのは……ヒュージワーム娘の子宮に数多ある卵子の内の一つ、特に魔力を含んでいたものであった。美影キャンディは、取り込まれた卵子の中で溶かされていく。その過程で、美影の意識も一瞬、朧気ながら戻り、夢現のままぼんやりと前を眺めていた。体は動かない。
まだキャンディの中にいるし、動かす体力は相変わらずゼロのままだ。感覚すら……下手をしたら怪しい。

「(……何や……ふわふわする……)」

美影の意識は、夢と現の狭間にいた。今この場所が夢なのか、それとも現実なのか、美影には全く分かっていなかった。

「(……あ、あれ……何やろ……)」

そんな美影の目の前に、ヒュージワーム娘の繊毛のようなものが近付いてきた。ぼうっとする美影の体に、何かを確かめるように先端を押し付けていく。

「(……くすぐったい……)」

微かにぬるっとする感触。けれど美影は、それに対する不快感は不思議と浮かんでは来なかった。寧ろ、何処か愛おしさすら感じるようになっていた。その間にも繊毛は美影の体に口付けを繰り返していく。ちゅっ……ちゅく……ちゅっ……ぢゅぐっ!

「(……!)」


臍のある位置に行き当たった瞬間、それは一気に美影の体に潜り込んできた!同時に皮膚や神経に根を張り、一体化する!
驚いた美影。だが動きはそれだけに留まらない。一体化が終了したそれが、膨張と収縮をゆっくり繰り返して、美影の中に暖かな液体を送り込み始めた!

どくっ……どくっ……どくっ……。

「(……な……何な……ぁ……)」


送られた液体は、血管を通じて全身を巡り、美影の体の中に取り入れられていった。その過程で、美影の意識はゆっくりと収縮していった。独特の浮遊感が安らぎに代わり、体が何か満たされていく感覚と共に……彼女の意識は闇に包まれた。
幽かに見開かれた瞳も閉じられ、少しずつ繊毛――管を中心に丸まるような姿勢へと変えていく美影。卵子の中、濃厚な栄養が詰まった羊水に包まれた彼女は、まるで胎児のようであった……。



美影は夢の中で、この砂漠の来歴を見ていた。
それは、代々ヒュージワーム達が見てきた歴史でもあった。元々この砂漠は、肥沃な大地が覆う文明発祥の地であった。そこに隣接した小規模な砂漠が、元々のこの砂漠の姿である。ヒュージワームも、当時はこの範囲のみで生活していた。
ところが、その文明が発展するにつれて、食料や木材が過剰に必要となっていた。自然が復活する速度以上のペースで伐採や焼畑を進めた結果、肥沃な大地はやせ細り、川は涸れ、ついに文明は滅び、手を付けなくなった土地は砂漠へと姿を変えていった。
こうして砂漠が広がるにつれて、ヒュージワームの生息圏も広がっていった。当時砂漠の土着神の化身として祀られてこそいたが、虫なのでそのような事を気にするはずもなく、本能のままに貪っていた。
土着宗教の教祖は、本能のままのヒュージワームを制御し、なおかつ神格化する為に、人間を生け贄とし、ヒュージワームと融合させる計画を立てた。生け贄には、身寄りもなく、信仰に厚く、滅びた文明に悲しみを覚えていた女性が志願した。
儀式の末、融合に成功し、ヒュージワーム娘は誕生した。
教祖が彼女に告げたことは、

『その身で、この地に豊穣を与えて下さいませ』


という願いと、生け贄に対する感謝。その日から、ヒュージワーム娘は各地のヒュージワームの長となり、土壌の改善を世代を超えて行っていたのだ。行き倒れた人間を、次の世代の為の生け贄にして。土を食らい、栄養豊かな大地にして出す。
この大地こそが彼女の食事であった。食らうのは何も土だけでなく、地表にある物も同時に取り込み呑み込んでいく。言わば彼女達は豊穣の女神にして、大地の掃除者でもあった。
そして、そのバトンは、今――美影に渡された。


ぐるぐると、卵子の中で回る美影。その卵子が、少しずつ大きさを増していく。同時に、美影の姿も、少しずつ変化を始めていた。びり、ぺりり……。美影を覆う皮膚が、少しずつ剥がれていく……。
その下からは、新たな質感を持った、新しい皮膚が現れ始めていた。濡れ羽色の髪が、皮膚と共に一気に抜け落ちる。美影の体の中で、ヒュージワームに似付かわしい新たな髪が生成されていき、産毛として生え始めている。
頭から腰回りまで、つまり上半身の皮膚はさらに艶めかしく、そして巨大に変化させるために古い皮を、人の皮を脱ぎ捨てていく。下半身は、腰回りと両脚とで、少々様子は違っていた。
腰回りは、秘所の形状はそのままに、上半身の人のような皮膚と混ざり合うような形でヒュージワームの皮膚に徐々になっていき、古い皮膚の下で節が細かく発生していく……。
両脚は、羊水の中に少しずつ溶けていく。同時に、秘所の下、両足の付け根の辺りからヒュージワームの体が生えていた。脱ぎ去った皮は、羊水によって栄養に変化され、美影の成長のための栄養に変えられていく……。
卵子――いや、卵の中で美影は脱皮と成長を何度も繰り返していく。時間の感覚はない。空間の感覚もない。ただ、卵の中で、少しずつ体を作り替えていくだけ……。

……ん……んぁ……♪

皮膚が剥け、新たな皮膚に変わること、それが美影にとって気持ちいいことであった。もっと、もっと成長したい……その願いを受け、卵の中で美影はどんどんと姿を変えていく――!


「……ふぅ……ふぅ……♪」

巣穴の中で、ヒュージワーム娘はその巨大な腹を膨らませ、荒い呼吸を繰り返していた。美影を呑み込んで、何ヶ月経った頃だろうか。人間にとっては長い月日でも、彼女達にとってはさしたる意味は持たない。時間の感覚が完全に違うのだ。

「……ふぅ……ふぁ……ん……♪」

ゆっくりと、膨らみを下に――虫の体の先端の方へと彼女は移動させていく。節くれ立った体が、ぐぐぐ……と一・五倍ほどに押し広げられていく……。

「ふぁ……んぁ……んんっ……♪」

彼女達の時のように、少しずつ、本当に少しずつ進んでいく膨らみ。それに合わせて――先端の窄まりが――くぱぁ、と花開いた。ずるり、ずるりと音が響き、膨らみが先端に差し掛かった……! ――ずじゅぢゅっ!

「――っはふぁぁぁ……♪」


砂がちの地面の中に、自身の体液にまみれた卵が一つ、優しく産み落とされた。産卵の快楽に震えるヒュージワーム娘の側で、すぐさまぱきり、と音が響く。孵化が始まったのだ。ぱきり、ぱきり。殻が頭頂から割れる度、中にいる彼女の姿が露わになっていく。
まず見えたのが、濡れ羽色の髪。だがそれは人間のそれとは違い、まるでワームが体から生えているような、それが髪を模しているような質感を持っていた。眉も、それに近い。
次に現れたのが、茶褐色の肌。親譲りのエキゾチックなそれらは、日の光から体を守るために付加されたものだ。
開かれた瞳は縦に鋭く、白目は金色であった。これはヒュージワームの特性らしい。そのまま人としてのパーツが上半身は出てくる。
胸を除けば、理想的なプロポーションを保っているようだ。そして卵が下まで一気に割れると――!

「――きゅう♪」

――そこに居たのは、鈴華美影の面影を色濃く残した、ヒュージワームの幼生体であった。

「……ぁ……んん♪」


沸き立つ愛しさに耐えきれず、ヒュージワーム娘は美影に抱きつく。そのまま乳を彼女の口に含ませた。
驚きながらも、幼生体の本能から吸い付く美影。授乳させながら、ヒュージワーム娘は美影の頭を撫でていた。驚きながらも、気持ちよさから目を細める美影。
彼女に、最早人間だった頃の記憶は残っていなかった。あるのは……今目の前で頭を撫でている母親の娘であるという認識と、彼女から受け継いだ、ヒュージワームの種族としての役割の記憶だけ……。

「……んん……♪生まれて……来たね……♪」

娘の頭を撫でながら、母親となった彼女は、娘をどう育てていこうかと、役割をどう伝えていこうかという母親の思いと……多大な魔力を持って生まれた娘への期待で、胸が一杯となっていた……。


――この後、彼女の期待通り、立派なヒュージワーム娘として成長した美影は、彼女の死を看取ると、砂漠を緑化させていき、雄性体の後継ぎを得て、その生涯を終えたという。
広域の砂漠の緑化を果たしたこの出来事は、『ヒュージワームの奇跡』として、環境活動家や植物系魔物達の間で、伝説として未来に語り継がれているそうだ……。

残念!彼女の冒険は此処で終わってしまった!

fin.







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