月の砂漠。
今俺がいる場所である。石油の曲ではない。だが、石油は確実に地下に埋まっているという話はある。最も、自分には関係があるとは思えないが。
数年前、石油を掘ろうとショベルを持った老人に出会ったが、あの人は今はどうしているだろうか………。
「………んっ」
思考がまたズレた。とりあえず今はどんな状況下にあるかを教えないとな。
数日前、ペリトン砂漠を中心にかつては活躍、少し前まで落ち目にあったキャラバンの一つが解散した、との知らせがあった。中間どころの隊員が蠍の尾にめった刺しにされて死亡。重役何名かが突如として失踪。一人残った隊長は、近くにある宿場町に隊員を移動させ、解散を宣言したという。
『私達はもう、あの砂漠では交易は出来んよ。砂漠の主を怒らせてしまったようだ』
隊長はそう最後に告げた直後、失踪してしまったらしい。
「…………」
足元に転がる複数の頭蓋、それが失踪者のそれかは分からない。だが骨の格好から推測するに、追剥に襲われ身ぐるみ剥がされた、と考えるのが必然だろう。必ずいるのだ。どの砂漠、どの世界にも公益物を狙う賊は。
「……ん……ここから……」
俺が今休んでいるのは、偶然発見した廃墟。住宅跡か、それとも城塞跡か、分厚い土の壁がいい背持たれを形成している。そこで俺はカンテラ片手に、次行く場所の見当をつけていた。何か目的があるとすれば……この砂漠の遺跡を調査する、って所か。
この砂漠には、今だ発見すらされていない遺跡が沢山あるらしい。キャラバンは公益の傍ら、そういった遺跡より収集した貴重品類を売り捌いていることからも明らかだ。
やや無粋だよな、と俺は考えている。もしかしたら過去が変わるかもしれない大発見があるかもしれないのに、それに気付かずただ売り捌くだけというのはどうにも、なぁ。
俺は調べてみたい。全てでなくても良い。見ていない物があったら見たい。人一倍の知識欲はあった。でなければ考古学者なんてやってはいない。――まだ半人前だがな。
「………うし、行くか――」
見当と言う名の当てずっぽで、俺は場所を選び、立ち上がろうとした――瞬間。
ごすぁっ。
「――がぁっ!」
後頭部に強烈な一撃を見舞われ、俺の意識はその場でブラックアウトした。
迂濶だった。
頭蓋が追剥のものだと判断したときに、すぐにでも逃げ出していれば――!
「さぁ、とっとと歩きな」
五・六人の顔を隠した男達に付き添われながら、俺は見知らぬ場所を歩かされていた。
背中には、ぴっしりと短刀が突きつけられているのが分かる。下手な動きは出来まい。元々格闘に自信がある理由じゃないし、そもそも六対一じゃ多勢に負勢だ。
下手な動きは、そのまま死に繋がる。なら俺は――そのまま動くしかなかった。
どうやらこの男共は、遺跡探索に俺を使おうとしているらしい。
装備で俺を遺跡探索慣れしていると判断したらしいが、んなら仲間に誘った方が早いんじゃねぇのか?最も、俺は絶対断るが。
さて。今の状況、嘘をついてでも逃げたいが、残念ながら男の腕は俺をがっしり掴んでいる。逃げようにも逃げられない。第一、嘘をついたとして、この面子は全体行動ばかりだ。俺一人だけにしよう筈が無い。
「……これが終ったら、俺を解放してくれますか?」
俺を縛る男の一人に試しに聞いてみた。怒らせたらいけない。ここは下手に出るしかねぇ。
「あぁ、いいぜ」
断られる前提で聞いたが、意外なことに一発OK。その後再三念を押したが、下卑た笑いを浮かべながらも返答はYes.だった。
――こいつは、このまま行けばイケるかもしれねぇ――
俺は当面はこの男共の言葉を信用することにした。
男達の考えは至極簡単だ。遺跡を奥まで探索するに当たり、遺跡を知ってる奴を欲しがったんだろう。そして、ヤバくなったときの囮役を。だがこっちは一応百戦錬磨を自称してはいる。半人前だが、それなりに場数は踏んでいるつもりだ。そうそうヘマなぞ踏まん。
「――この遺跡は見たところ、古代奴隷王朝の礼拝堂奥。所謂隠し通路、っつーところか――」
まぁ、何だ。どこの時代にもコスイ破戒坊主はいるもんだ。この奴隷王朝の時代だ。奴隷から貢がせた金を保管する場所でもあるんだろう。
この王朝の特徴は、地域によって文化の差異が凄まじく激しくなることだ。同じ王の紋章を幾つも用いて建物を作ること、基本的な内的構造が似通っている、と言う二点で判別は容易だが。
掘り出された地層から判断するわけにはいかない。と言うより出来ない。砂をどう判別するのか、俺には皆目見当がつかん。だからこそ、分かりやすい特徴なりを判断材料にする、それが俺の方法だ。
贋作?本物と偽物じゃ感触が明らかに違いすぎる。材質だけの問題じゃねぇ。根本的な違いがあるのさ。経験者にしか分からん、違いがな。
次第に奥まっていく礼拝堂跡。それらしきものを幾つか集めながら男共は俺を連れていく。俺としてはもっとこの遺跡を探していきたいが、それは許してはもらえないだろう。何より、さっきから男共の動きは滅茶苦茶雑だ。無粋にも程がある。
目当てのもんがある――っつーわけでも無いんだろうが。
「――ここが礼拝堂、か」
その声を聞くや否や、俺を拘束している奴以外の面子が挙って動き出した。狙うは隠し財宝だろう。どの時代でも権力者はどっかしらに隠し場所を持つもんだ。そして奴等は――そういった場所をすぐに的中させやがる。
三十分も経たないうちに、目の前には戦利品がたんまりと積まれていた。――こんだけ手に入れたら良いだろう。
「………約束は果たしましたんで、俺を解放して――ッ!?」
重い、だが鋭い衝撃。それは何の躊躇いもなく俺に対して振るわれたものだ。何が起こったのか、視点を下に移すと、俺の胸に……鋼の塊が突き刺さっていた。
鈍く光るそれは、俺の血でその身を赤く染めていく………。
「解放してやったぜ?生の苦しみから。じゃあな――」
男達の意地の悪い笑みが俺を見下ろす。くそぉっ!一瞬でもこいつらを信用した俺が馬鹿だった!
くそ………こんな………死に方………したくねぇのに…………
――次の瞬間――
「┻╋━┓!」
ドゴォンッ!
「ギャアアアアアアアアッ!」
――死にかけの俺の耳に響いた、人間では再現できない、聞き成れない発音と、爆音、そして――断末魔。
強烈な光が俺の目を焼いたが、それに叫ぶだけの体力も無かった。そして、思考すら……今にも止まってしまいそうだ。
暖かい、血の感覚が、胸からじわじわと俺の体を覆っていくのが分かる………。
静寂。だが、何か布を擦る様な音がこちらに近付いてくる。
ずるり……ずるり……
それは、確かな質量を持って俺の耳に囁きかけてきた。俺の本能は逃げろ、とひたすらに叫ぶが、体は最早、殆んど俺の支配から離れてしまっている。
ここで終りか………。
嫌だ。そんな終りは嫌だ。死にたくない。だが、どうすることも出来はしない。俺に出来るのは、目の前に何が近付いて来るのかを、ぼやけてくる視線で確認することだけ――!
まず俺の目に入ったのは、幾つもの節が入った巨大な白い腹だった。それはある部分からは赤色の硬い外殻にとって代わっている。胴周りは、人間を軽く五人は入れておけるほど大きいが、尾の長さはそこまではない。先端が近くに見える程度だ。
記憶にある生物で一番近いのは、ラーバワームと言う蟲である。砂漠に拠点を持つこの蟲は、とてつもなく巨大であり、どんな生物も丸のみしてしまう獰猛な種族として有名だ。だが――
「……駄目、傷が深すぎる……どうしよう……」
幾つめかの節より上にあるのは、紛れもなく人の上半身だ。くびれた腰には臍が可愛らしくへこみ、、たわわに実った巨大な果実は、体が動く度にゆさゆさと自己主張をしている。
そして、可愛いと言うよりは、寧ろ美しいと言う方が適当な顔。もし下半身も人間であったとしたならば、言い寄る男は後を絶たないだろう。
下半身は蟲、上半身は人間。普段の自分なら、恐怖のあまり逃げ出していたかもしれない。だが俺は、襲われる恐怖よりも体の死の恐怖で頭が満たされている。それだけに、この蟲女の姿を見ても、大した恐怖は湧かなかった。寧ろ、その上半身の美しさに、一瞬恐怖が薄らいだぐらいだ。
蟲女は何故か暫くおろおろしていたが、何かを閃いたらしい。一瞬両腕を組み、片手を頭に当てると――俺の耳元にずいっと近付き、囁いた。
「――生きたい?どんな形でも生きたい?」
――生きられるのか?
どんな形でも?
形など関係ない!俺はまだやりたい事がある!
まだ死にたくねぇんだ!
俺の返事に、躊躇いなど無かった。
「……ああっ!……俺を………生かしてくれ!」
我ながら、無粋な言葉だ。完全に悪魔と契約のそれじゃねぇか。まぁ人間は、人間以外のもので都合が悪ければ悪魔と呼ぶから、間違っちゃいないけど……な。
俺の渾身の叫びを聞いた目の前の蟲女は、顔に幽かな笑みを浮かべながら、そのまま俺の体を抱き寄せると――ズボンを下ろし始めた。続いて下着も。
「………あ?」
瞬く間に下半身を素にされてしまった俺。一体何をするつもりなんだ?
そんな俺の疑問をよそに、蟲女は人間部分と蟲部分の境界線より少し下の辺りを、右手でいじり始めた。特に臍のライン上にある部分を、なぞるように、つま弾くように。
同時に左手で、その巨大な乳房を揉み始めた。垂れていない美しき半球を下から寄せ、乳首をこりこりと抓んで刺激を与えつつ、乳房を優しく揉んでいた。
腰をくねらせながら行われた自慰行為。何故かそれは、俺の本能に小さな火を灯したらしい。力無く横たわる俺とは対照的に、俺の分身はその雄雄しい姿を眼前の蟲女に晒していた。最も、相手には見えていないようだが。
「んんっ………ぁんっ………」
くぱ、ぁ……
蟲女の顔が幽かに上気した頃、右手が触れていた部分が、徐々にその花びらを開き始めていた。淡いピンク色の花びらは、体内で分泌される蜜で濡れぼそっていて、生き物を誘い込む食虫植物のように、甘い香りを発しながらやわやわと蠢いていた。
とろぉ……
花びらの奥から、蜜が溢れ出してくる。それは明らかな粘り気を持ちながら、蟲の胴体をゆっくりと覆っていった………。
びゅびゅっ!
「!?」
な、何か暖かい物が胸元に――。いや――女の胸から何か液体が発射された――?
やや乱れた視界の中、俺が視線を女の巨大な双球に映すと、その先端から下乳にかけて、液体が垂れた跡と思われる筋が走っていた。つまり、このかかった液体は――。
「――は、あはぁん――」
頬を上気させながら、うるんだ瞳で俺を見つめる蟲女を見ていると、どうしてか胸から痛みが引いていく……。
胸に当たったのは、恐らく彼女の母乳だろう。仄かに甘い、生物に安らぎを与える独特の香りが俺の胸元から立ち上るのが分かる。だが、何故、胸の痛みが引いて行くのだろう――?
「痛いの、引いたよね……?私の母乳、効いてきたかな?」
蟲女が、やや心配そうに俺を見つめてくる。血が止まっているわけではないが、俺は彼女に対して、思わず微笑んでいた。
痛みは母乳の効果ですっかり引いたが、相変わらず胸からは血が出続けてはいる。勢いは……やや弱まっているが、体の熱が徐々に引いていく。
歯が、自然に音を立て始めた。恐怖からではない。体が冷えたことによる自然な反応だ。
蟲女は、体が震えだした俺に近付くと、そのまま俺に口付けをした。唇同士が触れ合った瞬間、俺の中に舌が差し込まれ――
「んんっ!」
――いきなり何かが俺の中に流れ込んできた!唾液?いや違う。舌にはそんな感触は――?
「――?」
何だろう。不定形のエネルギーとでも言った方が良いだろうか。それが俺の中に入れられていく………少しずつ、体に染み渡っていく……。
「――ぁあっ………」
幽かに、体がぽかぽかしてきた。だが同時に、体が動かなくなってきているような、それでいて肉体と精神が若干寄り戻されたような――。
「気分は………?」
蟲女は、心なし安らいだ俺の顔を見て、少しほっとしたらしい。先程の自慰で幽かに火照った吐息を、俺に吹き掛けた。
ふぁ………と、果実酒のように甘い香りが俺の鼻孔を満たす。それらはそのまま俺の頭へと進行していき、意識を桃色に染め上げていく――。
ぴ、ぴくんっ
俺の体は相変わらず動く気配すらないが、もう一人の俺は徐々に限界に近付きつつあるらしい。序でに――俺の命も。
「――あ♪」
ぴちゃ………にちゃ………
愛液と乳の川をその体に形成しながら、蟲女はようやく、俺の逸物に気が付いたらしい。ただ嬉しいだけの笑みとは違う何かを浮かべたが――霞んでゆく視界と止まりゆく思考のせいでそれが何なのか、はっきりとは判らなかった。
「待っててね――今から助けてあげるから……♪」
女は、俺の真横に体を寝かせると――!
「――むぐっ!」
いきなり抱き寄せながら、俺の口に乳を押し当ててきた!瞬間――!
ぶしゅううっ!
「!!!!!!!!」
猛烈な勢いで母乳が発射された!
「ん――!んぶふっ!ぶふっ!」
勢い余って気管支に入った母乳によって俺は蒸せたが、その息すら乳房の弾力によって口の中に押し戻され、さらに乳房を圧迫したことでさらに母乳が発射され、結果俺はかなりの量の母乳を一度に飲むことになってしまった――のだが………。
「……んぐ……んく……んむ……」
どうしてだろう。飲むのを止めたいと思う気が全くしない。寧ろ、ずっとこのままこうしていたいような気さえする。舌先から、食道から、体のあらゆる所から、白濁した液体が触れたその場所から、俺の中に吸収され、巡っていく――。
甘い、それは既製品の洋菓子のような激烈なものではなくて、寧ろ自然のものを惜しみ無く使った手作りのお菓子のような、どこか懐かしく、そして――暖かな甘さ。
「ふふふ……あともう少しだよ……♪」
彼女の声は、俺の耳をすり抜けていった。今聞こえるのは、母乳が発射される音と、片耳に一定のリズムで響く、弾力を持った乳房の音。そして――。
とくん………とくん………。
彼女の優しい、鼓動。生命溢れる優しい重低音に、俺の瞳はその役目を放棄し始めていた。
その一方で、俺の意識は、ぼんやりとしながらも保たれていた。今にも手放してしまいそうなギリギリのラインで。
何かがおかしかった。
何かが自分の中に起きていた。
だが――。
ぐるん。
「――んむぅんっ!」
彼女が、俺を抱えたまま仰向けに寝転んだ!当然俺の顔はより巨大な双球に押し付けられ、祝福の白酒を盛大に飲み干すこととなり――!
ぬちゅぁっ
――俺は失念していた。
蟲女の身体的構造を。
自分との絶対的な身長差を。
人間とするように顔to顔では、行為の本番に至れないことを――。
「んおんむんんんんぉぉんっ!!!!」
逸物が、重力によって彼女の秘部に一気に挿入された!先程の自慰でたぷたぷに貯えられた愛液は、熟れた果肉のように俺の逸物に纏わりつき、ふるふると震える肉襞が微振動を与えることで、まるで意思を持ったかのようにこね繰り回す!
カリの裏側、包皮に浮き出た血管に至るまでを揉み解し、確かな質量をもって舐め回していく――。
鈴口は肉襞に直接触れ、ちろちろと軽く舐められていく――。
びくんっ!びくびくんっ!
「んむっ……むぅっ………んんんっ………!」
俺の全身は、俺の分身に支配されたと言っても間違いではなかった。ペニスに何らかの刺激が加えられる度、俺の全身は痙攣を起こしたようにびくびく震え、その度に彼女の母乳が俺の体の中へと運ばれていく――!
そして逸物自身は、限界を迎えてしまいそうな程にピクピクと震えている!袋に貯えられた子種を、今すぐにでもぶちまけてしまいそうな程に――!
そして――!
「あはぁんっ♪」
ぐにゅるっ
彼女の膣が、一気に俺の肉棒を玉袋ごと飲み込み――吸い込んだ!
ずぎゅるるるるるるぅ〜っ!
――最初感じたのは、柔らかいタオルに包まれる赤子のような感覚。そのまま溶けてしまいそうな、甘い甘い浮遊感。だがそれは、次の瞬間には強烈な刺激にとって代わっていた。
まるで魂まで放り出してしまいそうな、強烈な吸引。纏わりついていたねばねばの愛液が、棹、包皮の裏、カリ、亀頭、鈴口に至るまでを舐め引き、さらに肉襞がだめ押しの柔肌ビンタを加えて――!
「んんんんんんんんんんんんっ!」
びゅるるるるるるるぅ〜〜っ!どくっ、どくっ、どくっ………
俺は、溜まっていた有りったけの精を、彼女に捧げていた。
ぴゅ、ぴゅうっ
「――あ、はぁんっ♪」
幽かに彼女も逝ったらしい。固いままの逸物に愛液が更に塗りつけられ、母乳が再び俺を満たし――。
ぴちゃ、ぬちゃっ
「――?」
背中に――液体?何だ?しかもどこか暖かい――。
「ふふふ………」
彼女の声が聞こえる。どうして笑って――。
ぬぅり、すり、ぬぅる、にりゅ、ぴゅ………
「んほんんん………」
俺の背中で、彼女の手が踊っている――。観客のいない舞踏会が進む度に、俺の背中に何かが塗り広げられて――。
ふぁ………
この香りは――。そうか。彼女の母乳が塗り広げられているんだ。彼女のキメ細やかな肌が、生まれたての母乳を纏って、死にかけの俺に慈悲を与えるように優しく乳の服を与えている――。それだけで、俺の逸物は再び元気を取り戻していた。
腰回りから上、上半身がミルクの服を纏った頃、彼女の手は俺の髪の毛にまで及んだ。
「あんっ♪」
ぷしゃああっ!
乳首から猛烈な勢いで母乳が発射される。まるでシャンプーが入ったシャワーのように、母乳は俺の髪の毛全体を濡らしていく。
やがて髪の毛から乳が滴る具合になった時、彼女は俺の髪を手櫛で鋤き始めた。まるで娘の髪を弄るように、一本一本に至るまで乳を塗り込めて――?
……何だろう。何かがおかしいような、そんな気が――。
だが、そんな俺の思考も、体に乳の香りが染み渡り、乳そのものすら吸収されると、痕跡も残さず消えてしまった………。
今や俺の上半身は、すべて母乳の膜で覆われていた。安らかな香りが、俺の心を落ち着けていった………。
「ふふふ♪」
いつの間にか、俺の目は光を失い、耳も、徐々にその感覚を失いつつあった。そう言えば、自分の心臓の鼓動が――聞こえない?
「――おいで……私の中に。今から貴方に命をあげる――」
「――?それって………!」
彼女の発言に、俺が疑問を持った瞬間――!
うにゅゅうるずぼんっ!
「!!!!!!!!」
反応する時間もなかった。ただ、気づいた瞬間、膝下が一気にやわやわぬるぬるした物に覆われて、そこに一気に俺の体が滑り落ちていた。
叫び声すらあげる間も無く。
『おいで……私の中に』
さっきの彼女の一言を頭の中で繰り返して――!
ぐにゅにゅにゅにゅぐぽぉんっ!
「んほあああぁあああむぐんんんんんっ!」
いきなり、俺を包み込んだ何かが蠢きながら体に密着し始めた!間に挟まった粘度の高い液体越しに、俺の身体をぐちょぐちょに揉み上げていく――!
叫び声を挙げた俺の口に、愛液に濡れた何かがいきなり押し込まれた!むにゅむにゅと柔らかい感触が唇に伝わった瞬間――!
ぶしゅうっ!
「――――!!!!!!!!」
俺の中に、何か甘い液体――母乳――が勢い良く発射された!と言う事は………おっぱい?腹の中に、乳房みたいなものがあるのか……?
ぐにゅうにゅずぼぉぉぉぉっ!
「んほぉんむんほぁむんんん〜っ!」
お、俺の腕が、脚が、やわやわとした肉に包まれて、埋め込まれていく――!そのまま襞のようなものがれろれろ、ちろちろと舐めながら、敏感になった場所を執拗に責め立ててくる!
(ま………まさか……!)
このまま俺を完全に呑み込んで――!
そんな考えが浮かんだが――!
ぐにゅぐにゅんっ!
「ぬほうむぅんんんんっ!」
ぶしゅうぅ〜っ!
「んむぅぅぅぅぅんっ………」
両足を飲み込みながら、襞の一枚一枚で至るところを舐め回す肉壁。そのもどかしくもじんわりと来る快感から、俺は身悶え、その拍子に発された母乳が、俺の恐怖心とその根底にある想像を綺麗に消し去り、そのまま思考自体も減退させていった………。
(…………)
俺の体を包む肉は、ぐむぐむと蠢きながら、腕の根本と脚の膝上までをすっかり包み込んでしまった。不思議なことに、包み込まれた場所は、徐々に感覚がぼやけていくような、それでいて幽かに残っているような、ふわふわした感じがした。
傷があるはずの胸から、母乳と愛液が塗りたくられた背中も、柔軟剤を使ったタオルをゆっくり巻き付けられるような感覚を伴いながら、やわやわとした肉の壁が覆ってきていた。さらにそれは――、
「んむんぅんん………」
俺の首筋から耳、髪の毛すらすっぽり覆い込み、目の前にあるであろう乳房に押し付けるように圧迫してきた。
股間も全て肉壁に覆われて……完全に肉の繭に包み込まれてしまう。だが――、
「んむんんんん………」
不思議なことに、俺の身体はこの状況を心地よく感じていた。全身を包み込んだ肉は、人肌よりやや高い、人が快適に感じる熱を俺に伝え続け、ぬるぬるした愛液がその熱を俺の中へと染み込ませていく………。
口からは、相変わらず甘い母乳が流し込まれ、俺の味覚と嗅覚一切を白く包み込んでいく………。
時折包み込んだ無数の襞が、撫でるように俺の全身を擦って、肉壁が抱き締めるように収縮して、ねとねとした愛液と一緒にぐちょぐちょに揉みくちゃにされて――それすら、心地よくて気持ち良くて………。
ぴくん、ぴぴくん
ぴゅる、ぴゅ………
気付けば、俺の息子は溜め込まれた子種を、外に放出していた。
ゆっくりと、ゆっくりと。
漏れ出した精液を、肉壁はぐむぐむと咀嚼するように取り込んでいる――。
とくん………
「んむ………?」
精が俺の外に一滴垂れる度、俺の中で、何かが小さく音を立てた。
とくん………
変だな、今まで全く聞こえていなかったのに、また鳴り出すなんて………。
何か、流し込まれていた不定形のエネルギーが心臓に入り込んで、何かを送り出しているみたいだ………。
ぐにゅん……ぐむん……
とくん……とくん……
……何だ?体がむずむずして――!
くちゅんっ!
「!!んんむむんっ!」
ぺ、ペニスがぁっ!ペニスが何かに包み込まれてぇっ!
目に見えないが、感覚で分かる!ペニスが、管状のものにくわえ込まれているっ!肉壁内部が管状に変化したのかぁっ!
同時に――!
にちゅうっ!
「!!!!ひんむむぅむぉぅっ!」
アナルにも!アナルにも何か管状のものが入ってきやがった!ぐむぐむと抉じ開け、愛液を潤滑剤にして、俺の体の中に潜り込んで――!
「んむむむむぅ〜っ!」
びゅるびゅるびゅくびゅぅぅぅっ!
耐えきれず、俺は精液を放ってしまう。先程までとは違う、猛烈な勢いを保ちながら。
どくっ、どくっ、どくっ………
ペニスを包む管は、中に放たれた精液を奥に奥に送り込んでいく。それも、俺の体の脈動と同じタイミングで――!
うにゅん、うにょん、くにゅ
「!!!!!!んむぅぅぅぅぅんっ!」
ペニスを包んだ管が、前後に伸縮し始めた!管の中は輪状の疣が浮き出ていて、それが包皮を捲りカリの裏をこつこつと刺激していく!管自体も縮み拡がり、まるで歯の無い口にペニスが咀嚼されているような――!
びゅるるぅ〜っ!どくっ、どくっ……
「んむぅぅ………」
また射精してしまった。そのまま心地よい脱力感が俺に被さって――!
ぎゅぽっ!ぎゅぽっ、ぎゅぽんっ…………
「んむぅんんんんっ!」
肛門側の管が、突然脈打つように動き出した!腹の中が、強烈に吸われていく!俺の腹の中身が、下痢かと思われるほどの速度で………!
ずぼるぼぉぉぉぉっ!
ぎゅぽんっ!ぎゅぼんっ!
びゅるるるぅ〜っ!
「んんんんんんんんんんっ!」
腹の!腹の中の排泄物が、猛烈な勢いで腹から吸い出されていくぅぅっ!!
普通ではあり得ない感覚に、俺の息子は喜びの精を放っていた……。
二つの管は、互い違いに蠢いては俺の中身を吸い出していく。
そして一瞬与えるインターバル、それが快感を感じる感覚を休ませ、次の快感を確かなものにする――。
静動入り雑じる管の動きに、俺は――それでも意識を手放せずにいた。
すべての快感を、その精神に受けながら、それでも俺は正気を保っていたのだ。
――普通なら、どこかで壊れてしまってもおかしくはない。
だが――、
「……んんんんんんんんんむんんんんんんんんんんんんん・・・・・・」
全身を優しく包む暖かな肉の繭、それが俺を全て柔らかく受け止めてくれていた事、それが結果として、俺を正気のままでいさせてくれたのかもしれない……。
……いつの間にか、二本の管は動きを止め、肉壁の中に引っ込んでいった。管を外された俺の逸物は、精気と言うものを全て抜き取られたように、すっかり萎びてしまっていた。もはや、俺の器官ではないかのように……。
とくん………とくん………
………あ?あら?臍に、妙な感覚が………。
とくん………とくん………
俺の臍が――いつの間にか何かと繋がっている?そして、そこから――何かが流れ込んでいる?
とくん………とくん………
――でも、どうして、こんなに気持ち良いんだろう。
どうして――こんなに安らかなんだろう――。
とくん――
――長い間、保たれていた意識は、この時、ついに、途切れた………。
最後に俺が感じたのは、臍を通じて、何か柔らかい、だが確かな形を持った物が俺の中に、ぽこん、と入っていった、その感触だった――。
――ここはどこ?
――くらくてせまいばしょ……。
――どこにいけばいい?
――あかるくて広い場所。
――なら、どうする?
――暗い場所から、明るい場所へ出るには?
――答えは、簡単。
………パキッ、パカン
「………――」
生暖かい液体に包まれながら、世界を見ていた。
まっさらな世界。懐かしいようで、初めて見るようで、そんな世界。今すぐにでも探検してみたかった。でも、体がうまく動かない。
そうしたら、誰かに体を持ち上げられた。誰だろう?ほわほわと、同じ香りがする。この香りを嗅いでいると落ち着く。そのままこうされていたくなる。
「うふふ………」
そのまま持ち上げた誰かは、顔を近付けてきて――頬に口付けしてきた。
突然のことでビックリしたけど、何か、凄く、嬉しくて、思わず、にっこり、と――!?
――ちょい待った。あれ?俺は抱えられるような身長だったか?
どうして俺はキス程度で微笑んでいる?
そもそも俺が微笑んでいる、その相手は………お母さ――蟲娘。
今こうして体に何の異常も感じねぇ、っつー事は助かったんだろう。だが――何かがおかしい。
そんな俺の違和感は、ふとどれくらい持ち上げられているのだろう、と言うちょっとした疑問から思わず下を向いたことで、一気に解決した。いや、してしまった。
五歳から六歳がいいところの華奢な腕。
男だとは絶対言えない大きさのバスト。
そして――腰から下、地面まで続いている、節の幾つも付いた蟲の胴体。
その臍からの延長線上に幽かに見える、女性特有のスリット。
どうやら俺は、蟲娘として、目の前のお母さんに命を与えられたらしい。
「どうして、お――私を助けた?」
産まれてからしばらく経って、ようやく自分で動けるようになった頃、俺――私は、お母さんであるラーバワーム娘、ポリンに聞いた。言い方を直したのは、ポリンお母さんが、
「女の子が俺、はおかしいわよ」
と言って、強制的に矯正されたのだ。
ポリンお母さんは少し微笑みながら、
「蠍娘なら兎も角、私のようなラーバワーム娘は他と交流を持てないでしょ?」
どうしてだっけ?
「だって私の姿見たらみんな逃げちゃうし。食われるぅ〜って」
あぁ、成程。確かにこの大きさは普通の人間はビビるし、ラーバワームの事を少し知ってれば、なおさらその反応は的確だと思う。
「そんなわけで、私はずっと一人で暮らしてきたわけ」
そう言いながら、ポリンお母さんは少し遠い目をして、こう漏らした。
「でもね、私に限らず人間が化け物って呼んでる種族はね、無駄に寿命が長いのよ。だから本当に本当に暇で退屈で」
表情を見れば分かる。想像を絶する程に退屈だったんだろう。
「そんな時にコウコガクシャ、って職業の話を聞いたの。コウコガクシャは、いろんな昔の場所に行って、色々と調べて、色々と書いたりするんでしょ?」
お母さんの質問に、私は記憶を辿って答えた。出来る限りを伝えて。そして最後にこう聞いたんだ
「どうして、考古学者になりたい、って思ったの?」
お母さんは、ふふっ、と笑いながら、私の頭を撫でた。
「人間は寿命が限られるけど、滅多に死なないし、砂漠に強い私達ならいろんな事が分かるかな?って考えて。コウコガクシャになるために、まずはコウコガクシャに会って話が聞きたいな、って。
で、いろんな場所に行きながらたまたまたどり着いたこの遺跡を寝床にしていたら、貴女が来たのよ。物騒な人間に取り囲まれてね」
あの盗賊達の事だ。知らずに体を震わせる私の側で、お母さんは話を続ける。
「遺跡の文字を解読する声を聞いて、あぁ、やっと会えたんだな、色々と話をしよう、そうしなきゃ………って思ったのも束の間。人間は貴女を殺そうとしちゃうし――思わず魔法使っちゃったわよ……」
そして、私の体を抱き締めながら、こう話した。
「で、私は死なせたくなかった。貴女を。でも、回復魔法なんて私には使えない。だから――」
「――私をお母さんの娘、として生まれ変わらせた、と。記憶も完全にそのままにして」
お母さんの言葉を継いだ私の答えに、お母さんは頷いた。
「そう。だからあの質問は正直、賭けだったのよ。生きる気がない人間を、記憶を残して転生させる事なんて出来ないから」
悲しそうな顔をしながら、お母さんは私を見つめてくる。そんな顔をしないで欲しい。
「………ごめんなさいね。私のエゴで貴女を同族にしちゃって」
お母さんはそう言ったけど、私は全く気にしていなかった。だって、お母さんがいなかったら、私、そのまま死んじゃってたし――。
――それよりも。
「………ねぇ、お母さん。私達に時間はたっぷりあるのでしょう?」
私の問いかけに、お母さんはそうよ?とやや不思議そうに答えた。
そう。時間は十分ある。お母さんが与えてくれた時間も、お母さん自身の時間も。旧き時を訪ねるためには、深く時を知る必要がある。
なら――。
「教えてあげる。歴史を描く、考古学のイロハを」
――後に、お母さんと私――ポーラは、『歴史の紡ぎ手』『真実の探求者』等といった二つ名で呼ばれるのだけど、それはまた別の話………。
fin.
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