Phase 3:Faker





「………全く、対G訓練くらい受けておけ」
目を醒まし様に、いきなり言われた言葉は、字面だけ見るなら労りの気配も何も感じられない物だった。
言ったのは当然WAR GAME。そいつがいるこの場所は当然電人内部。
「……普通の奴ぁんなもん受けねぇよ………つつぅ……」
首と頭の痛みに顔をしかめながら悪態をつくオレ。急激な上昇で、首、寝違えちゃいないだろうなぁ!?
落下中のオレと荷物に、電人はトラクタービームを放ち、オレが気絶したまま中に入れたらしい。操作したのは暁と初代、合体、電光の四兄弟だ。操作は手慣れているらしいが………んならもうちょい優しくやってくれよ。バ〇ァリンの半分くらいのでもいいから。
………何てどうでもいい事を考えていると――!

「大丈夫ですかっ!」

「!」
この声はっ!俺がそちらの方に顔を向けると、いつも見慣れている浅黄色の髪に、クリアブルーの瞳の女性。
「スケイプ………」
つーか、こいつがいるっつー事は……。………気配探知成功。やっぱりな。
「………コアメンバー全員集合、か」
「そんな事よりっ!」
「おわわっ!」
スケイプは怒ったような声で、俺に近付いて、オレの両肩を非力な腕で握り締め――?
「あれ程無理はしないように言ったじゃないですかっ!どうして貴方はいつもそう無茶をするんですかっ!いつも治療する私の身にもなって下さいっ!毎回毎回、どれだけ心配する事か――!」
「…………」
間違いねぇ。こいつ泣いてやがる。白磁の顔に、幽かに入った筋は………寝てる間、だな。スケイプ………オレをそこまで心配してたのか。
「………済まねぇ」
今のオレに出来るのは、そんなスケイプに、空元気の笑顔を見せるくらい、だがな。
「馬鹿………」
その辺りはスケイプも分かっている。だからこそのこの返事だ。
「…………」
――そろそろ突っ込むか。
「アンドロ、リソナ。そろそろどうしてお前らがここに居るか教えてもらおうか」
オレは電人の部屋の外から堂々出歯亀行為をする素晴らしきコアの盟友共々に向けて叫んだ。
「………さすがにバレますよね」
「仕方あるまい。下手したら一日中ジェノの相談役になっているような奴だからな」
そりゃどーいう意味だ、リソナ。
ドアを開けて入ってきたのは、橘色の髪に赤茶色の瞳、片目にレーダー付き眼鏡をかけたアンドロと、紫陽花色の髪に紫の瞳、背中に大剣をひっ下げたリソナ。予想通りっつ〜か気配探知通りだ。まぁダミーの気配を考える方がおかしいがな………。
「………遠路遥々、ご足労、とでも言った方がいいのか?」
「気遣いはいらない」
リソナは相変わらずの無愛想顔で答える。まぁ気遣いだと分かるだけ、こいつは柔らかくなったんだろうが。
そう考えながらオレはアンドロの方に顔を向けると――いつになくマジ顔のアンドロがいた。
こいつぁ……マジでマジか。
「………なぁ、そろそろ良いだろ?理由。オマエのマジ顔は相当ヤバいって証拠なのは知ってんだ。んなら、状況ぐらいは話してくれ」
大体コアがフル出動の時点で普通有り得ねぇからな。多分留守はジェノのヤローがとってんだろうさ。
「………」
アンドロは、それでも中々口を開きやがらねぇ。つまり……相当有り得ない状況なんだろうな。
ったくっ!これ以上の面倒事は止めてくれよっ!――っつっても起こってやがる以上は対処するしかねぇ、か。
「………っ」
アンドロの唇が、動き出した。語る準備が出来たらしい。リソナも、スケイプも、気付けばアンドロの方を向いている。「話していいぞ」という合図、だな。
全員の視線が集まる中、ようやくアンドロは、重たい口を開いた。

「………黒の武装データが、各所に一体ずつ散らばっているようです。それも――リミックス対象曲の場所へと」

「「!!!!!!」」
そ、な、っつーと!
「今回の電車に乗った奴全員が危ねぇ、っつー事かよ!」
オレの絶叫に、アンドロは首を縦に振った。他の奴も、衝撃が走ったように動きやがらねぇ。
――実際に衝撃が走ってんだろうさ。無理もねぇ。規模がデケェからな。
凍った時を動かすように、アンドロは続きを告げた。
「幸い、各所に一体ずつしか対象は向かっていない。けど、それが精鋭部隊、と言う可能性がある」
「――俺達は、それを各所のリーダーに告げるために、一時的に電人に立ち寄った。それと――討伐の援護に」
アンドロの言葉を継いで、リソナが口を開く。……成程、電人の高性能電波発信装置を使うつもりだな。確かにあれなら確実だぜ。
「敵が様々な場所に散った以上、俺達も様々に散る事になると思う。それをL.E.D.チームにも覚悟してもらいたい。戦略に関しては、WAR GAME氏が作戦指揮を執る今までの形で、だ」
純粋な物理的火力なら、L.E.D.家に勝てるのは………SLAKE家くらいか?最強の護衛者スクスカ、最早何でもありのテクスチャ、当たらないガンボル警部に多方向攻撃のブロックス………。
ま、うちの家も負けちゃいねぇが、この家の特徴は、武器もたんまり揃ってることだよな。電人もいるし、純粋なドンパチなら負けやしねぇ筈だ、この家は。
「――了解した」
重苦しく口を開いたのは、最年長のGENOM SCREAM氏。兄のギルティが、こいつには勝てないと漏らしていた通り、威圧感が半端じゃねぇ。他のL.E.D.曲も、軒並重々しく受け入れていやがる。
「………」
オレはただ黙って聞いているだけだ。関係者だが、オレはL.E.D.家じゃねぇ。口を出す方が野暮ってもんだ。
「具体的に何処に誰を送るかは、また後程にWAR氏から発表があります。ですのでそれまで、各自武器の手入れをお願いします。
以上が、COREからの伝言です」
アンドロが話を締めると同時に、電人を沈黙が満たす。あまりにも重々しく、だがそれだけに、この事態が尋常ではない重みを伴っている事を表していた。
一人、また一人と部屋を後にするメンバー達。そして背中を見送るオレ。やがて、部屋にはオレだけとなった。
「………」
空気の重さに耐えられなかったオレは、そのまま再び寝つこうとして……。
「………スパギャラ」
スケイプに起こされた。いつまた入ってきたんだ?
「………どうした?」
これ以上の発言は体力がねぇからで割愛するとする。スケイプに何かされたら――今は身が持たねぇからな。
スケイプは、表情をこわばらせて………いや、明らかな無表情――!


「……貴方のデータ………頂きます」


――じゃねぇ!!無感情だ!!
「くっ!」
こいつは――スケイプじゃねぇ!
両手で持ったアーミーナイフをオレに向かって一気に振り下ろす偽スケイプ。オレはそれを紙一重で避けると、そのまま相手の軸足を払い、組み敷いた。
同時にこいつのIDデータを探る――うわ。こいつアンドロやリソナには分かんねぇレベルで偽装されてやがる!偵察用黒の武装データかよ!?
――オレの中で、今、ある最悪な確信が浮かんだ。腹に一発叩き込んで沈黙させたこいつのデータに、強引にハッキングをして――、

瞬間、凍りついた。

『スパギャラ………』
町外れを、とぼとぼと歩くスケイプ。これは――俄パーティの後だな。服装があん時と一緒だ。
『………今は顔を会わせられないよ………嫉妬してしまいそうだから………』
!………そうか、そうだよな。何だかんだ言って、アルバムに選ばれなかったのは、選ばれた奴を羨ましく思うよな………。
つまり………あん時、あいつは無理して笑ってたっつ〜事か。
『…………』
ん?今後ろの方に黒い影が――!
ヒュンッ!
『――え?あ――』
黒の武装データが、あいつを一瞬で浚って行きやがった!そして数分経って………。
シュタッ。
一体――何か人型のものが降り立ってきやがった。
『…………』
――入れ替わり、完了、ってわけかい。
入れ替わった偽スケイプは、何も無かったかのように、再び歩き始めた………。

「………何てこったい」
探知使わずとも、あいつの事を分かってるつもりだったが、あの日の時点で入れ替わられてたぁな………!
って、つまりはこちらの情報がだだ漏れじゃねぇか!どうする!
――言うまでもねぇっ!!

「まさか――!」
ハッキングによって偽スケイプを破壊した後、オレは事の次第をアンドロ達に告げた。流石の事態に、あのリソナすら動揺を隠せちゃいなかった。
「それは――本当なのか!?」
「ああ。スケイプの奴、どうやらあの武装集団のヤツラに捕まってたっぽいぜ………」
アンドロは最早ショックがでか過ぎて何も言えなくなっちまってる。そりゃそうだ。自慢の探索機能すら、騙されちまったんだからな。
「でもよ、オレですら殆んど判別が出来ねぇ相手だ。アンドロ、拐われちまった過去を考えても仕方ねぇよ」
「…………」
アンドロは、それでも、まだ黙り続ける。多分こいつは理解しちゃいるのだ。
だが、理解と納得は違う。
いくら慰めを言われようが、心は悔やみきれないだろうな。
スケイプに気付かなかったこと。
敵を電人に侵入させちまった事。
だがな――。

「――スパギャラ、今回ばかりはお前の言う通りだ」

「!?」
リソナっ!?まさかお前――!
「アンドロ。悔やんでる間があったら、至急アップロードしてスケイプの場所を探せ。そこが敵の本拠地だ」
あぁあっ!オレの台詞を奪いやがった!?そこ一番重要なとこだろ!?いっちゃんオイシイとこだろぉ!?
「……っふぅ。――どうした?スパギャラ。血の涙を流しているぞ?」
多分ぜってー理由分かってねぇリソナがオレに聞いてきた。説明する気になれんので放置。
ただ不思議そうな表情をしてオレを見つめるリソナの横で、オレはやや悲しみに暮れていた………。

「―――アップデート完了。ModeSecondに移行完了まで8...7...6..5..」
ようやくアップデートが始まったアンドロ。橘色の髪が徐々に赤みを増していく。あれが完全に赤くなれば、アップデートは完了だ。ただ、時間がかかる上、実行中は完全に無防備になるのが欠点だ。早々入れ替わられんのも困んが、戦闘状態とサポート状態くらいはすぐ入れ替わり可能にして欲しいところなんだがなぁ。
特に、こいつの場合アップデートすると戦闘能力ダダ落ちだからな………。襲われた時側にリソナがいりゃ問題ねぇが、もし分断されようもんなら、マズイ事態になんのは目に見えてっしな。
――っと、ようやく終ったか。
「――アンドロメダ2nd、起動します」
今俺達の前にいるのは、アンドロではなく、その弟のアンドロ2だ。当然人格も違う。記憶はある程度共有してるらしいが。
瞳を開くアンドロ2。その色は紅玉色をしている。
「――事情は兄から聞いたよ。で、誰の居場所を探る?」
片手に電子鍵盤を出しながら、アンドロ2はオレ達に問い掛ける………?
「スケイプだが……何でわざわざそんなことを聞くんだ?」
オレの答えに、アンドロ2とリソナは首を横に振りやがった。………どういうこった?
「――スパギャラ、お前もしかして、親がどうやってこの世界に来ているか忘れてないか?」
「――あ」
やっべ、戦いと騒動の中ですっかり忘れてたぜ………。


通常、オレ達の親父達は、オレ達が日々相手をするプレーヤーと同じ世界にいる。つまり、完全にオレ達の世界とは直接には不可触なわけだ。――PCを使えばわけはないが。
そこで、オレ達の曲のうち、自作の曲何曲かに打診し、一時的に体を貸してもらう事でこの世界に来ることを可能としているのだ。
この手段がリミックスの際に必ずとられるわけだが、今回――L.E.D.氏が拐われている、っつー事は誰か体を貸している奴がいる筈。そいつを探せば、自ずと本拠地も分かるわけで。


………で、問題が、その曲が誰か、全く分かっちゃいねぇオレがいるわけだが。
――にしてもさっきから、頭に何か引っ掛かる………。
「………誰がL.E.D.氏の体をやっているか、知らねぇか?」
オレの質問に、またも二人が首を振りやがった、その時。


「OUTER LIMITSだ」


背後のドアから現れたのはWAR GAME。心なしか少し怒ってやがる。当然か。知らぬ間に入れ替わられていた敵を堂々と電人に侵入させちまったんだからな。
「氏は当初、OUTER LIMITSの体構造を知ろうとしたらしい。そこで当人に体を借りたが、その移行途中で拉致られた、という」
「それって――つまり――」
オレの疑問に、WARは静かに答える。
「そう。移行は不完全。L.E.D.氏は世界に来れたが、代わりにOUTER LIMITS氏の映像データが消失した。結果、理想状態と現実の不適合からL.E.D.氏の意思が体と剥離しやすい状況となった。
結果、誘拐後に氏の意思は氏に似せたダミーデータに移しかえられた。それがあの写真だ」
――オレの疑問が、解けた。
つまり、あの写真に映っていたL.E.D.氏は、何処かから仕入れたデータを元に本人に限りなく近付けたアバター、つまりネット上の駒みたいなものか。そしてあの中に、L.E.D.氏は囚われている――と。
WARの奴は、頭をやや抱えながら、話を続けた。
「――正直、この事態は想定していなかった。相手を侮りすぎていたようだ………指揮官失格と言われてもしょうがない。だが――」
………お、瞳が輝いてやがる。
「――この状況だからこそ、指揮官として命じたい」
そこで、WARは俺の方へと向き直った。そして――
「スパギャラ」
「――おう」
その口を、重々しく、開いた。
「これから、お前に実行してもらう作戦を伝える。良いか?」
「――ああ」
――ま、何を言うかは、分かっちゃいるがな。

スケイプ、待ってろよ。
おっと、その前にPCを開いとかなきゃな………。


高レベル曲達による夜間の見回りリレーを終えた、翌日。
WARがオレ達に告げた作戦。それは――!


「――甘いっ!」
「オラオラァッ!」
「よくも騙してくれましたねぇっ!」
ドガァッ!
パララララララララララッ!
ドゴォンッ!

「炸裂ッ!」
『電光ォチョオオオオオオオオオップッッッ!』
「弟の身柄は返してもらうぞ――!」
「球切れなんざ知るかぁぁぁぁぁっ!」
「恨みを返すは怨霊の役目ェ!」
「熱くたぎれや己の魂ェ!」
ズパラドドドドガパンドガァドドガァァァアアアアアドガァッ!


『この侵入経路が知られた以上、敵も全力で攻めてくるだろう。相手は数押しが主な戦略だ。なら――どうするか分かるな?』
A.広範囲に攻撃すると見せかけて、オレ達を侵入させる穴を作り出す。侵入役は誰か?
まずは――!
「兄がお世話になったな――」
eRAreRmOToRpHAntOM、通称ファントム。最近こちらに来たばかりの新顔だ。何処に居たか知ってるか?
現行機種DPに於いて無類の強さを誇る異父兄弟、quasarのヤローとタイマンを広げられる――いや、こっちの方が強いか――欧州の赤き悪魔、Go Berzerk氏を探し、迎えに行っていたのだ。遥か、極寒の地まで。
パラ鯖クラスの高速移動から打撃で粉砕していく男だ。
次に――。
「何処から狙うか、分かるかな?」
TYPE MARS(G-Style Mix)だ。奴自信の戦闘能力も中々に高いが、こいつの本領発揮はターゲットが密集した一体複数戦。いつの間にか造りやがったキラー衛星を、タイミング良く攻撃に使いやがる。ジェノが聞いたら維持で奪いに来そうな反則技だ。
他にも、奴自身が秘密にしてやがる物があるらしいが、うまい感じにはぐらかされちまった。ち。
それに――リソナ。
こいつの戦闘能力は対データ戦ではピカイチだ。特に背中に刺した剣は、オレ達の前では一度として抜いたことがねぇ代物だ。確実に、抜かせたらヤバい事になる。それはあいつ自身が言っていた事だ。
スケイプはあいつの剣の威力について知ってんだろうが、リソナの奴がご丁寧に口止してやがる。聞き出せた覚えはねぇ。ちぇ。
そして当然――オレも行く。
ホワイトナイト?馬鹿言え。オレはナイトって柄じゃねぇよ。寧ろリソナだ。
オレは………そうだな………。

「『マインスイーパー』ってとこだな!」
パァンッ!パンパンパァンッ!
着地と同時に拳銃を発砲、辺りの敵はあらかた蹴散らした!後は――!あぁたくっ!遅ぇよ!何やってんだあいつはよぉ!?オレがあの男に電話してやろうとした瞬間――!
ヴーン。
電話が鳴りやがった。あいつかと期待して手に取る。

Aからでした。

あ゛〜ったくよぉ!こっちは命がかかってんだぞ!A!どうせテメェは暇潰し目的だろうが!
ムカついたが、丁寧に応対するオレ。
「今取り込み中だ!……ハァ……ハァ……明日にしてくれ!」
押し付けるように切るボタンを押して、乱雑に携帯をポケットに突っ込む。どこが丁寧なんだボケ、とかツッコンだ奴は脳天に風穴が開くから覚悟しとけよ?今のオレは、凄まじく気が立ッてッからな!
マガジンを拳銃に込め、オレはそのまま敵背後のエネルギータンクを撃ち抜いた。――誘爆!
耳をつん裂く爆音があちこちで起こる!エネルギータンク同士が爆破し合っていい具合いに連鎖!パズルゲームならこれが快感なんだが、生憎とこれは実戦だ。感じる暇もねぇ。
さってと、どれだけ敵兵が減った――!?
「――うげぇッ!?」
あ、有り得ねぇ!メモリーどんだけ使ってコピーしてやがる!?某無双でもそんなに敵兵はいねぇぞ!?防衛するために無駄に量を増やしやがったな!?
――ヤベェ。下手したらこっちが物量戦で負けるかもしれねぇ――
そんな思いがふと、オレの頭を霞めた、まさにその瞬間だった。


『待たせたなァ!』


――かな〜り聞き覚えのある、若い男の声。聞こえた方角――上空を見ると、巨大な影が一つ。それはどこか、電人のような人型をして――!
「あ、あいつ――!」
遅ぇよGENOCIDE!やっと来やがったのかよ!?――でも助かったぜ。タイミング的に。
『さぁて――敵共、失せろや!

必殺!Assult X-BUSTER!!!!!!』

「…………は?」
何か恐ろしく著作権に触れそうな必殺技名が聞こえた瞬間――!

「―――!」
眩しすぎるぜオイ!?機体から突き出たX状の羽根から発射された光が、一瞬オレの目を焼く!痛みのあまり思わず伏せたが、それでも光はロクに収まらねぇ………。
…………?
やけに静かになったな………?
爆音すらしなかったが―――!

『あ〜あ、案外呆気ねぇのな、敵も、このマシンもよぉ』
アイツの声が上から響くが、今はそれを気にする事が出来やしねぇ………。


今の一撃で――大量にいた敵が殆んど消失しやがった――!
オレはアンドロ君を見る。レーダーに映るのは――指で数えられる量程だ。

「…………ジェノ………」
てめぇ何つー危ね〜武器開発してやがんだ。COREに報告しとけよ。許可申請やんなきゃマズイだろ〜が。
『………っと』
敵を一撃で壊滅状態に追い込んだこの男は、兵器を近くの味方陣地に降ろすと、中からガトリング(設置式か?やけにデカイが)を取り出し、こっちに近付いてきた。………心なしか服のあちこちが焼けてやがる………まさか遅れたのはそういう事かい?
「蠍火に何されたんだオマエ?」
ガトリングを床に放り投げるジェノに、オレは呆れながら聞く。すすけた服についた砂埃を軽く手で払いながら、ジェノは溜め息をついた。
「ゼファーの奴に頼まれて、ファンタジー資料用の本を買いに行ったんだが、その隣の棚がエロ本コーナーだったわけだ」
「――で、そこに蠍火が居合わせた、と」
「ああ。しかも平積みにされてたのが『巨乳の神秘』だぜ?」
「うわぁ………」
そりゃこんがり焼かれるわけだ。翌日朝までダメージを残すほどに。
ジェノの護衛対象兼彼女である蠍火は、胸がない事を異常に気にしてやがるからな。しかもジェノの浮気には、素振りすら容赦しねぇ……。
昔よりはマシになった、とはジェノ自身が言ってるんだが、じゃあその昔の容赦の無さってどんなんなんだよ?聞いてみたいが、正直オレの精神が保てそうな気がしねぇし、ここでは聞かない方が良いだろうな。
「――だが、ま、一先ず間に合ったから良かったぜ」
そんなオレの内心を知らないかのような口調であっけらかんと笑うジェノは、そのまま胸ポケットに手をつっこみ――。
「ほい、約束のデータだ」
――目的のブツを、俺に手渡した。
「サンキュっ!」
これで、当面の手駒は揃った。後は突入するだけだ!
ジェノは、ガトリングの仕様を確かめ、異常が無いかを再三確認すると――トリガーを握り締めた!
「後方支援はオレらに任せときな!テメェはとっとと救い出してこい!」
ジェノの叫びに合わせるように、ガトリングが火を吹く。耳が痛くなるような大音量と共に、黒の集団が破壊されていく。
その包囲網に見付けた、一点の穴――!
「今です!」
アンドロの叫びが耳に届くか届かないか――!

「「「「どあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」

オレ、リソナ、マーズ、ファントムの四名は一気に敵陣へと雪崩込んだ――!


――――――――


「警備が居ねぇ………」
これはもしやの、敵兵おびき出し成功か?いや、そうも言ってらんねぇか。下手しなくても、黒い兵よりもヤバいのがいやがるからな。
オレは誰も周辺に居ないことを確認すると、アンドロ?による本拠地地図を取り出した。
「オレ達が今居る場所が、ここだ。この門の前。んで本拠地は大きく分かれて三つのゾーンに分かれてやがる。正面の中枢、東西の兵器製造プラントだ。距離はここからどこへも大して変わらん。んで聞きたいんだが――。
お前ら、どこをぶっ叩く?」
そこまでオレが言い終わると、リソナが制止してきた。
「待て。ここは定石では一つ一つ集団で破壊するものではないのか?お前の今の言い方だと、一人で一ヶ所、破壊するような――」
「――そのまさかだぜ?リソナ」
リソナは、信じられない、と言った表情を浮かべる。ま、確かに普通に考えりゃマトモじゃねぇようには思うだろうな。だがな――。
「考えてみな。
ここに居る面子の、攻撃範囲で一ヶ所に固まって、まともに戦えっか?」
ファントムはスピードが早い近接タイプ。だがそれは同時に集団清掃を得意とするマーズや、遠近両用のリソナの攻撃に巻き込まれやすい、と言うことを意味する。
互いの攻撃判定を意識して戦えるほど、オレらは組んで戦っているわけじゃねぇ。それに――。
「――それに相手には蠍火がいるぜ?冥だって、嘆きだっていやがる。ダブルの強さを考えりゃ、1対1で戦うべきだと、オレは思うがな」
「だが、1対1で戦うとして、逆に不利にならないのか?」
リソナの心配は最もだ。この場に居るのは、良くて12、悪くて10の、集団だ。12の最高峰と戦って、勝ち目があるわけがねぇとは誰もが考える。だがな――。
「――リソナ、お前の剣、いつから使ってねぇんだ?」
「――!?」
「――マーズ、本気出した事は?」
「無いよ。出せる状況はないしね」
「――ファントム、お前は――」
「言わなくて良い。バーサーク以来、だな」
――読み通りだな。いや、寧ろデータ通り、か。
こいつら――仕事中は全然本気出してねぇ。そりゃそうだ。こいつらが本気を出したら――壊れる。人間によって、機体が。
オレがこの作戦を選んだ理由、それは――オレだけが分かるポテンシャルと、回りが知る実力に、こいつらはかなりギャップがあるからだ。
あのデータは、完全に過去のプログラムのみを入れられている。ならば――前例に無い行動をさせれば――オレ達にも勝ち目はある。
「――――」

リソナの口の端が――上がった。

「――了解した。………だが」
ん?何だ?まだ文句あんのか?
「――スパギャラ、お前は大丈夫なのか?お前が今持つのはピースメーカーとPCのみ。元々の戦力自体も、俺達の中では最低の筈。そのお前が――」
――はは〜ん、成程な。そりゃそうだ。普通なら正気の沙汰とは思えねぇよな。10が12に歯向かうなんざ。
「――心配すんな、リソナ」
だがな――


「俺は敗けやしねぇ。既に――」


全ては俺の手の中だ。



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