『フェンリル、屋根上でノリコからレイの出自について聞く』





それはある、レイの寝静まった夜のことだった。
俺も寝ようとしてたんだが……。
「リル〜、ちょっと来て」
ん?何だぁ?ノリコ。
「話したいことがあるから〜」
………明日の朝に………レイに聞かれたくないことなのか?
「その通り♪じゃ、ちょっと屋根の上に来て〜」
ああ分かった…………って屋根裏じゃなくて屋根の上かよ!何でだよ!そこまでの力は戻ってねぇよ!しかも俺は意見をまだ言ってねぇ………もう行っちまった……。はえ〜よ、ノリコ。


………ふう。梯があって助かったぜ。さて、話を聞かせてもらおうじゃねぇか。
「………その前に、随分前に言ってた、君の質問に答えるわね」
そう言うとノリコは掌を広げて、何かを唱え………これは!
「そう、君達神界の住人で言う'遺失詠唱'(ロストプロナウンス)ね」
何でそんなもんを………まさか!?

「( ゚д゚ )彡<そう。
尊家は実は、古代より続く魔導師の家系なのよ」

………そこでわざわざ振り向く意味は?
「全ての行動に意味を求めないの。悪い癖よ、それ」
ノリコの手の上では、今さっきの呪文詠唱で出したウィル・オー・ウィスプがくるくると踊っている。精霊遣いの能力を持たない魔術師でこの精霊を呼び出すのには、桁外れにでかい魔力を必要とするんだが…。ノリコ………お前、ホントは何才だ?
「………話に入るけど、いいかな?」
へっ?……あ、あぁ、…………いいぜ。
「何を考えてたかは聞かないでおくわ。さて………」
そう言うと、ノリコは黙り出した。おいおい、言い出したことを忘れるのは
「それ以上考えると、腹の中でこの精霊を爆発させるわよ」
ハ、ハイ、スミマセンデシタ………。(うっわ〜、やっぱり女はおっかねぇっ!)
「よろしい♪じゃ、本題に入るけど、

まぁ、さっき言った通り、うちは魔導師の家系。当然その血はレイにも流れていて、しかもどうしてか強くなってる。貴方の心が読み取れるのも、多分それがあるんでしょう」
…………。成程な。
「強すぎる力を持つものが、周りからどう思われるか、その心理は神話の時代から変わらない。そうでしょ?

'零刃の氷狼'フェンリル」

………久しいな、この名で呼ばれんのは。よく知ってたな。神界でもその名を知ってんのはヘルのババァとオーディンの戦闘狂とロキの馬鹿だけだぞ。
「うちの文献、結構そういうのそろってるのよね〜」
………どんな本だよ。
「読みたかったら貸すわよ。この話の後で。
………で、質問の答えは?」
呆れるほどに変わらねぇな。崇拝か、孤立か。いずれにしても孤立はするだろうがな。
「そして、排除が始まる」
そのとおり。異端と認定されたら、徹底的に消さなければ安定しない、そう考える奴が多いからな。いつの時代も。
「中世の魔女狩りも、ナチスによるユダヤ人殺戮から、現代で言ういじめまで、根本的な心理は何も変わらない」
ま、ロキのヤローは、「だからこそ愛しい」とかほざいてたが。

「だからこそ、

………だからこそ、どんな時もレイの存在を認め、そしてどんな障害にも協力して立ち向かうためのパートナーが必要なのよ」

!まさか………。
「フェンリル、
あたしは魔導師として、というよりもその前に一人の女として、パートナーを選んだわ。阻害されるのを恐れながらも、自分を愛してくれる、そんな存在を………。
私たちは愛し合っていた。でもね、周りはそれを許さなかった。寄ってたかって私たちを除け者にした。誰もかれもから阻害された結果、彼は弱り果てて、レイを産んだ四十九日後かな…………。いつもより早く彼が寝て、そのまま目をさまさなかった………」
………。死因はやっぱりアレか?
「うん。過労死だって」
…………そりゃレイにはまだ聞かせられねぇよな。話題がきつすぎらぁ。
「彼には私のような力や経験がなかった。だから私やレイを愛して、気遣ったりすることしかできなかった。彼自身もそれを知っていたし、私もそれだけで十分だった。側にいて、私と共にいてもらえる、それだけで良かった。なのに……」
ノリコ………。
「…………、ごめんね。大人にもなってみっともない。あの日から、泣かないように、彼の分の愛情をもレイに注いであげられるようにって、心に決めてたのに」
………周りを恨んだりはしてねぇのか?
「恨んでどうなるの?自分が惨めになるだけじゃない。それに、阻害したくなる気持ちも、分からなくはないから………」
…………。
「…………フェンリル、これは親としてお願いするわ。
もしレイが他の存在に阻害され排除されそうになっても、あんただけは側にいて頂戴」
………それはひょっとして、『命を賭けても』というやつか?
「どうとるかは、フェンリル、貴方次第よ。私にはそこまで強制するつもりもないし、権利もない」

…………卑怯だな。

「何が?」
こんな話を聞かせといて、俺が断れると思うか?
思ってねぇから聞かせたんだろ?
「…………」
黙んなよ。
「あっははははは」
笑うなよ!違うだろ反応が!しかも笑いが乾いてんだよ!
………まぁいい。

いいぜ。………レイの事は、何だかんだ言って目が放せねえって言うかなんと言うか………。………兎に角、一緒にいてぇ、そうは思うんだ。
………だが待てよ?もし俺がパートナーとして居たら、レイは結婚できなくなんじゃねぇのか?それは親としてどうなんだよ。
「………あの娘は結婚できないわ」
あ?どういうことだ?
「…………近いうちに分かるかもね」
おい!どういうことだよ!おい!って勝手に下に降りるなっ!あぁっ!梯を持ってくなっ!おれは猫じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!降ろさせろっ!降ろさせろっ!降ろさせろぉぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォォォォォッ!









――あのとき既に、ノリコは分かってたんだろうな。レイの運命を。そして、全て知ってたんだろうな。俺と初めて遇った時点で――



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