夢:雪原の胡蝶





―――ここまで来れば―――




―――いいえ、もうおしまいです―――




―――………ははっ、だろうな―――




―――私はあの場所には戻れない。あなたも、生きて戻ることは出来ないでしょう―――




―――………皐月―――




―――………―――




―――………皐月、すまん。俺は、戻れない―――




―――………皐月、貴方一人を残して逝ってしまう私達を、どうか許して―――




―――………………ん?あの場所は―――




―――確か、清めの泉―――




―――…………清めの泉?―――




―――ええ。この辺りの天狗や尼僧が身を清めるときに用いる―――




―――身を清める………か―――




―――……………そうね―――




―――………俺達の体は、あまりに罪で汚れ、かと言って現世で償う事など、もう出来ない―――




―――………けれど、この体に罪を残して逝くと、皐月にいらない苦難が行くことになる―――




―――…………山紫水明、だな―――




―――…………ねぇ、ここにしましょう、いいえ、ここがいいね―――




―――ああ……………―――






粉雪はやがて牡丹雪

二人の姿、隠し舞う

はらりひらりと飛ぶ氷片は

水の鏡を、乱し漣

赤き心は紅煉の炎

いかなる吹雪も、消すにあたわず





―――………おい、もう泣くなよ………―――




―――……………貴方だって、泣いてるじゃないの…………―――




―――………あ、は、はは、………気付かなかった。なんで、俺、泣いてんだろうな………―――




―――………あなた、ううん、治樹―――




―――………ああ―――






二人の御魂は胡蝶となりて

蒼き雪原、飛び交わさん


(ヤヨイ・クリシュバール:『November』より『永訣の章』)






―――………一つ、良いか?―――




―――………はい?何ですか?―――




―――…………お前は俺を恨んでないか?俺の所為で、お前も―――




―――貴方の所為じゃありませんよ。………ただ、そんな星の廻り合わせだっただけ―――




―――…………そうか―――




―――………私からも、最後に、一つだけ、いい?―――




―――ん?何だ?―――







―――…………貴方に逢えて、本当に良かった…………―――







―――……………あぁ、俺もだ……………―――















さぁ、逝きましょう。新しい世界へ――――



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