3日目:『おとぎ博物館』2




「…………」
俺はヴァン氏の話を聞いて、少し疑問に思ったところを尋ねた。
「………その幽霊と言うのは、誰でも残るものなのですか?」
ヴァン氏は少し困った表情を浮かべながら答えた。
『そうですねぇ…………この世においてどうしても伝えたいこと、これだけはやっておきたかったこと、そういった想いが強い人が幽霊として、現世に縛られるようです。また、自殺した場合には、どれだけ現世に対する想いがあっても幽霊にはならず、蛍になる………といった話しもあります』
「…………と言うことは、主に残るのは………」
『ええ。不慮の事故で亡くなられた方とか、あとは…………不治の病を患って死んだ方などですね』
死者との関わりの伝承は、やはりどこのどの話を聞いても重いもんだな。そして、やはり綺麗だ。死ということの儚さ、消え逝くものの定め、そして遺される者の嘆きと成長。そういったものを教えることは、例えばフランダースの犬を見て泣く子どもがいるように、心に何かしらの感動、そして『悲しみ』という人間的感情を教えることと同様なのだろう。
………優しいバラードが数曲書けそうだ。
「素晴らしい話、どうもありがとうございました」
そう俺はお礼を告げると、ヴァン氏は柔かい――しかしどこか少し弱々しそうな――笑みを浮かべて、こう言った。
『よろしかったら、当館のお土産店も見ておきますか?今日お話しした物語以外の本もありますよ』


………ふう。取捨選択が大変だった。
あの後、ヴァン氏に確認しつつ購入する本を選んだが、どれも個人的に興味がそそられるものだった。ただ流石に他の土産を買うことを考えると………重さと体積的に二・三冊が限界だった。
しょうがないので他の本はタイトルと値段、出版社をメモって日本で買うことにした。その本が絶版してない限り買えるだろうしな。


博物館を出てから、俺は………何か妙な感じがした。何か大切なことを見落としているような………。
………ま、いいか。どうせたわいもない事だろう。荷物は全て手元にある。忘れ物をしているわけではないからな。
さて。
「凍った湖はどこかな……ん?」
地図で確認すると、存外近いことが確認できた。しかもその間にはお土産店らしきものもある。
「………よし、行ってみますかな」
俺は少しうきうきとアクセルを入れた。

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