Phase 5:TYPE MARS





――――東 by TYPE MARS(G-Style Mix)――――


――っとまぁ敵陣に突っ込んだわけだけど、これはひょっとしちゃって、マジ壊していいのかな?マジやっちゃっていいのかな?かな?
――ま〜最も、相手を見る限り、マジやらなきゃ削除(デル)なのは目に見えてるけどさ。
「――ジョークはボクの口調だけにして欲しかったけどね」
目の前にいる、ウェーブのかかったロングヘアの、パーティドレスを着た高飛車そうな女性。それが誰か――この世界で知らない方がおかしい。

嘆きの樹。
この世界最強曲の一人だ。

「………あれがギャラの妹?似てないてか、何てか………」
軽口を叩きつつも、ボクは自分の運の悪さを若干呪ったね。よりによって最強曲に当たるとは、って。
――でも逆に考えれば、遠慮はいらない、ってことにもなる、か。
モノクロの嘆きの樹――あぁ長いっ!もうモノ嘆って呼ぶ!モノ嘆は、今はまだ立っているだけだ。ボクのことには当然気付いている。先手を打って仕掛ける?馬鹿言っちゃいけないよ。そんな事したらボクの敗けは確定する。それはボクの戦い方じゃないからね。
ボクはキラー衛星の発動時間と範囲、そして彼女の攻撃発動タイミングとその範囲を確認した。――ん〜、成程ね。彼女の曲終了直前のタイミングに発動、か。
さーて、どうするかな。問題は、それまでどうボクが耐えるか――なんだけど、やることは決まってる。
「……マジやっちゃっていい、からね」
ボクは手持ちの異次元アタッシュケースから、火星を型どった球体を五つ取り出した。普段は――いや、絶対使わない代物だけど。代物だったけど。
背後にあるスイッチを全てONにすると、球体は全て、ボクの周りに浮き始める。旋回するもの、頭上に止まるものなど様々だけど……。
それらの人工知能は、ボクのPCと無線で完全リンクしている。そしてボクのPCは――衛星のスイッチも兼ねているから、いつもボクの手の中。つまりボクの意のままにこいつらは動く、と言うわけ。
さて、こっちの戦闘準備は終了。後は相手が仕掛けて来たのに反応して返す!
モノ嘆は明らかに無茶苦茶気だるそうな表情を見せている。実力差的に舐められてんのかな?妙にプライド高いところまでコピーすんのは止めてよねぇ………。
「ねぇ………倒してもいい………?」
ならボクにも考えはある。油断は、敗北へと繋がることを――

「――答えは聞かないけど」
――思い知らせてあげるよ。

唐突に現れる、複数の攻撃反応。螺旋状になった対象を、ボクはバックステップで避ける。
ドババァッ!
地面を切り裂いて現れたのは、棘が無数についた木の根っこ。嘆きの樹を一部呼び寄せたのか………すぐ消えた、って事は、壁に使うかもしれない――ま、そもそも根っこがボクに当たったらその時点でボクはジエンド。だ、か、ら………。
「今は逃げる!」
少なくとも序盤の、壁のような広範囲攻撃までは逃げるしかない。攻撃エネルギーは………流石に今使うのはもったいないしね。
「……っ、うわ、と」
攻撃中のモノ嘆は、ひたすら攻撃を避けるボクを見て、明らかに苛ついてる。ふっふっふ。ざまぁ♪
「……っと、さて――」
そろそろ来るよねぇ、第一の関門が。ここでの狙いは、モノ嘆に傷を与えることじゃなくて――!

――シュバゥオンッ!

モノ嘆の周りが、黒い何かで覆われていく――あれは、葉。嘆きの葉だ。それが嘆きを取り囲むように発生し――ボクの方へ風を切り裂いて飛んできた!
「シュート!」
負けずにボクも、攻撃を開始する。宙に浮かべた球体、そこから発射されるビームを、ボクの体に当たりそうな位置に発射する。攻撃が広範囲に広がるのなら――一点をぶち破ればいい。

『まず自分が生き残る』
戦場では、それがわりと大切なこと。そしてボクの場合、それが必然だ。
近付かれたら終る。狙撃兵の宿命はそんなもんだと、誰かは自嘲気味に言ってたけど………甘いよ。
近付かれて終らないようにすれば良い。近付かれても終らないようにすれば良い。戦いってそういうものだよ。
卑怯かどうかは今は問えない。戦いってそういうもの。
賭けているのは名誉じゃない。命なんだ。名誉は命と引き替えに二階級特進するだけのもの。ならね……!

「ここで死ぬわけにはいかないんだよっ!」

ドガガガガガガァァァァッ!!!!
ボクのビームが、モノ嘆の葉によって防がれていく。相殺されていく――丁度、僕一人が通り抜けられる程度の穴。
これさえあれば――っ!
――シュオンッ!
ボクの髪や体をかすめるように、葉っぱが過ぎていく。目的――無傷でいることは、一先ず及第点、ってとこかな……。
モノ嘆はいよいよ怒ったらしく、地面から大量の蔦を発生させてきた!まずっ!これは避けきれない!
ボクは一先ず球体オプションに飛び乗り、その後すぐに飛び移った。直後にそのオプションは、蔦に巻き込まれて完璧にお釈迦になってしまった。飛び散ったのはドロロの脳髄じゃなくて、いくつもの精密機械だけどね。
「くわばらくわばら」
思わずそう唱えてしまったほど、危ない状況だったね。ちょっとでも遅れてたら、僕がその運命を辿っていたんだから。
けど流石に壊された出費は痛い。弁償してもらわなきゃ。
「アタッチ!」
ボクは、近くのオプションを腕と脚に取りつける。そしてそのまま――!
「ブースト!」
ビーム発射の要領でエネルギーを発射。一気に空に飛び上がりながら後ろに下がった。
下がりながらも、ボクは右に左に体をぶらす。だって、
「蔦のリーチが半端無さすぎっ!」
ブーストを使って飛んでいる位置にまで、地面を貫いて出てくる蔦は飛んでくるんだもん!何とか攻撃範囲外に出なきゃ――!?
モノ嘆の操る蔦の先端が、何やら変化を始めてきた。表皮が捲れ上がって、何か蕾のようなものが出てきた……他の蔦も同じように何か生えてきて――全部ボクの方に標準を合わせている!?
待てよ……?花の後には何が出来る――!?
「くっ!」
蕾が花開き、その花弁が散る。小型スコープの中で、その後に残った実の表面にいくつもの皴!?
ボクはなるべく蔦の届かない範囲の中で、どうにかこうにか身の先端の延長線上から外れようとした。何で攻撃されるのか、予想するまでもない!

「―――!」
ぱぁん、と弾けた実が中に含んだ大量の白黒の種を僕に向けて発砲した!中には巨大な種袋のまま放たれたものもあって、多分それは空中で四散する!
「がっ!」
完全には避けきれず、種の一つがボクの脇腹を掠めた!それだけで、息が詰まる衝撃を受ける。流石、噂に高いデニム地帯……!
まぁ、でもこれでもマシに思わなきゃなんないかもね。これで蔦にまでこられたらこちとらTHE ENDだから。
よろけそうになるのを何とかこらえて、ボクは上下左右に避けて避けて避けまくった。気分は完全にシューティングゲームだ。ま、現状はウォーゲームだけど……っと!
「反撃させてもらうよっ!」
攻撃の中見せた、一瞬の隙――ボクはそれを見逃すほど甘くはないっ!
左右両腕のアタッチから、L.E.D.レーザーを発射する。威力は中ぐらいだけど、速度が半端じゃない。発射した瞬間に対象に届くことは、この距離なら分かることなんだよね。
狙う場所は――足。
「――!?」
果たして、ボクの狙い通りにレーザーは、モノ嘆の両足を貫いた!急に来た攻撃だからだろうね。痛みに足を押さえたのは。
攻撃が緩んだのと、相手の足を完全にくくりつけたことで、ボクの目的は達した。後は逃がさないように引き付ける事をすればいいのさ。

「――!」
憤怒の表情を見せたモノ嘆は、彼女を有名にしたあの竜巻を呼び寄せた!切れ味鋭い刃を持った黒い葉っぱが螺旋を描くように舞い上がっていく――六連符の大階段。
「……わ、と」
風に引き寄せられるように、ボクの体も徐々に竜巻に近づいている。ブーストを使って遠ざかるボクの背後から、無数の蔦が伸び上がって来る!
「ヤバッ!」
とっさにブーストを連続で発動させて避けて、竜巻から距離を置く。完全に置けない辺り、凄まじい力なのが分かる……!?
「――ッ!?」
しまった……さっきの一撃、わりと効いてたみたい……左腕に付いたオプションが、いつの間にか壊れている――!?

「がぁっ!」
どうして!竜巻から何かが飛んできている気配はないのに!何が起こってる!?腹を掠めた一撃、それはさっきの種と同じ。まさかと思うボクの視界に映ったのは、破裂した直後だと思える、巨大な実……そう。完全な時間差だった。
「!つぅっ!」
迂闊……まさかこのタイミングで発射が来るなんて……しかも周囲の蔦も僕に狙いを定めている。全てを避けることは――無理。
「そんな………」
これが12の力……?だとしたら、あまりに無謀だったのか?いや違う!途中までは五分に戦えてた。ならどうする……落ち着け……どうすんだよ!?ボク!
このままじゃ……痛み分けだ……。

そう考え始めた、その時、ボクの耳に飛び込んできた、オプションからの副音声――!

………Count 10…………

……あと、あと10カウント、それだけ耐えきれば良いんだ!
「――どりゃあああああああああっ!」
有りったけの力を放ち、ボクは回りにシールドを発生させた。竜巻の終わり際、最後の悪足掻きに耐えるために。先ほどからのブーストの連続で、エネルギーも限界に近付いている。でも……途切れたら敗けだ。
なら……途切れさせなきゃ良い!

……Count 9……

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
愛用武器のレーザーは、発射地点が丁度盾のような形になっている。ボクはそれを放ち続け、吹き飛んでくるものをほぼ全て壊した。

……Count 8……

「くぅぅっ!」
壊しきれなかった攻撃が、僕の体を傷つける。

……Count 7……

「負けるかぁぁぁぁぁぁっ!」
僕は叫びながら、レーザーのエネルギーを最大値近くまで引き上げた!同時に竜巻が収まり、僕の目に映るのはモノ嘆と、僕を狙う無数の実。

……Count 6……

モノ嘆の用意した砲弾は――完全に互い違いに配置されている。その上に、無数の蔦、葉の刃まで、ボクを逃さないように配置されている。

……Count 5……

脚に付いたオプションは、この場で解除してレーザーの補助に回らせた。これで、ある程度は壊せる……残りは――耐える!

……Count 4……

モノ嘆が、用意した砲弾を一気にぶっ放した!レーザーの盾越しに見えるもの、それはHEROに出てきた弓の壁の如くボクに降り注ぐ!
ボクも使用エネルギーを最大にまで引き上げてそれを一気に迎え撃つ!誘爆でいくつか落とせれば――!?

……Count 3……

「がぁぁっ!」
捌ききれなかった種が、ボクの左肩を貫く!支えきれなくなったオプションが、そのままボクの腕を離れて浮かび上がり――撃ち抜かれた。
けどボクは、右腕に全力を込めて打ち続けた!

……Count 2……

「ぐぅぅっ!」
さらにもう一つのオプションが壊れ、金属片がボクの脚を裂く。抜けそうになる力を必死で押し止めて――!

……Count 1……

「………のあああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」
肩から、脚から、全身から抜けていく力、残っている根性すら徐々にすり減って――!
耐えろぉぉっ!ボクっ!


――Somebody Scream!!――


「――っ」

途端、猛烈な爆風がボクの体を襲った。そのまま背後の砂地に吹き飛ばされたボクの視界に映ったのは、天から伸びた巨大な光の柱が、モノ嘆もろとも兵器製造プラントを焼き付くす、ある意味神々しい風景……。


「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
緊張が解れて、一気に息が荒くなったボク。――久々だからね、こんな危なっかしい戦いは。
体のあちこちが痛む……上に力が入んない。
何処か影になるところで休むしかないね。そこで自分の応急処置しようか……。



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