Phase 7:Code:General








――本拠地 by spiral galaxy――


「……予想通りじゃねぇか」
まっさかここまでオレの勘が的中するとはなぁ。AI、性能悪いんじゃね?
ま、目的を考えりゃ、これほど頼もしい門番、ってのも中々いねえんだが。

目の前にいる、黒髪で、黒ずくめのローブを羽織った少女。この世界ではあまりにも有名すぎる、『最強』が冠された曲――冥だ。

「……」
本来の白や銀、青といった色からは程遠い、彩度がゼロな偽物の冥は、それが当然であるかのように兄である筈のオレに凍てつく刃を向けてきやがる。宙に浮いた氷柱は、明らかに対象を突き刺すためのもの――。
「……プログラム、ON」
感情の欠片もねぇ奴に話すこともねぇ。オレは、こいつのために用意してきたプログラムを早々に起動させることにした。
逃げ場を無くすように、いつの間にかオレと偽冥の周囲を取り囲むように、氷の壁が生成されていた。恐らく、確実に葬るためだろーが……、はん。
まずはオレの肩を裂くような軌道で奴は氷柱を飛ばす。オレはそれを特製のプログラムリボルバーで撃ち抜いていく。プログラムの発動は――最初の一瞬の静寂。ここまでを耐えきれれば――。
「……」
互いに無言のまま、手元の弾をぶつけていく。氷の破片が、オレの服を幽かに切り裂き、その断面をさらに他の破片が切りつけていく……。だが、俺も流石に難易度11だ。この程度の発狂、耐えられないほど柔じゃねぇよ。
パリィン!パリィパリィパリィン!
ガラスを砕くような澄んだ音が響いて、氷柱が次々に壊れていく。そろそろ発動か……。

『Ready!』

リボルバーのメーターが『Infinite』と表示された。それが――オレの勝利の合図だ。

「!?」
偽冥は困惑した。突如として現れた相手からの攻撃を、回避することも撃ち落とすことも出来なかったのだ。まるで自らがその攻撃を受ける事を、運命付けられてしまったかのように。
そのまま立て続けに二、三発。そのいずれも、受け流すことすら出来ずに自分にダメージを与えていく――!?
そして何より、手数でも威力でも圧倒している筈の自分の攻撃を、この男は――食らっている気配がない!?
目を凝らしてよく見ると、偽冥の攻撃は全て――あの男の目の前で、何か見えない壁に阻まれるかのように霧消していったのだった。
この状況を理解できるだけの知識データを、偽冥は全く持ち合わせていなかった……。

「……さっすがダミーデータ……冥の攻撃が何ともないぜ」
オレはデータの中から予め、穴冥のオートプレイデータを引き出しておいた。そのタイミングで、一瞬だけ発生するバリアを発動させる防御プログラム、通称ダミーデータを開発、そのまま実戦で使用したんだが――この通り、あちらの攻撃は、最早オレには届きやしねぇ。
即席で作ったプログラムにしちゃ上々以上の出来だ。
そして、オレはさらにもう一つのプログラムも発動させていた。あまりにも卑怯で、CORE結成以前に起きた、ある伝説の事件から産み出したそれは――。

「……ジェネラル判定、ってのは知ってっか?」

『何故か』受け流すことの出来ない攻撃に困惑してるだろう偽冥に向けて、オレは呟いた。いや、最早驚愕だな、あの顔は。必死でオレの攻撃に耐えてやがるが――流石にキツいんじゃねぇか?
「ジュデッカがまだ新人の頃に起こった話だ。当時、まださして有名でない男を伝説まで押し上げた、最高に悪質なバグだぜ。まさか知らねぇとは言わせねぇぞ?……あ、そもそもテメェは生まれちゃいねぇか。なら知らなくても仕方ねぇよなぁ」
名探偵の推理のような、あるいは理想的な警察の取り調べのような余裕のある声で、オレは偽冥に話しかけた。
「その男――General Relativityは、バグのせいで自身の攻撃を、相手が前に戦った相手のそれに依存させてしまう体質になってしまった。つまり、攻撃能力が安定しない、そんな存在になってしまったらしい。
別にそれはそこまで問題じゃねぇ。当たる判定が大きくなるか小さくなるかだけだからな。
だがな……?

お前、直前に誰と戦った?」

「――!?」
偽冥の顔が、はっきりと驚愕に歪んだ。ようやく理解したらしいな。オレの小細工を。最大にして究極の、卑劣だと非難されても仕方がねぇ手段を。

偽冥は、レプリカの中でも最大の攻撃力を持つ。そもそも実践練習などさせる筈もねぇし、したとしても相手はノーツ数ゼロの戦闘データだ。判定も何もあったもんじゃねぇ。つまり、避ける手段がねぇ、防御不可能な攻撃がずっとぶち当たりまくる羽目になるわけだ。
一方のオレは、冥の譜面をそのまま受け流し無効化させるダミーデータにこのジェネラル判定。そうさ。つまり――!
「このオレに挑んだ時点で、テメーは負けてんだよ!」
オレはそのまま弾幕で偽冥の視界を塞ぐと、そのまま奴の背後に回り込んだ。
不可避の衝撃のせいで全く反応できねぇ、『最強』のレプリカに――、


「あばよ……」


ゴウンゴウンゴウンゴウンッ!
オレは大量のデータを一気に後頭部に叩き込んだ。

「……っふぅ」
背後に転がる偽冥の残骸。それを尻目に俺は、氷をぶち壊してL.E.D.氏を探すことにした。敵の本拠地の大きさ的に考えると、捕らえる場所はそう多くない筈……。
「……ん?」
待てよ?そういやまだ拡散粒子砲は完成しちゃいねぇよな?つーとやっぱし、
「………無謀行為承知で、乗り込むしかねぇよな」
拡散粒子砲の在りかに。


DOGGGGOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!
「……うっわ、派手にやらかしたなぁアイツら……」
左右から立ち上る黒煙、それはL.E.D.の二人が兵器プラントをぶち壊した証拠。左の方は完全に焼失し、右の方は今も黒煙が立ち上っている。最早動くこともねぇだろうさ。
「……で、アイツんとこに来る敵も減るだろうな」
リソナも、これで少しは楽になれんだろ。
さてオレは……ここからが本当の地獄だ。スケイプとリミッツさん、そしてL.E.D.さんを助けなきゃなんねぇ……ハードワークにも程があんぜ。まぁいいさ。
「一先ず敵は片っ端からぶっ壊してやらぁっ!」

ガゥンッ!ゴゥンッ!ドガァンッ!
野太い銃声が辺りに何度も響く。警護データをプログラムリボルバーで何体も撃ち抜いていく。
「……熱源は……」
俺はこの建物全体に熱源探知をかけた。結果――、
「全部最上階か」
こいつぁ好都合だ。俺の目的は人質救出。それが一点に纏められてんなら、救出もそれだけ楽に――ここまで考えたが、考え直してみりゃ寧ろ逆か。
「残党勢力全員集結させてやがんだろうな……」
そいつらを全員ぶっ倒せるか、それが問題だな。
監視カメラの死角で、俺がどう攻めるか考えを練っていると――!?
コツ……コツ……
目の前を歩いてくる、あの見慣れた浅黄色の髪の女は――!?

「スケイプっ!」
ズタズタに裂かれた服を身に纏い、異常にフラフラした足つきでこちらに近付くスケイプ……今すぐ処置しないとマズイ!
俺は咄嗟にスケイプの方へと駆け出した!そして今にも倒れそうな体を抱き締め叫んだ!
「おい!気をしっかり持て!今処置してやる!」
体を軽くゆすりながら、俺はスケイプに呼びかけた。今にも息切れ切れなスケイプの口が何かを伝えようとするかのように動く――

「は……く、に……げ……」

途切れ途切れのスケイプの声が、耳に届いた。
「――?今、何つっ――」
その言葉が理解できなかった俺は、スケイプに聞き返そうとして、だが――

ザシュッ!

「――あ?」
胸に来る、鋭い痛み。
俺がそちらに目をやると――突き刺さったナイフと、それを握り締めるスケイプの手が見えた……。
「お……?」
あ……オレ……ここで死ぬのか……?いきなり……刺されて……?
ヤバ……視界……が……。

光が薄れていく視界の中、最後に映ったのは――凍ったような表情で涙を流す、スケイプの表情だった……。



【BACK】【目次】【NEXT】【TOP】