「――待ちやがれぇっ!」
荒々しい男の声が背後からがなって響く。だが、当然僕は待つはずがない。と言うよりも、この状況下で待つのは、お人好しか莫迦か、あるいは自殺志願者だろう。
振り返る時間すら今は惜しかった。足を止めたら……間違いなく死ぬる。特に今の状況ならば。
「うわぁぁぁぁあああああああああんっ!おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁああああんっ!おかあさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
僕の前では赤子のように泣く、僕と背丈が同じくらいの女の子がいる。と言うよりは僕が抱いている。首元を覆う柔らかい感触に、どこかこそばゆい感覚を覚えながらも、僕はそれを我慢しながら兎に角速く足を動かし、山を下っていく。
静かにして、とは言えない。静かにさせる事も出来ないし、寧ろ、静かにしてもらったら大変なことになる。ともすれば相手に場所を知らせることになっていたとしても、僕はこの娘の泣く声に耐えながら、視界が開けた広場に出る必要があった。
首元から胸にかけて、彼女の羽毛が包み込むように被さっている。腰辺りには、先端が当たれば肉が抉れてしまいそうな、猛禽類の足が、僕にしっかりと絡み付いている。篭められている力は強く、彼女がどれだけ怯えているのかがありありと理解できた。
「……早く……早く下りないと!」
焦る気持ちを何とか抑えながら、僕は必死で、緑豊かな山の獣道を、彼女を負ぶさりながら駆け下りていったのだった……。

―――――――――――――


「……ん、この森は大丈夫だね」
僕がこの森を訪れたのは、地元の住民に頼まれてのことだった。定期的に伐採する木達の成長具合を確認するために、技術者チームの一人としてこの地を訪れたのだ。利益を若干度外視しつつ、自然を生育していき、伐採を代行する仕事。
地元の住民達が木を刈るこの森には、滅多に見ることが出来ないような、珍しい動植物が沢山ある。その自然を守るために、沢山の科学者や自然保護団体が地元住民らと共に出入りして、その植生や生態を調べている。僕らはその人達と相談しつつ、指定された範囲の木を、なるべく周辺の自然を壊さないように切っていく。こうして切られた木材は、地元住民の手によって加工されるのだけど、それがとても綺麗で、家一つとっても恐らく、今の民間企業じゃ敵わないんじゃないかって程に丁寧かつ頑丈に、そして暮らすに当たって快適だ。僕らに当てられた宿が一番安価で不快(それでも飛行機で言うビジネスクラスはある)だと言うのだから驚きだ。


ここの住民は、他の地域とは一風変わったものを信仰している。所謂土着信仰だけれども、少なくともこんな――生物を信仰しているなんて、早々あり得ない話ではある。
『ロック鳥』……ガリバーの冒険か、アリババと盗賊かは忘れたけれども、あの――小さな島を覆うほどの巨躯と翼を持つ鳥、彼らが信仰しているのはその鳥だ。ただし……この場所に住むロック鳥は、僕が思っているそれとは違うらしい。
――何でも、足の形や翼は鳥のそれらしく、体を覆う羽も紛れもなく羽毛なのだけれど、胴体や顔は、紛れもなく人間の、それも女性を模したものとなっているとか(現地の伝説では、この集落では皆彼女を先祖に持っているとか、彼女が集落の住民を作ったとか様々に書かれている)。
……とか、と茶を濁すような一言を繰り返してはいるけれども、実は僕達のいる山林チームは、彼女に会ったことがある。いや――彼女に会わなければ、仕事が出来ない。山の守護者たる彼女の許可が必要だったのだ。
――はっきり言おう。大きかった。山深くに住むとは聞いては居たけれども、よくもまぁ姿が外から見えないものだ、と妙な関心を抱いてしまうほどに、サイズの差は明らかだった。
その鉤爪は中型の船一隻を鷲掴みに出来るほど大きく、その翼は一度羽ばたけばこの島中の全ての木を揺らすほどの風が起きるほどに巨大で、それでいてフェルメールが描きそうな程に美しかった。
美しいのは何も翼だけではない。体のラインはサイズこそ極大でありながらも理想的な線を描き、撓わに実った両胸はさながら豊穣の女神のよう。そして優しげな微笑を浮かべるその顔は、あらゆる絵画の題材になりえて、その実どれでも完全に再現することは不可能な美しさがあった。
そこから紡がれる声は、まるで最上級のフルート演奏者の演奏を耳にしているかのよう。これで鶏頭であったら落胆の溜め息が出るところだけど、その心配は杞憂だ。あくまでも、彼女は人間より上なのだ。その辺りを、僕達技術者チームは十分分かっている。
いや、この島で活動する以上、まず絶対的に分かっていなければならない事なのだ。


「……えっと、指定区域はこの辺りまでだよね」
地図とコンパスを頼りに、僕は山を進み、木にリボンを結んでいく。このリボンが、木を伐ることを許可したかしていないかを明確に分ける基準である。無論、どういう基準か知っているのは技術者チームと地元住民だけだ。他の人々はそもそも木を伐らないし……ね。
倒木を無闇に退けることなく、木を伐り、地上に届けるにはどうするべきか。技術者の会議結果を'彼女'に伝え、若干の修正が行われたところでそれを実行する。その道筋を示すためのリボンを、慎重に一本一本付けている僕。そろそろ手持ちのリボンが無くなりそうだ。そう思い始めた――その時だった。


――パァンッ!!!!
「――!!」


銃声……普通であれば聞こえる筈のない音。同時に響いた、甲高い悲鳴。まるで人の苦痛の叫びを、鳥が真似したような――!
考えるよりも先に、僕は行動を起こしていた。本来の区域を越えて、銃声がした方へと駆け出す。山道は走り辛い。一部隆起した根や、露に濡れた草の上は非常に滑りやすくなっている。何度か足を取られ、転びながらも、僕は銃声の方向へと進んでいく。途中、枝が割れ折れるような音がしてからは、さらに僕は脚を早めていた。早く着かなければ――大変なことになると、僕の第六感が必死で叫んでいた。
――そしてその六感は、全く外れていなかった。


「――うぁぁぁぁん!うぁぁぁぁぁん!」

辺りに散乱する幾つもの枝葉から、彼女が空から墜ち、木の枝が緩衝材となって地面に落ちる衝撃を和らげたのであろう事は分かった。所々に刺さる枝は痛々しいが、そこまで傷は深くはなさそうである。けど問題はそこじゃない。空から墜ちてきた彼女――それは、山深くに住むロック鳥の子供であったのだ。
明らかに撃ち落とされた痕がある。広げれば虹色が映える翼の一部が無惨にも焼け、しばらくは飛べそうもない事がありありと分かった。
普通、こんな人間大(それこそ、僕の体くらいはある)の影を見つけたら、この島の住人なら撃ち落とす事すら考え付かないだろう。ともすれば……密猟者!だとすると厄介だ。つまり彼女を狙っていることになる。もしここで連れ去られてしまえば、恐らくこの島も、僕らも唯では済むまい。ロック鳥の嘆きは、島の嘆きなのだ。
だとすればやるべき行動は、至って単純だ。彼女と共に、ロック鳥の場所へと逃げるしかない。思考よりも早く、僕は彼女に話しかけていた。
「――大丈夫かい?」
「うあぁぁぁぁぁん!おかぁさぁあああああんっ!」
……まずい。完全に錯乱してしまっている。このままでは話すことすらままならない。それより問題は、密猟者が今どこに居るかが問題だ。もしかしたら近くにいるかもしれない。この泣き声では、居場所は完全に明らかだ。居場所が、相手に明らかに……?
待てよ?もしかしたら……そのまま泣かせていた方が、ロック鳥は早く気付くのでは?と一瞬僕は考えたけど、気付いたとして、この森の中では降りる事すらままならないだろう。行動できなければ、気付かれる意味がなくなる。ひとまず、何とかこの子を親元まで運ぶ必要がありそうだ。けどそのためには彼女と話が出来る状態にしなくちゃ……!

『――There!』


――見つかった!どうやら既に近くにいたらしい。そして予想通り銃を持っている!
「――くそっ!」
時間がない!これ以上考えるよりも先に、僕は彼女を抱えて走り出していた。
抱き抱えたとき、彼女は不思議なことに、暴れることはなかった。それに……まるで枝か空気袋を抱いているように軽かった。少し力を入れたら、空に浮いてしまうのではないか……?そう思えるほどに。けどそんな思いを抱く余裕など、僕にはなかった。今は――!
「早く……早く開けた場所に!」
兎に角脚を動かして、下の開けた場所へ!そうすれば、ロック鳥が彼女を助けてくれる筈だ!

――――――――


――それからずっと、僕は山道を駆け下っている。山道でもトランシーバーは使えるけれど、今は両手がふさがっていて持つことが出来ない。
男達が山を駆け下りるスピードは、明らかに僕より速い。手負いを一人抱え、後ろを向いて相手の位置を確認しなければならない僕より、常に僕を見て追い続ければいい彼らの方が速いのはある種当然だ。ならばと入り組んだ山道を無理して降りていくけど、それでも距離が開くことは殆ど無い。
あと少し、もう少し、そんな山の麓までの距離が遠い。山道を走り続けた所為で、僕の心臓は張り裂けそうだ。けど、足を止めたら駄目だ。止めたら彼女は……ロック鳥の子供は浚われてしまう。それだけはどうしても避けなければならない。
「うあああああああああああっ!おかあさああああああああああああああああんっ!」
ごめん、もう少し待っていて!お母さんに何とかして助けてもらうようにするから。そう疲れた体に鞭打ち、ようやく山の麓が光を伴って僕の視界に入り始めた……!?

パァンッ!パンパァァアン!


「――んがぶぁ、ぐっ、ぐぁああああああっ!」
火薬がはぜる音が耳に届いた、その次の瞬間には、僕のわき腹に鋭い痛みが走っていた。まるで爪で貫かれ、肉を抉りながら引き抜かれたような感覚を伴いながら、僕の脇腹は鉛玉と肉片と共に、鮮血を吹き出していた。
痛みのあまりバランスを崩す僕の脚に、また一発。一発は外れたようだが、それは何の救いにもならない。咄嗟に彼女を怪我させないように抱え込むことが出来たのは偶然だろう。けど、僕の視界の中で草と木と空が上下に何度も巡っていく。麓までの微かな距離の坂を、文字通り僕は転げていた。柔らかいはずの草が、堅い木の根が、荒々しく隆起した幹が、僕の体をさらに傷つけていく。
上も、下も分からない。ただロック鳥の子供を傷つけないように転げ……転げ落ちていく僕。その体が止まったとき、僕の瞳を島の太陽が鋭く灼く。けれど、それは僕にとって、安心をもたらす光だった。
……よかった……これで……あとは……。
気が抜けない状況ではあるが、あとはこの島の神であるロック鳥が彼女の声を聞いて、助けに来ることを期待するしか……同時に僕もリーダーに連絡を取って……っ!?
パァンッ!
「ぐぁあああっ!」
僕の背中に再び銃弾が浴びせられる!灼けた鉄を直に肌の中に叩き込まれ、全身の痛覚を直に刺激させている!傷つけるだけじゃない、傷つけた後も体に傷を広げていく鉄の塊は、僕の中に沈み込みながら命を食らっていく……!
痛みのあまり、僕は今度は彼女を手放してしまった。それと同時に脇腹を強く蹴られ、吹き飛ぶ僕。そのまま男の一人が、僕の胸ぐらを掴み、顔を殴りつけていく。
ハンマーで執拗に全身を打たれているようだ。同時に、冷蔵庫で全身を冷やされていくよう……打たれた場所から、だんだんと体温を失っていく……。
「――〜〜―!〜〜――〜―!」
「〜〜――〜――」
僕を眺めながら、密猟者達は何か叫んでいる。その後ろでは、猿轡を填められ、羽を縛られたロック鳥の娘が、それでも必死に泣いて、親を呼んでいた。
奪い返そうにも、僕の体にはそんな力も残ってはいなかった。そもそも、胸ぐらを掴む男を振り払うだけの力すら、今の僕にはない。彼らの言葉すら、何を言っているのか聞こえてこないんだから……。
「――!―――!――――!」
ロック鳥の娘が叫ぶ。それを黙らせるために、男の一人が脇腹を打つ。その衝撃をまともに受け、ガクリと男の腕に倒れ込む。そこまで眺めていた、僕の胸ぐらを掴んでいた密猟者は……、僕に向け、ありったけの嫌味を込めた笑顔を向けてきた。その口が、何かを僕に伝えようとする。音は聞こえないけれど、意味は何となく理解は出来た。
――あばよ。

――僕の予想を証明する、鋭い衝撃が胸の中に走り……そして僕は、意識を閉じた。

―――――――


……邪魔者を始末した密猟者は、しかしこのまま死体を残すのも面倒な事態になる事から、逃亡用の船から、海に落としてしまおうと、彼を担ぎ、仲間が停泊させている船の元へと急いだ。
面倒なことさせやがって、と悪態を吐きながら、彼は船へと足を進ませていく。
彼の体をぞんざいに扱いながら。


……?ふと、体に当たる風が強くなった気がした。
この島に長居したら不味いな、そう判断した密猟者は、しかし邪魔者を手放さず、船へと向かっていった……。


――この時点で、彼らの運命は既に決定していた。
彼を見つめている二つの瞳、それはやや苛烈な風を送りつつ空を舞い、出航間近となる島裏手の船へと、その体を躍らせた。……が、その前に、山の中に一度戻ったようだ。
荒れ狂う心情を表すかのように吹き荒れる風、目を凝らすと微かに輪郭が見えるそれは、一度山に身を隠した……いや、身を屈めた。

――数秒後、島全体を揺らすような大きな揺れが起こった。不思議なことに、島の住民に被害はなかった。被害を受けたのは――。


突如船を襲う、巨大な津波、それに最新式の船は翻弄されていた。人間の科学の進歩をあざ笑うかのように、大自然の驚異はロック鳥の娘と技術者の男を乗せた船を盛大に揺らしていく。
死体を捨てようにも、波に翻弄されて投げ捨てられず、逆にロック鳥は軽すぎて自らの重心が保ちにくくなっている。甲板上は、パニックの坩堝と化していた。
と――突如、男達の視界に、影が差した。先程まで憎たらしいほどの青空に、唐突に発生した闇……遠くから見れば、それは巨大な鳥の形をしているのが分かっただろう。だが、彼らは分かるはずもない。頭上に突如現れた影……それは彼らからすれば、あまりにも巨大であったし、それ以上に彼らの視界に入っていたのは……あまりにも、下手をすれば最新式の船よりも巨大な――岩。
大砲を真上に向けるのも、明らかに遅すぎた。仮に間に合ったとしても、それは用を為さなかっただろう。
密猟者達が己の運命を呪う暇すら、それは与えはしなかった。

――船以上の質量を持った巨大な岩は、その一撃で密猟者の船を完全に沈没させたのだった。轢死者、溺死者は多数、辛くも生き残った者すら数名は渦潮に巻き込まれていった。不思議なことに、動力である油による海洋汚染は発生せず、また、粉砕した岩も、破片も、船に関するものは知らぬうちに消えていたという。

偶然生き残った密猟者は、そのまま今までの所業を懺悔し、罪を受け入れたという。だがその証言に混ざっていた、半鳥半人の存在の話を、真に受けるものは一人としていなかったそうだが……。

―――――――


ロック鳥が島の外に飛び立つのを見た住民は、何かの凶事が起こったのでは、と身を震わせた。それは技術者集団も同じだ。そう言えば、調査に向かった組員の一人が帰っていない。トランシーバーも繋がらないことから、彼らは彼の身にも何かあったのでは、と覚悟した。
暫くして、ロック鳥は島に戻り、山へと帰っていった。その際に、島民と技術者、科学者に対し、哀しげな声で告げていた。

『伝えたいことがあります』と……。


伝えられた言葉は、粗方悪い予想通りであった。
密猟者、撃たれたロック鳥の娘、そして彼女を逃がそうとして――殺された技術者。
森の中を逃げ回りつつ、叫び声でロック鳥に居場所を伝えていた彼の亡骸は、ロック鳥の右足によってしっかり、しかし優しくホールドされていた。それこそ、海へと投げ捨てようと運んでいた密猟者の手から離れる直前の状態そのままで。
謝って許されるわけではない。だが、島の神であるロック鳥は、島民と技術者達に向けて謝っていた。
助けられなくてご免なさい。間に合わなくてご免なさい、と。


誰も、彼女を責めることは出来なかった。山の神は、滅多に動いてはいけないということを島民は知っていたし、技術者達もその事を島民に言われていた。何より、一度動いたときのあの島の揺れ、木々が壊れてしまいそうな突風と共に巻き起こされる嵐……。それが度々起こっても大変だろう。
「……」
技術者のリーダーは、彼の亡骸を眺めながら、ふと、彼の頬に触れていた。苦しげな、しかし何かをやり遂げたような顔は、血の気が抜けた青白い顔こそしていたものの、不思議なことにまだ命の持つ暖かみを保有していた。
それを指先の触覚で感じた彼は――一言、済まない、と涙ながらに呟いていた。言葉を問い直すわけでもなく他の技術者も、皆彼のために涙を流していた。


――ロック鳥の住まうこの島は、不思議な力を持っている。
草木は育ち、貴重な動植物に溢れる、生命力に満ちたこの島、そこで暮らし、命を落とした者の肉体も、魂も……ロック鳥に還り、この島を巡るようになるのだ。
島の外に出れば、生者は影響から逃れることは出来る。しかし死者は――島から出れば、待つのは肉体と魂の消滅である。
つまり……彼の肉体は、故郷の地をもう踏むことはないのだ。故に――彼らは済まない、と涙と共に告げたのだ。
いつしか島民は数名を残して自らの生活に戻っていた。数名は、葬儀を如何にするかを技術者達に問う。技術者は涙ながらに、そちらの流儀で頼む、と答えた。仏も神も呼べないのだ。すでに魂の先は決まっている以上……。
ロック鳥は彼らの哀しげな表情を、心を痛めつつ眺めていた。彼らの願い、悲痛なその願いを神である彼女は何とかして叶えてあげたいと、いや、叶えなければならないと考えていた。そのために何が出来るのか……何をしなければならないか、考えた末に出した結論。それは――。


葬儀の手法は、所謂棺桶に入れての土葬に近い形であった。ただし、棺桶の行き先は……山の神のおわす場所……つまり山の頂上だ。
本来ならばロック鳥の指定する場所に埋めることになっているが、そのロック鳥の指定した場所が、この時はロック鳥の住む山の頂上だった。
地上まで運び、葬儀を行った後、山の頂上まで棺桶を運んだ彼ら。ロック鳥は死者の魂を受け入れる儀式を別の場所で行っているため、そこに姿はなかった。代わりに、棺桶がすっぽり入るほどの大きさの穴が掘られていた。
その穴に入れられた棺桶に、彼らは現地の土を、心なし薄目にかけて、それを埋めた。そして、来世のこの島での幸運を祈る定句を告げ――その場を立ち去った。
別れの言葉は、既に言い尽くしたのだろう。彼らの声は……涸れきっていた。

―――――――


技術者や島民が去った、棺桶が埋めてある場所。その周りに生えている木々が、徐々にざわめいていく。空を見れば、月影を遮るような巨大な翼を持つロック鳥の姿が見えただろうが、残念ながらその神々しい姿を目にする人間はいない。
彼女の傍らには、体が二回りほど大きくなった、怪我した翼がやや痛々しい、泣きはらした目を持つロック鳥の娘がいる。泣きながらも、今は棺桶で眠る青年の存在は感じていた彼女は、棺桶が埋められた地面を、どこか泣き出しそうな表情で見つめていた。
そんな彼女の背中を優しく撫でつつ、ロック鳥は棺桶のある場所へと、片手で風を起こして土を払った。そのまま羽の先で何やら紋様を描きつつ……厳かな口調で、風に乗せるように、告げた。

『島の神として我が命ず……起きなさい』


ガタリ、と音がして、内側から棺桶が開く。蓋を退けた腕は、先程までとは違い、何故か血の通った綺麗な色をしていた。
そのままむくり、と起きあがる若い技術者。先程までは死体だった筈の彼の体は、傷の痕跡以外は健康体と言っても過言ではない。ただし……その瞳は光を持たず、澱んでいる。
『……私の近くに来て下さい』
棺桶から体を出して、ふらり、ふらりと神の前に体を動かしていく彼。そこに彼の意志はない。ただロック鳥の命令のままに彼は動いていた。
「……」
その姿をロック鳥の娘は……先程までの哀しげなそれではなく、何処か決意を固めた視線で見つめていた。
ふらり……ふらり……ぽすん。
ロック鳥の柔らかな羽毛に体が当たっても、なおも体を動かしていく彼。『止まりなさい』と命じると、そのまま彼は彼女の羽毛に体を預けて、埋めている。彼女の巨大な秘所を、丁度覆い隠している位置の羽毛、そこに刺激を受けた事から、微かに彼女の声が震えていた。
沸き上がるとある衝動を抑えつつ、彼女は娘に視線を送った。娘はそれに頷くと……仰向けに地面に倒れつつ、大きく股を開いた。同時に羽を、器用に股間に当て――左右に開く。
くぱぁ……という効果音が似合いそうなほど開く、彼女の秘所。未だ嘗て誰も受け入れたことがない筈の、瑞々しい桃色をしたその秘所は、羞恥があるのか愛液に濡れ、しかし外から相手を招くように、奥の襞はゆらゆらと蠢いていた。
『ひゅう……おかあさぁん……いいよぉ……』
やや興奮が混ざった声で、彼女は自身の母親に向けて、準備が出来たことを告げた。それに母親は、やや何処か安堵したような表情を一瞬浮かべつつ、未だ秘所の辺りの羽に体を預ける彼に――正確には体に残る魂に向けて――さながらアヌビス神の如く、来世の行き先を告げた。

『――身につけた物を脱ぎ去り、我が娘の胎に入りて、しばしの眠りにつきなさい――』


彼の肉体は、その命令を忠実に実行しようとしていた。のろのろとながら、現地の死に装束を脱いでは畳んでいく彼。あちらこちらに見えている銃創が、何とも痛々しい。
その傷に、彼は何ら気を留めることもない。既に痛みを感じない体である。故に足取りはふらついているとはいえ、進み方は安定している。
ロック鳥の娘は、そんな彼を迎え入れるように、さらに股間を――秘所を大きく開く。丁度、頭が入り、肩口まで一気に呑み込んでしまいそうな程に拡がるそれは、さながらちょっとした肉の洞窟のようであった。あるいは巨大な口、流した愛液が唾液に見えてきそうな、歯のない口のようにも見えた。
彼の視線は、その肉の洞窟にのみ向かっていた。ふらり、ふらり、まるで食虫植物におびき寄せられる虫のように、彼は彼女の元に近付いていく……。
『ひゅう……ひゅう……』
羞恥よりも、期待の色が大きい赤色に頬を染めながら、娘は彼女の前で立ち止まる彼の顔を眺め、彼の魂に直接語りかけるように、柔らかな声でゆっくりと告げたのだった。

『……きて……♪こんどは……わたしが……んあぁああっ♪』


ごぷぅぅっ!
誘い込まれるように彼が彼女の秘部に顔を近付け、その柔らかな陰唇に触れた刹那、彼女の膣は一気に彼の頭をくわえ込み、肩口まで一気に呑み込んだ!外から見てその輪郭が分かるほどに、彼女の腹部にかけて一気に膨れ上がる!
『んぁふっ♪はゅっ♪ふぁああっ♪』
胸から上を軟らかな肉の寝袋にくわえ込まれた男は、百も千もある瑞々しい色合いの襞に絡み付かれ愛液を塗りつけられながら、奥へ奥へ動こうと、体や足をじたばた動かしている。肘が肉壁に深くめり込み、足が体を奥深くへと蹴り進めるほどに、肌を内側から焼くような快楽が娘の臓腑から羽の先にまで走っていく!
生まれて初めて絶頂してしまいそうな刺激に、思わず膣肉をぎゅううっ、と締め付けてしまうロック鳥の娘だが、人体を押しつぶしてしまいそうな圧力を、彼女の柔肉は和らげ、まるで母親に抱き締められているような温もりと安心感を彼に与えた。止まっているはずの彼の心臓が、とくん、とくんと脈打つのを娘は感じていた。それは恐らく、彼の体内にある魂が脈打つ音なのだろう。
ずむり、ずぶり……。
『んひゃう……♪ひゅうあ……♪』
彼の足が地面を蹴り、既に肘まで埋まった体をさらに奥へと運ぶ。両腕を動かし、体を捩りつつ、体にねっとりと絡み付く肉襞と戯れる彼の様子に、娘の体はびくびくと震え、その口からは熱い喘ぎ声を漏らしていた。
自らの体の、生命を司る場所に、人間を、その魂を招いていくこと、娘はそれを歓喜だと感じていた。
ぐむり、ぐむり……彼を包む肉壁は、彼の体に吸い付きつつ膨張と収縮、蠕動を繰り返し、さらに奥へ奥へと招き入れている。そのたびに彼女の陰唇はくぱくぱと開閉しつつ、彼の体は少しずつ吸い込まれていく……。
彼女の意志を離れてか、それとも意志通りかは分からない。だが彼女の熟れた白桃の如き柔肉は、まるで彼を捕らえて離したくないかのように彼の全身に吸い付き、ぬっとりとした愛液にまみれた肉襞によって彼に淫らな愛撫を与えていた。もしも彼が生きていたならば、首筋から背筋、脇の下、耳、膝の裏のみならず、陰嚢の裏や菊門、陰茎の皮や裏筋、亀頭や鈴口まで一切を舐め擽られ、喘ぎ声は押しつけられた肉襞に全て吸収されていただろう。
『んん……んぁぅ……はん……んぁあっ♪』
順調に彼の体を受け入れていた彼女が、突如身をびくん、と大きく跳ねさせた。どうやら、彼の頭がいよいよ子宮の中へと入り始めたらしい。同時にこぷん、と音を立てて、爪先まで招き入れた陰唇が、愛液にまみれたその口を閉じた。
もごん、もごん。今やロック鳥の娘の腹は、人一人分の輪郭がはっきりと見えるほどに巨大化していた。彼女の体内で、彼は柔らかな膣肉に足を埋め込み、子宮に向けて身をくねらせている。その一挙手一投足は、彼女の性的なボルテージを上昇させるのに十分な破壊力を持っていた。
『んぁあっ♪きちゃうぅぅぅっ♪わたしのっ♪わたしのなかにきちゃうぅぅぅぅぅっ♪んひゃああああっ♪』
何も受け入れたことのない部位である子宮、刺激に対する耐性が出来ていない部位に断続的に与えられる甘美な刺激と暖かみに、ロック鳥の娘は快楽を絶唱しながら、自身の羽で腹部の膨らんだ部位を優しく撫でた。それに反応したかのように、体の中にいる彼はさらに動きを激しくし、子宮の中に潜り込んでいく。
外から見たら、まるで巨大な寄生虫がロック鳥の腹の中で蠢き、のたうち回るように見えたかもしれない。だがその実、彼女は寄生されるのを望んでいた。その証拠に、奥へと膨らみが進む度に彼女は嬌声をあげ、閉じかけた秘所からは、こぽりこぽりと愛液が地面に漏れ出していた。蠢く度に朱に染まる彼女の顔、瞳は時を経るごとに大きく見開かれ、絶頂の時が近いことを表しているかのよう。
体内ではぐにゅり、もにゅりと彼の体に密着するように膣肉は収縮し、体のあちこちを柔らかく解しながら蠕動して、彼を子宮の中へと押し込んでいく。愛液がぬらぬらとした潤滑剤となり、子宮口から中へとずるん、と彼の体を押し出す度、背筋を震わすような快感が彼女の中に走っていった。
そして――!

『――んぴゃあああああああああああああああああ♪♪♪』


ぷしゅううっ♪――ずにゅるん。
絶頂を迎え潮を噴く秘部とは対照的に、最後の爪先の輪郭をなぞるように、子宮口は固く口を閉じた。
『……ひゅう……ひゅう……』
絶頂の余韻に浸る彼女の子宮の奥にある卵巣、そこから彼の体よりも小さな卵子が一つ、子宮の中に放たれた。
ふわふわと、子宮の中を漂いながら、体を丸め再び眠りの時を迎える彼の臍の辺りに到達すると……くちゅり、と音を立て、幽かに穴が開いた箇所から飛び出した紐状の物体が、彼の臍を貫くと、そのまま一体化した。ずむん、ぐむん……丸まった彼の体を、卵子は少しずつ広がり、その内側へと呑み込んでいく。ゴムのように広がり、彼の体に密着しながら覆っていく……。
子宮の柔らかさとは違う、独特の弾力を体全体で感じていたが、しかし彼の心はそれに戸惑い一つ覚えなかった。
『さぁ……入って……。私が貴方を、目が覚めるまで守ってあげるから……』
彼の魂は、彼女の卵子からのメッセージを受け取っていた。それはそのまま、彼女――ロック鳥の娘の心と一致していた。
彼女の心からのメッセージ……彼はそれを魂から受け入れ――。

――くぷ……ん。


……卵子に、全て身を委ねたのであった。
彼を受け入れた卵子は、そのまま子宮の中に着床し、彼女の体と繋がった。
『んぁ……んんぁ……』
とくん、とくんと脈打つ度に、彼女から栄養が届けられていく。
とくん、とくんと脈打つ度に、卵子から彼女に何かが届けられていく。それは彼女にとって、何処か暖かく心地よい物であるのと同時に、視界が、心が開けていく類のものであった。
そのあまりの心地よさに……彼女、ロック鳥の娘は瞳を閉じ、浮かんできた微睡みに身を委ねたのであった……。


『……さん、このような形でしか、貴方を日の本の国に帰せない私の非力さ、どうかお許し下さい……』
眠る二人にも、風の精霊にも聞き取れないほど幽かな、掠れてしまいそうな声で、ロック鳥は呟き……お腹を膨らました娘を足で捕み、自らの巣へと戻っていった……。

―――――――


……とくん、とくん……。
――柔らかく、暖かい壁越しに伝わる、優しいリズム。それが心地良くて、思わず身をくねらせてしまう。
時折穏やかな波が、僕の居る場所に寄せては引いて、また寄せてくる。どうやら壁の外側で、優しく撫でられているみたいだ。
呼吸に合わせて、周りの壁は膨らんだり縮んだりしている。縮みきったとき、僕の全身は優しい愛撫を受け、膨らんだ時、ふわふわとした気持ちになる。
ぎゅうっ……ふわぁ……ぎゅうっ……ふわぁ……。


……とくん……とくん……。
……いつから僕は、この場所にいるのだろうか。
……いつから僕は、こうして丸まっているんだろうか。
頭がぽわぽわして、体もふわふわして、分からない。
この考えが、どうでもいいことのように思えてくる。いつから、なんていう時間の流れが、どうでも良くなってくる。
同時に、僕がどうしてここにいるのか、どうしてふわふわと浮かんでいるのか、それすらもどうでもいいことだって思えてくる。
ふわふわと抱き締められて、さわさわと撫でられて、ほわほわと揺られて……。


……とくん……とくん……。
くぷん、と音を立てて、僕の臍に繋がっている、どこかから出てきた管が、暖かい何かを僕の中に流し込んでいる。
ゆっくりと、まるで氷が融けていくように体に広がっていくそれは、僕の中に欠けていた何かを、ゆっくりと満たしていった。同時に、ぼくの中から、何かがでていくけど、それはどうでも良いことのように思えた。


……とくん……とくん……。
こころのおとが、大きくなっていく……。そのかわり、ぼくの手足が、うごかなくなっていく……でも、それがあたりまえだって……。


……ぐゅむ、ぐゅむ……
……あったかい……
……ぎゅむん、くゅむ……
……だんだん、ねむくなってきちゃった……
ふぁあぁ……


……おやすみなさぁい……

――――――


「ひゅう……♪ひゅう……♪」
彼の魂が、体ごと子宮に呑み込まれて一・二年後、赤ら顔で荒々しい息を吐いているのは、彼を胎内に呑み込んだ、ロック鳥の娘である。ただしその腹は、巨石でも詰め込まれているのではないかと言えるほど大きく膨れ上がっていた。尤も、あの時よりも彼女自身の体も大きくなっているので、破裂しそう、という危機感は視覚的には無さそうであった。
時折腹から響く優しい鼓動が、彼女の瞳を細くさせ、母性に満ちた視線を鼓動のする方へと向ける。そのまま、柔らかな羽に包まれた腕で、その腹を優しく撫でるのだ。柔らかく、暖かく、優しい感触に、胎内にいる彼が喜んでいる様子が、へその緒越しに伝わってくる。
「……ひゅう……♪」
安らかで幸せな感情が、彼女にも伝播したのか、そのまま巣の端にもたれ掛かるように、ロック鳥は眠りについていった。その様子を、親であり島の神でもあるロック鳥が、暖かな視線で見守っていたのだった……。

―――――――

……んん……

……んぁぁ……

……んゅぅ……?

……んぁ……きれいなばしょお……

……なんでだろぉ……こころが……しゅうってなる……

……いきたいなぁ……

……いつか……いきたいなぁ……

―――――――


『……ふぅ……はふぅ……』
呑み込んでから三年後、ロック鳥の娘は限界まで膨らんだ腹の重みに耐えつつ、自身の女陰を巣の地べたに平行にしていた。
『ふゃ……ひゅう……んっ』
彼女が息むと、女陰がぐぐぅ……と大きく開き、重力に従って、腹の膨らみが女陰の方へと下がっていく。もしも彼女の下からのぞき込むことが出来たら、愛液や羊水、その他諸々の液体や粘液に覆われながら膣肉を押し退け、陰唇へと近付いてくる虹色の個体が見えた事だろう。
『ひゅう……んんっ……んふぁ……ふん……っ』
腹を満たす塊が出口を押し広げ、空気に触れようと先端を秘所から顔出させ、すぐ引っ込む度に、ロック鳥の娘の中に痛みにも似た快楽が走り、息む力を緩めてしまいそうになる。だが、彼女は力を込め、足を踏ん張らせ、臆病な塊に羽を沿わせなで上げつつ、ゆっくりとそれを押し出していき――!

『――ふぁああああっ♪』


ずるり……ぐじゅ。
周りを覆う愛液や粘液が緩衝材となり、柔らかく支えていた肉襞や拡張していく秘唇が落下の勢いを弱めながら、彼女の胎内に存在していた虹色の卵が、巣の中に産み落とされた。
耳を澄ますと、卵の中から確かに響く、命の囁き声。それはやり遂げた表情のまま、荒く甘い呼吸を繰り返す娘の、その呼吸と混ざり合い、山の頂上に命の音を響かせている……。
『ふふっ……カティシール、私の可愛い娘……頑張ったわね……♪』
人々に関わる儀式以外ではずっと娘――カティシールの側にいたロック鳥は、産卵を終えた彼女を抱き留めつつ、自身の翼で卵を覆い、暖めていった。その姿は、何処までも母性に満ちた物だった。

『……貴方が飛べるようになって、カティシールが神の責務を果たせるようになったら……私は貴方の道案内をするわ。
貴方の魂の……本当の生まれ故郷に……』

卵の中で未だ微睡む存在……彼女の孫に向けて、ロック鳥は優しく呟き……そのまま、一時の眠りについた……。

――――――


彼が所属していた会社は、彼の両親に彼の死を報告、内容は現実に即し、現実的かつ死体が残らない物へと変更された。遺品は、壊れたトランシーバーと社員証。何度も何度も謝り、赦しを貰いに行ったのだった。
あの事件以来、会社の成績は黒字が徐々に上昇していった。恐らくロック鳥の力が若干及んでいるのかもしれないな、と現場にいた面々は考えていた。
そして、こうも考えていた。もしかしたら、彼はこの国に帰ってこれるのかもしれない、と。


――その考えは、間違いとは言えなかった。ただ、時の経過は避けられなかったが。

―――――――


『――ではカティシール、私の不在の間、この島のことをよろしくお願いしますね』
『はいっ!お母様!』
『ままー♪』
『クレアーニュ、お母様の言うことをよく聞きなさいね!』
『はーい♪』


島の中心にある、深き森に覆われた山の頂上、そこから二羽の……いや、二人の巨大なロック鳥が飛び立とうとしていた。
一人は、山は愚か島すら覆い隠してしまいかねない大きさのロック鳥。もう一人――クレアーニュと呼ばれたロック鳥は、彼女達の中では一番小さいが、それでも身長は五メートルはあった。
クレアーニュの卵が巣の上にて孵化し、彼女が生まれ落ちてから数十年。それはカティシールを大人にし、クレアーニュが飛べるようになるのに十分な時間であった。
技術者であった彼の知識を受け継ぎ、昇華したカティシールは、今や次世代の神として申し分ない品格と知恵を持つに至っていた。
ここまで来れば、彼女は大丈夫だろう。ロック鳥は娘の成長ぶりを喜ぶと共に、兼ねてからの計画――クレアーニュの二重神籍計画を実行することにしたのだった。
彼女にとって幸いだったのが、彼の住んでいた国が多神教で、例え異教の神であっても受け入れる風土があったからだ。
彼女達は島から恒久に離れる事は出来ない。それがこの島の神である代償だ。だが、八百万の神が所属する場所ならば、交渉次第では帰郷させることが出来るかもしれない……。


『さぁ、行きましょう』
『うん!ぐらんまー♪』


時を超えた願いを叶えるために、彼女は翼をはためかせ、夢の申し子の先達となった。

fin.






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