「気が付いた?」
女の人の声で、あたし――白池ゆいなは目を醒ました。これが母親か姉か妹なら、あるいは気の知れた友人なら安心できるところなんだろう――けど。
「―――」
残念なことに相手は母親でも姉妹でもない。そしてあたしに友人などいない。そもそも姉妹などいないし、母親も三年前から綺麗に蒸発中だ。
結論。どこをどう行き着いても安心できる筈がない。
「………気分はどう?」
そんなあたしの家庭事情を知ってか知らずか、目の前の女は『目が覚めた対象に語りかけるマニュアル』の定石に則った台詞であたしに話しかける。
「………最悪」
実際、寝起きは最悪だった。人の声で強引に起こされるのは、誰しも気分が悪くなるもの――。
――で、あれ?あたし、何で寝てたっけ?しかも今、何処に――
風が吹いた。この時期にしては少し冷たい風に、あたしは思わず腕を組もうとして――その腕が動かないことに気付いた。動かそうとすると、何かが反対方向へと引っ張ろうとするのだ。
あたしはそちらに視界をやろうとして――固まった。
「―――!」
本当に驚いた時、人は叫び声すらでなくなるらしい。
あたしは、服を全て脱がされ、全てさらけ出した状態で寝かされていた――だけならまだ良かった――いや、良くないか、やっぱし。
あたしの両足首は、何か糸状のものが巻き付いていて、あたしの脚を大きく開かせていた。多分、手首にも同じものが巻き付いているだろう。さらに、あたしの背中にも、同じ糸がべったりと張り付いて、その糸も放射状に広がっていて――!
信じたくはなかった。でも、今の状況を適当に表す言葉があたしの中に浮かんだ。
――蜘蛛の巣に、あたし、張り付けられてる!?――
「………あの、少しは返事してもらえるかしら?」
目の前の女性はパニクっているあたしに、少し戸惑い気味の声で話しかけてくる。でもあたしにそんな精神的余裕はない。
「え!ちょ、何よこれぇっ!何であたしは縛られてるのよ!」
あたしはじたばたともがこうとした。でも動くのは背中だけ。しかもその背中すら、蜘蛛の糸がだんだん貼り付いていき、次第に動きが鈍くなっていく。
あたしの頭は、この状況をもっとも現実としてありうる形に変換しようとしていた。
『そうよ――これは、これは怪獣映画のエクストラ――はやらないわよこんな芝居!』
失敗したのでもう一回。当然前の女性が何をしようとしているのか、最早目に入っていない。
『そうよ――これは夢n』
ちゅ………
「ふぐぅっ!?」
現実逃避しようとしていたあたしは、このままではラチがあかないとあたしに迫ってきた女の人の動向に気付かず、結果――。
「んんっ!んむうんっ!」
――見ず知らずの女の人に唇を奪われてしまうことになってしまった。しかもそれだけでは終らなくて――。
「んふんんむふんんっ!」
あたしの歯の間をすり抜けて、女の舌があたしの口に入り込んできた!あたしは舌を追い出そうとしたけど、動きは相手の方が何枚も上手だった。突き出した舌は、そのまま彼女の口の中に招かれ、歯で軽く噛まれながら――
ぢゅうううううっ!
「んふむんんん〜〜〜っ!」
表面についた唾液が全て吸い取られてしまいそうな程の、強烈な舌の吸引に、あたしは全身の力が抜けてしまった。そのまま彼女はあたしの口の中を思うままに這いずり回っている。
二人の唾液が撹拌され、混ざり合っていく――。
「………ぷは」
女が口を離した時、あたしは身動きする元気も、疑問を持つ元気すらも使い果たしていた。幽かに視界がぼやけている………。
「………」
ぼんやりと、あたしは目の前の、服を着ていない女性を眺めた。20代前半〜中盤くらいの若々しい女性で、肌もきめ細やかな白磁、胸は大きく突き出して、腰はくびれて――!
下半身に目を移した瞬間、あたしは逃れられない運命と言うものがあるんだ、と絶望した。
彼女の下半身は、巨大な蜘蛛だった。
「………やっと気付いたのね」
今更、というニュアンスが伝わる口調で、目の前の蜘蛛女は呆れたように呟いた。
そもそも、あたしは縛られている状態で、どうして目の前に女性がいるのか、疑問を持っても良かったはずなのに――。
巣に捕えられた虫のようなものである自分は、動く元気すら使いきってしまった自分は、この目の前にいる蜘蛛女に食べられてしまうのだろう。何の抵抗も出来ずに。そう考えると、死にたくないと言う思いが、あたしの瞳に涙を呼び起こした。少し遅れて、しゃくり声も。
「?………どうして泣く必要があるの?」
「っく………そんなこと………ぃぐっ………ったり前じゃない………ぅ………死ぬのが………っくっ………嫌だからよぉ………」
お願いだから、食べないで。
あたしの願いは、言う事も出来ずに大量の涙に掻き消された。
蜘蛛女は、その様子を困ったように眺めていたが、やがて――
ふみ
あたしの口に何か、柔らかいものが押し当てられた。涙でかすんでいたが、白磁色をして見えた、弾力性と柔軟性を兼ね備えていたそれは、多分――あたしが憧れているものの一つだろう。
ぽんぽん、と優しく頭を叩かれ、撫でられる感触がした。ふぁ………と安らかな森の香りが漂ってくる。
「怖がらないの。私は貴女を食べるつもりなんか無いんだから」
その声が聞こえた瞬間、あたしの口の中に何かが、ぴゅ、と発射された。
不思議な味のする液体だった。甘いのに、どこか苦くて――それでいてずっと飲んでいたくなるような゛
「んぶっ!んぶっ!」
液体が器官支に入り、あたしは咳き込んだ――けど、蜘蛛女の乳は私の顔から離れることなく、どんどん液体を私の中に流し込んでいく。
――蜘蛛女のさっきの発言、食べるつもりはない、その事について頭を働かせようとしたけど、どうにも思うようにいかなかった。
咳き込む苦しさ、不思議な味、そして何故か感じた――温もり。それらがあたしの心を一ヶ所に置かず、様々に散らして脳内ジグソーパズルの完成を妨げていた。
頭を気持よく撫でられるうち、あたしは、
「んふふ―――」
蜘蛛女は、そんなあたしの様子を見て笑っていた。それは決して、獲物を捕えた目ではない。もっと、何だろう、昔私が見ていたような――。
「――さぁ。ゆっくり休んで」
――あぁ、もう何も考えられない。どこか気持いい。まるで赤ん坊に戻ったみたいな――。
あたしの意識はここで途切れた。
「――ふふっ、可愛いわね。」
自分の胸の中で眠るゆいなに、蜘蛛女はさっきと同じ微笑みを向け、ゆいなの唇を再び奪った。と同時に、自らの秘部とゆいなのそれを合わせた。そして――何かを送り込んでいく。ゆっくりと。ゆいなが何も反応しないぐらいに。
十分ほど経った頃だろうか。蜘蛛女はゆいなから離れると、蜘蛛の臀部を彼女の体に標準を合わせ―――
しゅるるるるぅ〜〜〜〜〜っ!
大量の糸をゆいなへと放った!白銀色をしたそれは、ゆいなの体のあちこちに絡み付き、あるいは取り巻き、顔と秘部以外のほぼ全てを覆ってしまった。
「食べちゃうわけないじゃない。中々いないわよ、こんなに――」
蜘蛛女は脚を糸にひっかけ、丁寧に折り込み、ゆいなを糸で包み込んで行く――。顔が糸で覆われる直前のゆいなの表情は、どこか安らいでいた――。
脚を動かすのをやめたとき、そこには巨大な繭が、巣の真ん中に横たわっていた。その完成を満足げに眺めながら、蜘蛛女は言葉の続きを呟く。
「――こんなに、私達に近い娘は」
繭の中、あたしは夢見心地でいた………。
どこか体がふわふわして、まるで繭があたしのからだみたいに………。
とくん………とくん………
繭の中に、反響しているこの音は………あたし?それとも――
繭の中、あたしはあたしが少しずつ変わっていく事を感じた。
恐怖心は、繭を満たす微香に掻き消され、代わりにあたしの心を、何か別のものが満たしていった――。
何かが溶かされ、その中から何かが産まれ、作り出されていく――。
体が――溶かされてそこから新たに組み変えられていく――。
お尻が突き出ていき、そこから新しい脚が生えていく――。
あたしの下半身が、何か別の物へと変わっていく――。
腰がくびれ、胸が突き出ていく――。
手の爪が、指そのものが鋭く、固くなっていく――。
肌全体が、顔の形が、新しい物へと変化していく――。
そして――。
――モウ、イカナクチャ。
月夜。
望月の夜。
それはゆっくりと破られた。
滴り落ちる液体は、甘美な芳香を用いて生物を誘き寄せる。
我先にと群がる生物達は、数刻後、自らの体が全く動かせないことに気付くだろう。
そして――。
「ゴチソウサマ♪」
赫い瞳を持ち、人の美を越えた体を上半身に、巨大な蜘蛛の体を下半身に持つ生物は、産まれたての体を月に怪しく照らさせながら、飢えを満たすための食事を、腹を満たすまで全て味わっていた――。
――朝。
目を醒ましたあたしの目の前に広がっていたのは、いつもと何ら変わらない、電灯の紐がゆらゆら揺れている家の風景だった。
一つ伸びをしてから、あたしは今日の予定と、昨日の記憶を手繰り寄せる。
朝。
いつも通りに生活費稼ぎのコンビニバイトへ。
昼。
廃棄弁当で昼食。
夕方。
仕事終了。もう一つのバイトである夜間ファミレスへ。
そして夜。
仕事終了し、賄い飯を食べた後にそのまま帰宅――。
――頭の中に一瞬何かが引っ掛かったけど、思い出せない。
まぁ、大した事ではないだろうからと思い直して、あたしは着替え始めた。
違和感の事など、頭の中からすぐに抜け落ちてしまった。
『会社員男性、謎の失踪!?現場には、液体に濡れた服が散乱』
『類似事件多発!警察は同一犯と見て捜査を――』
気付いたら、バイトを二つともクビになっていた。
あたしは、事もあろうに一週間の無断欠勤を働いていたらしい。
――どういうこと?改めて携帯を見直すと、そこには自分の目でも信じられない内容が――。
曜日こそ一緒だが、日付が頭にある数字と7違っていた。
あたしはどうやら、一週間まるまる寝てしまっていたらしい。
そこまで疲れるような仕事じゃない――それ以前に、一週間も寝続けるなんて、おとぎ話じゃないんだから――。
………また頭の中を何かがかすめた。一体何なんだろう。あたし、何か重要なことを忘れているような――。
バイト先の店長に何度も謝り、働いた分の給料だけを手に、あたしはコンビニを出た。
不思議だと思う前に、あたしは苛立っていた。これから生活が苦しくなることは言わずとも分かる。
何で一週間も寝てしまったのか、それは自己責任なのは分かってる。
でも、苛立つ心は周りにも(タベチャイタイ)同じ感情を抱いてしまうから不思議だ。
見ているだけで、つい(タベチャイタイ)八つ当たりしたくなってくる。そして苛立つと体力も使うから(オナカガヘル)お腹が空いてくるわけで。
朝御飯をろくに食べていなかった私は、(タベタイ)近くの焼き肉店に向かった。
今は、ただ(ニクヲ)食べたかった。ヤケ食いしたかった。
「………お腹すいた……」
もらった給料を全て注ぎ込んで焼き肉を頼み、全て平らげた後でも、あたしのお腹は空腹を訴え続けた。
さっき食べた量だけでも、今までのあたしに比べて何倍もの量、いや、食べ盛りの青年でもここまでは食べはしないだろう量だった。
くきゅう………。
小動物が悲しげに鳴くように、あたしのお腹は食後十回目の悲鳴をあげた。(モットタベタイ)早くお腹を満たさないと(ハヤクタベタイ)もう、我慢できなくなりそう。
そう、町の人混みに出た時。
(オイシソウ………)
「おいしそう………?」
あたしの前には、色々なレストラン、ファーストフードの店が、ビルに混じって乱立している。
けど、あたしが見ていたのはそんなものじゃなくて――。
(コッチニキテ………)
その後ろ姿を見た瞬間、
(ネェ………)
あたしの意識は、
(オイシソウ、ハヤク!ハヤクキテ!)
完全に
(ハヤクッ!)
吹き飛ばされた。
男にとってその行動のきっかけは、何と無くだった。
ただ何と無く、向こうの裏路地が気になっただけだった。
この人混みの中、あの地帯だけが何故か人が誰もいない。
誰もその場所に気付いていない。
不思議で、どこか心惹かれた男は、何かの糸に引かれるように、その裏路地へとふらり、ふらりと引き寄せられていった………。
入れば入るほどに、男は奥に引き寄せられていった。単調な景色、自分の足音しか響かない空間を一定のリズムで、ただ前を見つめて歩く男。
一種の催眠状態に陥りながら、男はただ前に進んでいた。
男は気付かなかった。
自分が何のために前に進んでいるか、最早自分自身も気付いていないという奇妙な事態に。
男は気付かなかった。
いつの間にか両手両腕が銀色の糸で絡まれ、囚人のように歩かされていることに。
男は気付かなかった。
いつの間にか脚すらも絡まれ、宙に体が固定されていることに。
そして男は気付かなかった。
自分のこれからの運命が、自らの手で決定されてしまったことに――。
「ウフフフフ…………」
蜘蛛の巣に貼り付けられたまま、依然としてぼんやりとしている男に、ゆいなはゆっくりと、周り込むように近付いていった。
「ウフフッ………サテ♪」
ゆいなは変化した指と蜘蛛の脚で、糸ごと男の服を切り裂いていく。切り裂かれた場所には糸つぼから糸を発射し、巣に巻き付けていく。
二分も経たないうちに、男は急所となる下半身と、首から上以外は全て糸にくるまれてしまっていた。
「ン〜〜ソロソロネ♪」
男の全身を下敷にするような体勢をとり、目線を男に合わせると、ゆいなはパチン、と指を鳴らした。
乾いた音と同時、男の瞳に光が戻り――!
「なぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
男は、今自分がおかれている状況に愕然とした。
下半身蜘蛛の化け物が、自分を蜘蛛の巣にくくりつけ、迫ってきている。その目的を、男は本能的に悟った。悟ってしまっていた。
「い、嫌だ、ま、まだ、死にたくない、た、助けてくれ……」
必死にもがきながら、ゆいなに懇願する男に、ゆいなは笑顔を守ったまま、顔を男に近付けていき――。
ちゅ………――
こしょこしょこしょ……――
「んむむむむむむむむむぅっ!」
両手で男の顔を固定し、唇を強引に塞ぐと、蜘蛛の腹を体に擦りつけ始めた!
柔らかな刺激毛がびっしりと生え揃っている腹部は、少し動かすだけで生身の体にこそばゆい感触を送り込んでいく――!
その上、擽ったさに耐えきれず半開きになった口に、ゆいなの舌が容赦なく入り込み、男の口を蹂躪していく………。
互いの唾液を撹拌しながら、男の舌に、口内粘膜にねっとりと塗り付けていく………。
そして男の舌自体にも、絡み付き、吸い付き、締め付け……――!
くしゅくしゅくしゅ………
さわさわさわ………
ちゅば、ちゅゆ、ぴちゃ………
ちゅる、ぢゅう、ちゅる………
「んむんっ!んむむむむむぅっ!」
ゆいなによる責めが続くなか、男の分身は徐々にぴく、ぴく、と脈動し始め、その存在を示そうと膨張していた。
「………アン♪」
男から唇を離したゆいなが、艶っぽい声をあげた。どうやら、成長した男の逸物が、蜘蛛の下半身を突き上げたらしい。
ゆいなは体を擦りつけながら、男の逸物の方へ体を下げ始めた。
さわさわした刺激毛から、つるつるもちもちとした人間の肌へと感触が変化し、それが逸物を擦る度、男は快感のあまりびくびくと振動した。
やがて男のピストルがゆいなの顔に標準を定められるまでに下降すると――。
はむっ。
「あぁああぁあうあぁうっ!!!!!!」
ゆいなは陰嚢ごと男のペニスを加え込んだ!さらに――、
こぉり、こり、くちゅっ――
ぐに、ちゅば、ちゅる――
「ぉぉぉぉぉああああああぉあぅあぅあっ!」
陰嚢を舐め回し、精巣をこねくり回し、肉製発射台をもみくちゃにしていくゆいな。男の抵抗力は、その瞬間、根刮ぎ奪われた――。
びゅるるるるぅ〜っ!びゅくっ!
「ン――――♪プハッ♪」
ゆいなの口の中に、男の精が大量に発射された!その全てを飲み干そうとするも、飲みきれなかった分が口の端から溢れ落ちて、地面へと白い雨を降らしていく――。
「アハァァ………オイシ♪」
ゆいなは底知れぬ喜びを、お腹の底から感じていた。どんなに肉を食べても満たされなかった体が、だんだんと満たされていく、そんな感覚。それは同時に、新たな欲求を産み出していった。
「ンフフ………ッ♪」
ゆいなは、男の逸物を口から外すと、
がぷっ!
「!!キ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!」
男の陰嚢に、鋭くなった犬歯を刺し込んだ!そのまま、男の体に何かを流し込んでいく!
激痛と下半身の違和感の中、次第に男の陰嚢は皺が伸ばされていき、いつしか、拳大に膨れ上がっていた。
それを確認すると、ゆいなは犬歯を抜き、糸で傷口を塞いだ。
にちゅうっ!
糸つぼの少し下の辺りにある生殖孔、それを露出させ、拡大した。痛みのあまりに、ゆいなの方に意識が行くことがない男は、次の瞬間、
ずにゅりゅゅうっ!
何もかもが奪われる恐怖を本能が察して、断末魔の叫び声をあげることになった。
「………ぁぁぁぁぁぁぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!!!!!!!」
生殖孔の中は、無数の肉襞がやわやわと蠢き、蜘蛛糸の原料ともなりうる蜘蛛女の体液でぬらぬらと濡れ、それがペニスや袋に塗られると、糸状化してねばねばと絡み付く!
さらに襞一枚一枚が独立な意思を持ったかのように動き、蛭のように吸い付き、舌のように舐め、ハケのように体液を塗り込んでいく……!
孔自体も、締め付け、揉み込むように動き、まるで男の逸物を一切千切り取ってしまうかのように圧し、吸い込んでいく――!
さらに、
にゅじゅじゅじゅじゅジュジュジジジジジッ!
「ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ!」
人間では再現不可能な速度で腰が動かされる!あまりに暴力的な勢いで、ペニスが多方向から一気に扱かれていく―――!
人間の生身で耐えられる快楽の限界を遥か越え、精神が完全に壊れるだけの快楽を一気に叩き付けられた男は、
びゅるるるびゅびゅびゅるるるぅびゅびっびゅぅ〜〜〜〜っ!
袋に溜っていたありったけの精と、その魂を全て、ゆいなの中へと叩き込んだ……………。
「ウフフフフ………♪」
驚愕の表情のまま事切れた男を眺めながら、ゆいなはその首筋に顔を近付けた。そして――
がぷっ!ぢゅうううう〜っ!
噛みつき、犬歯から溶解液を流し始めた。溶かした肉を、少しずつゆいなは飲み干していく……。
男の肉体が、びくん、びくんと震えながら、徐々に痩せ細っていく………。
骨すら溶かされながら、男の体は収縮を続けていき――。
「…………プハ♪」
全てを吸い終ったゆいなの手には、今や皮だけになった男が握られていた。
そしてゆいなは、その皮を口に入れ――全て飲み込んでしまった。
気付いたら、あたしの体が動かせず、それどころかあたしの体は、下半身が蜘蛛の化け物に変わっていた。
その化け物の瞳からあたしが目にしていた風景。それは、あたしが男の人の首筋に噛みついて――。
そのまま何かを注ぎながら、首から何かを吸い取っていって――。
口の中に、甘い肉の香りが広がっていって――。
――気が付いたら、ぺらぺらの皮になった男の人を、もしゃもしゃと飲み込んでいた――。
あ、あはは………。
あたし、人を、食べ、ちゃ、た、だ…………。
その瞬間、あたしの中にあの日の帰り道と、この一週間の記憶が、人の体の中に閉ざされてきた記憶が一気に蘇ってきた。
仕事の帰り道、道端で綺麗な女性――あの蜘蛛女が人間に化けた姿――が通りすぎていくのを見た直後、急に意識を失って――。
蜘蛛女によって作られた繭から産まれてきたあたシは、町の中に蜘蛛の糸を張り巡らせ、触れた人間を捕えては食べていた。犯シテ、噛ンデ、溶カシテ――。
「……………………あ」
あたしの心の中で、
「………………あはは」
何かが完全に、
「…………あはははは」
音を立てて壊れた。
そしてそれは、壊れた瞬間に別の形に急速に再構成されていく。
アたしの本能と言う地盤に、蜘蛛の糸で繋ぎ合わせて。
「あはははハはははははハハはははハはは………」
「………アハ、オイシ♪」
流れるような黒髪は、月光を反射して怪しく艶めく。
あたシの汗と、あタしが食べた人――エもノ――の血が、白磁色の胸元で混じりあい、アたシの肌に、焼きゴテのような模様を刻みつけ、それも月によってなまめかしく輝く。
途端、額が割ける感覚がしたと同時に、あタシの視界が広がった。目が、新たに増えたのだ。
――視界に慣れると、アタしは蜘蛛の脚を使って、目の前を四角く切り裂いた。
かぽ、と音がして、何かが外れるのと一緒に、切り取られた場所の向こうに、緑に囲まれた空間が広がっているのが見えた。
アタシは、糸で開いた穴を仮止めすると、そのままその中に体を滑らせ――外に一本糸を垂らして、仮止めを外した………。
もう、ここにあたしはいない。
いるのは、アタシ――。
アタシが産まれた森に着くと、アタシは手頃な空間を見付け、巣作りを始めた。木に登っては糸を繰りつけ、他の木に糸を飛ばす。
それを繰り返して外枠をつくり、対角線上に糸を飛ばす。次に、内側に少しずつ糸を張り巡らせていくと、十分もしないうちに巣は完成した。
もご、もご。
アタシのお腹が、少し動いた。それも、内側から圧迫されるように。
アタシは巣の真ん中へ急いだ。その間もお腹はもご、もごと形を様々に変えている。少し痛み始めた。
我慢も、このまま行くと危ない。
そして、巣の真ん中についた瞬間、
「アハァァァァァァァァァ……♪」
こと、ぽこ、ぽここ……
蜘蛛の腹から、一個ずつ出てくる、アタシの卵。それは糸の粘液にくるまりながら、アタシの巣に一個一個、その体を固定させていく。
「アッ♪アアッ♪ア♪アアッ♪」
一個卵を産む度に、アタシの中に母親になった喜びが渦巻いていく。
そして、全て産み終り、巣の上がいくつもの卵で埋め尽されたとき、アタシは至福の表情を浮かべていた。
「ウフフ…………♪」
いずれこの子達は、産まれた後で互いに襲いあうでしょう。
そして、一番最後まで残った子は、アタシと同じように巣を作り、男を襲い、そして―――。
「―――ア♪」
アタシの糸が反応した。どうやら誰かにくっついたらしい。
アタシは、新たな食事の味を想像して一人笑みながら、その糸を辿っていった……。
空には満月。
その曇りない静かなる姿は、逆に人を闇のものと関わらせる。
そして――時としてそれは、人ならざる者へと変えてしまう事もあるのだ。
Fin.
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