3日目:凍った湖





「ぅゎ…………広ぉ………」


はっきり言って圧倒される風景だ。一面の氷の上に、降り積もる雪。氷上なのに車が停まっている。相当な厚さだ。
それと同時に、ある種の懐かしさも感じた。そう、親子で近くのスケートリンクに行った時のような……。………ってもここには流石に人はいないか………。
現在時刻は午後一時を回ったところ。あと数時間で日が暮れてくる頃だ。夜間外出禁止日が定められている以上は、流石に出回らない時間帯だろう。


「さってと…………」
俺はバッグの中から使い捨てカメラ(支給品)を取り出し、この辺りの景色を撮ることにした。写真心はないにしろ、美しいものを捕えておきたい心理はある。ちょうど昆虫採集に似た感覚だろう。ある種の傲慢な人間の心理が………。
「…………ん?」
と、俺は雪原の中に、風景にそぐわないものを発見した。



それはハイヒールだった。



色は鮮やかな赫。
ヒールの部分はピンよりは太い感じ。
足のサイズは二十三か四程度。
どこからどう見ても別段変わったところのないハイヒールだ。
………置かれていた場所、という条件を除けば、だが。
「…………」
一体どこの誰がこんな所にハイヒールを履いて来るんだ?絶対凍傷になると思うんだが。ガキじゃあるまいし、靴の裏に名前は書いてあるはずがない。
………しゃあない。交番に届けておくか。俺の話を信じてくれるかは分からないがな。





………このときの俺は誤解していた。
雪原で感じた懐かしさ、それは実は――。





交番に寄った後、俺は真っ直ぐに宿に戻った。
やはり、町に人影は全く見当たらなくなっていた。やはり外出禁止日という習慣は健在らしい。車も全く通っていない。
………しかし変だな。吹雪が来るならそれらしい雲が見えてもいいものだが、全く見えない。三百六十度天井含めて快晴だ。
………本当に降るのか?まぁ先人からの習慣をどうのこうの言うとバチが当たるとは、うちのじいさんがやたら口を酸っぱく言っていたから、疑わない方がいいのかもしれないけどな。


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