『フェンリル、謎の笛からノリコの恐ろしさを再確認』





「ねぇ、リル〜?」
ん?レイ?何だ?ソファで寝てんだから話は早くしてくれよ?俺は眠い。
「そろそろお母さん帰ってくるよ〜」
………だからこそだよ。
「まぁ、じゃあ早く話を済ませちゃうね。えっと………」
何だ?ポケットに何を入れてんだ……………?
「…………あ、あったあった。この笛さ〜、不思議なんだよ〜」
………!おい!それってまさか………。
「吹いてもさ〜、音がしないんだよ〜」
お、おい!やめろ!吹くな!
「こうやって…………」







ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!






「ね?不思議で…………ってリル!?どうしたの!?リルっ!リルっ!ねぇ!返事してよっ!」


…………ったく、鼓膜が破れるかと思ったぞ。
「………ごめん。まさか犬笛だとは思わなくて……」
………というよりもまず、俺がやめろと言ってるんだから聞けよ………。一つのことをやろうとすると周りが見えなくなるのは悪癖だぜ?
「…………長所だもん」
すねんな。長所は短所にもなる。逆も然りだ。…………つーか昨日眠れなかったのはそれか。
「………不思議だな〜と思いながら吹いてたけど、それがまずかったのね………」
人と犬、そして狼。音の可聴領域が違うって、小学校六年までに習ったろうが。
「壊れた笛かと思ってたから…………」
………。

ちなみに、その笛、どこにあった?
「えっと…………おかあさんの部屋〜」
いっ!?
ノリコ、そんな物騒なもん持ってたのか!?
「何か、『リル用』の他にもとか『ガー君用』とか『サラちゃん用』とかいろんな笛が置いてあったよ」
………俺以外に動物は飼ってねぇよな?この家。
「うん。リルだけだよ」
………つーことは、何だ?
まぁいいか。レイ、この笛を、俺の近くで吹かないでくれ。
「………ダメ?」
また俺様を気絶させたいのか?
「…………分かった」
ありがとよ。

………しかし眠気が綺麗さっぱり消えちまったな………。



その夜、俺は密かにノリコの部屋に忍び込んでみた。ノリコは今日は出版祝いのパーティに出るから帰ってこないらしい。………娘を置いて楽しむ気が知れないがな。
さて。
部屋に着いた俺は、なるべく周りのものを動かさないように移動した。………わりと部屋は整然としてんだな………意外だ。
更に奥の部屋に進むと、勉強机みたいなものが見える。椅子の上に乗っかって机の上を見ると……。



あった。




『リル用』………これが俺のか。流石に捨てることは出来ねぇな。俺がいたことがバレる。それにレイの所為にもしたくねぇ。

さって他のはどんなのが………。




『ガー君用』

『ケロちゃん用』

『サラちゃん用』

『リヴァ用』

『ムー君用』

『*‰君用』………読めねぇ。





他にもいくつかあったが、………誰用だ?本当に。しかも全員あだ名だし………ってか俺だけ呼び捨てかよ!
………はぁ。何か一気に疲れちまった。さて、寝場所に戻るかな。



…………まさかとは思うが、

ガー君→ガルム
ケロちゃん→ケルベロス
サラちゃん→サラマンダー
リヴァ君→リヴァイアサン
ムー君→バハムート



じゃないだろうなぁ?


いやまさかだが…有り得そうだ。
ウィルオーウィスプを召喚しやがるぐらいだ。
この位の事…。



ノリコには絶対逆らえねぇ。
そのことを思い知らされた夜だった。


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