「『……末長き幸せを願って』……っと。ふぅ……」
突如届いた結婚式の案内状。そこに書かれている、出会って七日のスピード婚という状況に動揺を覚えつつも、私――ラン=ラディウスは届けられた案内状に、参加に丸をつけて送り返した。これが数日前。差出人は……花嫁の両親のようだ。
メインで参加するのは私。本来行くはずだったおねぇさまはお休みというより行動不能中。それもここ三日ほど。一体何者なんだろう……おねぇさまとタイマンで殴り合って完全痛み分けだった人間……美影さんのお母さん。異世界怖い異世界怖い。
たまにこちらに紛れ込む異世界の人……だったり人じゃなかったり。前におねぇさまと本気で二週間交わっていたアニマさんとか、おねぇさまが可愛いからという理由で連れてきた、魔物化と回復を繰り返す美影さんとか……。
「……ふぅ」
さて、出発の準備を始めなきゃ。そう私は自室に戻ることにした。結婚式に行っている間、代理の番台は例によってワーキャットのケイさんに頼むことにした。
ケイさんの住む街は、少し前に中央教会の襲撃の被害を受けたけれど、今は回復に向かっているらしい。経営している宿は、アイラさんというリザードマンに預けておいて大丈夫らしい。もうじき来るらしいけど……と考えた矢先に、従業員口に呼び鈴。

「はろはろぼっさー(・∀・)ノシ」

藍色の鈴が付いた首輪を付けて、杏露酒とマタタビ酒の瓶がズボンに括り付けられている、ピコピコ動く耳が可愛らしいワーキャット、ケイ=メラコッドがドアを開き、手を振っていた。
「どうも、お久しぶりです、ケイさん」
実は私が番台をやる前にこの宿の番台をやっていたのが、今目の前にいるケイさんだったのだ。辞めた理由は、『自分の宿を持ちたかった』からだという。そして……オーナーの過剰スキンシップから逃れたかったから、と言うのもあるらしい。
「にゃっはっは〜♪お久にゃ、ランちゃん。あ、これオーナーへのお見舞い品にゃ。こっちは御祝儀にゃ」
早速手に持った荷物を私に預けていくケイさん。しっかり見舞い品と御祝儀を持ってくる辺り、流石前番台と言うか何というか……。
「有り難う御座います。おねぇさまに渡しておきますね」
受け取ったからには、渡さねばなるまい。私はその荷物を受け取り、御祝儀袋は私のそれと同じ場所に入れた。これで忘れることはないだろう。
「しっかし……あのオーナーと痛み分けにゃんて、正直信じる方がむずいにゃ」
そう何かを思い出したらしく……ガクガクと震えるケイさん。そう言えば、酒乱状態のケイさんを四日四晩おねぇさまは犯し続けてたってケイさん話してたっけ……あの本当に殺されるかもしれないって恐怖を覚えた彼女の状態を一撃で沈めた挙げ句、昼も夜もなくずっぷりずっぽりと尻尾を挿入されて……ぶつかり合う肌と肌……珠のように浮かんだ汗が弾けて甘い芳香を放ち……二人だけの愛欲にまみれ……目に映るのは互いだけ
「ランちゃんカムバックプリーズ(還ってくるにゃ)」
「――ハッ!」
いつの間にか妄想トリップしていたらしい……珍しく中断が入ったけど。多分止めてなかったら絶頂までありありと頭に浮かんでいただろう……私の頭はゴーストと同じか。何か悲しくなる……。
目の前では、同情の目線を送るケイさん。同じ経験を共有しているからこそ分かる……この妄想癖。
「……ワタシもオーナーに吹き込まれたからにゃ……」
だいたいおねぇさまのせい。これが番台の真理なのだ。それが分かっているからこそ私達二人は、同時に溜息を吐いたのだった。


さて。
ケイさんに番台を任せて、おねぇさまの部屋に見舞い品を置く(器用に尻尾で近くに持っていける程度には、おねぇさまは回復していたみたい)私。そのまま「行ってきます」と宿のみんなに告げて、私は宿を発った。……テッサちゃんと。
「行ってきまぁ〜す♪」
'ドーター'で鍛え上げた可愛らしい声で他の店員達に出発の挨拶を告げるテッサちゃん。彼女の出発の理由は私と一緒だ。結婚式の出席。ただし――その前にやることがあって、途中で別れるのだが。
「ナドキエ出版に出す原稿を絶賛執筆中のルミル様と、お供してるルフちゃん、ベーツちゃん、ローラちゃんを回収してきますっ♪」
その理由がこれだ。ナドキエ出版から出す最新刊の短編集、『泡は焦がれ、綿は笑む』の原稿を現在急ピッチで作成中のルミルさん。無論、ルミルさんは今日が結婚式当日だと知ってはいるけれど、流石に締め切りは守らなければ、とのこと。
なので数日前から作家志望のアシスタントと共に別所で缶詰めしているという。そして彼女達は……缶詰めで魔力が減少している。
そこでテッサちゃんが缶詰めの場所に行き、執筆手伝い兼結婚式場へと案内する……らしい。魔力増強剤(甘味珈琲)と地図さえあれば、四人で転移魔法がつかえるそうだから。
で……そこで問題が一つある。すなわち、ルミルさんのスランプだ。取材先のカリュブディスやケサランパサランの性格が掴めないとぼやいていたし、アリスやフェアリーは色々書き尽くしてしまい二番煎じになってしまうとのこと。ピクシーやインプは……悪戯の記憶が蘇るらしい。
つまり、ロリの魅力がうまく筆に乗らず苦戦している、との話だ。だからこその缶詰めだそうな。
で、缶詰め中の彼女に、労いと活性化を込めて手製シュークリームと甘味珈琲を手に向かい、仕事終了後に式場に案内する、それがテッサちゃんの役割なのだ。
「では番台さん、式場で会いましょうっ♪」
別れる前に見たテッサちゃんの笑顔は……何故だろう。これまでにない激務が彼女に降りかかるだろう予感をさせた。
多分彼女の筆は……まだ止まってはいない。


――そして私の予感は的中し、式開始後にもルミルさん一団の姿は見えなかった。不安を感じ背後に現れるだろう転移方陣の有無を確認をするけれど……来ない。
やきもきしつつ始まった結婚式。どうやら神官がアマゾネスらしい……アマゾネス?え?いや、『デルフィニウム』にも集団客として来た覚えがあるけれど……まさか……まさか。

「――では、二人とも愛する男との契りを交わし、この場にいる者たちに、持てる愛情の全てを見せつけるのだ!」


――やっぱり!まさか結婚式もアマゾネス風になるまいなと思った私の期待を見事裏切りませんでした!流儀は流儀で仕方ないけど!
あぁ……もう、早々に旦那さんが二人襲われて……って他のお客さんも既に初めてるし……!
右を見ればエスティーさんがフェアリー六匹に襲われて……アナルを……あんな大きくて太いものを……お腹で感じてる……愛を感じてるんだ……。
左では……ラージマウスの子が……男の子に甘噛みして……のしかかって……中に招いているんだ……。愛しているんだ……。
あれ……?あの子どこかで……どこだっけ……。
右後ろでは……インキュバスが他の魔物と交わって……。
「おお、丁度始まったようじゃ!」
「間に合ってよかったですね、ルミル様」
ああ……ルミルさん……やっと到着したんだぁ……しかもエッサムスさんと一緒にぃ……。
「む、これ番台さん、しっかりせんか……ど、どうしたのじゃ番台さん!尻尾が揺れて……伸びて……」
うふ、うふふふふふふ……みんなしあわせそう……ずっぷりと……ぬぷぬぷとぉ……おくまでぇ……貴方の全てを内部に、そうばら撒いてぇ……。
「more deep……じゃなかったマイハニー!番台さんのSAN値が乱交でマッハだよ!」
「なんじゃと!?えぇい魔女達!即座に散開せよ!教会外部に結界を――」
「駄目ですルミル様ぁっ!間に合いませぇんっ!」
「Retreat!Retreat!」
「だめぇっ!逃げられな――!?」
うふ、うふふ、うふふふふふふふふ……♪
「えぇい、かくなる上は――!」

「――愛し合いましょごっ!」


「……ふ〜、危ないのぉ。おーい、番台さん、元気かえ?」
……ふぇ?
「……ルミル……さん?いつ到着しました……?」
……というか、あれ、私は何を?周りの魔女の子達が戦々恐々してる、と言うか既に落ち着いたらしく溜息吐いているけど。
「……今先程だよ、番台さん。全く、少し遅れたら大惨事だったよ〜?まぁオーナー来襲よりは遙かに軽度だけど」
「へ?」
えと、それは……どういう……。
「アマゾネス式婚姻を目の当たりにして意識が飛んだのじゃよ。オーナーにあれだけ犯されていた番台さんじゃ。普段魔力は呪符で抑えておろうが、本能までは抑えきれんじゃろうて」
「しかもここ数日、オーナーは行動不能ですからね〜。妄想回数も多くなっているんじゃないですか〜?」
サバト関係者に話される衝撃の事実。つまりおねぇさまに犯されなくて、潜在意識的に欲求不満になっていたところに、予想外の結婚形式、そして早々におっ始める面々を見ての思考停止が起こって……。
「……それはマズかった。有り難う御座います」
この式場をさらに取り返しのつかない状態にするところだったのか……鳩尾に一撃もらって良かった……。
良いのじゃ、と一言、ルミルさんは魔女達を散開させて……と言うか思い思いの相手を探すように言った。そのまま、彼女自身もエッサムス氏を呼び、彼はそれに応えるように、自身のズボンを下ろしていった。
「番台さんも、たまにはタガを外さない程度のMaGuWaIを行ってみたらどうじゃ?スローSEXも、愛には必要じゃよ?……んっ♪」
ウィンクを投げかけた直後、ルミルさんはエッサムス氏の胸板に自身の体を預けつつ、深い口付けを交わし始めた。もう既にルミルさんは集団の中に溶け込んでしまっている。


……で、どうすればいいんだろう、私は。
『ヤればいいと思うわ♪』
……おねぇさま、わざわざ念話を飛ばさないで――!?

「ひゃうっ!?」


「わ〜♪妖狐の尻尾ってふっかふか〜♪」
だ、誰ぇぇっ!?慌てて振り返った瞬間――そのまま私は押し倒されていた。参加者の一人……色々と美形が台無しになっているようなショタに。
「ひゃ、やめ、やめぇっ♪やめれぇぇっ♪」
まさか見ず知らずの子にいきなり犯されるって事があるな――ひゃうあああっ♪
「ふぁあああっ♪すっ、すわないでぇ♪おっぱいすわないでぇぇっ♪」
「ふふん♪そんな顔して言ったって説得力は――」

――プツン。


「――ふゃああああっ♪」
――ふ、ふふふ……どんな教育受けたか知らないけどね……乱暴しちゃ駄目よねぇ……。おねぇさま式性教育を学びなおさせてあげるわぁ……覚悟なさいよ♪
「ふふふ……♪誘い受けかしらぁ♪悪いコにはお仕置きしてあげるわぁっ♪」
「ひゃああっ♪そこ駄目敏感ふぁあ♪おしりぃっ♪おしりの穴チロチロやめいぁああああっ♪」
「まだまだぁ♪貴方がやってたこと、分かりやすく体に教え込んであげるわぁ♪覚悟なさい♪」
「ひぃっ♪ひゅあああっ♪尻尾が背をすりすりってしてぇっ♪」
「さぁ、そろそろlesson.2に進むわよぉ♪レディをエスコートするにはねぇ……強引に誘うだけが方法じゃないのよぉ♪今からみっちりと……愛欲の元に教えてあげるわぁ♪」
「ひゅわぷぁっ♪ふかぁ♪かうっ――ひぁあああああああああああああああああああっ♪」


……こうして私は、この結婚式も、愛欲にまみれて過ごすことになるのだった……。
不思議と理性が飛ばずにそのままだったのは、ルミルさんが鳩尾を打ったときにそう言う呪を私に刻んだかららしい。そのお陰か……妙なキャラが出ちゃったりしたけれども。
というかルミルさん、いつの間にエスティーさんと『妖精の国』直通ルートの建設合意を?まぁおねぇさまなら一発OKするに違いないけど……。

今度から、自力で理性を保つ練習をしよう。いや、しなければならない。そう決意した私が宿の戸を開いた――瞬間。


しゅるるん♪
「うぇるかむ♪」


――戸の向こうは、素敵な部屋でした
「っていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんむぐっ♪」


おまけ
「……で、原稿は?」
「急いで埋めましたよぉ。校正作業もフルピッチでしたし」
「空きページは?」
「私の到着時点でP100ありました。私が来た瞬間にルミル様が覚醒したみたいです♪」
「……覚醒ってレベルじゃないでしょ。人のこと言えないけど……」


おまけ2
「番台はん、何やってはりますのん?」
「札を無断で剥がそうとした妖精さんに、尻尾で罰を与えているそうですわ」
「あぁ……それで先ほどから尻尾がもぞもぞと動いてはるんですか」

fin.








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