『フェンリル、散歩の後でノリコに疑問を聞くも空転』





しっかし、考えてみれば不思議だよな。何で人間共の中で、レイの思考だけは分かるんだ?言葉は誰のでも理解できるが、考えはそうも行かねぇぞ?まぁ最初のうちは分からなかったが………。
レイもレイだ。何で俺の思考と言動を聞き取れんだ?レイ自体は全く気付いてないが………。
それにおかしいと言えばこの親だ。どうもこの家族自体が俺の言動を分かっているような、そんな感じがする。もっとも、人間なんてもんは自分の憶測だけで行動するような奴らだからな。そんな奴らの行動で予測すんのも愚の骨頂か………。
………う〜、腹減るな。全く、生身の体は不便でたまんねぇや。
「な〜に、あんた腹減ったの?若いっていいわね〜」
何がだ。意味が分かんねぇよ。

「まっ、そのうち分かるようになるって。さってと、用意しますかね〜」

………………やっぱり母親――尊紀子(みことのりこ)――も言動を理解してんじゃねーか!一体どういうこったよ!?あれか!?バウリンガルとやらか!?ってか俺は犬じゃねぇぇぇぇぇっっ!
………。
落ち着け俺。
兎も角、一度聞いてみるかな。………おい。
「ん〜何〜?あたしの年齢なら、永遠の」
んな事は聞かねぇよ!………ったく、何でこの手の口調の女はこういう
「………去勢手術、麻酔無しでやってもいいのよ?包丁とバーナーで」
いえいえ滅相もございませんっ!どうかそれだけはご勘弁をっ!
「よろしい♪」
(ひでぇ地獄耳だ。しかも言動がこえぇ………あの目はマジだった。……どうして俺の周りにはまともな女がレイしかいねぇんだ?)………どうして俺と会話が成立すんだ?
「ん?」
いやだからどうして、

「あんたは、どうして自分が音の壁を突き破れるのか疑問に思ったことあった?」

………そりゃそういうもんだと思ってたから………無いな。
「でしょ〜?だからそういうもんなのよ」
あ〜成程。そういうもんだから会話が…………ってヲイ!
「な〜に〜?言っとくけど、あんた以外の犬の言葉は、あたし分かんないわよ」
俺は狼だっ!………じゃなくて!明らかに他の人間と違うじゃねぇか!
「あら、それがどうしたの?」
なっ………。
「違うからどうなのよ?」
あ………あう………。
「こ〜いうのはね、気にし出したらきりがないのよ。ここが違うここは一緒だ、って。そんな事してるから喧嘩が長引くし、収まるもんも収まらなくなる」
…………。
「だったらどうするか?そういうもんだって思っちゃえばいいの。あたしはそうしてる。少なくともレイがあんたの言葉が分かる、今はそれで十分じゃないの」
………まぁ、そうだな。
「もしそれでも気になるんだったら、書斎から家系図引っ張り出すから、調べてみる?」
俺には、この国の文字はまだ読めねぇよ。
「な〜らレイと一緒に膝枕」
誰がするかっ!?
「もう、恥ずかしがりやさんなんだから……♪ま、いいわ。とりあえず、気にしすぎるのは体に毒よ」
そう言って飯だけ置いてどっかに行きやがった…………いいようにはぐらかされた気もしなくもないな………まぁいいか。
とりあえず、飯を食おう。








ってドッグフードかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおい!俺は犬じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!








………ケッ、居候の身分では屋主には所詮逆らえねぇか。出されるだけマシっつえばマシかもな。
……他の奴らは元気かな……。ヘルのババアは兎も角、ヨルムンガルドには遇えそうな気がするぜ。案外、もうこの地上に復活してたりしてな。俺のように。
と一人回想に耽っていたら、

「リル〜、どうしていけないかおしえて〜」

起きてきやがったよ。レイが。畜生、ノリコに説明するよう頼みゃ………いやいや、また何説明されるか分かったもんじゃねぇ。危険すぎる。
………しゃあねぇ。
「ね〜、どおしてひとのまえじゃはなしかけちゃいけないの?」
あのな。ふつ〜の奴はな、動物とは話さね〜んだよ。
「ど〜して?」
そりゃあ………、人と動物じゃ話が通じねぇってみんな思ってるからな。
「う〜ん。でもレイとリルははなせるよ」
俺らの方が珍しいんだよ。普通は会話しねぇしできねぇ。
「でもっ、さんぽしてるおばちゃんとかはいぬにはなしかけてるよ」
でも話しかけて泣くことはないだろ。犬が噛みつかない限りな。
「う…………」

安心しろ、俺はお前には噛まねぇ。

「…………」
なぁ。悲しい時には泣いたって良いんだが、他の人間からしたら、何もないところで勝手に話して泣いてる様にしか見えねぇんだ。
「でもっ!レイはリルとはなしてるよっ!」
レイはな。だが、俺の声は他の人間には聞こえないらしい。レイのお母さんには聞こえるらしーけどな。
「………」
だから、外で話しかけるのはいいが、会話するのは避けよーぜ?俺もレイが変な目で見られっのは耐えらんね〜から。
「…………、うん」
ありがとな。レイ。
「………うんっ!」





………はぁ。よくもまぁ諭すような口調を続けられたもんだ。体力使うわ、マジで。
あぁもぅ何でなんでどうしてどうして聞くなっ!どうしてか知りてぇのは俺もだよ!………しゃあねぇ。文字覚えっか。







…………ページがめくれねぇ。



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