Phase 9:Fatal Attack





――――――――――――――


シュォオォンッ!
風を切り裂く音がした次の瞬間には、音の飛ぶ方向にある全て切り裂かれている。
パォンッ!
ほとんど響かない破裂音と同時に、直線上の敵は全て消滅する。
――爆ぜろ!
オレは心のままに敵を撃ち抜いていた。

真にぶち切れたとき、生物ってのは案外冷静でいられるらしい。今回、知ったことだ。そして――多分これからずっと役立つことはねぇだろう。
不変の根底、それがオレの特徴だがここに来てそれがやや変わってきてやがる。初めは幽かに、だが徐々に揺らぎ移行していく。
スケイプ……オレがハックしたときのアイツの内面は、ダミープログラムのようなものによってズタズタに切り裂かれていた。……多分それだけじゃねぇな。
「よくもアイツを使ってオレを殺してくれたなァ……」
自由にならない体。叫び続ける声。だが聞こえねぇ。聞く奴もいねぇ。孤独だ。
何もかもと完全に隔絶された場所に、普通の奴は一日とていることすら出来ねぇ。兵士として鍛えられてる奴ですら5日持ちゃ良い方だ。
そんな精神ギリギリの状況のアイツに、オレを殺させた。護身用のナイフを、オレの胸に突き立てて。
アイツにしたらこれ以上無いブラックジョークだろうな。身を守る筈のナイフで、逆に自分が殺されたわけだからな……。
――だからこそ。

「オレはテメェラを許すつもりはねぇっ!」

気配探知全開で、トリガーを引きまくった。

「はぐぁっ!がっ!………」
目の前で蹲っている男――たった今オレが腹部に一撃を食らわしたそいつは、L.E.D.家の気配を帯びていた。多分こいつがOUTER LIMITS氏だろう。人質にされたら面倒だが、ここで退けば、恐らくもうチャンスはねぇ。
「………」
罪悪感を覚えたが、今は仕方ねぇ。オレは武器をこの男から外すと、それを右手に持ち、構えた。
「――firework」
近づく敵が次々に連鎖上に爆発していく風景。だがそれにも感慨は湧かねぇ。
「………」
ただ弾丸に殺意を込めて、打つだけだ。
傍らでは、ヘルスケの奴が巨大な鎌を前後左右上下に縦横無尽に振り回している。踏み込まれる前に、銃を撃つ前に、誰にも求められずに、さよならも言わないで、敵は死んでく。
それはある意味幻想的な光景だった。振り抜かれた刃の軌跡はまるで漆黒の花を描くかのように華麗で、フードの中から幽かに覗く銀髪がまるで闇の中の蛍火のように幽玄なる美を成り立たせている。切り伏せても血の出ない相手は、花を不浄の赤では汚すこと無く――一刻後の同時爆発。花火によって彩るのだ。

敵が大方減ってきたところで、オレは今回の騒動の元凶であるだろう……黒の装甲に覆われた、巨大な人形の兵士を睨み付けた。巨大な木偶は、オレの視線をただ平然と受け流す。その手に見えるのは、未完成の砲台。恐らくあれが拡散粒子砲なんだろうな。
――つー事は恐らくあそこにL.E.D.氏が居るわけか。意識を奪われて動かされているわけか。スケイプのように――。
パァンパァンパンパンパンッ!
拳銃から放たれた弾は、相手の動力源を貫く。回線のショートによって起きた火花が、燃料であるオイルに引火し、連鎖状に兵士は崩れ落ちていく。
炎越しに見えたのは、巨大な鎌によって命を奪っていくヘルスケの姿だ。
一瞬の視線の交錯――次の瞬間には、オレはアウター氏をヘルスケの方へ勢いをつけて投げた。それを鎌の峰で勢いを殺しながら受けとると、ヘルスケはそのまま姿を消し――戦場はオレと雑魚兵士、そして黒の巨人だけとなった。
黒の巨人に……動く気配はねぇ。そりゃそうだ。オレを狙えば、黒の兵士が減るからなァ。兵器製造プラントがぶっ壊れている以上、自軍の犠牲を出す、んな真似は出来ねぇ筈だ。
あるいは――オレを叩き潰すのに、雑魚兵すら必要ねぇ、って事かも知れねぇな。何れにせよ、バカとしか言いようがねぇ。
「――だがそのバカにぶっ殺された事は忘れやしねぇさ……」
オレは拳銃をもう一本抜き、左手で構えた。そのまま――
「どああありゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパンッ!
オレを取り囲む全ての対象に向けて銃弾を打ち込んだ。マトリックスのように折り重なった敵は、連鎖状に爆発していく!
耳をつん裂く音を、特製イヤホンは見事に全てカットし――やがて立っているのはオレと黒の巨人だけとなった。
オレは間合いをとりつつ、気配探知の方に意識を動かす。今のところ建物には他の黒の兵士は無し、と。
黒の巨人は、そこでようやく動き出した。俺の十倍はある身長に、ゴツい体。そしてその目の部分には――!?
「なぁっ!?」
ガラス越しに見える、あのぐるぐる巻きで床に転がされているのは――L.E.D.氏か!?
気配探知で確認する……間違いない。L.E.D.氏だ。
不味いぞ……こっちに人質にとられてるたぁ……。迂闊に手を出せねぇ。ブレーンプログラムはセキュリティが厄介で迂闊にハックできねぇし。砲台で働かせてるんじゃねぇかと踏んでいたが、ここに来て予測を外したか……。
オレが手を出しかねていると見たのか、黒の巨人は未完成の砲身、その標準をオレに合わせた。同時に、地の奥底から響き渡る、エネルギーの充填音――まさかっ!?
「くっ!」
オレは素早く横に跳んだ。次の瞬間――

バシュウンッ!

――靴底に触れるか触れないかの至近距離を、空気を焼く光が駆け抜けた。………あの兵器、既に完成してやがった!
「クソっ!」
あの砲台だ!完成していねぇと踏んだオレの目測が誤ったかっ!あぁたくっ!ヘルスケなしでこれはキツいぜ!救うまでは行かねぇが、まずはこいつを少しぶち壊す必要があんな……。

粒子砲の標準をブラしつつ、オレはどこを狙うか、ひたすらに探索し続けた。どんな奴でも、ここを狙われたら一たまりもねぇ場所ってのがある。そこを上手く貫けば――弱らせることは出来る!
ん………待てよ?このプログラムを少し変更すりゃあ……あそこをああして、ああ動いて……体力的には……!

――イケるじゃねぇか!

オレはプログラムリボルバーを構えた。バカの一つ覚えみたくただオレに向けている銃口の位置を確認しつつ、回避しながらあるプログラムを組み立て――引き金を引く。
「うらぁっ!」
狙うは――膝間接!
シュン……
「チッ」
だが貫くかと思われた光線は、膝の表面を軽く焼くだけに過ぎなかった。流石に正面の装甲は厚いらしい……なら!オレは頭の中で軽く演算すると――壁に向けて発砲した!
嘲笑うようにオレに発砲する黒の巨人。だがな――?

ゴゴゥンッ!

演算成功ぅ!金属質の壁に反射した光線が、ヤツの左膝の裏を貫いた!片膝が一気に崩れ、バランスを崩した奴に対して、オレは威力を一点集中させたビームをヤツの操縦席を覆うガラスの端に向けて放ち、その横に向けてもう一つのリボルバーの引き金を引く!
――浮遊感。右手に――リボルバーから。
オレの放った光線、それは破壊目的のそれではなく、寧ろ当たった対象にオレの体を引き付けるゴムのようなものだ。H×Hのピエロが使うアレだと思ってくれりゃあいい。
黒の巨人が行動するまでには時間がある。あの図体だ。再起動するにも相当かかんだろうさ。ならその隙に――!
「おりゃあっ!」
オレは巨人の目の前に降り立つと、左手のリボルバーで溶かした硝子から中に潜り込み――L.E.D.氏を縛る紐をナイフで切り裂いて解放――!?

ゴグシャアッ!

何が起きたのか、オレは一瞬分からなかった。なにか理解不可能な事態が起きたと言うことくらいしか、オレの脳は認識できなかった。
――だからこそ、直後に痛みで嫌と言うほど理解する嵌めになった。

「ぐ、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

こいつ、頭の部分を握り潰しやがった!?ブレインは頭部に無かったのかよ!?くそっ!見込みが外れたっ!
散乱するガラスや部品の欠片が、飛び散ってはオレの肌に傷をつけていき、不規則に押し付けられた残骸は、圧力を局所化させ体に食い込ませ痛みを増幅させる!
「づっ、だぁぁぁぁぁぁっ!」
オレは視線を動かしつつもがいて脱出しようとしたが、絞め付ける手はさらにきつく絞まり、残骸がオレの体に痛みを注入する!どうやらL.E.D.氏は捕まれてはいないらしい。痛みに耐えながら頑張ってそれは確認できたが、感動するような精神状態じゃねぇ――!?
ゴキッ!
「ぐぁぁぁっ!」
あ、脚を一本やられたか……。しかも利き脚を……。くそっ。プラプラしてやがる……。これでまともに地面に着地出来ねぇ……か。
それでも締め付けを止めない黒の巨人の姿に、オレは本物の死神を見た気がした。反撃しようにも出来ない、絶対的な力関係をまざまざと見せつけられたような、そんな気さえしたのだ。
「ぐっ……がああっ!」
オレの体を握る巨大な手がさらに絞まった。体のあちこちからミシミシと音が聞こえ始める――バキッ!
「がふっ!」
や、ヤバイ……肋骨何本かイッたか……?幸い肺には刺さってねぇが――肋骨だけじゃねぇ。右腕がイキやがったか……!これじゃ武器が使えねぇ……。
オレを握りしめた巨人のコアが、優越の笑みともとれる光をオレに放つ。腹立たしいが、この位置じゃ何も動けやしねぇ。ここで……反撃できず、万事休すか……?
握られた手が、さらに力を俺に加え始めた。このまま、握り潰すつもりらしい。
抵抗できない悔しさを噛み締めながら、オレは体から――

「――なァんてな」

――力を抜いた。瞬間、するりと体が、突然力を失った巨大な手から滑り落ちる。驚きの表情を浮かべる巨人。自由落下する中で、ぷらぷらとオレの意思を離れて動く右腕、同じくオレが動かせない左足。満身創痍にして満足に動かせるのは左手のみ。
近づく、コンクリートと鉄板で出来た地面。間違いなくオレは激突するだろうな。もはや無事じゃ助かるまい。だが――

「……冥土にテメェだけは連れていくぜ」

捕まれている間、オレは密かに捕まれていた腕のデータを左腕でハッキングし、データの形式を気付かれねぇように書き換えた。同時に残骸も手に付着させ、書き換えた。
敵が自由自在に動かせる――でっけぇ爆弾に。
あとは敵の集中を全てオレに向けるよう、絶望の心情を偽装し、相手を慢心させる。

――当然、相手は忘れるわけだ。
オレを捕らえていた手の、関節に刺さる銀の鎌。器用にコントロールパッドを繋ぐラインを寸断していたそれの持ち主――ヘルスケの存在を。

「父上の救出、完了した」
凛とした、鈴のような声が響く。二人を脱出させた後、次元転移を使って戻ってきたヘルスケは、頭部跡に転がっているL.E.D.氏を抱き抱え、出口へと向かう。これで巻き込まれの心配は無いわけだな。
「――ありがとよ」
気配が消えた空間に、オレは何となく呟いた。聞こえるか聞こえないか分からない程度の微かな声で。
聞こえなくても構わねぇ。今のオレは……今のオレには……。
オレの左腕は、自然と奴の拳に向かって突き出された。握られているのは、プログラムリボルバー。今のプログラムは――。

「……へっ」
こいつを消せば、この事件が終わる。んな事なんざ考えちゃいねぇ。ただ単純に、オレはこいつが許せなかった。リミックスの機会をおじゃんにしかけた、L.E.D.家の曲達を傷付け、苦しめた。電人を一度おじゃんにした。そして何より――

――スケイプにオレを殺させた。理由なんざそれだけで十分だ。

「あばよ………」

そしてオレは――


「――ったばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁっ!」


――OVERBLAST!! MODE Ready.

Get Set...?


Fireeeeeeeeeee!!!!!!!!!!!!


残りの全エネルギーを込めて、奴の巨大な掌を撃ち抜いた。


オレの目が捉えたのは、ヤツの掌を、オレが放った三原色の光が貫く、その光景だった。


直後――オレの体は吹き飛ばされ――。



【BACK】【目次】【NEXT】【TOP】