Phase 1:Jeger





耳をつんざく爆音。
耐えず響く重低音。
金切り音も当然何度も響く。
焦点がオレに向いているのは分かりやすい。目の前にある特殊合金の盾の振動が止まらず、Xenonのヤローが開発したフォーチュン――自動弾幕回避装置――が働きっぱなしな現状だからな。
オレは右腕に装着した小型レーダー、通称『アンドロ君』を作動させ、敵の数を改めて確認した。
――30曲。曲の形をしたダミーデータだが、それだけに戦闘向けに改造されてやがる。コアではそこそこの戦闘能力を誇るオレだが、こいつぁキツイぞ………?
ったく、こんなことになるって知ってたなら、ジェノの野郎から武器を借りれたっつうに!
星の巡り会わせはVotumのヤローに任せるとして、オレは本日何度目か分からない愚痴を溢した。
「オレはリミックスに呼ばれただけだぞ?何でんな事に巻き込まれてんだよ!」


運のコケ始めは、Aにデジカメを渡し、急いで電車を出てからだ。
オレが降りたのは電脳街。ハイメタリックな住居が立ち並ぶ場所だ。本来なら、ここにはアンドロやリソナを誘って機材あさりに向かうんだが――今日は違う。
オレ達が改造に着手している電人の、原型の製作も手掛けている硬派テクノメイカー、L.E.D.氏が、オレを直々にリミックスするという話だ。
手紙が来たのは数週間前。いつものよーに適当にサボりつつ仕事をこなしていた折りだ。
同僚のスケイプは心境複雑だったろうが、他の奴同様、おめでとうコールはしてくれた……照れ臭かったかな、ありゃ。
んでその後何が起こるわけでもなく時は過ぎ、リミ二日前、リミックス曲専用列車でAと適当にだべりつつ――Aの行き場所が俗称'時を止めた場所'だったもんで、思わずその空間を撮ってくれとデジカメを押し付け、電脳街に着いたわけだ。どうやら、オレが一番リミック場所が近いらしくてな。
あらすじは終わりだ。


………っかし、迎えの気配がねーぞ?L.E.D.曲。数分は待つが、来なかったらあいつらの家に簡易ウィルスでもばら蒔いてやろうか――と見つめた携帯。
と、メールが一件入った。どれどれと見ると暁のヤローからだ。
『そのままの立ち位置でいてくれ!』
「………は?」
どういうことだ?立ち位置?


疑問は下から解決した。


突然高速で地面が開くと、オレが重力に引き寄せられるより先に、何かがオレの体を掴み、天空へと押し上げた。
あまりに突然のことに、オレはただ口をパクパクすることしか出来ず――オレを掴んでいたのは、金属製の手?しかもこれ、どっかで見たよ〜な。
………って!
「電人じゃねぇかこれ!」
『そうだ!電人だ!』
聞き覚えのある声が、拡張スピーカーからガンガンに響く!
「うるせぇっ!音下げれ!耳壊す気か!」
鼓膜破れる可能性あるぞこの音!あ〜も〜耳がジンジンする!
『文句は後だ!とりあえず中に入れる!』
オレの声聞こえてやがるし!そう苛立った瞬間、オレは電人の首元にある入り口に、乱暴に放り込まれた。

「………いつつ………もっとマシな入れ方をしてくれよ、暁………」
「仕方がない。今は緊急事態だ」
受け身に失敗し、強か腰を打ち付けたオレは、操縦者の暁―電人、暁に倒れる―に文句を垂れたが、今のコイツに皮肉は効きやしねぇ。
「………だろうな」
ま、それも仕方がねぇ。電人をかっ飛ばすなんざ、緊急事態が鈴と拡声器釣り下げて歩いてる様なもんだ。
「………んで、それはオレ様のリミックスに支障が出るような事態なんだろうな?」


「当然だろう。私もそのために呼ばれたのだからな」


凛とした声。オレが振り向くと、そこには軍服に身を包んだ、橙の鳥の巣ヘアーをした女がいた。
オレは当然、この女に見覚えがある。
「WAR GAME………」
マジかよ………。オレの記憶では、こいつが直々におでましになるのは、相当ヤバい事態ってこったぞ?ハーネマン直々に鍛えられ、武器の類は全部マスターしたらしいからな、こいつは。
そんなオレの動揺を悟ってか、WARは続ける。
「バグ・データが、L.E.D.氏を誘拐した」
「何ぃっ!」
うっわ、いっちゃん最悪な状況じゃねぇか!
「奴の狙いは、氏が保持していたと思われる兵器だ。名前は――Spreading Particle Beam。略してSPB」
「Spreading Particle Beam………」
えと……Spread……拡散する………Particle………粒子………Beamはそのまんま――!

「拡散粒子砲!?」

WARは頷き、そして続ける。
「それは本来なら、お前のリミックス用に使うものだ。だが兵器としての危険性から、お前が来るまでは設計図に書き留めておくだけだった」
「それが設計図ごとバグに奪われた――」
オレの言葉に、WARは無言で首を縦に振る。――うわ。何つ〜展開だよ。
「――で、オレは何をすることになんだ?敵さん排除は寧ろリソナのヤローの十八番なんだが」
オレ達COREの役割分担は明確だ。
オレは侵入情報のキャッチ及び敵側へのデータ侵入。
アンドロは敵の位置座標の高精度での特定。
リソナは敵の殲滅など攻撃。
スケープは修理、医療。
メンバーは他の奴の仕事もそれなりに出来るキャパはあるが、やはり御本家には敵わねー。例えばオレの攻撃力が、本気出したリソナには到底及びやしねぇように。
そんなオレの一言だったが、WARの奴は、
「無論、お前に殲滅役をやらすつもりはない。やってもらうのは――」
信じられねぇ事を抜かしやがった!


「――攪乱役だ」


WARの作戦はこうだ。
まず完全防備したオレを前線に送り込み、敵を刺激する。
相手がオレに気が付いたら威嚇しながら逃げる。
コピーデータは感情がないため、敵を殲滅するために大勢の兵を送り込むだろう。
そこを電人が電光チョップで潰す。潰し損ねた奴をオレが仕留める。
分かりやすい釣りだ。問題は相手が引っ掛かるかどうかだがな。
それ以前に――オレは生き残れるのか?



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