「……革新、か」
選挙カーが、やたらこの言葉を唱えていた気がする。今の日本には政権交代が必要だとか、保守は悪だとか、友愛の政治だとか。
まだ選挙権からは程遠いにしても、その言葉は数多くの違和感を伴って私の耳に届く。狭く苦しい受験の門を潜り抜けた身としては、一概にそう言えないことは容易に思い付くからだ。
「……保守、か。そんなに悪として見なすものなのかな……?」
そんな事を呟きながら私は空を眺める。素敵な満月が広がっている……と言いたいところだけど、満月はあまり好きじゃない。月の表面が……ギーグのように見えて。イナクナリナサイなんて呟いているように見えて。
誰が居なくなるもんか。むしろ消えてくださいお願いします何て考えたりして。

窓際に置いた机の上にあるのは、満月とは違って平坦でまんまるなチーズケーキ。しかもレモンの酸味が効いたレアチーズケーキだ。
『受験を終えた妹への労い』
名目で兄が買ってきたものだ。兄は既に店で食べていたらしく、「これは旨いぜ!」と妙な墨を私に与えてきた。専門家でもないくせに。あと食べた量を自慢しないで。
皿を近付け、フォークで切り分け、舌先に運ぶ。レモンの酸味がクリームの甘味をいい具合に纏めている。クリーム生地自体もとても柔らかくて良い。そして舌先で蕩ける落ちついた感触……確かに美味しい。今まで食べたどの洋菓子よりも美味しい。あっさりペロリと一個平らげてしまった。もう一個欲しいところだけど、求めすぎは禁物だし……今度店を聞こうかな。

「……ん〜」

その後、今日の日記をつけ終わり、ブログも更新し終わった後、私は軽く伸びをして――たまたま視線上に、外の満月が存在していた。

――瞬間、体の中に大量の熱が生まれた!

「!?っっ!?」
その熱は私を内側から焼き尽くすのではないかと言うほどに熱く、そして激しい。どっ、と汗が出る。脱がなくちゃ、脱がなくちゃ。
すべて服を脱ぎ終わった私は、あまりの熱さに立つことすら出来ず、そのまま床に四つん這いになる。
――その手が、腕が、狼のそれへと変じていく。銀の毛が全体を覆うように生え、指がスパイク状のそれに変化する。脚も同等の変化を遂げていた。
体全体がぞわぞわとすると同時に、首回りを含めた全身から銀色の毛が生え揃う。尾カ嚶怩ゥらは皮膚が延び、尻尾が形成されていく。
変化の度に、私は熱から解放されていく感覚を味わっていた。やがてそれは、理性までもを侵食していく。
鼻先や口が前に突き出て、歯が牙に変化する。まるで狼のようになった私の顔にも毛は生え揃っていく。
やがて、頭から尖った耳が二本突き出て――!

「――ウォォォォォォォォォォォォォォォンッ!」

私は、巨大な狼に変化していた。

「――ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥグルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」
正確には、狼と人間を合わせたような何かだった。世間一般には『ワーウルフ』とでも名付けられるような存在。
人間の皮膚程度なら軽く切り裂ける爪を持ったスパイク状の足。そこから伸びる力強い四本の脚は筋肉が発達し、巨大な胴体を支えるのに十分な力を発揮している。
全身を覆うふさふさとした毛並みは、私の呼吸に合わせて膨らんだり萎んだりを繰り返しているかのよう。
満月が本能を引き出し、肥大化させていく。獣としての神経が研ぎ澄まされ、理性を本能が浸食していく。欲望が、私の中で膨張し、脳から全身へ命令を下し始めている……!
渇望。それも砂漠の砂が水を求めるがごとき貪欲な渇望が私を満たす。宛ら血中に入り込んだ虫が私の全身に食らい付くかの如く、私の精神を欲の結晶が着実に食い荒らしていく。
そうして空っぽになった心に、本能は一気にその触手を伸ばした!

「――!?」

敏感になった鼻先を、何かの香りが掠めた。私は最初、それが何の香りなのか全く理解できなかった。
ただ、この香りを嗅いでいると『求める』。持ち主の存在を激烈に『希求する』。欲を満たす手段として『手に入れたくなる』。いや『従えたくなる』――寧ろ『従いたくなる』――!

「――ウウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!」

――オスの香りだ!力強く、逞しく私を貫いてくれる、その雄々しい獣性で私を組み従えてくれる!荒々しく掻き乱してくれるオス狼の――!

剥き出しにされた歯や牙の隙間からは欲求充足への期待から唾液が漏れ落ち、フローリングの床に染みを作っていく……!
「――グルウウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!」
誰かに呼び聞かせるように遠吠えを一回すると、私は半開きの部屋の戸を飛び出してオスの香りの方へと駆け出した!
今まで通ってきた家の中の道が異常に狭く感じられる。飛び越え打ち壊してしまいたい程にもどかしい。けれど壊してしまったらそれはそれで行きづらくなる。
仕方無く私は最低限のスピードで、匂いの所在地へと足を進めていく。風を感じられないのが何とももどかしい。逸る心が私を急かす。早く、速く行けと!
手摺を乗り越え四つ足で駆け、オスの香りのする、ドアの隙間を潜り抜けると――!

「――ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!」

――遠吠えをする、一匹の逞しい狼が、その雄々しい姿を眼前に晒していた。

「――ッ!!!!!!」
私に走った衝撃は、雷撃や隕石衝突などに喩えたとしても不十分だった。喩えるなら……そう。遥か昔、生命の原点とも言える存在である爆発――ビッグバン。
私と言う存在一切を吹き飛ばし、そこから新たに生まれてくるものは――彼への一切の従属、被支配欲。
生命の原点に直結する、欲望。
即ち――!

彼に、貫かれたい。

「ウヴゥゥゥゥゥゥ……ゥォオ〜〜ン、ゥォオ〜ン……」
これから起こりうることを期待した私は、彼に向けてお尻を高く上げた。誘うように、フラフラと右に左に振る私は、きっと世界で一番淫らなんだろう。
「グルルルルルルルルルルゥゥゥゥゥ……」
確かな熱源が、私に近付いてきているのが感じられた。私が従うべき雄が放つ圧倒的なオーラは、私の体や心の全てを一挙に制圧してしまった。
一歩、また一歩……焦らすように近付く雄に、私は待ちきれんばかりに尻を振った。
今すぐにでも入れて欲しいと願う秘所からは、濃い愛液がとぽりとぽりと溢れ、フローリングの床に淫らな染みを形成していく……!
「キュゥゥゥウウウン……キュゥゥゥウウウン……」
ねだるように切なく鳴く私の、期待に震えるアナルとヴァギナ。そこに雄は顔を近付けると、すんすんと鼻を鳴らし、匂いを嗅ぎ始めた。
フェロモンを嗅ぎとっているのか、あるいは股間の状態を確かめているのかは分からない。けれど、私は――その行為に胸を高鳴らせた。
剥き出しの牙の隙間から漏れる唾液が、床に新たな染みを作る。もしもニンゲンがいたら、悪臭に顔をしかめるかもしれない。けれど私達にとってこの香りは、興奮のスパイスでしかない。
やがて嗅ぎ終わった雄は、そのまま私の体に飛びかかり――!?

ぐぶぢゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

――――――ッ!

「「――ヴウヴヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッ!」」

その逞しい男根を一気に、私の陰唇を貫いて膣道にまで押し込んだ!
「キャウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンッ!!!!!!」
引き裂かれた処女膜の痛みに私は悲痛の叫びをあげた!だが雄は私に構うこと無く体内を抉り続ける!
「ヴヴォンッ!ヴォンッ!ヴォォンンッ!」
本能のままに行われる、荒々しいまでのピストン運動。陰核を多重に突き、肉襞に擦り付けて抉り、奥へ奥へと私の体を掘り進めていく!
「ハァッ!ハッ!ハッ!ハァッッ!ハッッ!キャウウウウウウンンンンンッッ!!!!」
次第に、私の中で生じる感覚が、痛覚から快楽へと変化し始めた。立て続けに与えられる衝撃に、痛覚が麻痺し始めたのかもしれない。
奥に、奥に雄の逸物を招くよう、私も彼に尻を、腰を押し付けていった。揺れる体、ぶつかり合う体。飛び散る汗と唾液、愛液。そして――交差する叫び。
「アォォォォォォォォォォォォォヴゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!」
「キャウウウウゥゥゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥウウン!!!!!!!!」
頭は既に、来るべき最後の瞬間に備えている。交感神経をフル稼働させ、私に刺激を求めるよう促していく!
雄もそれは同じようで、次第に私にかかる汗や唾液の量も増えてきている。雄の香りをふんだんに含んだ液体に、私のヒューズは今にも飛んでしまいそうだった。
びゅくん、びゅくっ!びゅくくっ!
「!!!!!!!!」
雄の逸物が、ついに戦慄きを開始し始めた!いよいよ待ち望んだ瞬間が来たらしい。
「!!ヴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!」
瞬間、ピストンの速度が上昇した!お腹の中へ直に突き入れるような刺激が、私の子宮へと伝わっていく。
私の膣が、雄の雄々しき肉棒を逃さないよう、締め付けを強くした。同時に、尻を雄にうち当てる!
――シンクロしたようなタイミングで雄は、体を私にうち当てた!

――びゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

「「――ア゛オ゛ォォォォォォォォォォォォォンォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!!!!!」」

雄に溜められていた精液が、私の子宮に向けて放たれた。人間のそれよりも長く、量も多いそれは、子宮口に激流のごとく叩きつけられていく。
怒濤の勢いで子宮に流れ込んでいく精液。その暖かな感覚に目を細めながら、私は歓喜の遠吠えをあげた。
私を貫いた雄も、解き放つ快感から遠吠えをあげている。未だ納まらない逸物は、どぷりどぷりと生命の源を送り込み、雄のごとく雄叫びをあげていった。

……ず……ぽっ

私の中から巨大な逸物が抜かれると、それに付き従うように、子宮に入りきらなかった精液がとろとろと溢れ出していく。
雄の香りがたっぷり詰まったスペルマ……その芳香に包まれながら、私は体を伸ばし、地面に寝転んだ。
雄も同様に、地面に寝転んだ。そのまま部屋に、寝息のB.G.M.が流れていく……。

――――――――――――――

……翌朝。雀の声で目が覚めた私は、様々な体液でベトベトになったまま、妙な色をしたフローリングの床に寝転がった自分の姿に気が付いた。
立ち上る、異様に臭い匂い。随分派手にヤってしまったらしい。これで親が来なかったのが驚きなくらいだ。……いや、寧ろ近隣住民からよく苦情が来なかったものだ。
……改めて部屋を見回す。少なくとも自分の部屋でないことは分かっていたが、立て掛けられたCDのジャンルから、この部屋の主が一瞬で理解できた。――兄だ。

――兄?

……まさか……?
私は顔面蒼白になりながら、もしやと思い下腹部を押さえた。

――記憶にある大きさより、幽かに大きくなっているお腹に、思わず叫び声を上げたのは、言うまでもない。

fin.



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