Phase 4:RESONATE





――――門の前 by RESONATE1794――――


「…………行ったか」
あの男が理解できないのは昔からのことだが、今回のあの自信の持ちよう………どこかでコケなければ良いが。
全てはあいつの手の中、か。
情報、攪乱戦向けのあの男だからこそ吐ける台詞だ。きっと裏で何やら細工をしているのだろう。俺には真似できん。
俺に出来るのは――。

キィンッ!

「――いきなり、か」
門に何もせず入れた以上、どこかに敵は居るに決まっている。あの男はそれを分かって、俺をここに置いたんだろう。ましてや、相手は元門番のレプリカだ。そいつの特徴を考えれば――俺を当てるのは当然、か。

俺の後ろに立つ、モノクロのデータ。どことなく生前のザベルを彷彿とさせるパンクスタイルのギタリスト。間違い無い。カーボン版rage against usualだ。
(リソナ、これを渡しとく。セットしときな)
別れる前に聞いた、あの男の声が頭に響く。成程な。相手の能力を理解するためのものか。
オリジナルとコピーで差はあるが、纏う気配と構え、それは完全に一致している。
既に相手も得物をこちらに向けている。俺が構えない道理がない。
「――久しぶりに、始めから全力で行かせてもらおうか………」
俺は背中に手を遣り――。

「Reverie killer。Boostmode Over! 」

コアの場では封印していた、剣のリミッターを解き放った。

偽レイジは手元のギターを掻き鳴らす!発せられる音波は二重の螺旋になり、俺の元に怒涛の如く襲いかかる!
「くっ………」
流石は12か。開始早々ですらこの攻撃密度――!リミッターを外したからと言って、急に『発動』できるわけではない、剣の能力。くそ。ここはダメージを最小限度にするよう受け流すか――!
悪魔のような表情を浮かべ、ひたすらにギターを鳴らす偽レイジ。瞳では確実に、俺の姿を捉えている。となると………急襲は無理。ならば――!
「……破っ!」
俺は剣を素早く振り下ろした。斬撃は衝撃波を伴って偽レイジの音撃と衝突。これで少しは相殺できるか………!!
「く………ぐあぁっ!」
くっ……完全には無理か。だが………この頃合いなら!!
「破ぁあっ!」
衝撃波を展開すると同時に、俺自身も相手の方へ駆け込む!俺の読みとあの男のデータが正しければ――!
「――――!!!!!!」
レイジが持つ溜めの場所は三つ。その一番最初の溜めの時、明らかに攻撃の手が弱まる。――つまり、攻撃するなら今!
「――斬ッ!」
ザァッ!
「――くっ」
とっさに避けられたか。だが――相手の機動力と攻撃力の一部を奪うことは出来た。左足と、肩口を少し。成果としては、カウンターを防止できた、それくらいだが、それで十分。剣の方もすっかり、『発動』可能時間まで秒読みだ。あとは、ヤツの武器を待つのみ――!

偽レイジも、今がその時だと悟ったらしい。データで見た、例の構えをしている。
発される、尋常ではない量の、気迫。通常の曲ならそれだけで気圧され、体が硬化してしまうほど強烈な、あまりにも研ぎ澄まされた――殺気。
俺の額にも、じんわりと汗が滲む。正直、マトモに受けたら破壊されるのは必然。ただ――今の俺なら、相手に負ける気はしない。ましてや、今の状況なら――負ける気は全くしない。


データ相手なら――俺は、負けやしない。


「―――!!!!!!!!」
偽レイジによる、声にならない叫び。そして発される、膨大な量の攻撃データ。
右に左に、高速に、左右から同時に襲われる特殊な状況。片方だけ捌けば、もう片方の攻撃を一気に受けることになる。そうなると確実に――俺は死ぬ。かと言って、両方を同時に受けることが出来るのは、別世界にいるプレーヤーにもそうそう出来ない芸当だ。
恐らく、あの四人の中で俺以外の奴がこの場所で、こいつの相手をしたら、確実に痛み分けだろう。ここで殆んど体力を減らされ、ラストで何とか勝てる、と言った具合いか。
――そう。俺以外の奴は。


「………見切ったッ!」


ズドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ………!!!!!!!

螺旋階段の如く迫る攻撃を、俺はパワーMAXの状態の剣で、全て弾き返した。――PCに過負荷を与える程の動きで。
俺の剣は、『発動』状態になると俺自身の肉体の強化も同時に行う。この状態の俺は、異常にデータ容量をとるので、普段は剣を使わないでいるのだ。――それに、下手に剣を使うと………。

『リソナ、お前の武器は、これだけじゃねぇんだろ?俺だから分かるぜ。キャパは十分残ってっから、たまには本気出した方がいいぜ?』

全く、あいつは全てお見通しか。剣でない方の武器すら、本気じゃない、とな。
俺のもう一つの武器、それは目の前にいる偽レイジと同じもの。速度こそ違えど、限りなく応用可能な代物だ。
左右同時に攻める――二重階段。
本来は周辺被害縮小のためにパワーを抑えているが――殺らなければ殺られる現状、そして、ここが敵の基地であることを考えれば――言うまでもないこと!

「………赫月――」

俺は剣にありったけの破壊プログラムを詰め込み――二閃!


「――浄化ッ!!」


×の字に裂かれた空間は、辺りのデータを巻き込み破壊しつつ、偽レイジの元へと猛烈な勢いで迫る。偽レイジの二重階段………戦闘向けに改造されているが、所詮データはデータに過ぎない。それに――!

'The time is over'

奴の二重階段は、小節数にして表すと3。一方俺は1.5+1だが、剣の効果で倍加されている。つまりは――!

「―――!」

3小節分の攻撃を相殺し終えたレイジの、二回目の無防備地帯。そこに2小節分の俺の――大量の破壊データが叩き込まれる!
閃光――ッ!


――――――ッ!


――遠くで響くサイレンのような音を立て、偽レイジは消滅した。それだけではない。
「………」
先程の俺の一撃、それは見事に地面をえぐり、偽レイジの存在した場所は見事なクレーターへと変化していた。
そして――剣を地面に当てた瞬間、その地面は消し飛んだ。
「――分かってはいたが……」
この状態の剣は、異常に俺の体力を食らう。出来れば使いたくなかったのは、モードの停止方法が剣のエネルギー切れを待つしかないからだ。
「………」
このまま居るよりも、外への加勢を行った方が良いか――!?

黒の兵の残党が、こちらへ向かって来ていた。
――そうか。兵器製造プラントを壊さない限り、こちらに敵が来るのだな?剣のエネルギー減らしと………俺の訓練に丁度良い敵が。
「――行くか」
俺は剣を再び構え、そして敵へと突っ込んでいった………。



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